People & Culture子どもたちを「科学」への冒険に誘う 協和キリンの理科実験教室「バイオアドベンチャー」

「将来は研究者になりたい!」「汚いと思っていた菌が好きになりました」。
協和キリンが提供する理科実験教室「バイオアドベンチャー」に参加した子どもたちから寄せられる感想だ。20年にわたる活動を通じて、これまで多くの子どもたちの好奇心の扉を開いてきた。バイオアドベンチャー町田校の企画・運営をしている竹内 京子、夏目 由香理に話を聞いた。

  • 「バイオアドベンチャー」は協和キリンが次世代育成に貢献し、また地域の関係者に同社グループの事業や強みを伝え、信頼感や親近感を醸成することを目的とした、主に小学生から高校生までの子供たちを対象とした理科実験教室。同社の研究所・工場がある町田校、高崎校、長泉校、宇部校にて、同社が社内公募したスタッフが中心となって運営を行っている。

理科実験教室開始時の目的。
それは、子どもの理科離れを食い止めること

バイオアドベンチャーは、2000年に東京都町田市の東京リサーチパークで始まった活動だ。

“自分たちができる社会貢献活動を話し合う中で挙がった「子どもの理科離れ」という問題。その解決につなげようと、町田市教育委員会の協力を得ながら、この理科実験教室「バイオアドベンチャー」をスタートしました。幼児から参加できるイベントから、本格的な実験をおこなう高校生向けの教室まで、様々なプログラムを企画、開催しています。”

現在は、全国4カ所にある研究所・工場で、微生物、遺伝子、免疫、薬作りをテーマにした複数のプログラムを提供している。

“町田校では、子どもの成長や理解度に応じた5つの理科実験教室を開催中です。バイオアドベンチャーは、幅広い年齢層を対象にした息の長い活動が評価され、2016年に科学技術分野の文部科学大臣表彰を受けました。2000年の開始時から現在までの延べ参加人数は、町田校だけでも約4800人に上ります。”

文部科学大臣表彰は、たくさんの人々に活動を知ってもらうきっかけとなった。

子どもたちの「楽しい!」を大切に
五感をフル稼働させるプログラムを作成

一番大切にしているのは、子どもたちに「科学は楽しい」と身をもって感じてもらうことだ。

“協和キリンらしいプログラムにするために、研究員と一緒にオリジナル教材を考え、授業は現役の研究員の講義と実験を組み合わせて行っています。例えば、抗原と抗体が特異的に結びついて起こる「抗原抗体反応」は、講義だけだと理解しにくい内容です。そこで、自作の抗原と抗体の模型をパズルのようにはめるワークをしながら、どんな現象かを学べるようになっています。”

抗体のオリジナル教材。組み合わせることで、抗体の仕組みを理解できる。

開始当初は未来の科学者の育成を目指していたが、現在はこの目的に加え、溢れる情報の中で科学的なものの見方を養い、正しく判断ができる「サイエンスリテラシー」を高めることを意識している。

“2016年には、それまで各地で別々に活動していた次世代育成事業を「バイオアドベンチャー」に統一し、本社で統轄するようになりました。各校がテキストや授業内容などの情報を共有しながら、お互いの活動の質を高めています。活動の場は社外にも広がっており、最近では要請を受けて、東北大学のサイエンスキャンパスでも開催するようになりました。”

子どもたちの理科への興味を高め、
進路に影響を与えることも

ある時、授業前に「微生物は汚い」と言っていた小学生がいた。しかし、終了後には「菌は生活に役立つことが分かり、菌が好きになった」と書いてくれた。

“こういう時に、手ごたえを感じます。最近はインターネット通販などで器具が買いやすくなったこともあり、「授業の後に子どもに頼まれて顕微鏡を購入し、家でいろんなものを見ています」といったお声をいただくこともあります。”

子どもの進路に影響を与えることもある。

“高校生を研究所に招いて行う授業では、研究者が実際に使う器具や装置で実験し、結果を解析しています。この経験は大きな影響を及ぼすようで、引率の先生から「授業の後に進路を薬学に決定した生徒がいます」とご報告を受けたこともあります。”

DNA工作のイベントで作った、DNA二重らせんの模型。幼児から参加でき、モールや絶縁チューブを使った工作を通じて、構造を学べる。
DNA工作イベントの参加者には博士認定証(写真右手のカード)を渡し、名前の後に「博士」とつけて呼んでいる。みんなすごく嬉しそうな顔で答えてくれる、とのことだ。

子どもたちと接することが従業員の気づき、イノベーションの源に

東京リサーチパークでは、社員の半数以上が様々な形で運営に関わってきた。

“社員は、授業後も「楽しかった」だけで終わらず反省や改善案を提案してくれるので、それをマニュアルに反映し、活かしています。活動に参加した社員が得る最も大きな財産は、授業を通じて「子どもの頃の自分」を追体験できることです。子どもたちの発想の豊かさ、科学への純粋な好奇心が大きな刺激となり、仕事でのイノベーションの源泉になっています。”

これからも活動を続け、将来は子どもと一緒に研究をしてみたい

協和キリンが目指している「地域の次世代育成」の第一歩は、科学を好きになってもらうことだ。

“2000年から活動に参加し、キラキラとした子どもたちのまなざしから、たくさん元気をもらってきました。この仕事は本当に楽しいです。「科学って面白い」「科学は身近にあるんだ」と気づいてもらいたい。実験や工作を取り入れた、協和キリンにしかできない面白い授業を提供したい。今後もそんな想いを持ちながら、情熱をもって、多くの従業員と共に活動を続けていきたいです。そしていつかは、子どもたちと一緒に研究にも取り組んでみたいです。”

そう遠くない将来、大人と子どもの共同研究の成果を見られる日が来るかもしれない。

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