社会との共有価値 【解説記事】SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」の背景と取り組み
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)を達成するためには、世界中の人々がお互いを理解し合い団結する必要がある。これについては目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」にも掲げられており、すべての課題をクリアするためにも重要になるだろう。
今回は、SDGsの目標17の内容と、実際に日本の企業が取り組んでいる事例や個人で実行できる活動について紹介する。
SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」とは?
SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」とは、SDGsの目標1〜16の達成を目指し、実施手段の強化、パートナーシップの活性化に向けた目標が設定されている。
SDGsの目標達成には一組織、一団体だけが単独で力を入れたところで実現が難しい。そのため、途上国と先進国がともに問題意識をもって、国、政府、民間が連携しながら進めていく必要もある。
特に、多額の資金がかかるインフラ整備、人的資源の供給には、国を超えたグローバルな取り組みが必要だ。
SDGs17で掲げるパートナーシップの活性化では、途上国が自立して経済を回す事ができるよう、国や企業を超えた開発により利益を上げる仕組みの構築が進められている。
つまり、世界中のあらゆる人々が協力してパートナーシップを充実させていくことが、SDGs17の掲げる目標ということだ。
SDGs17の掲げるターゲットとその背景については、次項で詳しく説明していく。
SDGs17のターゲットと世界の実情
SDGs17を達成するために定められたターゲットは、以下の7つだ。
- 資金
- 技術
- 能力構築
- 貿易
- 制度・政策
- MSP(マルチステークホルダー・パートナーシップ)
- データ
各ターゲットの詳細と、世界の現状について解説していこう。
【資金】2021年もODAは過去最高だが、世界的に資金援助は低迷が続く
19のターゲットのうち、以下5つのターゲットが資金の実施手段に分類される。
- 17-1 途上国への国際支援などにより、国内の資金調達を強化する
- 17-2 先進国は途上国へのODA(政府開発援助)に関する公約を完全に実施し、ODA供与国も開発途上国に供与する目標を設定するよう奨励する
- 17-3 途上国への追加的資金を複数財源より調達する
- 17-4 協調的な政策により、途上国の長期的な債務を支援しHIPC(重債務貧困国)の対外債務の対処する
- 17-5 後発開発途上国の投資促進枠組みを導入し実施する
資金に関するターゲットが設定されているのは、多くの国の成長と貿易に、ODA(政府開発援助)が欠かせないためだ。
ODAとは、主に開発途上国の経済の発展を目的とした政府、または政府関係機関の国際協力活動に必要な公的資金のこと。ODAには資金の贈与や貸付のほか、情報提供も含まれる。
しかし、援助レベルは世界的に低迷が続いている。たとえば、2018年の正味ODA総額は1,490億ドルで、2017年と比べて2.7%減少している。2018年の後発開発途上国向け二国間ODA実質額については、2017年と比べて3%、アフリカに対しての援助額に至っては4%も減少した。
出典:「SDGs報告2019」(unicef)
2021年には正味ODAは総額1,776億ドルと過去最高を記録した。しかし、依然として日本は0.34%と、SDGs17の資金目標であるGNI(国民総所得)比0.7%は達成できていない状況だ。
出典:「持続可能な開発目標(SDGs)報告」(国際連合広報センター)
【技術】先進国と途上国間だけでなく国内でも情報格差が生まれている
以下3つのターゲットが技術の実施手段に分類される。
- 17-5 科学、技術、イノベーションに関する国際的な協力を強化し、相互に合意した条件で知識共有を進める
- 17-6 相互に合意した条件の下、開発途上国に対し環境に配慮した技術開発、移転、普及などを進める
- 17-7 後発開発途上国の技術バンクなどを完全運用させICTなどの利用を強化する
技術の実施手段では、先進国による資金援助に加え、技術の提供も求められている。デジタル・デバイドといって、先進国と途上国の間には情報格差が存在するためだ。
技術の発展によって世界中でコミュニケーションが円滑化された一方で、情報通信を扱えない人もいるなど、技術の発展は格差を広げてしまった。この問題は先進国と途上国との間だけではなく、日本国内でも身近に存在している。
なお、実施手段の技術においては、単に技術を提供するだけでなく、環境に配慮した技術開発など、持続可能性に注目した技術の提供もターゲットに設定されている。
【能力構築】発展に必要な三角協力を推進する
以下のターゲットが能力構築の実施手段に分類される。
- 17-8 南北協力、南南協力、三角協力などで開発途上国のキャパシティ・ビルディング実施の国際的支援を強化し、持続可能な開発目標に対する国家計画を支援する
キャパシティ・ビルディングとは、能力の構築を表す。SDG17でターゲットとして示されているのが、南北協力、南南協力、三角協力による国際的支援だ。ここでの南は途上国、北は先進国を表す。開発の進んだ国のほとんどが北半球にあることから、北と南で表されるようになった。
つまり、「南北協力」とは、先進国と途上国の協力のことだ。南北協力は、従来からある協力関係だが、先進国と途上国が協力しただけでは目標は達成されない。南北協力の補完のために、南南協力も進められるようになった。
「南南協力」とは、途上国同士の協力を表す。途上国が共通して抱える開発戦略や資源、解決策を分かち合うことが、南南協力の重要な要素だ。
しかし、南南協力では、どうしても資金が不足してしまう。そこで途上国同士の協力に先進国も加わったのが、「三角協力」である。
三角協力の特徴は、協力の枠組みにある南南が近隣国であるケースが多く、言語や文化などが似ているため、現地に合った技術の移転がスムーズに行われることだ。
2019年3月には第2回国連南南協力会議がブエノスアイレスで開催され、三角協力を含めた新たな南南協力の枠組みが話し合われた。
また、新興国や市民社会、民間企業といったあらゆるステークホルダーで形成された「効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ(GPEDC)」では、「効果的な三角協力に関するグローバル・パートナーシップ・イニシアティブ(GPI)」での議論が推し進められている。
【貿易】公平な貿易・途上国が参加しやすい取り決めが始まる
SDGs17の19のターゲットのうち、以下3つのターゲットが貿易の実施手段に分類される。
- 17-10 WTO(世界貿易機関)の下(ドーハ・ラウンドの交渉受諾含む)でのルールに基づいた、公平で多角的な貿易体制を進める
- 17-11 開発途上国の輸出を大幅に増やし、世界における後発開発途上国のシェアを倍増させる
- 17-12 市場アクセスの円滑化を含むWTOの決定に矛盾しない形で、すべての後発開発途上国に永続的な無税、無枠の市場アクセスを実施する
WTO(世界貿易機関)とは、すべての人が公平な競争の場を確保し、貿易できるようにするための国際機関である。
これまで貿易は、すべての国が参加できるようにWTOの枠組みのもと進められてきた。貿易は、途上国の経済発展において欠かせない要素だからだ。
しかし途上国は、大幅な輸送コスト、インフラの未整備、不安定な品質、中間業者による搾取などの問題から抜けられていない。
また、輸入を求める一方、輸出には高い関税をかけるといった先進国中心の貿易ルールも存在する。ドーハ・ラウンドでは途上国製品の関税をなくす取り決めがされてきたが、各国の利害との関係もあり、長い間、公平な貿易の実現は難しかった。
SDGsでは、2030年の目標達成に向けて、途上国の貿易の問題解決が進歩するように、公平な貿易の促進、途上国にとって参加しやすい貿易の取り決めがターゲットに定められている。
【制度・政策】高いレベルの政策統合や機関の調整が必要
SDGs17の19のターゲットのうち、以下3つのターゲットが制度・政策の実施手段に分類される。
- 17-13 政策協調などを通じて世界的なマクロ経済の安定を図る
- 17-14 持続可能な開発の政策一貫性を強化する
- 17-15 貧困撲滅と持続可能な開発の政策の確立や実施にあたり、各国の政策空間やリーダーシップを尊重する
SDGsの達成に向けて重要な要素となるのが、効果的で説明責任のある公的機関の政策決定である。SDGsでは複数の目標を掲げられており、これらの目標達成を同時に進めていくために、高いレベルでの政策統合や機関の調整が必要だ。
制度・政策の実施手段では、政策においてSDGsの達成に向けて取り組むことをターゲットに定めている。しかし、公的部門を管理するのは、行政にとって厳しい課題だ。そこで国連では、途上国も含め各国が複数の課題に取り組めるように支援している。
【MSP】各個人が立場を超えて協調し共同で取り組む必要性がある
SDGs17の19のターゲットのうち、以下2つのターゲットがMSPの実施手段に分類される。
- 17-16 すべての国、特に開発途上国の持続可能な開発目標達成を支援するため、マルチステークホルダー・パートナシップによって知識や技術などを補完し、グローバル・パートナーシップを強化する
- 17-17 パートナーシップの経験や資源戦略をベースに、公的、官民、市民社会のパートナーシップを進める
SDGs達成のためには、政府の政策だけでは不十分である。政策はもちろん、企業や消費者である個人、労働者、投資家など、さまざまな人が参加し、役割を果たすことが欠かせない。
MSP(マルチステークホルダー・パートナーシップ)とは、公的機関、民間問わず、さまざまな利害関係者(ステークホルダー)が自発的に協調し、共通の目的達成に向けて共同で取り組むために制度化された関係のこと。
MSPの例として、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)などがあげられる。
【データ】途上国においても正確なデータの取得が必要
以下2つのターゲットがデータの実施手段に分類される。
- 17-18 途上国の能力構築支援を強化し、所得、性別、年齢、人種など、各国事情に関連するタイムリーで信頼性のあるデータの入手可能性を上げる
- 17-19 持続可能な開発の進捗状況を測る既存の取り組みを前進させ、途上国の統計に関する能力構築をサポートする
政府や公共機関、民間において、国や国際レベルを正確に比較できる統計は重要だ。しかし、出生届など適切なデータが必要にもかかわらず、途上国においてはデータを正確に取得できないこともある。
先進国だけでなく、途上国においても信頼できる正確なデータを取得できるように、データに関する実施手段がSDG17においてターゲットに設定された。
統計に関しては、国連が中心機関となり、国際統計活動の最高政策決定機関として国連統計委員会が設置され、国連統計部が作業を監督している。グローバルな統計情報を編集、普及させ、各国の国内統計システムの強化をサポートするのが目的だ。
SDGs17の達成に向けた「パートナーシップ」における事例3選
目標達成に向けて、日本でも多くの取り組みを進めている。ここからは、実際に行われている活動の事例について3つ紹介しよう。
【政府×ユニセフ】日本政府による政府開発援助(ODA)の実施
日本政府も発展途上国への資金援助を始めとする政府開発援助を進めている。ユニセフは「世界の子ども達の権利を守る」という共通目的のため、日本政府とタッグを組んでさまざまな支援を提供している。
例えば、2022年には、カンボジアやベトナムへ感染症対策のためのデジタルヘルス・システム支援計画として資金を提供した。2023年には、ウクライナへ子どもたちや国内避難民に対する人道支援を拡大するために資金提供をおこなっている。
【大学×NPO】100年住み続けられる街「SDGsコネクト信州」
特定非営利活動法人長野県NPOセンターは、100年住み続けられる街を創出するため、SDGsに関する情報提供サイト「SDGsコネクト信州」を開設。
大学とNPOが協力し、さまざまなステークホルダーがSDGs達成のための周知・浸透・啓発・実践活動に参加できるサイトを目指すために活動中だ。
例えば、大学教授による研修プログラム、体験型でSDGsを学べるワークショップなど、多くの人が興味を持ちやすい内容を企画している。
【国連×漁業】海のエコラベル認証の推進
過剰漁獲の問題性が浮き彫りとなった1990年代、持続可能な漁業・水産物の普及を目指して設立されたのがMSC(Marine Stewardship Council)だ。MSCは、1998年に国際協議を通してMSC漁業認証基準を策定した。それにともない、2000年に世界初の「海のエコラベル」を表示した製品が誕生した。
海のエコラベルは、水産資源や環境に配慮された形で獲られた水産物に対して与えられる認証マークだ。第三者による厳格な審査を突破したものだけが認証されることから、持続可能な漁業で獲られた水産物と断定できる仕組みになっている。2017年時点で、MSCエコラベルを表示した製品は25,000点以上まで増えている。
日本の水産庁では、この海のエコラベルを普及推進していくための取り組みを支援している。例えば、水産エコラベル普及推進事業として、国際機関との連携やイベント開催、消費者への情報発信を通した認知度向上を図る取り組みだ。事業目標としては、農林水産物・食品の輸出額の拡大や、国内における水産エコラベルの生産段階認証の認証数増加を目指している。
SDGs17の達成に取り組む企業事例
目標達成に向けて、多くの企業も取り組みを進めている。ここからは、実際に行われている活動の事例について紹介しよう。
リベラ株式会社
社会インフラの基盤
リベラグループでは、世界の物流を支える安全な海上輸送を提供している。
船舶はバリアフリーに対応したものを提供しており、災害時には救援や救助活動にも対応できる多目的船が整備されているのだ。
北海道と本州を結ぶ役割を果たし国内でのインフラ強化を図る一方で、地域貢献事業としても芸術文化活動や地域交流イベントの参画など、地域のパートナーシップを高める取り組みも行っている。
環境への取り組み
環境面への配慮は人の生活や地球にとって重要な課題であり、世界的にも貢献できる取り組みであるため、太陽光発電などのクリーンエネルギー事業へ出資し、環境と人に優しい循環型農業にも取り組んでいる。
テラオライテック株式会社
社会起業家の育成
水に対する課題を抱える開発途上国は多い。トイレがなく不衛生な環境や清潔な飲料水の確保ができないなど、感染病のリスクや子どもの発達に影響が出ている国や地域は多数存在している。
テラオライテック株式会社では、特に早急な解決が必要なネパール、スリランカ、ウガンダ、バングラデシュなどで、迅速な水問題の改善を目標に、社会起業家の育成を行っている。
具体的な育成活動の内容は、「水と衛生の基本的な知識を習得させる」「現場施工などの専門知識を習得させる」「海外研修の実施をとおして新法人を誕生させる」などだ。新法人誕生後もグループ全体として支援を行うことで、質の高い事業展開と環境整備への貢献を目指している。
協和キリン株式会社
卓球部
卓球を通したスポーツ文化への貢献により、多くの人たちの健康や地域の活性化、子どもの健全な育成を目指している。
スポーツを通した幅広い社会貢献だけでなく、ステークホルダーとの良好なコミュニケーションやリレーションを構築する機会にもなるだろう。
協和キリンの卓球部の詳しい活動内容についてはこちら
オープンイノベーション
オープンイノベーションとは、知識や技術を社内だけに限定せず社外からも取り入れて組み合わせ、革新的な新しい価値を創出する方法論である。
協和キリンでは革新的な創薬のため、多くの企業や研究機関と共同で研究や開発を進めている。
特に腎、がん、免疫・アレルギー、中枢神経の分野は同社の豊富な知見をもとに、より一層の価値創出に励んでいる。
今後も多様な創薬技術を駆使し、少しでも早く多くの人々に新薬を届けるために、さまざまな分野のパートナーとの協力を目指す。
国産ホップを守る取り組み
キリンホールディングスの取り組みとして、日本産ホップの生産体制を整え、日本独自のビアカルチャーを残す活動を実施している。
岩手県遠野市と協力のもと、地域活性化により数十年後にも活躍し続けることができるような町づくりを目指す。
そのほかにも、協和キリンではCSV経営をとおして、SDGs達成に向けてさまざまな取り組みを行っている。
協和キリンが行っているCSV経営についてはこちら
パートナーシップで発展を目指すために私たちができること
ここまでは企業の取り組みを紹介してきたが、目標17を達成するためには個々人の活動も重要だ。個人でも実施できる取り組みについて紹介しよう。
開発途上国へ募金・寄付を行う
パートナーシップを強化して、さまざまな支援を行うためには少しでも多くの資金が必要である。
国際的に支援活動を行っている団体に募金や寄付を行うことで、取り組みをサポートすることができるのだ。
数円から数千円の単位でも多大な貢献をすることができ、開発途上国への支援によりパートナーシップを築くための役割を担うことができるだろう。
地元で買い物をする
生活に必要な野菜などの食品や物品を地元で購入するだけでも、地域に貢献することができる。
地元の企業を支援して雇用を守る働きがあり、身近なパートナーシップへの取り組みといえる。
人間や地球を守る取り組みへの参加を訴える
会社や政府に、これ以上人間や地球へ悪影響を及ぼさないため、パリ協定への支持や関連する取り組みへの参加を訴えかけるのも大切な取り組みになる。
個々人が声を上げることで、大きな活動へと発展して成果を上げるきっかけになるだろう。
自分の働いている企業の取り組みを知る
自分の働いている企業がSDGsについて何に取り組んでいるかを確認することも、身近なSDGsについて知る機会になる。
アルバイト先や就職先を選ぶときにも参考にすることで、社会全体がどの程度SDGsを意識しているかが見えてくるだろう。
まとめ
今回はSDGsの目標17について解説した。世界規模で協力し合うためには、現在開発途上国と呼ばれている地域の状況や実態を把握することが重要である。
しかし、未だに人材や資金・資源などさまざまな支援が不足しており、現状がすべては見えていない状態にあるのだ。
募金や地域貢献など身近な取り組みから始めることが、世界を変えるきっかけになるため、少しでも多くの人たちがSDGsを理解して声を上げることが望まれる。