社会との共有価値 【解説記事】SDGsの未来都市構想とは!山口県宇部市の事例をもとに紹介
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )の達成は、地球規模で取り組むべき重要な課題だ。2020年7月に実施されたレジ袋の有料化により、環境問題へ目を向け始めた人も少なくないだろう。
そんななか、持続可能なまちづくりや地域活性化に向けた取り組みとして、SDGsを原動力とした地方創生が推進されている。
また、優れたSDGsの取り組みを提案する地方自治体の中から「SDGs未来都市」が選定されているのだ。
今回は、経済縮小や人口減少を食い止めるべく期待されている「地方創生」や、経済や社会、環境に対して優れた取り組みを実施している「未来都市」について詳しく解説する。
SDGsとは
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、持続可能な開発目標のことを指す。2015年の国際サミットにより、加盟国の全会一致により可決された国際目標であり、2030年までに「持続可能でより良い世界を目指すこと」を目的としている。
SDGsは「誰ひとり取り残さない」ことを理念として掲げており、発展途上国、先進国問わず取り組む国際目標だ。国といった大きな規模だけではなく、個人の意識改革も重要な課題だ。
日本では2016年にSDGs実施指針が発表されている。難しい話に聞こえるが、個人でできる取り組みもある。レジ袋などのプラスチックごみや、食材や電気、水道など、生活のなかで大量消費しているものを意識して改善すれば、SDGsの達成に貢献できる。
地方創生SDGsと、未来都市構想の3つの構成
日本では近年、少子高齢化により人口減少が著しい地域が増加している。そこで日本は、地域の活性化を推進するため「地方創生」を目標のひとつとして掲げ、「環境未来都市構想」への取り組みを進めている。
ここでは、地方創生SDGsと、環境未来都市構想の3つの構成を解説する。
地方創生SDGs
地方創生SDGsとは、まちづくりや地域の活性化にSDGsの考えを取り込んだものである。
総務省によると、日本の合計特殊出生率は、人口規模が維持される水準の2.07を下回る状態が約40年間も続いている。過疎化が進んでいる地域にとって、人口減少を食い止めることは急務である。
そこで、地域の活性化を図るため地方創生に力を入れることとなった。実際に、SDGs推進本部から発表されたアクションプラン2019にて「SDGsを原動力とした地方創生」が大きな柱として盛り込まれている。
SDGsの理念に沿って、まちづくりや地域の活性化を進めることにより、政策全体の最適化や、地域課題解決の加速化などの好循環が期待できる。
環境未来都市構想
政策の全体最適化、地域課題解決の加速化という相乗効果が期待できるのが地方創生SDGsだ。その取り組みのひとつとして、持続可能な経済社会システムを実現する都市・地域づくりを目指す「環境未来都市」構想が進められている。
この項目では、環境未来都市構想の都市選出方法を解説する。
①環境モデル都市
環境未来都市構想の基盤となる「環境モデル都市」とは、持続可能な低炭素社会に取り組む都市が指定される。 温室効果ガス排出量の大幅な削減など、低炭素社会の実現に向け高い目標を掲げ、先駆的な取り組みにチャレンジする都市・地域である。
具体的には、移住スタイルの変革やコンパクトシティ化、再生可能エネルギーの導入など、地域資源を最大限に活用している都市が選出されている。
②環境未来都市
環境未来都市構想の基盤「環境モデル都市」のなかから、さらに厳選された都市が「環境未来都市」だ。環境、社会、経済の3つの観点から価値を創造し、誰もが暮らしていける未来を目指そうとしている都市が指定される。
例えば、震災がれきを活用した減災のための「千年希望の丘」の造成や、交通の要所という立地を活かし、国際福祉都市としての機能を果たしている宮城県岩沼市が選ばれた。
ほかにも、大都市が抱える課題に対して企業や市民団体が地域の特徴を活かして、環境から高齢化対応まで幅広い取り組みを行っている神奈川県横浜市などが指定された。
③SDGs未来都市
地方創生の推進にあたり、優れたSDGsの取り組みを提案する地方自治体が「SDGs未来都市」だ。
環境モデル都市や環境未来都市の取り組みに加え、SDGsの理念に沿って取り組みを続けている都市が指定される。令和2年度に「SDGs未来都市」に選出されたのは33都市にのぼる。
経済や社会、環境に配慮した取り組みにより、持続可能な都市づくり、地域づくりを目指すねらいがある。SDGs未来都市として選定された地域は、有識者からのアドバイスや、政府からの支援を受けられる仕組みだ。
SDGs未来都市の事例:山口県宇部市
ここでは、SDGsの達成に向け、持続可能なまちづくりを実現する山口県宇部市を例に挙げて、取り組んでいる内容を解説する。
5つのまちの実現を目指す
SDGs未来都市に選定された山口県宇部市は、以下の5つのイメージを目指している。
1.産業力強化、イノベーション創出のまち
2.生きる力を育み、子どもの未来が輝くまち
3.健幸長寿のまち
4.共に創る魅力、にぎわいあふれるまち
5.安心・安全で快適に暮らせるまち
以上のように、『魅力・活力・人財に溢れた「共存同栄・協同一致」のまちづくり』を推進している。
SDGs未来都市に指定されたことによるメリット
SDGs未来都市に指定された地域は、有識者からのアドバイスや政府からの支援を受け、地域活性化に、より一層力を注げる。では、SDGs未来都市である山口県宇部市には具体的にどのようなメリットがあるのか見ていこう。
市民へのメリット
SDGs未来都市に指定されることで、市民には以下のようなメリットが挙げられる。
- 地域のコミュニティが維持される
- 生活利便性の向上
- サービス機能の維持
- 公共交通機関の維持
- 市民の健康維持につながる
過疎化が進む地域にとって、地域のコミュニティや交通機関の維持は大変重要である。人と接する機会が増えればまちがにぎわい、市民の健康維持にもつながる。まさに人口減少を食い止め、経済縮小を克服する好循環といえるだろう。
都市経営のメリット
SDGs未来都市に指定されると、市民だけでなく都市経営にも以下のようなメリットが生まれる。
- 経営コストの抑制
- 不動産価値の下落を抑えることができる
- 環境負荷の削減
不動産価値の下落を抑え、経営コストを抑制できれば、地域の活性化が実現可能である。
また、山口県宇部市西部には協和キリンの工場がある。宇部工場は協和キリンが手がける医薬品の製造拠点であり、主力工場として発展している。また、協和キリンの工場では、SDGsの達成に向けて、さまざまな省エネ活動を推進していることを知っているだろうか。
大気汚染防止のため、硫黄酸化物を排出しない灯油ボイラーを導入したり、環境負荷の高い廃液は分別して産業廃棄物として処理したりしている。そのほか、廃棄物削減など、環境に留意した取り組みを重視している。
まとめ
SDGsを原動力とした地方創生SDGsは、地域活性化の大きな期待を担っている。SDGsを推進することで、地球環境の問題にアプローチできるだけでなく、経済効果にもつながるだろう。
地方創生SDGsの達成に向け、優れたSDGsの取り組みを提案する地方自治体が増えることで、経済や社会、環境に大きな影響を与えるのではないだろうか。それぞれの地域で、環境未来都市構想が実現できれば、SDGsの達成にも一歩近付くはずだ。