社会との共有価値 【解説記事】スマート農業の導入を阻むデメリットとは?解消に向けた取り組みを紹介

SDGsの目標2の達成に向けた取り組みのひとつとして注目されているスマート農業。導入することで少ない人員で効率良く農業を営むことができるといわれているものの、気になるのがデメリットではないだろうか。

本記事ではスマート農業のデメリットと課題を解決する取り組みについて解説する。

【課題】スマート農業のデメリット

農作業における省力化が可能となり、人手不足などの問題を解決し、農業技術の継承をスムーズにすることができるとされているスマート農業。

メリットばかりが強調されているなかで、実際にどのような効果があるのか、またデメリットはないのか気になっている方もいるのではないだろうか。

まずはスマート農業のこれまでの歩みを振り返りつつ、スマート農業が抱える課題についてみていこう。

スマート農業のこれまでの歩み

スマート農業の導入によって実際にどのような効果がもたらされているのだろうか。具体的な数値を挙げつつ解説する。

労働力不足の解消に関する実証結果

スマート農業の導入により、品目ごとの各作業の労働時間削減率は38~47%となることが明らかになっている。

主要な技術ごとの労働時間削減効果は、農薬散布ドローンだと平均91%、野菜自動収穫機は平均43%と報告された。

出典:労働力不足の解消に向けたスマート農業実証の結果についてpdfが開きます|農林水産技術会議

つまり、スマート農業の導入により人手不足の解消に大きな効果が期待できることが明らかになっている。

また、すべての実証地区においてスマート農機の操作などをOJT形式などで実習した。そうすることで、農業高校生や農業大学校生などがドローンの操作資格などを習得し、新規就農にもつながったことも報告されている。

水田作における実証結果

水田作におけるスマート農業導入の実証結果を大規模水田作、中山間水田作、輸出水田作に分けて紹介する。

  • 大規模水田作
    5ha(ヘクタール)以上の耕地面積で行われている大規模水田作では、ロボットトラクタ、自動水管理システム、直進キープ田植機、農薬散布ドローンなどのスマート農業技術を導入した。
    その結果、10a(アール)当たりの労働時間を慣行農法との比較で13%短縮、スマート農業技術を導入した作業のみでの比較では19%短縮できた。
    ドローンによる農薬散布については、エンジンの力で農薬を散布する「エンジンセット動噴」によって作業を代替できたことで、作業時間が89%短縮と大幅な削減が可能となっている。
    人件費においても、慣行農法と比較すると10a当たり13%減少するなどスマート農業導入のメリットは大きいといえる。
  • 中山間水田作
    林野率が高く、耕地率が低いなど地理的条件が悪く、生産条件が不利な地域で行われている中山間水田作では、ドローンによるセンシング(情報収集)の労働時間が追加されたものの、10a当たりの労働時間を12%短縮することができた。
    また、ロボットトラクタの導入についても作業時間の短縮効果が大きいことが明らかとなっている。操作に慣れれば、経験の浅い従業員でも速度を落とさずに作業が可能となったからだ。
    人件費においても、慣行農法と比較して10a当たり12%減少したことがわかっている。利益については減少が見られるが、これはスマート農機への投資費用が増加したことが原因であり、導入後においては増益が見込まれるだろう。
  • 輸出水田作
    輸出に対応可能な超低コスト米の生産を行う輸出水田作では、慣行農法と比較すると10a当たりの労働時間を4%短縮できた。スマート農業技術を導入した作業のみで比較すると10%の短縮となる。
    直進キープ田植機、ロボットトラクタ、汎用収量コンバインなどにより、特に繁忙期の労働時間を効果的に短縮できたことが報告されている。
    利益については、スマート農機の投資費用による減少が見られるものの、慣行区と比較すると、収穫量が10a当たり175kg増加した。

出典:農林水産技術会議「スマート農業実証プロジェクトによる水田作の実証成果(中間報告)pdfが開きます

水田作以外における実証結果

水田作以外では、以下の5つの営農類型で実証が行われた。

  • 畑作(大麦、小麦)
  • 露地野菜(ほうれん草、キャベツ、すいか、さといも)
  • 施設園芸(ピーマン)
  • 果樹(温州みかん)
  • 地域作物(茶)

労働時間については、スマート農業の導入により露地野菜(すいか)で41%の短縮がみられるなど、一定の効果が得られた地区が多い。

しかし、施設園芸(ピーマン)では労働時間が10a当たり7%増加するなど労働時間が増加した地区もある。これは増収にともない収穫時間が増加したことによるものだ。

収支については、施設園芸(ピーマン)で21%の増収がみられるものの、それ以外の地区ではスマート農機の導入費によって利益の減少がみられている。

出典:農林水産技術会議「スマート農業実証プロジェクトによる実証成果(中間報告)pdfが開きます

スマート農業のデメリットとこれからの課題

このように、スマート農業の実証プロジェクトにより効果が実感される反面、デメリットも見えてきている。スマート農業には大きく3つの課題がある。

  • 初期コストが高額である
    スマート農機の価格は高額なので、初期費用がかなりかかる。また、本体だけでなく付属品などを購入する必要があり、導入時は想定よりも出費がかさむケースも多い。
  • 通信環境が整備されていない
    一部の地域では、通信環境が整備されておらず、スマート農機の導入が難しい。スマート農機の導入には通信環境を整える必要がある。
  • オペレーターが不足している
    ドローンや自動給水システムなどのスマート農機を使いこなせるようになるためには、操作方法を学び熟練することが求められる。人材育成には時間がかかるので、オペレーター不足によりスマート農機を導入できないケースも多い。

スマート農業の課題を解決するふたつの取り組み

スマート農業の加速化に向けて、スマート農業をソフト面・ハード面の両面からさらに調査研究し、費用対効果などに関する情報を適切に伝えることが必要である。

また、導入コストを低減させることや技術習得の機会を増やすことなど包括的な施策への取り組みが課題の解決につながると考えられる。

現在、農林水産省のもとで行われているふたつの取り組みを紹介しよう。

スマート農業推進統合パッケージ

農林水産省が策定した「スマート農業推進総合パッケージ」では、実証プロジェクトにおける課題を踏まえ、さまざまな施策に総合的に取り組んでいる。

以下、パッケージの概要を紹介する。

スマート農業の実証、分析、普及

スマート農業実証プロジェクトの成果を作物別にコストとメリットに分けて分析し、情報を発信することでスマート農業技術の費用対効果を明瞭にする。

また、全国の普及指導センターがスマート農業に関する農業者からの問い合わせに対応できるよう取り組みを推進している。

ほかにも、普及指導員が中心となって行うスマート農業の導入に向けた戦略作りの支援が行われている。

新たな農業支援サービスの育成、普及

2020年に設立した「スマート農業新サービス創出」プラットフォームで実証プロジェクトの経営分析結果の情報やマッチングの機会を提供している。

また、農業支援サービスへの需要や利用状況について把握するための調査を実施。

さらに、農業支援サービスの育成に必要な農業用機械の導入や新規事業立ち上げ当初のビジネス確率を支援するなどして、農業支援サービスへの支援を強化している。

学習機会の提供

スマート農業技術を有する人材育成のため、農業大学生や農業高校生などが先端技術を体験できる現場実習などの機会をスマート農業実証プロジェクトと連携して提供する。

また、学生向けのスマート農業技術アイデアコンテストの実施を検討し、若者のスマート農業への関心を高めるための努力を行う。

海外への展開

施設園芸(スマート技術を含む)や「食のインフラ技術」の海外展開に向けた調査、研究開発を支援する。

国際議論への積極的な参加、専門家の派遣などによって、スマート農業の海外定款を推進する。また、セミナーなどの開催により、情報発信を強化する。

スマート農業支援サービス育成プログラム

農業を支援するサービスを営む者が対象の育成プログラムだ。ドローン操作の代行サービスやスマート農機のリース・シェアリングなど新サービスを提供する事業体を計画的に育成することを目的としている。

2025年度までに、農業支援サービスの利用希望者の80%以上が実際にサービスを利用できる状態を目指している。

まとめ

スマート農業には労働時間の削減効果が得られるなどのメリットがあるとはいえ、スマート農機導入のための初期費用がかかる、オペレーター不足などのデメリットもある。

開発途上の面があるものの、課題を解決するための取り組みも行われており、今後の活躍が期待される技術といえるだろう。

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