社会との共有価値 【解説記事】富栄養化とは?問題点や日本の取り組みについて解説!
海洋汚染はニュースで取り上げられることも多い問題のひとつだ。工場や生活排水によって海洋汚染は起こり、海洋の環境が悪化するのはもちろん、生態系にも深刻な影響を及ぼすおそれがある。
海洋汚染の中で、工場排水や生活排水による汚染は「富栄養化」と呼ばれており、赤潮を発生させる原因にもなっている。SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の目標14「海の豊かさを守ろう」のターゲットにも富栄養化の防止は含まれており、積極的に改善に向けて取り組んでいくことが求められている。
本記事では、富栄養化の影響や問題点について解説していく。
富栄養化とは
富栄養化とは具体的にどのような状態なのだろうか。まずは、水域で富栄養化が起こる仕組みを説明しよう。
水域が貧栄養状態から富栄養状態に移行すること
富栄養化とは、海・湖沼・河川などの水域が、貧栄養状態から富栄養状態へと移行する自然現象のことだ。
池や湖には、生物が生息するために必要な栄養素が含まれている。この栄養素の元になるのは水中の植物やプランクトンである。これらの量が変化することにより、貧栄養状態から富栄養状態へ変わることが富栄養化である。
人為的な要因も大きく関係する
富栄養化は自然現象のひとつだ。池や湖に生息している生物は常に一定の割合を保っているわけではない。そのため、生息している生物が変化することで、水中の栄養状態が変わっていくことは自然に起こり得る現象だ。
しかし、人為的な要因も大きく関係する。流域から流入する生活排水・農業排水・畜産排水・工業排水など、人為的に栄養素の量を変化させてしまう要因は数多くある。
例えば、人間が排出した下水や工業廃水などが池や湖に入り込むと、それに含まれる窒素化合物やリン酸塩等の栄養塩類が影響し、栄養塩類の濃度が高い富栄養に移行する。
貧栄養よりも富栄養の方が状態としては好ましいようにも思えるが、そうではない。なぜなら、栄養塩類が豊富に存在している水域では、光合成による一次生産が増大するからである。これによって特定の植物プランクトンが増殖し、赤潮やアオコの形成を招いてしまう。
人為的に富栄養化が起こるのは決して望ましくはないことを理解しておこう。
富栄養化が及ぼす影響・問題点
富栄養化によって起こる影響や問題点は数多くある。具体的な内容について解説していこう。
生物の多様性が損なわれる
湖沼やダム貯水池において、健全な生態系では、栄養塩類が流れ込むと藻類や植物プランクトンがそれらを捕食する生物個体とバランス良く繁栄し、水の透明度を適度に保つようになる。どの生物にとっても住み心地が良い環境へ自然と保たれるように調整されるということだ。
このとき、特に重要なのが溶存酸素レベル(水中に溶け込んでいる酸素量)である。魚介類にとって酸素は欠かせない存在だ。健全な生態系になると、この溶解酸素レベルが最適になるため、魚介類にとっては生きやすい環境になる。
一方、富栄養化が起こると、植物プランクトンを急激に増殖させてしまう。プランクトンによって、水質の透明度が低下し、太陽光の浸透が阻害されると、水中で光合成が行われにくくなってしまう。結果、溶存酸素が減少し、光合成できない植物は減少していくことになる。
さらに有害藻類の異常発生を招き、水質汚濁や魚介類の死滅をもたらすことにもつながってしまう。特定の有害生物にとって生きやすい環境へと変化してしまうのだ。
養殖漁業に大きな被害を及ぼす
海の富栄養化は、養殖漁業にも大きな被害を及ぼしてしまう。プランクトンが異常増殖することで、赤潮やアオコが発生する。赤潮やアオコはプランクトンが発生することで、海面の色が変わって見える状態のことである。
赤潮やアオコが発生すると、魚介類の死滅につながり、結果として養殖漁業に大きな被害をもたらすことになる。
平成21〜22年には、長崎県でシャットネラ赤潮によって有明海・橘湾でそれぞれ4億3千万円、8千万円の甚大な漁業被害を受けたというケースもある。
富栄養化による養殖漁業への被害は計り知れないといえるだろう。
生活環境に影響を及ぼす
富栄養化は生活環境にも甚大な影響を及ぼしている。まず、富栄養化が起こると水の透明度が低下してしまうため、景観が損なわれてしまう。海が濁ったように見えるのは、富栄養化によってプランクトンが増殖しているからといえるだろう。
さらに藍藻類は毒素を発生させる。海や池、湖の近くに住んでいる住民は毒素に触れたり、吸い込んだりすることになるかもしれない。そして海でアオコが腐敗すると、独特の臭気を発生させる。生活環境に影響が出るのは避けられないだろう。
このように富栄養化による悪影響や問題点は数多くある。実感しづらい問題かもしれないが、身近なものととらえることが大切だ。
富栄養化に対する日本の取り組み
富栄養化は公害問題が起こった1960年代後半以降、改善へ向けた取り組みが強化されている。実際に日本の公共水域の水質や河川の有機汚濁はある程度改善されており、成果も得られているといえるだろう。
一方で、閉鎖性水域(湖沼・内海・内湾など)では、窒素やリンの環境基準達成率は低い現状だ。ここでは富栄養化に対する日本の取り組みについて紹介していく。
高度処理の導入
水質保全上重要な地域では、窒素・リンを除去できる高度処理の導入が推進されている。現在日本では、以下のような技術が開発されている。
①物理化学的リン除去法
水溶性のリンを不水溶性化合物に変換して、固液分離によって分離し、取り除く方法だ。凝集剤を使って液中のリンと反応させる方法などが用いられている。
②生物化学的リン除去法
生物化学的リン除去法は、活性汚泥プロセスを改良することで、有機物と一緒にリンを除去する方法である。微生物を活用した方法であるため、物理化学的リン除去法よりも好まれる傾向にある。
③物理化学的窒素除去法
物理化学的窒素除去法は適用されることは少ない。しかし、排水の性質によっては、ほかの手法よりも効果が期待できる場合がある。蒸気や空気と排水中のアンモニウムイオンを接触させることで、揮発除去するアンモニアストリッピング法などが使用されている。
④生物学的窒素除去法
生物学的窒素除去法は最も主流な窒素除去法である。アンモニウムイオンを亜硝酸イオン、亜硝酸イオンを硝酸イオン、硝酸イオンを窒素ガスに変化させる微生物を使用した方法である。
⑤嫌気-無酸素-好気法(リン・窒素の同時除去)
微生物を利用して、リンと窒素を同時に除去する方法である。下水の高度処理に使用されているが、水槽の数が増えるなど依然として課題の多い方法でもある。
生活排水対策推進計画に基づく取り組み
生活排水対策重点地域において、市町村により生活排水対策推進計画が策定されている。
生活排水対策重点地域とは、生活排水によって環境基準の達成が難しい公共用水域(河川、湖沼など)、自然公園内の水域などに対して、各都道府県知事が指定するものだ。平成31年3月には、41都道府県の333地域が指定されており、各地域に推進計画に従って取り組みを進めている。
生活排水対策重点地域の運用が決定されてからはまだ日が浅く、今後も継続的な取り組みが求められている。
貯水池の循環
ダム貯水池などの閉鎖性水域では、貯留水を循環させることで、プランクトンの発生を抑制したり、深部への酸素補給による栄養塩類の溶出を抑制したりといった対策が行われている。さらに栄養塩類の流入を削減するための分画フェンスや、汚濁水を貯水池に流入させないためのバイパス水路の設置なども実施されている。
また、貯水池上流での発生源対策も一部で進められているが、まだ不十分な状況だ。閉鎖性水域における水質改善は、流域全体の状況を考え、流域関係者と連携して取り組むことが求められている。
まとめ
富栄養化によって起こる問題は数多くある。国や市などの団体が改善に向けて取り組んでいく必要があるのはもちろん、日本で暮らしている人々が各々水を汚さないように心がけなくてはいけない。
一方、2006年頃からは水中の栄養塩類が少なくなる貧栄養化も見られるようになった。瀬戸内海や伊勢湾などの閉鎖性水域で多く報告されており、漁獲量の低下や海苔の品質低下などの被害が発生している状況だ。富栄養化対策は効果をあげているものの、今度は貧栄養化が多くの漁業関係者を悩ませているのだ。
自然環境を絶妙なバランスでコントロールするのは難しい。だからこそ、私たちの生活が自然にどのような影響を与えるのか、何をしなければならないのか、改めて考える必要があるだろう。