People & Culture【保育園×SDGs】持続可能な社会につながる保育を目指して
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目次
2023年1月に協和キリン高崎工場(群馬県高崎市)に開設された「きょうわきりん保育園 高崎」では、SDGsを意識した保育が行われているという。背景や取り組みの内容、今後の目標を園長の鈴木瞳先生に聞いた。
プロフィール
鈴木瞳(すずきひとみ) きょうわきりん保育園 高崎・園長
「丁寧であたたかい保育」をモットーに20年以上、子どもたちの成長を見守り続けてきた保育士。2018年からは群馬県高崎市内の保育園に、園長として勤務。2023年より現職。
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多様な働き方を支援する「きょうわきりん保育園 高崎」
協和キリンでは、従業員の多様なライフスタイルや働き方の支援、子育て世代への仕事と育児の両立支援をしている。その取り組みの一環として従業員向けの保育施設を、2022年5月には富士リサーチパーク/CMC研究センター(静岡県駿東郡長泉町)に、2023年1月にはバイオ医薬品の生産を担う高崎工場(群馬県高崎市)に開設した。
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こうした保育施設では、従業員の働き方に合わせた土日の開園やフレキシブルな時間対応を行っている。また高崎工場の保育園は近隣の子どもも入園可能※なので、地域の待機児童問題の解決にもつながっている。
- ※募集枠は在籍園児の状況により変わることがあります。
大切にしているのは「多様な体験」と「サステナブルな教育環境」
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–最初に、園の概要や運営方針を教えてください。SDGsにつながる部分は、どんなところですか?
「きょうわきりん保育園 高崎」は2023年1月に開園し、現在は0歳児から3歳児まで13名の園児が在籍しています(取材時)。これから少しずつ増え、将来的には60名ほどの園児が在籍する予定です。
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当園では、運営方針として3つの柱を掲げています。1つ目は「安心・安全をすべての土台とする」ことで、セキュリティの体制を整え、看護師を常駐させています。2つ目は「多様な体験ができる環境を提供する」ことです。そのために、散歩や園内の畑での作業を通じて自然に触れる機会を多く作ったり、ぬくもりある玩具を取り入れた保育室を整えたりしています。3つ目は「サステナブルな教育環境を維持する」ことです。地域の方々と交流の機会を持ったり、食育活動を行ったりすることで、地元のつながりや食への興味、感謝の心を育んでいます。
自然の中での「気づき」「思い」を尊重
–具体的にはどんな取り組みをおこなっているのですか?
「自然とのふれあい」を特に重視しています。よく近所の広い公園や田んぼ、畑に散歩に行くのですが、子どもたちは、大人が全然見向きもしないような虫や花を見つけてくるんです。そうした発見を素通りせず、共感したうえでどんな虫や花か、一緒に調べています。この間は春の花をたくさん摘んで、保育園に飾ったのですが、子どもたちの花を大切に思う気持ちが伝わってきました。こうした日々の活動を通じて、子どもたちは人に対してだけでなく生き物に対しても優しい心を育んでいます。
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また、私たちは「自分たちで育てて食べる」ことが日常になる場づくりを目指しているので、安心・安全で栄養バランスの良い給食の提供はもちろん、園内に畑を持ち、花や野菜を育てて園内に飾ったり、給食で食べたりしています。食育につながるイベントも定期的に行っています。
食材については地産地消を心がけ、地元のものを優先して使っており、掲示を通してどこから来たか伝えています。こうした取り組みを通じ、地域とのつながりを深めていきたいです。
園内では掲示や絵本を通じて、SDGsを身近に
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–園内ではどんな取り組みをしているのですか?
身近なところでは、「水を無駄づかいしないように」「トイレットペーパーを無駄づかいしないように」「使っていない電気は消そう」といった標語に、子どもたちの写真とSDGsアイコンを添えたポスターを掲示する取り組みがあります。地道な活動ですが、子どもたちは絵を見て覚えるのが得意なので、自然にSDGsが浸透していくことを期待しています。保護者の方々も掲示物を目にするので、大人の理解にもつながる取り組みです。
–目標4「質の高い教育をみんなに」と目標16「平和と公正をすべての人に」のアイコンが絵本の棚の近くに掲示されているのも、良いアイデアだと感じました。絵本選びで工夫していることはありますか?
平和の大切さを伝える絵本を、意識的に選ぶことです。子どもたちの平和の学びは、お友だちと仲良くすることから始まります。この保育園で初めて「お友だち」の存在を知る子も多いので「お友だちは独り占めできない」「順番を守るのは大事」といったことを、毎日の読み聞かせの時間に、絵本や紙芝居を通じて伝えています。
また、SDGsではジェンダー平等もテーマになっていますが、当園ではもともと男の子だからとか、女の子だからという隔たりを設けない保育を実施しています。みんなに当たり前のように一緒におままごとをさせますし、色を選ぶ時も、全員に好きな色を選んでもらっています。
おもちゃについては、温かみと創造性を大切にしています。温かみがあるおもちゃを選んだ結果、木のおもちゃが多くなりました。また、マグフォーマーやLaQ(ラキュー)などの工夫の余地が大きいブロック玩具をそろえ、子どもたち自身のアイデアで、いろんなものを作れる環境にしています。一緒に遊ぶたびに、子どもたちの発想の豊かさに驚かされています。
–日々の保育がしっかりとSDGsにつながり、子どもたちの糧になっているのですね。
「体験を通して、できることを考え実践してほしい」
–今後は、どんな風にSDGsを保育に取り入れていきたいですか?
当園では、多様な経験が子どもたちを大きく成長させると考えています。そのために先生、おうちの人、地域の人たちが一体となって子どもたちを見守り、多くの体験の機会を与えていきたいです。
まず取り組みたいのは地域の方たちとの多世代交流です。関わるみんなが学びや元気をもらえる機会になるので、協和キリン高崎工場のみなさんの協力を得ながら進めていきたいです。
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食育については、年中児、年長児が増えたら定期的にクッキングの時間を持ちたいです。当園の母体である社会福祉法人 後閑あさひ福祉会が運営している安中市(群馬県)にある園では、パンやうどん、クッキー、おまんじゅうなどを粉から作っています。その反響としてお子さんがおうちでも食に興味を持つようになり手伝いをしたり、休みの日に一緒に料理をしたりするようになったという話を、保護者からよく聞きます。また、スーパーで素通りするような野菜も、自分たちで収穫すると特別なので塩だけでパクパク食べる子がたくさんいるのを目の当たりにしてきました。こうした食を通じた学びの機会を、より多く作っていきたいです。
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また、安中市の園で年1回開催している「サーカス・エコロジカル」を当園でも開催したいです。これはチームパフォーマンスラボというエンターテイメント集団を招き、実験や劇を通じて環境問題のことを伝えていただくイベントなのですが、終演後から子どもたちが自分たちでできることを考えるようになり、「トイレットペーパーを無駄使いしないようにしよう」「水を出しっぱなしにしないようにしよう」「電気を消してから外に出よう」といったアイデアを出し、実践している様子が毎回見られます。ぜひ、こうした一人ひとりのアクションにつながるイベントを行いたいです。
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インタビュー中、鈴木先生は「体験を通し、子どもたち自身ができることを考え実践してほしい」という思いを何度も口にした。まわりの自然に関心を寄せ、大切さに気づき、できることから実践しようとする心を育てる保育は、SDGsの土台となる種まきのような取り組みと言える。「きょうわきりん保育園 高崎」の卒園生は、頼れる未来の担い手になっていくだろう。
関係者コメント

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