社会との共有価値 【解説記事】昆虫食のメリット・デメリットを具体的に解説!
「最近話題の昆虫食、気になるけど見た目が気になる…」と感じる人もいるのではないだろうか。
昆虫は、栄養価が高く、環境負荷も少ないなど、多くのメリットが期待されている。一方で、昆虫食が普及することによるデメリットもいくつか考えられている。これから昆虫食を試したい方や、昆虫食の普及についてより理解を深めたい方は、デメリットについても知っておくと良いだろう。
本記事では、昆虫食のメリット・デメリットについて、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)との関係性もふまえながら、論文やFAO(国連食糧農業機関)の資料をもとに解説していく。
近年注目されている昆虫食とは?
昆虫食とは、人間が昆虫を栄養源として食べることだ。昆虫は、人類が誕生してから貴重なタンパク源とされてきた。しかし、その他の食料の安定供給と家畜からのタンパク源摂取が可能になり、需要が激減してきた。
とはいえ、今日もメキシコ・アジア地域・アフリカを中心に、人間は1,990種類を超える昆虫類を食しているとされる。
消費量が多い昆虫と消費量は、以下のとおりだ。
種類 | 消費量(%) |
---|---|
甲虫類(カブトムシ、ゾウムシなど) | 31% |
ケムシ | 18% |
ハチ、アリ | 14% |
バッタ、イナゴ | 13% |
出典:「Forest products critical to fight hunger – including insects」(FAO)
日本でも一部の地域で昔からみられる昆虫食だが、現在は世界的に注目され始めている。
2050年には世界の人口は100億人を超えるといわれており、食料の供給が追いつかなくなるとされている。そこで、重要な栄養素であるタンパク質を家畜の代わりに昆虫から得ようというわけだ。
ただ、「なぜ昆虫?」という疑問もわくのではないだろうか。
昆虫食のメリット5つ
昆虫食のメリットは、以下の5つが挙げられる。
- 栄養価が高く健康に良い
- 環境負荷が少ない
- 生産がしやすい
- 加工して利用できる
- 貧困層の人々の収入源となり得る
それぞれ、具体的に見ていこう。
栄養価が高く健康に良い
昆虫は、肉や魚に比べて良質なタンパク質を多く含んでいる。
エネルギー源となる脂肪酸やミネラルも豊富に含んでおり、栄養源としても期待できるのだ。また、鉄やマグネシウム、亜鉛など、多くの栄養素を含むため、非常に栄養価が高い。
昆虫食を世界的に普及させることは、SDGs目標2「飢餓をゼロに」、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」の達成にもつながるといえるだろう。
環境負荷が少ない
食用昆虫を飼育するときに排出される温室効果ガスは、家畜より格段に少ない。
FAO(国連食糧農業機関)によると、昆虫3種(ミールワーム、コオロギ、バッタ)を生産するときに排出される温室効果ガスは、豚や牛などと比較して、およそ100分の1とある。
これはSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成にもつながるといえるだろう。
出典:「昆虫の食料保障、暮らし そして環境への貢献」(FAO)
生産がしやすい
昆虫は飼育変換率が非常に高い。
飼育変換率とは、1kgの収穫に対して必要な飼料を示す。飼育変換率が高い昆虫は、少ない飼料で多く生産できるのだ。牛とコオロギを比較すると、4分の1程度の飼料で生産できるとされている。
また、穀物ではなく人間廃棄物、動物廃棄物、堆肥などの廃棄物を飼料として活用できるため、食品ロス削減にもつながる。
さらに、牛の可食部位が40%程度なのに対し、昆虫はほとんどの部分が食べられる。可食部位をふまえて飼育変換率をみると、昆虫は牛よりもおよそ12倍以上少ない飼料で生産ができることがわかる。
出典:「昆虫の食料保障、暮らし そして環境への貢献」(FAO)
飼料として利用できる
昆虫は、パウダー状やペースト状に加工し、飼料に加工しやすい点もメリットだ。ニワトリや豚などの家畜や養殖魚、ペットの餌として、既存の飼料に混ぜて使うことができる。
大阪府立環境農林水産総合研究所で行われた研究では、養殖魚の飼料において、昆虫食を使用した場合と魚粉を使用した場合とを比較した結果、体重・体長ともに大差はなかった。
魚介類は需要が増加しており、輸入価格は安定していない。そのため、昆虫食を飼料に使用する方法で、より持続可能な食料生産につながることが期待されている。
貧困層の収入源となり得る
食用昆虫の販売は、原野で採集できて生産や加工が簡単なため、特別な知識がなくても始めやすい。
発展途上国では貧困層の経済的な自立が問題になっているが、昆虫食の広まりは、こうした人々が収入源を得ることにもつながるだろう。
また、昆虫の飼育には、家畜と違って広い土地を必要としないため、貧困層の人々も参入しやすい。
発展途上国の人々の収入源として確立されれば、SDGsの目標1「貧困をなくそう」の達成にも寄与できる。
昆虫食のデメリット・課題3つ
昆虫食のデメリットと課題は、以下の3つだ。
- アレルギーを引き起こす可能性がある
- 消費者への浸透が難しい
- 農薬の規制が必要になる
それぞれ、詳しく見ていこう。
アレルギーを引き起こす可能性がある
昆虫食は、アレルギーを引き起こす可能性が否定できない。
昆虫はエビやカニと同じく無脊椎(むせきつい)動物であるため、甲殻類アレルギーの人において、同様の症状を引き起こす可能性が考えられている。
なお、衛生的な環境で飼育された昆虫は、病気や寄生虫のリスクが低く、人間に伝染した実例は今のところない。
ただし、何を食べているかわからない野生の昆虫は、農薬をはじめとする様々な化学物質に暴露されている可能性が考えられる。昆虫食にチャレンジするときは、信頼性のある衛生的な環境で飼育されたものを選ぶと良いだろう。
消費者への浸透が難しい
昆虫食が普及しないのは、消費者からの嫌悪感が原因と考えられている。
数が多くて長い脚や、触覚など、見た目のインパクトが強く「気持ち悪い」と思ってしまう人も多いだろう。
しかし、現在は昆虫を加工した商品も多く販売されている。例えば、無印良品が販売している「コオロギせんべい」や「コオロギチョコ」は、コオロギの粉末を使用している。
見た目に対する嫌悪感を払拭できれば、世界的に浸透する日もそう遠くないかもしれない。
農薬の規制が必要になる
国際連合食糧農業機関(FAO)では、野生の昆虫を食用として利用する場合に農薬の規制が必要と考えられている。
昆虫の中には、植物を餌にするものもいる。植物を育てるのに農薬を使っている場合、消費者に多量の農薬が残留した状態で提供されるおそれがあるためだ。
ただし、農薬を規制すると、病害虫に食物を食われ収穫量が減ることが懸念される。昆虫食の提供、および普及にはまだまだ課題があるようだ。
出典:「昆虫の食料保障、暮らし そして環境への貢献」(FAO)
まとめ
今回は昆虫食のメリットとデメリットについて紹介した。
昆虫食は、近い将来の食糧危機対策の一つとして注目されている食品だ。栄養価が高く環境負荷も低いため、国連食糧農業機関(FAO)も推奨している。昆虫食に関する企業的な活動や正式な活動はまだ少ないものの、食材や飼料の実用化への取り組みは始まっている。
今回紹介したデメリットや課題も踏まえ、今後の動向をみていきたい。