社会との共有価値 【解説記事】SDGsの5つのPとは?SDGsをより深く知るための重要な考え方
持続可能な開発目標であるSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の達成に向けて、世界規模でさまざまな取り組みが行われている。取り組み内容はSDGs17の目標と169のターゲットを指標としている。とはいえ、数の多さに混乱する方も少なくないだろう。
多岐にわたるSDGsの目標とターゲットを理解するには「5つのP」を知ることが重要だ。そこで今回は、SDGsの基本概念となる「5つのP」を解説する。あわせてSDGs達成に向けて行われている日本の取り組みについて紹介していく。
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )の考え方
まずはSDGsとはなにか、考え方や掲げられている目標を解説していく。SDGsでは「誰ひとり取り残さない」を目標として掲げており、地球上のさまざまな課題解決に向けて「持続可能な」取り組みを推進する目的がある。
17に細分化された目標は、世界中にある課題を解決するための手段や目的が示されたものだ。
SDGs「17の目標」
それぞれ目標ごとの詳細を解説しているので、ぜひ合わせて参照してほしい。
- 貧困の連鎖や貧困によって発生する情報やサービスへのアクセス困難、社会的差別、意思決定など、あらゆる課題を包括的に解決に導くための目標。
- 環境との調和がとれた持続可能な食糧生産を可能にし、生産者の安定した収入の確保や栄養ある食事を十分に摂取できるよう、農業生産性の向上への投資などを推進するための目標。
- 母子保健の増進や主要感染症の流行を阻止し、あらゆる年齢のすべての人が健康的な生活をおくれるように保健や福祉の充実を図るための目標。
- 2030年までに世界のすべての子ども達が教育を受けられるようになること、高等教育へのアクセスを可能にし、働きがいのある仕事へ従事するための知識や技能を身に付けた若い世代を大幅に増加させるための目標。
- 世界中の女性が潜在能力を発揮するための教育の充実や、有害な慣行、暴力などをなくし、政治経済への女性参画機会やリーダー人材の確保を推進するための目標。
- 安全な水の確保や安定的な衛生環境、衛生施設の整備に加え、水源の質や水の利用効率を向上させ、持続可能な利用環境を整備するための目標。
- クリーンエネルギーに関するインフラ整備や技術の拡大によって、世界中の人々のエネルギーへのアクセスを容易にし、再生エネルギーの利用拡大を推進するための目標。
- すべての人に完全雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の機会を提供し、強制労働や人身取引、児童労働を根絶するための安定雇用や経済成長を推進するための目標。
- 国際的または国内的な金融、技術支援、研究を通じたイノベーション、情報通信技術へのアクセスを拡げ、安定した産業化を目指すための目標。
- 国内や国家間の所得不平等だけでなく、性別、年齢、障害、人種、階級、民族、宗教、機会による不平等の是正、安全で秩序ある正規の移住を推進し、グローバルな政策決定や開発援助などを通じた発展途上国の支援を推進するための目標。
- コミュニティのつながりや個人の安全を確保しながら、イノベーションや雇用を刺激し、都市やその他の居住地における再生、すべての人が利用できる安価で安全な輸送システムへのアクセスなど、持続可能な住環境整備を図るための目標。
- 環境にとって有害な物質の管理について、国際協定などの措置を取りながら、持続可能な生産と消費のサイクル確立を推進するための目標。
- 気候変動における影響は、脆弱な立場の人々に不当におよぶため、気候変動への対処とともに気候による危険や自然災害に対応できる体制構築を推進するための目標。
- 海洋や沿岸生態系の保全と持続可能な利用を目的とし、海洋汚染の予防や海洋資源の持続可能な利用による小島嶼開発途上国と後発開発途上国の経済的利益の増大を推進するための目標。
- 持続可能な方法で森林を管理しながら、劣化した土地の改善や砂漠化を抑止する対策を成功させ、森林の生態系やそれらで生計を立てている人々の生計を守り、将来に豊かな天然資源を残すための目標。
- 人権の尊重、法の支配などあらゆるレベルや場面で、透明性が担保された効果的かつ責任ある制度統治による、平和で公正な世界の実現を目指すための目標。
- SDGsの達成に向けて、世界中で人間と地球を中心とした価値観を共有し、グローバル、地域、国内、地方など、さまざまなレベルで政府や民間セクター、市民社会間でパートナーシップを重視し、包括的に取り組むことを推進するための目標。
これら17の目標は「5つのP」をもとに、具体的な目標や行動指針として落とし込んだものである。
SDGs17の目標は『5つのP』を具現化したもの
SDGsにおける17の目標の知識を深めるには、ベースとなっている「5つのP」と掲げられている8つの優先課題を知ることが重要だ。
5つのPとは「People(人間)」「Prosperity(繁栄)」「Planet(地球)」「Peace(平和)」「Partnership(パートナーシップ)」である。
2000年に採択されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年に「2030アジェンダ」としてSDGs(持続可能な開発目標)が掲げられた。2030アジェンダの中で提唱された5つのPの実現が、SDGsの達成に極めて重要であり、5つのP実現が達成できればすべての人々の生活が大いに改善すると示されている。
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People(人間) | 1.あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現2. 健康・長寿の達成 |
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Prosperity(繁栄) | 3.成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション4.持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備 |
Planet(地球) | 5.省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会6.生物多様性、森林、海洋等の環境の保全 |
Peace(平和) | 7. 平和と安全・安心社会の実現 |
Partnership(パートナーシップ) | 8.SDGs実施推進の体制と手段 |
ここからは、5つのPと8つの優先課題に対して、日本で取り組みが進められている具体的な施策例について紹介する。
出典:外務省 持続可能な開発目標(SDGs)推進本部「SDGsアクションプラン2022」
1.【People】人間
ひとつ目のPでは「人間」に関する優先課題を掲げている。
優先課題:1.あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
すべての人々が活躍できる社会やジェンダー平等を実現するための施策の例として、女性活躍推進や働き方改革、子どもの貧困対策などがある。
また、教育デジタル・リモート化の推進や、次世代へのSDGs浸透を図ることでさらなる次世代型SDGsの取り組み喚起を行っている。
優先課題:2.健康・長寿の達成
公衆衛生危機に対する予防・備え・対応(PPR)を強化し、すべての人が健康増進や予防、治療へのアクセスを容易にする持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を推進している。
また、新型コロナウイルスへの対策として、途上国を含めたワクチンや治療、診断の開発や普及の支援なども取り組みのひとつだ。
2.【Prosperity】繁栄
ふたつ目のPでは「繁栄」に関する優先課題があげられている。具体的な施策例については、以下のとおりだ。
優先課題:3.成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
持続可能なまちづくりに関する優れた取り組みを行う自治体を「SDGs 未来都市」として選出している。
また、地方自治体の取り組みへの支援を通じて、成功事例の普及や国内外に向けた情報発信の強化を行うのも取り組みのひとつだ。さらに、デジタル基盤の有効活用による地域の課題解決にも注力している。
優先課題:4.持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
安全、安心な国土・地域・経済社会の構築のため、災害への対策に積極的に取り組んでいる。
また、国内だけでなく途上国支援にも官民一体となって推進しており、技術協力や人的交流の実施なども質の高いインフラ整備に向けた施策のひとつだ。
3.【Planet】地球
3つ目のPでは「地球」に関する優先課題の解決に向けた取り組みが行われている。
優先課題:5.省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会
省・再生可能エネルギーを最大限利用するための規制見直しや、クリーンエネルギー分野への投資によって、地球規模の気候変動対策強化を目指す取り組みも施策例のひとつだ。
また、食品ロス削減に向けて事業者だけでなく、消費者の取り組みも重要なものと位置づけた。2020年3月に内閣が決定した「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」をもとに、持続可能な生産と消費を推進している。
優先課題:6.生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
海洋資源の持続的利用だけでなく、森林やその他の生態系の保全、持続可能な管理、回復、保護のため、海洋プラスチックごみ対策への取り組み推進も、日本における施策のひとつだ。
日本における海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロを目指すだけでなく、途上国支援なども積極的に行いながら持続可能な環境保全に取り組んでいる。
4.【Peace】平和
4つ目のPでは「平和」に関する優先課題を解決するための取り組みが進められている。
優先課題:7.平和と安全・安心社会の実現
新型コロナウイルスなどを含む新たな脅威に対して、人間の安全保障に関する議論を推進している。途上国支援として、人道・開発・平和の切れ目の無い支援を継続しながら、能力構築や人材育成も継続し、関係各国との連携強化を図っていることも平和に関する課題解決に向けた取り組みのひとつだ。
また、DVや性暴力対策、児童虐待や子どもの性被害防止のため、民間企業や市民社会との連携強化を図っている。
5.【Partnership】パートナーシップ
5つ目のPでは、強力かつ加速度的に優先課題を解決するための「パートナーシップ」の強化に関する取り組みが進められている。
優先課題:8.SDGs実施推進の体制と手段
SDGsの達成に向けて重要なのは、国民や市民一人ひとりが自分のこととして受け止めて取り組みに積極的になることだ。
そのため、日本政府は市民社会に加えて、有識者や民間企業、国際機関などの連携促進や意見交換を積極的に行っている。
また、ESG投資の推進を通じて、民間企業のSDGs達成に向けた取り組みを後押ししている。
共通の目標達成に向けて専門的知見や技術、資金などのリソースを共有するための「マルチステークホルダーパートナーシップ」を重視した関係性の構築が進められている。
もちろん、国家間や関係機関だけでなく、我々市民の協力や知識を深めることも、優先課題解決に向けたパートナーシップの重要な要素のひとつだ。
上述した5つのPと8つの優先課題の具体的施策例については「アクションプラン2022」より紹介している。
出典:外務省 持続可能な開発目標(SDGs)推進本部「SDGsアクションプラン2022」
SDGsの日本における取り組み例
SDGsの達成に向けて重要な5つのPにおける優先課題は、具体的な施策として推進していく活動目標を示したものだ。
では、SDGsの達成に向けて実際に日本で行われている取り組みには、どのようなものがあるのだろうか。
SDGs達成に向けて行っている日本政府の取り組みには、以下のようなものがある。
2016年5月SDGs推進本部を設置
上述した5つのPと8つの優先課題を踏まえ、明確な活動や行動指標として示すための機関として設置した。総理大臣が本部長を、官房長官と外務大臣が副本部長を務める、全閣僚が構成員の機関である。ビジネスと人権の両立方法や取り組み例を発信し、政府や自治体だけでなく民間企業を巻き込んだ取り組みを推進している。
ダイバーシティ経営の普及推進
経済産業省は、企業が経営戦略のひとつとして多様な人材の能力を最大限に活用するダイバーシティ経営を推進できるよう後押ししている。
健康経営の推進
経済産業省は、健康経営に係る各種顕彰制度として平成28年度に「健康経営優良法人認定制度」を新たに創設した。これらの顕彰制度の目的は、優良な健康経営に取り組む法人の見える化を行い、社会的評価を受けられる環境の整備を進めることである。
災害等に強いエネルギー供給網
頻発する自然災害に備え、製油所の排水能力の強化、護岸の嵩上げなどの大雨・高潮対策の実施、避難所などの社会的重要インフラへの燃料タンクや自家発電設備の導入の支援や、備蓄などを進めている。
私たち一人ひとりが日本や地方自治体、民間企業が行っている取り組みを知ることは、SDGsに対する知識を深めることにつながる。
また、優れた取り組みを行う企業の商品やサービスを利用する形で資金的な支援を行うことで、17の目標達成に向けたさらなる取り組みが加速化するだろう。
まとめ
SDGsにおける「5つのP」は、SDGs17の目標の根幹にあるものだ。17の目標すべてに密接にかかわっているため、5つのPを構成する8つの優先課題を解決に導くことは、SDGs達成に不可欠だといえるだろう。