ペイシェント【世界腎臓デー】慢性腎臓病(CKD)予防のために。透析患者さんを交えたトークセッションを開催
目次
2023年3月9日(木)の世界腎臓デーに合わせ、日本腎臓病協会(JKA)と協和キリン株式会社は、慢性腎臓病(CKD)の予防と疾患啓発を目的としたセミナーを共催した。本セミナーには、日本腎臓病協会から理事長の柏原直樹医師と内田啓子医師、さらに全国腎臓病協議会(全腎協)副会長であり、自身もCKD患者さんである宮本陽子氏の3名が登壇した。今回は、このセミナーの様子をレポートする。
世界腎臓デー(International World Kidney Day)とは、
毎年3月の第2木曜日に腎臓病の早期発見と治療の重要性を啓発することを目的として、国際的な記念日に制定されている。国際腎臓学会(ISN:International Society of Nephrology)と腎臓財団国際協会(IFKF:International Federation of Kidney Foundations)によって2006年に共同で提案された。
登壇者
柏原 直樹 (かしはら なおき)
医師/NPO法人日本腎臓病協会 理事長/川崎医科大学副学長 腎臓・高血圧内科学 主任教授
内田 啓子 (うちだ けいこ)
医師/NPO法人日本腎臓病協会所属/眞仁会 横須賀クリニック 診療部長
宮本 陽子 (みやもと ようこ)
一般社団法人 全国腎臓病協議会(全腎協)副会長・副会長・中国ブロック担当理事/1999年、IgA腎症(指定難病66)により透析導入。透析歴24年。
慢性腎臓病(CKD)患者数は国内で1300万人以上と推定
はじめに登壇したのは、日本腎臓病協会の理事長柏原氏。日本の慢性腎臓病(CKD)の現状と日本腎臓病協会の活動について報告を行った。
柏原“慢性腎臓病(CKD)患者は全国で1300万人以上と非常に多いと推定されている※1。その理由としては、腎臓はその機能が本当に低下するまで自覚症状がないことが大きい。加えて、腎機能は年齢とともに低下する傾向があるため、日本人の高齢化や長寿命化を考慮すると、日本はCKDの先端社会であると言える。CKDの進行は、腎不全だけでなく脳卒中や心血管疾患のリスクを高め、寝たきりを引き起こす原因にもなっている。医療費削減の観点からもCKDの予防や疾患啓発が急務である。日本腎臓病協会では、さまざまな形で疾患啓発活動を実施しているが、腎不全からの透析導入患者さんは一部を除き増加傾向にある。”
柏原“CKD予防には、医学会や製薬企業、関連団体との連携が不可欠であり、また医療現場においても医師や看護師、栄養士、薬剤師などがチームを組んで対応することが有効だと分かっている。日本腎臓病協会では、CKD予防の砦である生活習慣の適正化にも力を入れ、そのための人材である腎臓病療養指導士の育成にも力を入れている。DIAMOND project※2が2021年に実施した疾患認知度調査によれば、2019年以降、20代から50代の全ての年代において「慢性腎臓病(CKD)」の疾患認知度は高まりを見せている。”
- ※1一般社団法人 日本腎臓学会 編(2012)CKD診療ガイド2012/東京医学社
- ※2NPO 法人 日本腎臓病協会と協和発酵キリン株式会社(現; 協和キリン株式会社)が2019年に締結した腎臓病の疾患啓発活動に関する連携協定
腎臓を守る生活習慣とは?
続いては、眞仁会横須賀クリニック診療部長である内田啓子氏が「腎臓を守る生活習慣」をテーマに講演を行った。講演では、世界腎臓デーが提唱する「腎臓を守るための8つのゴールデンルール」が示され、当日はその中の3つのポイント(①常に体を動かし活動的であること②健康的な食事を摂ること⑤適正な水分摂取をする)にフォーカスして説明がなされた。
「常に体を動かし活動的であること」
内田“適度に体を動かすことでエネルギー消費量が増加し、脂肪燃焼、体重管理、血糖血圧にもつながり、生活習慣に良い影響がある。激しい運動をする必要はなく、まずは歩くことから。そのためには睡眠を十分にとることが大切。日本人のデータで、睡眠の長さや質と慢性腎臓病の進行に関係に関するエビデンスが存在する。eGFR※3の値が10〜59までの方、1,000人を対象に行った追跡調査では、平均の睡眠時間は7時間であった。その後4年間で腎臓病が進行し透析になった方は、睡眠時間が5時間以下の方で2倍というデータがある。睡眠は長すぎても短すぎても腎臓に影響があるため、適切な睡眠習慣も大切。”
「健康的な食事を摂ること」
内田“健康的な食事は、適正体重を維持し、生活習慣病のリスクを軽減させる。塩分の制限のためにもなるべく加工食品に頼らず、素材からつくることが大切。CKDにおいて注意すべきは、エネルギー量とタンパク質、食塩の摂取量、さらにカリウムの制限を守る必要がある。最近の若い方はよくスマホアプリなどを使って、自分が毎日どれくらいの栄養素を摂っているか、どれだけ食べているかを記録している方も多い。こういった記録は自分自身を知るきっかけになるのではないか。”
「適正な水分を摂取すること」
内田“体内の水分量がそのまま体重の増減につながる透析患者さんにとって、水分のコントロールは欠かせない。透析後の目標体重であるドライウェイト※4を基準に、過度な体重増加が起こらないよう水分摂取量を調整することが大切。”
現在、日本の透析患者さんは約33万人で、そのうち女性は約11万人、男性は約22万人。男性透析患者さんは、女性の2倍に上る。CKDステージG3〜G5(病状が中等度以上の人のこと)の出現率を見ても、先進国のうち女性の方が少ないのはシンガポールと日本のみ。
内田“日本において女性のCKD発症率が低い理由には、日本人女性の食事や生活習慣にヒントがある可能性がある。生活習慣が定着する前の若い世代の人こそ、睡眠や食事、適切な水分を摂取する生活習慣を身に着け、将来にわたって腎臓を守る意識を持っていただけるよう、伝えていきたい”
- ※3eGFRとは、推定糸球体濾過率の略であり、腎臓の機能を評価するために用いられる指標の1つ。値が低いと、腎臓が正常に機能していない可能性がある。
- ※4ドライウェイトとは、透析によって体内にある余分な水分が除かれたときの体重。透析管理の基準となる。
透析になってから知った、腎不全という病気
最後に登壇したのは、全国腎臓病協議会(全腎協)副会長で自身も透析患者さんの宮本氏。宮本氏は、一般企業の会社員をしていた1995年、突然病に倒れ、最終的にIgA腎症と診断され透析を開始した。透析をする中で経験した孤独感や疎外感から、透析をしながらカウンセリング、コーチングを学び、現在はCKD患者さんの支援のため全腎協で働く。
宮本“自分の腎臓を知ること、腎臓の状況を知ること、体の状況を知ることがCKDの保存期にとってはとても大事。私は透析になってから、腎不全という病気を知った。誰しもが自分だけは、透析にならないとどこかで考えてしまう。透析を避けるためには、自分の腎臓をよく知り、適切な専門医や管理栄養士と相談することが重要。私たちの役割は、透析にならないように情報を伝え、患者さんが自立して幸せを感じられるようサポートすること”
患者さんを中心とした多職種介入の促進を
質疑応答に入り、会場からは「CKDに関して興味関心のない層や若年層に向けて、どのようなアプローチが有効か」「CKDに対する他職種介入の有効性」について質問が及んだ。
柏原“CKDの予防と疾患認知の向上には、各年代層へセミナーなどを通じて地道に働きかけることが重要。内田先生が改めて指摘した通り、特に高齢男性において、リスクが高い。自覚症状がないため、健康診断で警告が出ていても大丈夫だろうと考え、放置してしまうことが多く、重症化しているケースが多々ある。また、自覚症状がないため、健康診断で警告が出ていても大丈夫だろうと考え、放置してしまうことが多く、腎機能の低下が過小評価された結果、重症化しているケースも少なくない。
例えば、腎機能を示す指標であるクレアチニンが規定値より上昇している場合、すでに腎機能は健康な方の50%未満であり、軽症とは言えない。しかし、GPTやγ-GTP(肝機能の評価基準)のように生活習慣によって変動する指標と同じように捉えられてしまうことも。幅広い医療従事者に対して、腎機能関連の検査値が示す重症度について伝えていくことも我々の今後の大きな課題。”
柏原“CKDにおける他職種介入について、最近では、医師、看護師、薬剤師、栄養士それぞれがバラバラに介入するよりも、多職種が連携してチームで取り組み、さらには患者さんもそのチームに加わることが重症化予防には有効だと分かってきた。例えば、食事指導一つをとっても、適切な食事指導をしても、患者さんが適切な食事を摂れる(実際に家庭の中で実行できる)とは限らない。それぞれ専門性の違う方々がチームとなって、患者さんの生活実態を聞き入れ、トータルでその人の健康を管理していくアプローチが大切。
この問題に対応するため、日本腎臓病協会では、看護師、管理栄養士、薬剤師を対象に、腎臓病療養指導士という資格をもうけ、人材育成に力を入れている。現在2,000名以上の方が講座を受講し、資格を取得している。今後、この活動に保険点数が加算されるよう、エビデンスの収集を強化していく。”
世界腎臓デーにちなんで開催された本セミナーでは、生活習慣が腎機能に与える影響とCKDの早期発見・治療の重要性が強調された。今後、CKDの予防疾患啓発に向けた取り組みはますますその重要性を増していくと考えられる。私たち一人ひとりが、腎臓を守るために日々の生活に気を配り、定期的な健康診断を受けることの大切さを改めて認識したセミナーであった。