社会との共有価値 【解説記事】火力発電のメリット・デメリットとは?抱える課題と解決策を紹介

火力発電とは、燃料を燃焼したときに生じるエネルギーを電力へ変換させる方法のこと。燃料は石油や石炭、天然ガスなどが活用されているイメージも多いが、一部の廃棄物も利用されている。

現時点の日本は、電気の約7割は火力発電に頼っている状況だ。火力発電は、多くのメリットもある一方で、環境やエネルギー利用に関して大きなデメリットを抱えている。

そこで今回は、火力発電に焦点を当てて、基本的な知識とメリット、デメリットを詳しく紹介する。

発電電力量の7割を占める「火力発電」

冒頭でも説明したが、日本における電力供給は、多くが火力発電に頼っているのが現状だ。2021年時点で、火力発電は全体の71.7%を占めている。

(参考:環境エネルギー政策研究所「2021年の自然エネルギー電力の割合別ウィンドウで開きます」)

前年が74.9%であったこと、太陽光など自然エネルギー発電が普及しつつあることを踏まえると、徐々に減少傾向が見られるが、当面の間は主力から外れる可能性は低い。

火力発電の仕組みを説明する。まずはさまざまな燃料を燃やしてお湯を沸かし、蒸気を発生させる。その蒸気をタービン(羽根車)に当てて、回転運動を生み出すことで、電力を作り出している。

この火力発電は、汽力発電、内燃発電、ガスタービン発電、コンバインドサイクル発電の4種類に分けられる。水蒸気を使用するか、燃焼によるガスや熱を使用するかの違いで、いずれもタービンを高速回転させることで発電するシステムだ。

水蒸気を使用する汽力発電は、蒸気を冷却する水が必要なため、海辺に建設されているケースが多い。内燃発電は離島など小規模な自治体で利用されることが多いなど、発電設備ごとに活躍の場は異なる。

火力発電のメリット

火力発電のメリットとして、ここでは4つの特徴を紹介する。

安定的に供給できる

火力発電の大きなメリットは、燃料さえあれば安定的に供給できることだ。自然エネルギーを活用した発電の普及に取り組む国や地域は少なくない。環境負荷を軽減できる一方で、課題として供給の不安定があげられる。

たとえば、水力発電は水の流れを活用して水車および発電設備を回転させている。発電時は高いところから低いところへ水を大量に流す必要があり、降水量に左右されやすいのが特徴だ。

地域別に見ると毎年のように水不足の危機に瀕しているところもある。降水量も年間を通して安定しているとは言い切れず、水力発電の普及は現実的ではない。

また、自然エネルギーを活用する太陽光発電も、天候に左右されてしまう。効率的な発電を行うためには定期的な清掃で太陽光を取り入れやすくする必要もあり、維持費や設置する土地の問題も発生する。

一方、火力発電は降雨量や天候に左右されることはない。

エネルギー変換率が高い

火力発電は、消費する燃料に対して得られる電気量が多く、エネルギー変換率が高いことも特徴だ。水力発電に次いで2番目にエネルギー変換率が高い。

主な発電方法のエネルギー変換率は、下記のとおり。

  • 水力発電:80%
  • 火力発電:35~55%
  • 原子力発電:33%
  • 風力発電:25%
  • 太陽光発電:10%

(参考:中部電力「水力発電のしくみ 水力発電の特徴別ウィンドウで開きます」)

火力発電は最大で、エネルギー変換率55%まで上昇する。ガスタービンを使用した場合は35%、火力蒸気を利用した場合は、43%まで低くなるが、比較的数値が高いことに変わりはない。

前述のとおり水力発電は安定的な供給が困難であることを考慮すると、火力発電のほうが実用性は高いともいえる。

出力調整がしやすい

燃料の投入量を変更すれば、柔軟に出力を調整できる。たとえば気温の変化による急激なエアコン需要など、電気使用量が短期的に増加した場合、火力発電なら即座に対応できる。

水力発電や原子力発電も多少の出力調整はできるが、短時間で微調整するのは困難。電気需要が変化する真夏や真冬でも、安定的に必要な量を供給できるのは、燃料を使用する火力発電のほうが適している。

建設に必要な敷地面積が狭い

水力発電は、相当量の水を貯蔵したり流したりできる河川やダムが必要である。地熱発電も、効率良く機能させるためには火山の近くなど、設置場所に一定の制限が設けられてしまう。

一方、火力発電は複数種類の方式があり、小規模な設備でも電気供給ができる。比較的小さな土地でも、火力発電所は建設できるのが特徴だ。

火力発電が抱える課題と解決策

火力発電はエネルギー変換率や微調整できる機能など、実用性が非常に高い。一方で、避けられない課題もある。ここからは火力発電の主な課題と、解決への取り組みを紹介する。

二酸化炭素(CO2)の排出量が多い

燃料を使用し、水蒸気や燃焼エネルギーを活用する火力発電は、二酸化炭素(CO2)の排出量が多くなってしまう。

課題 解決方法
燃焼にともなう二酸化炭素の排出量 CCSやCCUSなど二酸化炭素の効率的な廃棄・活用

経済産業省の発表によると、日本は2018年時点で二酸化炭素排出量のうち、エネルギーを起源とするものの割合が85.4%におよんでいる。燃料別に見ると、下記のとおりだ。

(参考:経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギーの今を知る10の質問別ウィンドウで開きます」)

  • 天然ガス:23%
  • LPG:3%
  • 石炭:25%
  • 石油:35%

二酸化炭素排出量の軽減化は、世界的な課題となっている。日本が大幅に削減するためには、エネルギー起源ひいては発電にともなう二酸化炭素の排出量へ対策しなくてはならない。

火力発電以外の方法を模索する他、発生する二酸化炭素にCCSやCCUSの活用があげられる。

  • CCS:二酸化炭素を分離・回収し、地中などに溜める技術
  • CCUS:分離・回収した二酸化炭素を利用する技術

発電時に発生する二酸化炭素を分離・回収し、地中に埋めることで大気中の濃度を軽減できる。

更にCCUSによって資源として利用する選択肢もある。現時点でも、油田採掘時の圧力ガスの代替として二酸化炭素を利用する方法があるが、今後は更なる技術進歩でCCUS方面での期待も大きい。

化石燃料に限りがある

火力発電に使用されている化石燃料は有限である。石油や石炭、液化天然ガスなど、いずれも動植物の死骸が長い年月をかけて変成されたものであり、手軽に生産できる燃料ではない。

現在発見されている主な化石燃料が枯渇するまでの年数は、下記のとおりとされている。(2020年を起点とした場合)

  • 石油約:54年
  • 石炭:約139年
  • 液化天然ガス:約49年

火力発電を利用し続ける限り、化石燃料をいっさい使用しないという選択肢はない。考え得る解決策は、使用量を減らし枯渇するまでの期間を延ばすことだ。

たとえば現在の手法ではなく、新たに発電効率を向上させられる燃焼方法が確立されれば、使用量を減らしつつ供給量を維持できる。

現在、発見されていなかったり採掘されていなかったりする化石燃料への期待もあるが、有限には変わりはないため、発電効率の向上への取り組みは必要だ。

燃料の調達を輸入に頼っている

日本のエネルギー自給率は、2019年時点で12.1%である。化石燃料への依存度は84.8%におよんでおり、その多くが輸入に頼っている状況だ。

主力ともいえる火力発電には、天然ガスや石炭、石油などの燃料が欠かせない。ゆえに国際情勢の変化次第で、価格が高騰する不安がつきまとってしまう。たとえば戦争やパンデミックにより燃料供給量が不安定となった結果、電気料金が高騰している地域も少なくない。

料金の高騰を軽減させるためには、燃料調達先の分散化が欠かせない。一部の国や地域に依存せず、幅広い輸入先を確保することが必要だ。

同時に再生可能エネルギーの普及を推進し、長らく主力となっていた火力発電の割合を減らす施策も不可欠といえる。

まとめ

火力発電は国土が狭く四季の移り変わりが激しい(気候が安定しない)日本において、メリットの多い方法である。同時に燃料問題など解決すべき課題も多いため、今後は再生可能エネルギーの普及なども含む新たな発電方法も普及が期待される。

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