People & Culture 【解説記事】日本でも子どもの7人に1人が貧困…「相対的貧困」の課題とは?

世界中のさまざまな国や地域で課題のひとつとされている「貧困問題」は、日本でも深刻化している。

日本における貧困の多くは「相対的貧困」と呼ばれ、衣食住の確保が困難になるような状況とは異なるが、生活水準の低下や将来的な貧困の連鎖につながる課題だ。

こうした貧困に対して国や自治体のほか、さまざまな団体が解消に向けて尽力している。

今回は、相対的貧困とはなにか、絶対的貧困との違いや日本における貧困問題の現状と、解決に向けた取り組みについて紹介する。

相対的貧困とはある地域社会において大多数よりも貧しい状態のこと

相対的貧困とは、ある国や地域社会の文化水準や生活水準と比較して、大多数よりも貧しい経済状況のことを指している。

厚生労働省では、等価可処分所得の中央値のさらに半分の額のことを指す「貧困線」を下回る世帯を「相対的貧困世帯」と定義している。

「等価可処分所得」とは、世帯における収入から税金や、社会保険料などを差し引いた「可処分所得」を世帯人員の平方根で割って調整した所得のことだ。

例えば、年収400万円の2人世帯と年収200万円の1人世帯を単に比較するとひとり当たりの年収はどちらも200万円である。しかし、水道光熱費など世帯共通の生活コストを考慮すると同程度の生活水準とはいえない。そのため、平方根で割って調整する必要がある。

相対的貧困にある子どもたち

相対的貧困に該当する子どもたちは、以下のような状況にあることが多い。

  • 家計を支えるために毎日アルバイトをしている
  • 高校や大学、専門学校などへの進学を経済的理由からあきらめざるを得ない
  • 1日で栄養のある食事を学校給食の1回でしか摂取できていない

そのような子どもたちは、周囲の家庭環境との差を目の当たりにして将来への希望がなくなり、学習意欲を失っている場合も多い。

こうした状況は、学歴や学力差による就職先の選択肢減少や、その後の収入格差にもつながり、貧困の連鎖につながる問題となっている。

絶対的貧困との違い

相対的貧困とは異なる貧困の定義に「絶対的貧困」がある。世界銀行の基準では、絶対的貧困に該当するのは「1日1.90ドル以下の生活をおくっている世帯を指す」とされている。

絶対的貧困はアフリカなどの発展途上国に多く見られる。それに対して、相対的貧困は先進国にも多くあり、一部の国や地域だけの問題ではない。

絶対的貧困の場合、生活に必要最低限な食糧などを購入できる所得さえも得られず、生命の危機に直面しているケースも多い。

一方で、相対的貧困は、生命の危機に瀕するほどの経済状態ではないため、周囲からすると貧困状況にあるように見えず、問題が潜在化しやすいという特徴がある。

結果的に支援の手が行き届かず、子どもの進学断念や将来的な貧困の連鎖につながってしまうケースも少なくない。

絶対的貧困や相対的貧困の現状については、下記の記事でも紹介している。

相対的貧困率からみる日本の課題

日本における貧困率は約16%であり、およそ6世帯に1世帯が相対的貧困状態にある。

とくに、ひとり親世帯の状態はより深刻だ。ここからは、日本における相対的貧困率の課題について紹介する。

子どもの7人に1人が貧困状態である

厚生労働省の2019年国民生活基礎調査によると、2018年の貧困線は127万円となっており、貧困線を下回る所得の世帯が相対的貧困にあたる。

将来的な進学や就職などへの影響も深刻とされる、17歳未満の子どもの貧困率は13.5%でおよそ7人に1人が該当しているのも現状だ。

相対的貧困にあたる子どもは2000年頃でも14%程度を占めており、約20年経ってもほとんど改善されていない状況にあることがわかる。

出典:「2019年 国民生活基礎調査の概況pdfが開きます」(厚生労働省)

ひとり親の相対的貧困率が高い

子どもの貧困は、世帯収入を支える親の貧困によって生じる。とくに、ひとり親世帯の状況は深刻で、2018年度の平均税込み収入は母子世帯が299.9万円、父子世帯が623.5万円という結果となっている。

ひとり親世帯の中でも、とくに母子世帯の貧困率は5割を超えており、そのうち約13%が「ディープ・プア(貧困線の半分に満たない)」世帯にあたる。

ふたり親世帯の平均収入が734.7万円であることと比較すると、深刻さが理解できるのではないだろうか。

出典:「「第5回(2018)子育て世帯全国調査」結果速報pdfが開きます」(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)

また、近年の新型コロナウイルスの流行によって生活が圧迫され、ひとり親世帯の貧困状況はより深刻化している。

内閣府による令和3年子供の生活状況調査の分析報告書によると、お金が足りず必要な食料や衣服を買えないことが「増えた」と回答した世帯がコロナ禍以前よりも増加した。

必要な食糧や衣服を購入できないことが増えたと回答したのは「ふたり親世帯」では 8.8%で、「ひとり親世帯」全体では 23.1%、さらに「母子世帯」のみでは 24.3%にのぼる。

ひとり親世帯におけるコロナ禍の影響は大きく、貧困状態の悪化に拍車をかける事態となっており、早急な対策が求められている。

出典:「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書別ウィンドウで開きます」(内閣府)

【取り組み事例】相対的貧困の解決策

相対的貧困の解決策としては、まず貧困の連鎖を断ち切る必要があると指摘されている。収入格差によって、学力や学習機会の格差にもつながるためだ。

では、貧困の連鎖を断ち切るために、国や自治体ではどのような支援が行われているのだろうか。ここからは、国主導で行われている取り組みの事例を紹介する。

【生活の応援】児童扶養手当

生活の支援として、国では「児童扶養手当」の支給を行っている。児童扶養手当は18歳に達する日以降の最初の3月31日まで、児童を養育している人に支給されるものだ。

支給額は養育者の収入や子どもの人数によって異なり、最大で43,160円、2人目は最大10,190円、3人目以降は最大6,110円加算される。

なお、この手当は父母が離別もしくは死別した児童や、父母が一定以上の障害状態にある児童、父母の生死が明らかでない児童を監護していることなどが支給条件となっている。

【学びを応援】教育費の負担軽減

貧困の連鎖を断ち切るためには、学習機会の創出や格差是正も必要になる。近年では、幼児保育の無償化などもスタートした。

3~5歳児の保育料が無償化され、年収360万円未満の世帯では副食(おかずやおやつ)の費用も免除されている。0~2歳児クラスの保育料は、住民税非課税世帯に限り無償化対象だ。

また、フリースクールで学ぶ子どもへの支援として、必要な情報提供やICTなどを通じた支援、家庭訪問なども行っている。

また、高等教育の支援も強化され「高校生など奨学給付金事業」の充実を図り、低所得者世帯の教材費や修学旅行費等も支給される制度も制定されている。

日本学生支援機構の無利子奨学金の拡大などにも注力されており、幼児教育から、高等教育まで切れ目のない教育費の負担軽減に向けた取り組みが行われている。

【仕事を応援】就職支援の充実

貧困の連鎖を断ち切るためには、収入の確保が重要だ。そのため、就職支援の充実に向けた取り組みも進められている。

就職に有利な資格取得を支援するため「教育訓練給付金制度」が導入されており、資格取得に向けた訓練課程の受講費用が20~50%支給される。

また、ひとり親全力サポートキャンペーンとして行われているのは、出張ハローワーク(市役所などの窓口)や、子連れで参加できるマザーズハローワークなどの取り組みだ。

子どもの貧困対策としても親の就職支援は強化されており、子育てと仕事を両立しやすい社会の実現に向けて、さまざまな取り組みが行われている。

まとめ

相対的貧困の深刻化は、貧困の連鎖にもつながる重要な課題のひとつだ。絶対的貧困のように生命維持にかかわるものでない場合でも、支援が必要になるケースは多い。

また、世帯によって必要な支援は多岐にわたるため、ケースワーカーなどとの相談を通じ、個々人に合った支援の提供が求められている。

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