社会との共有価値 【解説記事】環境問題の解決策のひとつ「ライフサイクルアセスメント」とは

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)が国連サミットで採択され、国や企業がSDGs達成に向けた取り組みを発信してきたこともあり、SDGsの目標にもある環境問題に触れる機会も増えてきた。

環境問題に関する取り組みのひとつとして挙げられるのが、「ライフサイクルアセスメント」だ。なぜライフサイクルアセスメントが重視されるようになったのか、企業の取り組みもあわせて紹介する。

環境負荷を軽減させる「ライフサイクルアセスメント」

ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品のライフサイクル、すなわち資源採掘をはじめとする原材料の調達から製造、使用、廃棄・リサイクルに至るまでに投入された資源、生態系などへの環境負荷を定量的に評価する方法だ。

たとえば、エアコンをはじめとする電化製品は使用時の消費電力だけでなく、製造から廃棄までの工程で、環境にさまざまな負荷を与えている。

こうした製品のライフサイクルで発生する環境への影響を視覚化できれば、環境負荷の少ない方法に生産をシフトすることができる。

ライフサイクルアセスメントの規格であるISO14040シリーズでは、以下のように評価手順が規格化されている。

1.実施する目的と適用範囲の設定 実施の目的や評価の対象とする製品やサービスを決める。
2.インベントリ分析 投入される資源やエネルギー、製品や排出物のデータを収集し明細書を作る。
3.インパクト評価 データの明細書をもとに環境負荷を定量的に評価(数値的に評価)する。
4.結果の解釈 総合的に評価、解釈し生産プロセスの改善や製品の開発などを行う。

ライフサイクルアセスメントの重要性

ライフサイクルアセスメントは、2050年に向けた脱炭素社会の実現、製品製造における環境負荷において重要性を増している。

2050年脱炭素目標

日本では、年間12億トンを超える温室効果ガスが排出されている。この現状を改善し、2050年までに脱炭素社会(カーボンニュートラル)を実現するには、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする必要がある。

2050年の脱炭素社会実現のために、2030年度には2013年度比46%の温室効果ガスの削減が国の目標となっているが、目標達成のためには、国や企業、個人など、あらゆる主体が意識し行動していかなければならない。

参照:「国の取組別ウィンドウで開きます」(環境省)

温室効果ガス削減目標を達成するために不可欠なのが、ライフサイクルアセスメントの考え方だ。

たとえば、製品の原料調達から廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの量をCO2に換算して表示するカーボンフットプリント(CFP)でライフサイクルアセスメントの考えが活用されている。

CO2の排出量を可視化することで、事業者だけでなく、消費者にも排出量削減に関する課題を共有できる。

製品製造における環境負荷の現状

ライフサイクルアセスメントが重視されるのは、製品製造が環境に与える影響も背景にある。産業部門の温室効果ガスの排出量は、いまだ無視できないレベルにあるためだ。

産業部門の中でも製造業はその排出の9割以上を占めており、CO2排出による大気汚染などに影響を与えている。

参照:「2.3産業部門におけるエネルギー起源CO2pdfが開きます」(環境省)

大気汚染のほかに水質汚濁も問題となっており、これらによる地球温暖化、海や湖沼などの水の富栄養化、健康への影響、海洋酸性化も無視できない問題だ。

このような製品製造が環境に与える影響を正しく評価する手法として、ライフサイクルアセスメントは重視されている。

ライフサイクルアセスメントを取り入れたCO2削減の取り組み事例

ライフサイクルアセスメントはどのように活用されているのか、企業の取り組み事例をいくつか紹介する。

富士通株式会社

富士通グループでは、グリーン製品の評価制度として、1998年よりライフサイクルアセスメントを導入している。以降は新製品の開発時にもライフサイクルアセスメントを実施し、環境に配慮した設計に利用してきた。

一部の製品では、ライフサイクルアセスメントを活用した環境ラベルの取得も行っている。

また、近年ではIoTを活用した事業やシェアリングのニーズが拡大したこともあり、2019年よりグリーン製品をシェアやレンタルのようにサービス化して提供することの効果についても検討を進めてきた。

近年の社会のニーズに対応したサービスの提供において、グリーン製品がどれくらい環境負荷の低減に役立つか、どこにトレードオフがあるか把握するためだ。

2019年には、クラウドサービスとオンプレミスの環境負荷における効果推定が実施された。

日本ハム株式会社

日本ハム株式会社では、カーボンフットプリント・マークの表示がある商品の販売も行っており、カーボンフットプリントの取り組みにライフサイクルアセスメントの手法を取り入れている。

カーボンフットプリント・マークを表示しているのは、ソーセージ、ハム、ベーコンのうちの一部だ。これらの商品については、以下の5つの段階において環境負荷を計算している。

  1. 材料をつくる(材料や梱包資材の生産や輸送などによる環境負荷を計算)
  2. 商品をつくる(生産や廃棄物処理などで発生する環境負荷を計算)
  3. 商品をはこぶ(輸送や輸送資材の廃棄にかかる環境負荷を計算)
  4. 商品をつかう(商品の保管や調理で発生する環境負荷を計算)
  5. 包材をすてる(パッケージ廃棄にかかる処分や輸送の環境負荷を計算)

分析の結果、操業範囲のCO2排出の規模は小さいものの、原料調達面で排出規模が大きいことがわかった。関与できる余地がある包装材料や段ボールを先行項目として環境負荷軽減における取り組みを進めている。

私たちも参加できる「カーボンオフセット」

イギリスのNGOから始まった取り組みに、カーボンオフセットがある。カーボンオフセットとは、日常生活や経済活動などから排出される温室効果ガスを、温室効果ガス削減の取り組みや植林によって埋め合わせようとする考え方だ。

カーボンオフセットの実施方法として、環境保全活動に投資または参加する方法と、温室効果ガスの削減をクレジット化し購入する取り組みが行われている。

カーボンオフセットが促進されるなかで、求められるようになったのがライフサイクルアセスメントの手法だ。製品製造における環境負荷を定量的に評価でき、温室効果ガスの排出を算定できることから、カーボンオフセットの促進に活用されている。

なお、このようなカーボンオフセットの取り組みは企業だけに限ったものでない。私たち個人も、製品製造でカーボンオフセットの取り組みを行っている商品を知り、購入することで支援できる。

具体的にカーボンオフセットの取り組みを行っている商品にはどのようなものがあるか、ここではいくつか紹介する。

ファミリーマート「We Love Green」

株式会社ファミリーマートでは、CO2の排出枠を政府に譲渡することでカーボンオフセットを実現する「We Love Green」のプライベートブランドを販売している。

これらのブランドは、株式会社ファミリーマート独自の基準をクリアし環境に配慮しているのが特徴だ。

株式会社イトーキ「スピーナ」

株式会社イトーキでは、原料調達から廃棄・リサイクルまでのCO2量の排出をオフセットしたオフィスチェア「スピーナ」の製造販売を行っている。

同商品は、「第1回カーボン・オフセット大賞」にて優秀賞を受賞した。

詳しくはこちら

第1回カーボン・オフセット大賞」の受賞者の決定について別ウィンドウで開きます」 |環境省

株式会社モンテローザ「森を育む Forest Cocktail」

株式会社モンテローザでは、カーボンオフセット商品である森を育む Forest Cocktailの全国での販売を行っている。間伐推進プロジェクトによるクレジット購入(CO2の吸収)を利用し、消費者がカクテル1杯で1kg分のオフセットをできるというものだ。

まとめ

製品製造の環境負荷への見える化を図るため、ライフサイクルアセスメントを取り入れる企業も見られるようになってきた。

個人としては、ライフサイクルアセスメントを取り入れ環境ラベルを表示している製品、ライフサイクルアセスメントの手法を取り入れたカーボンオフセットを実施している商品に関心を向けることが重要だ。

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