People & Culture 【解説記事】女性に立ちはだかる「ガラスの天井」とは?日本の現状と解決策
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )の達成状況について関心を寄せていく中で、「ガラスの天井」という言葉を耳にしたことはないだろうか。女性の社会進出における障壁を揶揄した言葉である。
ガラスの天井は、SDGsを達成するためにも取り除いていくべきものだ。今回は、ガラスの天井について各国における現状や日本での実態、企業に求められる取り組みを解説していく。
女性の進出を阻む見えない「ガラスの天井」
ガラスの天井とは、ガラスのようにその先が見えているものの、何らかの障壁によってその先に行けないことを意味する。1980年代に見られるようになった言葉で、1991年にはアメリカ連邦政府労働省も公的に使用するようになった。
女性のキャリアアップを阻む障壁を意味する
ガラスの天井は、「見えない障壁」を意味する言葉で、十分な素質や実績をもつ人材が性別や人種などの要因により、昇進を阻まれてしまう状態のことを指す。特に、女性のキャリアアップでの障壁を揶揄する言葉として使われることが多い。
例えば、女性の企業内における上級管理職への昇進や政治進出に立ちはだかる障壁という意味でよく使われる。
各国の「ガラスの天井指数」ランキング
イギリスのエコノミスト誌は、毎年3月8日の国際女性デーに合わせて、ガラスの天井指数を発表している。同誌のガラスの天井指数はOECD加盟の先進国を中心に、次の10項目をスコア化しランキング化したものだ。
ガラスの天井指数の項目
- 高等教育進学率
- 労働参加率
- 賃金格差
- 平均賃金に占める子育て費用の割合
- 母親の産休・育休時の所得保障
- 父親の産休・育休時の所得保障
- ビジネススクール受験のための試験(GMAT)の女性の割合
- 管理職女性割合
- 企業役員女性割合
- 国会議員女性割合
2021年のガラスの天井指数において女性の働きやすさのスコアが高かったのは、スウェーデン(1位)、アイスランド(2位)、フィンランド(3位)だ。日本のランキングは28位で、対象の29ヶ国のうち下位のランクとなった。
ランキングの対象であるOECD各国の平均と比べると、母親の産休・育休時の所得保障と父親の産休・育休時の所得保障のスコアは高い。一方、賃金格差、管理職女性割合、企業役員女性割合、国会議員女性割合は低スコアとなった。
日本における「ガラスの天井」の実態
各国のガラスの天井を図る指数としてイギリスのエコノミスト誌発表のものを紹介したが、男女格差を数値化した指標はほかにもある。代表的なものが、世界経済フォーラム(WEF)によるジェンダーギャップ指数だ。
ジェンダーギャップ指数は、経済、教育、健康、政治の4つの分野のデータをもとに数値化されたものである。2022年に公表されたデータによると、日本の値は0.650で146ヶ国中116位であった。ちなみに1位は0.908でアイスランドである。
日本の各分野のスコアは、以下のとおりだ。
分野 | スコア |
---|---|
経済 | 0.564 |
政治 | 0.061 |
教育 | 1.000 |
健康 | 0.973 |
ここでは、特にスコアの低い経済分野と政治分野におけるガラスの天井の実態を紹介する。
【経済】女性の管理職割合は9.4%
日本の女性管理職の割合は年々増加しつつある。帝国データバンクの調査によると、2022年の女性管理職の割合は過去最高を更新し平均9.4%にまで上った。
しかし、諸外国と比べると日本の女性管理職の割合は依然低い。中には女性管理職が半数近くを占めるような国もあるが、日本はまだ1割にも満たない状況だ。
諸外国と比べたときの日本の女性管理職の少なさを受けて、日本政府は2020年代に早期に女性管理職の割合を30%程度にすると目標を掲げている。企業も取り組みを進めてはいるものの、政府の目標である女性管理職30%超の企業は1割弱だ。
企業側は、ポストに最適な経験や判断力などを有する人材がいないこと、女性側が希望しないこと、出産や育児などもあり在籍年数が不足していること、などを理由に挙げている。
出典:女性登用に対する企業の意識調査(2022 年)|帝国データバンク
【政治】女性の国会議員割合は9.7%
日本の国会議員の女性の割合は上昇してきているものの2022年時点で9.7%と、諸外国に比べると極めて低い水準だ。日本以外では、女性議員の割合が3割~4割を超えている国もある。
日本で女性議員の割合が低いのは国会議員だけではない。都道府県議会、市区議会、町村議会、いずれも女性議員は10%前後の低い割合となっている。
日本における議員の女性割合が低い理由のひとつが、「政治は男性が行うもの」という固定観念だ。また、女性が家庭生活と両立できるような環境が整備されていないことなども指摘されている。
出典:1-3図 諸外国の国会議員に占める女性の割合の推移|男女共同参画局
「ガラスの天井」を取り除くために企業がすべきこと
日本におけるガラスの天井は、経済分野や政治分野で顕著なことがわかる。経済分野での改善を図るには企業各々の努力も欠かせない。企業ができる取り組みには何があるか、ここでは3つ取り上げる。
人材が育つ環境を整える
女性管理職が増えない理由として、家庭生活との両立による勤務の制限によってキャリア形成が阻害されている人材が少なくないことが挙げられる。
企業においては、出産や育児などがあってもキャリアアップできる環境の構築が進んでいるが、女性のキャリア形成を促すにはこれだけでは不十分だといえる。これは、女性のキャリア阻害の多くが共働き家庭における家事負担の多さに起因しているからだ。
こうした問題を解決するには、「育児や家事の主体は女性である」という風潮を変える必要がある。
また、会社で働く多くの女性がキャリアアップを実現できるようにするためには、ロール モデルの存在も重要になってくるだろう。子育てをしながら働く女性管理職の存在があれば、ほかの女性社員も将来をイメージしやすくなる。
まずは、ロールモデルになるような人材が自然と育つように、女性が管理職を目指せる環境の整備が必要だ。
産休や育休制度への理解をうながす
企業の産休や育休制度の整備は義務付けられており、令和3年度、女性の育児休業取得率は85.1%と高い水準で推移している。男性の取得率は上昇傾向にあるものの、13.97%と女性と比べると低い。
社会全体で未だ「育児は女性の仕事」という風潮は強く、男性の育休取得に対する企業の理解がないケースも多い。出産や育児による女性のキャリアロスを小さくするには、女性だけでなく男性も育休を取りやすい仕組みを整える必要がある。
また、導入後の利用状況を把握しておくことも重要だ。制度があっても、ほとんど利用されていない場合は、制度に欠陥がある場合も考えられる。制度の取得率が低ければ、都度見直して行くことも必要になるだろう。
また、社員間に理解が広まっていないために、産休や育休の制度を利用できない可能性もあるだろう。制度の見直しはもちろん、社内全体に産休や育休制度の理解を広めていくことも大切だ。
管理職や経営層の意識を変える
女性管理職が自然に生まれる環境を作るには、経営層や管理職の意識改革も欠かせない。職場にはアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が存在する。
例えば、「子育て中の女性は本格的な職場復帰よりも負担の少ない補助的な業務の方が良いだろう」という意識だ。このようなアンコンシャスバイアスは、本人の意思と関係なく子育て中の女性のキャリアアップを妨げるマミートラックにもつながる。
マミートラックについては、以下の記事で詳細を解説している。
社内理解として、女性も男性も含めてアンコンシャスバイアスについての理解を促し、改善していくことが必要だ。
まとめ
ガラスの天井の解消はSDGsを達成するための重要なキーのひとつである。とりわけ日本は、企業の女性管理職や政界での議員の割合においてガラスの天井が厚い。
ガラスの天井をなくしていくには、政府の取り組みはもちろん、企業の積極的な取り組みも求められる。私たち一人ひとりにおいても、ガラスの天井の存在を把握し、無意識の偏見を取り除いていくことが重要だ。