社会との共有価値 【解説記事】ゼロ・ウェイストとは?ごみを生まない生活でできる取り組み
「ゼロ・ウェイスト」の取り組みについて耳にしたことがある人もいるだろう。近年、地方の自治体をはじめゼロ・ウェイストに向けた取り組みが活発化している。そもそもゼロ・ウェイストとは何なのか。ゼロ・ウェイストの考えとごみの問題、自治体の取り組みなどについて紹介する。
ゼロ・ウェイストとは?
ゼロ・ウェイストとは、無駄や浪費を止めて、ごみを出さないことをいう。具体的には、人の意識を変えてごみが出ないように生活すること、流通などの社会の仕組みを変えて無駄が生まれないようにすることなどで、ごみをなくすことを目指す。
ゼロ・ウェイストの考えが広まった背景
従来、多くのものが生み出され、消費・廃棄されてきた。ゼロ・ウェイストの考えが広まった背景には、このような社会の仕組みに疑問を持つ人が増えたことや、ごみ問題に関心を持つ人が増えたことがある。
実際の問題として日本では、どのくらいのごみが廃棄されているのだろうか。また、ごみが増えるとどのような問題があるのか、ゼロ・ウェイストの考えが広まることになった背景について解説する。
日本におけるごみの現状
環境省によると、令和2年度の一般廃棄物の総排出量は4,167万トンであった。1人あたりに換算すると1日901グラムのごみを出していることになる。
出典:一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度)について|環境省
ごみの総排出量、最終処分量は前年と比べて減少傾向で、リサイクル率も増加しているものの、依然として多くのごみが排出されている状況だ。
日本では容器包装リサイクル法により、プラスチックの多くはリサイクルされている。再資源化率は高いが、すべてのプラスチックごみを再利用できるわけではない。汚れたプラスチックごみは、発展途上国などに流れている。
長い間その受け皿となってきたのが中国だ。先進国の質の良いプラスチックを積極的に輸入していた中国だったが、汚水や不法投棄などが問題になり、2017年に廃プラスチック輸出禁止措置が実施され、日本から中国へプラスチックごみを輸出できなくなった。
さらに、2019年には廃棄物の国境移動に関する条約「バーゼル条約」が改正されたことで、汚れたプラスチックごみを輸出するには相手国の同意が必要になった。
日本は海外にプラスチックごみを受け渡すことが難しくなり、廃棄物を国内で処理する重要性が高まっている。
ごみが増えることで起きる問題
ごみが増えるとさまざまな問題が発生する。主な問題は以下のとおりだ。
地球温暖化
まず、地球温暖化への影響だ。ごみの収集や運搬、焼却などの過程では二酸化炭素が排出される。二酸化炭素は温室効果ガスのひとつであり、地球温暖化の原因とされている。
地球温暖化によって懸念されるのが、異常気象や生物の生息域の減少、気温や海面の上昇だ。
処理コストが増加する
ごみを処理するには、収集や運搬、選別や焼却などの処理、資源化や埋め立てなどの処分など複数の工程が必要になる。
最終処分まで行うには、処分できる施設の設置や整備、ごみ回収や処分に携わる人の人件費など、さまざまな費用が必要だ。これらのコストは各自治体の住民などが負担することになる。
最終処分場が不足する
日本の最終処分場の残余年数(満杯になるまでの残りの期間)は、令和2年度末時点で推計22.4年だ。既存の最終処分場が満杯になると新たな埋立地が必要となる。埋立地は廃棄物の最終処分先として重要な位置づけにある。しかし、埋立地では、廃棄物の分解過程でメタンや二酸化炭素等の地球温暖化ガスが発生するため、環境への影響を無視することはできない。
参考:一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度)について|環境省
ゼロ・ウェイスト実現に向けた自治体の取り組み
日本のいくつかの自治体では、「ゼロ・ウェイスト宣言」を行っている。
ゼロ・ウェイスト宣言は、住民や事業者の協力を促すために、ゼロ・ウェイストの実現に向けて掲げた明確な削減目標を公表することである。
2021年1月時点までに、徳島県上勝町、奈良県斑鳩町、福岡県みやま市、福岡県大木町、熊本県水俣市でゼロ・ウェイスト宣言が行われた。具体的にどのような取り組みが行われているのか、徳島県上勝町と奈良県斑鳩町を例に取り上げる。
徳島県上勝町
徳島県上勝町は、日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言を行った自治体だ。2003年に「2020年までにごみの発生量を最小にすること」を目指して宣言された。
ごみ削減のために力を入れているのが、焼却前の資源の回収だ。資源の有効活用や処理コストの削減のために、上勝町では13種類45分別式での回収を徹底している。
分別を細かくして資源化しやすいようにするだけでなく、町民がうまく分別できるようにゴミステーションに常駐スタッフを設置していることも特徴的だ。
住民はゴミステーションに直接ごみを持ち運び、スタッフのサポートを受けながら分別する。高齢などで直接持ち運びが難しい場合は、無料で家まで回収に来てもらえる福祉サービスも利用できる。
さらに、住民の理解を得るために写真付きの資源分別ガイドブックを配布し、ゼロ・ウェイストの必要性についても周知している。ポイントキャンペーンや使えるものを自由に持ち帰られるリユーススペースなども設け、住民のごみへの意識を高めている。
上勝町のごみ削減の取り組みは実績としても現れ、2016年にはリサイクル率が80%台に達した。 2019年度の全国平均のリサイクル率が19.6%であったことを考えると、いかに高い数値かわかるだろう。
奈良県斑鳩町
奈良県斑鳩町では、2017年にゼロ・ウェイスト宣言が行われた。きっかけとなったのが、老朽化した焼却処理施設の廃止だ。新規建設には多額のコストがかかることから、焼却処理施設の廃止とともに民間委託を行うことを決定し、処分が行われる他地域への配慮から宣言に至った。
斑鳩町では、取り組みとして生ごみの資源化を進めている。
ひとつは生ごみをたい肥にして町内で販売する取り組みだ。ごみ集積所に生ごみ専用のボックスを置くことで可燃ごみと分別し剪定枝と合わせて、たい肥にする取り組みを行っている。
もうひとつは、家庭での生ごみのリサイクルの促進だ。一般家庭で生ごみ処理機を購入した場合、購入金額の3分の2(限度額有)を限度に奨励金の交付も行っている。
2018年のごみのリサイクル率は54.1%と、全国平均を大きく上回っている。
今日からできるゼロ・ウェイスト生活のアイデア
ゼロ・ウェイスト実現に向けた自治体の取り組みを取り上げたが、私たち個人もゼロ・ウェイスト実現に向けてできることは多い。ここではリデュース・リユース・リサイクルになるアイデアを見ていこう。
【リデュース】ごみを発生させない
リデュースとは、ごみを発生させないことだ。ゼロ・ウェイスト生活のためにも、リデュースは大きなポイントになる。リデュースになる具体的なアイデアは次のとおりだ。
- マイボトルやマイ箸を持ち歩く
- イベントでは使い捨てでないリデュース食器を活用する
- 詰め替え商品があるものは詰め替え用のものを購入する
- 衣服はリフォームして再利用する
- 固形シャンプーやコンディショナーを利用する
- 布ナプキンを利用する
【リユース】ごみを出さない
リユースは再使用することでできるだけごみを出さないことだ。リユースのアイデアとして、次のようなものがある。
- 不要なものはリサイクルショップへ持っていく
- フリマアプリで洋服や本などを購入する
- ベビー用品をレンタルする
- リサイクル家具を購入する
- 洋服のサブスクリプションを活用する
【リサイクル】ごみを資源にする
リサイクルは、ごみを資源化して再利用することをいう。資源に戻しやすいように次のことを日々の生活で意識することが大切だ。
- 資源物は分別して捨てる
- 生ごみ処理機使って生ごみをたい肥として利用する
- エコマーク商品を選ぶ
まとめ
ゼロ・ウェイストはごみを出さないようにすることで、日本でも関心をもつ人が増えている。自治体でもゼロ・ウェイスト宣言を行い、実現に向けて本格的な取り組みを実施しているところも増えてきた。
ゼロ・ウェイスト実現のためには、個々人がごみ問題に意識を向け、できるだけごみを出さない生活を実現していくことが大切だ。