社会との共有価値 【解説記事】干ばつの原因は地球温暖化?世界各国と日本への影響と対策
「食品高騰の原因は干ばつだ」と、聞いたことのある人もいるのではないだろうか。干ばつは、穀物の生産に影響を及ぼす。その結果、野菜や小麦粉などの食品価格の高騰につながり、私たちの生活を圧迫するのだ。
本記事では、干ばつの原因や、干ばつが世界各国へ与える影響と対策について解説する。
干ばつの原因
干ばつは、数ヶ月~数年にわたって降水量が減少するなどして、水が不足する状態を指す。現在、多くの地域で水不足が深刻化しており、十分な水を得られない危機的状況に陥っている。
干ばつの原因として、以下が挙げられる。
- 人口増加
- 地球温暖化による気候変動
国際連合の発表によると、世界の総人口は2050年に約97億3,000万人になると予想されている。人口増加は、水使用量の増加の原因だ。
UNESCO(国連教育科学文化機関)によると、世界の水使用量は1950年から1995年の間で約2.74倍となった。中でも、生活用水の使用量は6.76倍を記録している。
出典:「World Water Resources at the Beginning of the 21st Century (2003)」(UNESCO)
また、地球温暖化による降水量の変動は、水資源として利用できる水の量に大きく影響を与える。地球温暖化が進行する昨今、国家に大きな損害を与えるレベルの洪水や干ばつが世界各地で多発している。
干ばつが進むとどうなる?環境や社会に与える影響
干ばつは、環境や社会に多大な影響を与える。ここでは以下の3つを見ていこう。
- 自然災害の発生
- 農作物の生育不良
- 貧困や飢饉の発生
自然災害の発生
干ばつは、森林火災を引き起こす原因となる。
干ばつが進むと、土に含まれる水分が蒸発し大地が乾燥する。乾燥した大地では、落ち葉がこすれあうだけでも火が起こることがある。そこから別の落ち葉や木々に燃え移ることで、大規模な山火事を引き起こすのだ。
アメリカ西部では、平均気温の上昇によって1980年代半ばから森林火災が急増し、1970年代と比べて焼失面積が約6.7倍以上になったとされている。またNASA(アメリカ航空宇宙局)の統計では、世界で年間約50万haの森林が消失された年もあったとされる。
出典:「平成22年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」(環境省)
農作物の生育不良
干ばつは、農作物の生育不良の原因にもなる。
生育不良で収穫量が減少すると、野菜や小麦などの価格が高騰し、私たちの生活にも影響を及ぼす。
これまで、アメリカやロシア、オーストラリアをはじめ穀物の主要生産国を中心に、世界各地で干ばつによる穀物への被害が報告されている。農研機構によると、その被害額は過去27年間(1983年~2009年)で、約1,660億ドルに上ると算出されている。
出典:「(研究成果) 干ばつによる世界の穀物生産被害をマップ化」(農研機構)
また、2006年~2007年の2年に渡るオーストラリア大干ばつは、小麦の不作を招き、2008年の小麦価格高騰をもたらした。その結果、日本でも小麦粉は1kgあたり40円程度値上がりし、うどん1杯50円程度値上げしたうどん店もあったとのことだ。
干ばつによる農作物の生育不良は、私たちの日常生活にも大きな影響を与えている。
貧困や飢饉の発生
干ばつは、途上国の貧困や飢餓の原因にもなり得る。
干ばつにより、食料となる作物が育たず、餌や水が十分に得られないと家畜を失ってしまう。その結果、人間も食べ物を手に入れにくくなり飢餓に陥って、命を落としてしまうわけだ。
ソマリアは、現在も干ばつによる飢餓に苦しんでいる。5年間連続で雨季に雨が降らず、合計650万人が深刻な食料不安に直面している現状だ。 そのうち、合計184万人は5歳未満の子どもたちで、47万3000人は重度の栄養不良に陥っている。
出典:「ソマリア緊急支援」(国連WFP)
日本でも干ばつは起きている。世界各国の現状
干ばつは途上国に限った話ではない。ここでは、以下3つの国で起こっている干ばつの現状について解説する。
- アメリカ
- アフリカ
- 日本
アメリカ
アメリカのカリフォルニア州では干ばつが常態化している。2021年7月には「干ばつ緊急事態宣言」を発表し、全住民に水の使用量の15%を節水するよう求めている。
また、「米国干ばつモニター」では、2021年10月時点で「類のない干ばつ」(最も深刻なレベル)とされる地域が33.4%、「極度の干ばつ」(2番目に深刻なレベル)が41.5%となっており、被害状況は悪化している現状だ。
出典:「米カリフォルニア州知事、干ばつによる非常事態宣言の対象を州全域に拡大」(JETRO)
さらに、2023年も4年連続で干ばつの被害が発生すると予測されている。今後も継続的な対策が求められるだろう。
アフリカ
アフリカの中でも、干ばつが深刻なのは以下の地域だ。
- エチオピア
- エリトリア
- ジブチ
- ソマリア
- ケニア
アフリカ大陸東部に位置するこれらの地域は、インド洋と紅海に「角」のように突き出しているため「アフリカの角(つの)」と呼ばれている。
アフリカの角は、気候的に干ばつが起きやすい地域とされている。実際に、干ばつが原因で約200万人の子どもたちが貧困や飢餓に苦しみ、国内避難民になっている。
ソマリアにおいては、内戦による治安の悪化も影響し、難民・避難民が増大している。
出典:「干ばつに苦しむ「アフリカの角」を救え!」(外務省)
日本
日本では、2021年に北海道で「100年に1度」ともいわれる干ばつが発生した。
この大規模な干ばつにより、少雨と高温が続き農作物や牧草が枯れ、農業全体に大きな被害を与えた。
とくに影響を受けたのはタマネギで、例年に比べ生産量が30%減少したという。タマネギの成長期である6月中旬から7月上旬にかけて、降水量が少なかったことが原因だ。出荷できる物も小ぶりだったという。
タマネギ以外にも、テンサイやジャガイモ、ニンジンなど、多くの農作物が不作となった。
世界で実施されている干ばつの解決策
世界で実施されている干ばつの解決策は以下のとおりだ。
- 灌漑(かんがい)農業の実施
- 干ばつの監視・早期警戒システムの実施
それぞれ、詳しく見ていこう。
灌漑(かんがい)農業の実施
灌漑(かんがい)農業とは、人力で水を制御しながら作物を育てる農業スタイルを指す。雨水だけに頼る「天水農業」とは違い、水不足のときは用水路から水を補給し、過剰な水は排出することで、干ばつを防ぎ効率良く作物を生産できるわけだ。
日本では灌漑農業が一般的だが、世界的に見ると雨水だけに頼る「天水農業」を行っているところがほとんどだ。
深刻な干ばつが起こっているアメリカのカリフォルニア州では、広大な耕地の灌漑化を行った。州のほとんどが干ばつに悩まされる乾燥地帯だが、州北部の山岳地帯では年間平均で2,000mm以上の降水量がある。
山岳地帯の雨水を巨大なダム群で貯水し、全長700kmを超える水路で導水したのだ。作物が育ちやすい温暖な気候も相まって、カリフォルニア州の農産物販売額は全米1位となった。
干ばつの監視・早期警戒システムの実施
ヨーロッパの欧州委員会では、欧州干ばつ観測所(EDO)という、干ばつを監視するための組織が設置されている。深刻な干ばつが発生した際は報告書を作成・公表することで、将来のリスクを回避する目的がある。
2022年8月のEDOの報告書によると、欧州は過去500年で最悪の干ばつに直面しているとされている。47%の土地で、土壌の水分不足が警告状態、17%の土地で作物が影響を受ける警戒状態にあるとのことだ。土地が干上がって船舶輸送や発電にも影響が生じていることが報告されており、甚大な被害が及んでいることがわかる。
出典:「Droughts in Europe in August 2022」(European Commission)
干ばつの原因となる水不足について詳しく知りたい人は、以下の記事も一読してほしい。
まとめ
干ばつの原因は、人口増加による水使用量の増加や、地球温暖化による気候変動が挙げられる。
現在は、干ばつによって多くの国が深刻な被害を受けており、対策が喫緊の課題だ。特に、ソマリアでは約650万人の人々が食糧不安に陥っている。
また、干ばつは食物の高騰など、私たちの生活にも打撃を与えている。世界中が協力して、干ばつを解決するための対策を講じるべきだろう。