People & Culture協和キリンが地域と取り組む、未来の科学者を育てる試み「バイオアドベンチャー」

2023年8月11日、協和キリンの富士リサーチパークとCMC研究センターから成る富士事業場がある静岡県長泉町の「コミュニティながいずみ」で、小学4〜6年生を対象とした夏休み子ども体験講座「バイオアドベンチャー」を開催した(長泉町教育委員会生涯学習課主催)。富士事業場に勤務する従業員が運営スタッフとして、この講座への参加を応募した23名の子どもたちの当日のサポートを行った。講師は、研究開発本部創薬基盤研究所主任研究員の岩本晋が務めた。どのような経緯や想いで開催に至ったのか、話を聞いた。

20年以上にわたり活動を続ける理科教育活動

『バイオアドベンチャー』は、東京リサーチパークだけでも、累計で約4,800人が参加しており、2016年には科学技術分野での文部科学大臣表彰も受けるなど、高い評価を得ている活動だ。プログラムは、『微生物』『遺伝子』『免疫』のそれぞれをテーマにした、協和キリンの事業や強みを活かした内容で構成されている。

微生物をテーマに講義と実験で進行

「今回は、小学4〜6年生を対象にした講座だったので、一番親しみやすそうな『微生物』をテーマにしたプログラムを選びました。私自身も以前は自然界の微生物が生み出す物質の医薬応用を目指した研究に従事していたことがあります。例えば、青カビが生産する抗生物質ペニシリンが感染症治療に使われるなど、微生物が作り出す物質が医薬品として利用されている例は多いのです。」

今回の体験講座のタイトルは「微生物ははたらきもの」。プログラムは、講義に実験を交えながら進行された。

「小学生にとって、微生物について学ぶ機会は初めてのことも多いと思います。そのため、講義では微生物がどんな生き物であるのか、どのような種類が存在するのか、という初歩的な内容から始め、微生物がどんなところにいるのか、どんなものを作り出すのか、そして、タイトルにある、どのような働きをするのかを解説しました。子どもたちには積極的に発言してもらったり、クイズ形式を取り入れたりして、楽しみながら学べるように工夫し、講義の合間に3つの実験を行いました」

実験は、「酵母のブクブク観察」「子どもたちに事前に用意してもらったシャーレの観察」「発酵食品の中にいる微生物の観察」の3つを実施。最新の顕微鏡を使用して、実際の微生物の様子をモニターに映し出しながら進められた。

「最初に行った実験は『酵母のブクブク観察』でした。ここではパンが膨らむ仕組みを学んでもらいました。クイズ形式で、お酒、パン、醤油、味噌、お茶などが、発酵食品かそうでないかを考える問題も出題。その後『発酵食品の中にいる微生物の観察』では、乳酸飲料やチーズの中にいる微生物を実際に顕微鏡を用いて観察してもらうことで、子どもたちの理解をさらに深めてもらいました。協和キリンは、発酵事業から生まれた会社であり、その事業基盤が授業に盛り込まれています。」

発見を通じて子どもたちの学びのきっかけに

次に行った実験「子どもたちが事前に用意してくれたシャーレの観察」では、微生物を培養するための培地を入れたシャーレ(上の写真でお子さんが持っている袋の中にあるもの)が事前に配布されていた。

「子どもたちには、微生物がいそうなものを培地の上に載せて、封筒に入れて持参してもらうようお願いしていました。当日まで封筒の中身は見てはいけないことにし、授業中に封筒を開けてもらいます。通常は小さくて見えない微生物が繁殖すると目で見て観察できることを体験してもらいました。次に、カビやバクテリアのように大まかな分類を示し、子どもたちに自分たちが持参した微生物がどの分類に当てはまるかを考えてもらいました」

自分の指、コンピューターのマウス、犬のおもちゃ、ドアノブ、唾液など、子どもたちが、微生物の存在を疑って培養したサンプルは、一般的に「汚れ」をイメージさせるものが多い。

運営スタッフは社内公募により選出

協和キリンの従業員が講師として活動することで、子どもたちが製薬会社の研究員の仕事を身近に感じることができることも大きな利点である。

「バイオアドベンチャーが、未来の科学者や製薬会社の研究員の誕生のきっかけになれば嬉しいです。実際、弊社には町田市で開催したバイオアドベンチャーに参加したことがあるという従業員もいます」

バイオアドベンチャーの運営に当たるボランティアスタッフは、社内公募によって、幅広い部署から集まった従業員たちだ。子どもたちの実験をアシストするスタッフや受付を担当するスタッフ、実験用具を準備するスタッフなど、総勢約20名が参加した。岩本も自ら応募して選ばれたひとりである。今後の運営について岩本はこのように語る。

「私はバイオアドベンチャーのボランティアスタッフとして長年参加してきましたが、子どもたち向けの理科授業を開くというのは、ノウハウや経験、スタッフのチームワークが必要で、活動を継続することが大事です。現在新たなプログラムの創出に取り組んでいますし、今後新たなスタッフが担当する際にもスムーズに進行できるよう、技術や知識を引き継いでいきたいと思います。」

学びや発見を通じて地域社会へ貢献し続ける

参加した子どもたちには、実験を行う際に着用した白衣や、顔写真を使ってスタッフが作成した博士認定書もプレゼントされた。

「講座終了後は、ほとんどの子どもたちから、『おもしろかった』『微生物を顕微鏡で見られて楽しかった』『微生物についてもっと知りたい』など、好意的な感想をいただきました。私自身も、子どもたちが楽しそうに実験に取り組んでいる姿を見て、刺激を受けましたし、元気をもらいました。観覧していた保護者の方たちも、お子様と一緒に顕微鏡を覗くなど、興味を示されていたことも印象的でした。その一方で『もっと顕微鏡で観察したかった』という意見もあり、今後の改善点にしたいと思います。」

後日いただいた保護者の方からの感想には、講座が始まる前と終了後のお子様のご自宅での様子について書かれていた。

“どんなものを調べたいかを自宅で真剣に考えていて、ゲーム機かスマホのどちらにしようか悩んだ末に、ゲーム機を選択。シャーレを直接付けたのですが、慎重に取り組んでいました。シャーレの周りを包装するのも子どもは初めての作業だったので、親子一緒に取り組むことができました。”

“菌が増えるということがイメージできていなくて、何をくっつけようかといろいろと考え込んでいました。菌を採取して封筒に入れて保管している間もどうなっているのか気になっている様子でした。当日シャーレを開けて菌が目でしっかり見えることに驚いていましたし、納豆菌といった身近なものとつながったせいか、家に帰っても納豆菌~って盛り上がっていました。(笑)”

バイオアドベンチャーは、次世代の育成のみならず、地域社会への貢献としても大きな役割を果たしている。

「弊社には、製薬会社としての得意領域を活かし、地域に貢献していきたいという想いがあります。バイオアドベンチャーは、その想いにフィットする活動だと感じています。かつて富士事業場では事業場内での開催が主流でしたが、どうしても参加者の大半が近隣の子どもたちに限られていました。今回のように、長泉町教育委員会生涯学習課と連携することで、より多くの子どもたちに学びの機会を提供できると感じています。今後も自治体との連携を深めて、この活動を継続していきたいと思っています」

協和キリンの「バイオアドベンチャー」は、子どもたちの理科離れを防ぎ、教育の機会を拡大するという、単なるイベント以上の意義を持つ取り組みとして、地域の子どもたちやその家族に寄り添ってきた。次世代の科学者の育成と地域への貢献の両方を目指すこの活動は、今後も進化を遂げながら続いていく。

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