People & Culture【解説記事】SDGs3「すべての人に健康と福祉を」とは?ターゲットと取り組み事例を紹介
体調が悪いとき、あなたならどうするだろうか。日本で生活をしていれば、近くの病院を受診することが当たり前にできるだろう。
しかし世界に目を向けると、このように恵まれた環境はあまりに少ないのだ。世界共通の目標として、2015年にSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )が発表されたが、その中のひとつにも健康に関わる項目がある。
それが目標3の「すべての人に健康と福祉を」である。今回はこの目標について詳しく解説し、具体的な取り組みについても説明していく。
SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」とは
近年、健康を意識する人は増えており、医療や福祉の充実には高い関心が寄せられている。
SDGsの掲げる17の持続可能な開発目標にも、健康と福祉については明記されており、世界的にも重要とされているのだ。
それでは、どのような内容が目標として考えられているのか紹介していく。
目標3のターゲット
「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」これがSDGsで提唱された目標である。
つまり、どんな人でも差別されることなく、最高水準の健康と適切な保健医療サービスを確保できるようにすることが目的だ。
取り組みをより具体的に行えるよう、13のターゲットが定められている。
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3-1 | 2030年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生10万人当たり70人未満に削減する。 |
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3-2 | 全ての国が新生児死亡率を少なくとも出生1,000件中12件以下まで減らし、5歳以下死亡率を少なくとも出生1,000件中25件以下まで減らすことを目指し、 2030年までに、新生児及び5歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。 |
3-3 | 2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する。 |
3-4 | 2030年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する。 |
3-5 | 薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する。 |
3-6 | 2020年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる。 |
3-7 | 2030年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスを全ての人々が利用できるようにする。 |
3-8 | 全ての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。 |
3-9 | 2030年までに、有害化学物質、並びに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。 |
3-a | 全ての国々において、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を適宜強化する。 |
3-b | 主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援する。また、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)及び公衆の健康に関するドーハ宣言に従い、安価な必須医薬品及びワクチンへのアクセスを提供する。同宣言は公衆衛生保護及び、特に全ての人々への医薬品のアクセス提供にかかわる「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」の柔軟性に関する規定を最大限に行使する開発途上国の権利を確約したものである。 |
3-c | 開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において保健財政及び保健人材の採用、能力開発・訓練及び定着を大幅に拡大させる。 |
3-d | 全ての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する。 |
出典:「SDGグローバル指標(SDG Indicators)」(外務省)
このように、SDGsの健康と福祉においては、貿易などでも支援しながら国の管理力や人材を育て、健康を阻害する疾病などのリスクや死亡率の改善を目指しているのだ。
目標3が生まれた世界の背景
なぜSDGsには、健康にかかわる項目として目標3が誕生したのだろうか。そこには、適切な治療を受けられない多くの子どもの存在や、感染症の蔓延といった世界的な課題が背景にある。ここからは、課題の現状を詳しく解説する。
適切な治療を受けられず亡くなる子どもは500万人
UN IGME(国連の子どもの死亡率推計に関する機関間グループ)によると、5歳を迎えるまでに亡くなった子どもの数は、2021年の1年間で500万人に上ると推計されている。その多くは、サハラ以南のアフリカや南アジアの途上国だ。
出典:「2021年の5歳未満児死亡数、500万人 死亡数減少も、多くの国でSDGs達成困難か」(unicef)
途上国において子どもの死亡リスクが高いのは、患者数に対して、医療従事者、薬剤、施設、情報が質・量ともに圧倒的に不足しているためだ。また、患者の多くは治療費の支払い能力がなく、公的支出も十分でないために、医療資源不足を招いている現状にある。
さらに、患者の生活圏でインフラの整備や医療資源の整備が十分に行われていないことから、医療施設までのアクセス面の困難も伴う。
このように、医療資源の不足や整備が十分でないことなどにより、子どもを含め多くの人が途上国では適切な治療を受けられずにいるのだ。
感染症の蔓延
三大感染症として挙げられるのが、HIV、マラリア、結核だ。
HIVは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染によって免疫不全が引き起こされる感染症で、サハラ以南のアフリカなど一部の地域を中心に流行が見られる。
マラリアは蚊を媒体とした主に亜熱帯地域で見られる感染症で、結核は結核菌によって発症するアジアやアフリカ地域で多く見られる感染症だ。
さらに、近年では新型コロナウイルスの感染も世界中で流行した。2023年1月時点での全世界の累積感染者数は約7.5億人、累積死亡者数は約680万人となっている。
このような感染症の世界的な流行や蔓延も、目標3が誕生した背景となっている。
出典:「新型コロナウイルス感染症に係る世界の状況報告」(厚生労働省検疫所)
日本における医療の問題
目標3の背景として世界的な課題を取り上げたが、日本国内においても医療における課題がある。
医療の地域格差
ひとつは、医療の地域格差だ。現在、医師の絶対数が減少していることに加え、医師の都市部への集中が起こっている。
地域医療は地域住民にとって必要なものであるにも関わらず、特に過疎地域において医師の減少が顕著だ。地域によって偏りがでることで、必要なときに適正な医療が受けられない問題が発生している。
医療費・介護費の増大
日本では医療保険によって自己負担が軽減されているが、2022年からは団塊世代が75歳以上の後期高齢者へと突入する。
1人あたりの医療費や介護費は75歳以上から急増するため、人口の多い団塊世代の後期高齢化は大きな課題だ。増加する全体の医療費と介護費に対して、どのように持続可能な社会保障を構築していくかが大きな課題となっている。
目標3の取り組み事例:日本政府
SDGsの目標3については、日本政府も取り組みを行っている。ここでは、日本政府の取り組み事例を紹介したい。
「平和と健康のための基本方針」の策定
目標3に関連して、2015年9月、日本政府は健康・医療戦略推進本部にて、「平和と健康のための基本方針」を策定した。当方針は、人の安全保障を基本理念としたものだ。
中心的なテーマとして、公衆衛生や災害などの強靭な国際的体制の構築、UHC達成に向けた取り組みを据えている。
UHCとは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage)の頭文字を取ったもので、すべての人が支払い可能な範囲で、必要なときに基本的保険サービス(予防、治療、リハビリ等)を受けられる状態のこと。
さらに、「平和と健康のための基本方針」に基づき、取り組みに貢献するため、日本政府は2017年12月に「UHCフォーラム2017」を開催した。フォーラムでは、日本の国際的貢献を推進すべく、グローバルファンドやWHOに対して約29億ドルを拠出する方針が表明されている。
UHCに関しては、日本だけでなく、2030年までに目標を達成するべく世界的な機運が高まっている。日本政府も国際的な達成を実現するために、支援策を示すなど、国際社会との協力を行っている。
母子健康手帳の普及活動
日本は、乳児の死亡率が低い国のひとつだ。母子の健康をサポートしているもののひとつは、母子健康手帳である。母子健康手帳は、妊娠中から出産までの母親と子どもの健康状態、出産後の子どもの健康や成長を記録するために利用されている冊子だ。
子どもの健康状態や予防接種の状況、成長のようすなどがわかるため、何かあったときの素早い対策に貢献するものとして期待されている。
日本国内で利用されている母子健康手帳を世界でも普及しようと、日本は20年ほど前から、政府開発援助(ODA)を活用した取り組みを行ってきた。アジアやアフリカ諸国においても、母子健康手帳を普及させる国際協力を推進している。
目標3の取り組み事例:企業
SDGsの目標3について、日本政府の取り組み事例を取り上げたが、取り組みを行っているのは政府だけではない。目標3に関連して、企業が行っている取り組み事例をいくつか紹介する。
株式会社ヤクルト本社
株式会社ヤクルト本社では、健康で楽しい生活を応援するために「出前授業」や「健康教室」の実施を行っている。
「出前授業」は、小学生など学生向けにヤクルト社員が行っているものだ。小学校などで、模型を利用して腸の大切さや生活習慣の授業を開催している。
一方の「健康教室」は、公共施設などで、ヤクルトの販売会社の社員が大人向けに行っている教室だ。腸やプロバイオティクスなど、幅広いテーマで健康に関する啓発活動を実施している。
ミズノ株式会社
ミズノ株式会社では、目標3に関連して、ライフ&ヘルス事業を実施している。当事業は、ミズノ株式会社が、スポーツ分野で培ってきた強みを、心身の健康増進、地域社会の健全な発展に活かす事業だ。具体的に、以下のような取り組みを行っている。
- 健康経営に貢献するプログラムの提案
- 健康促進や維持に役立つ歩き方プログラムの提案
- 年齢による機能の低下をカバーする製品の開発
- 運動不足解消のための「ながら運動100」の推進
- 日常空間での手軽な運動のサポート
ほかにも、スポーツと関連付けて、生涯スポーツへの貢献、スポーツを楽しむ場の提供、ベトナムでの運動プログラム普及促進、などにも取り組んでいる。
アート引越センター(アートコーポレーション株式会社)
アートコーポレーション株式会社では、目標3に関連する取り組みのひとつとして、命の尊さを訴えるアート展の協力を行っている。
同社が協力するアート展は、危険運転や犯罪などで犠牲になった人の等身大パネルを展示するものだ。
全国各地で行われているもので、アートコーポレーション株式会社は輸送協力をとおして、命が守られる社会の実現を目指している。
協和キリン株式会社
協和キリン株式会社は、日本を代表するライフサイエンス企業として、治療法が見つかっていない疾患の新薬開発といったアンメット・メディカルニーズを満たす医薬品の提供を目指しており、SDGs3に関連している。
協和キリン株式会社では「協和キリングループ健康宣言」のもと、従業員やその周囲の健康リスクを低減させて豊かな人生を実現することを目的に、健康経営を推進している。
ウォーキングキャンペーンでは、参加率や平均歩数といった従業員が取り組みやすい行動を目標にすることで、5年前まで10%台だった参加率が2022年秋には従業員の 80%を超える約3,500人が参加した。
禁煙の取り組みでは、2017年に20%以上あった喫煙率が5%以下までに減少している。ほか、休養、メンタルヘルス、食事、重症化予防、女性の健康の観点でも施策を行っている。
こうした取り組みの結果、協和キリンは「健康経営銘柄2023」に2年連続で選定、「健康経営優良法人(ホワイト500)」に7年連続で認定されている。
目標3の達成に向けて個人ができること
目標達成のために取り組むことができるのは、大きな組織や企業だけではない。個人でもできることはあるため、ひとりひとりが意識を持って行動することで世界にも貢献できるのだ。
寄付や募金をする
代表的な取り組みには寄付や募金がある。医療の充足のためには、人材だけではなく多くの資金が必要だろう。
支援を必要としている国や地域は多数あるものの、資金不足で取り組みが行き届いていないのが現状である。
支援団体などへの寄付によって、途上国の医療支援や学習道具の購入費用などに充てられる。個人でも寄付をすることによって目標への取り組みとなるだろう。
支払方法は団体によって異なるが、現在ではWebから簡単に手続き可能なケースがほとんどである。
<寄付による支援例>
- 2円:ビタミンAカプセル1錠
- 70円:ビタミンやミネラルの入った微量栄養素パウダー30袋
- 147円:経口ポリオワクチン10回分
- 553円:使い捨て注射器100本
- 1526円:栄養不良を助ける栄養治療食50包 など
寄附は、少額からでも可能だ。所得に関係なく、誰でも無理のない範囲で価値のある取り組みへ手助けができるだろう。
ボランティア活動をする
人材不足を補うため、ボランティアに参加することも個人で取り組める活動だ。活動内容は、海外の途上国などへ赴き、現地ボランティアとして参加する方法がある。
しかし、海外での活動は時間と労力が必要になるため、今すぐに始めることは難しい人が多い。
ならば、寄付や募金活動のPRスタッフなどが、日本国内でもできるため比較的取り組みやすい活動だろう。
さらに、SDGsについてSNSなどを使って周りに発信することも、個人でできる取り組みのひとつである。
そのため、まずは自身がSDGsについて内容を理解して、広い視野を持って物事を考えることが大切だ。
まとめ
今回はSDGs3の目標である「すべての人に健康と福祉を」と、その取り組みについて解説した。
この目標は、どのような人でも健康に過ごせる世界を目指しており、そのための具体的な取り組みについても課題を提起している。
日本の国内企業も世界の人々に貢献できるよう活動しているが、個人でも寄付などできることは多くある。SDGsを知り、ひとりひとりが支え合う気持ちや意識を持つことでも目標の達成が近づくだろう。