People & Culture育成体制を強化、バイオ医薬品技術者の不足に挑む

現在、医薬品市場の中心は、低分子医薬品からバイオ医薬品へと大きくシフトしています。2020年時点で世界の医療用医薬品の売上高に占めるバイオ薬の比率は約40%に達し、2028年には過半数まで上がるという予測*もあります。しかし、国内の医薬品業界ではバイオ医薬品生産の経験がある技術者が少ないという課題を抱えています。

そこで協和キリンは、バイオ医薬品技術者を育成するため、2022年に人材開発室を高崎工場に新設しました。2025年3月に完成予定のバイオ医薬原薬製造棟「HB7」には延べ床面積約800平方メートルのトレーニング施設を開設し、実習と座学を組み合わせたプログラムを充実させていく予定です。担当者に、人材育成の体制と将来に向けたビジョンを聞きました。

出演者プロフィール

協和キリン株式会社生産本部・高崎工場 人材開発室マネジャー
牧元隆(まきもと ゆたか)

1990年に入社後、東京研究所(現 東京リサーチパーク)で培養プロセスの開発、その後バイオ生産技術研究所や高崎工場でバイオ医薬品原薬の治験薬製造、上市品の製造に従事。2020年から総務部で人材開発室の立ち上げに尽力。2022年より現職。

協和キリン株式会社生産本部・高崎工場 人材開発室
藤原慎二(ふじわら しんじ)

1994年に入社後、東京研究所(現 東京リサーチパーク)で精製プロセスの開発、その後バイオ生産技術研究所や高崎工場でバイオ医薬品原薬の治験薬製造、上市品の製造に従事。2022年10月から高崎工場人材開発室で、主に精製プロセスに関する教育プログラムの企画開発、講師を担当している。

高崎はバイオ医薬品の基幹工場 人材開発室を新たに設置

画像:高崎工場 人材開発室マネジャー 牧元隆

―高崎工場で人材育成の取り組みを強化した背景を、教えてください。

牧元隆(以下牧元) 協和キリンでは、この数年、数多くのグローバル製品の生産を開始しました。生産量が増加したため、急速に人員を増やしています。これに伴い、新任者の育成を加速し、早期に独り立ちさせる必要性が高まりました。また、大きくなった組織を適切にマネジメントし、安定操業を実現するためには、ミドルマネジメント層の育成も同時に進めなければなりませんでした。

―まずは、どんなことをしたのですか?

牧元 これらの喫緊の課題解決に加え、高崎工場、高崎品質ユニットが求める人材を継続的に育成・輩出していくには、人材育成の専門部と人材育成の拠り所となる「人材育成の理念」が必要との議論になりました。そこで2022年10月、人材育成の理念の作成と人材開発室の設置に至ったのです。議論の当初は3年先の構想だったのですが「人材育成は待ったなし。早期に実行しよう」という工場長の呼びかけのもと、立ち上げ決定から約半年後に開設されました。

人材育成の理念(人材育成の根本となる考え)高崎工場・高崎品質ユニットは、環境変化に対応しつつ、継続して人材育成を行い、それを組織の力(現場の力)とすることで・Life-changingな価値を創出します。・バイオ医薬品の基幹工場として安全で高品質な医薬品を安定的に供給し、社会からの信頼を獲得します。
画像:高崎工場の「人材開発の理念」

牧元 人材育成の理念の達成を目指し、人材開発室では、ナレッジセンターと名付けた研修プログラムと、新設するバイオ医薬原薬製造棟「HB7」内に設置予定のトレーニング専用設備の企画や運営を行っています。研修プログラムというソフト面と、トレーニング設備というハード面の両面の取り組みを同時に進めているのが特徴です。

―ソフト、ハード両側面での取り組みは日本の製薬業界では稀ですが、なぜこういった取り組みを業界に先駆けて実施できたのですか?

牧元 バイオ医薬品の専門人材が不足しており、さらに人材が流動化している状況への危機感があったからだと思います。従業員がそれぞれ磨き上げた貴重なナレッジや技術を工場全体で共有し、進化させることで後進の成長につなげる体制が早急に必要でした。幹部含めた関係者全員の「業界全体の専門人材のボトムアップに貢献したい」という思いも、後押しになりました。

協和キリンが培ったバイオ医薬品製造の高い技術 研修として体系化

画像:高崎工場 人材開発室 藤原慎二

―ナレッジセンターには、3種類の研修体系がありますね。

藤原慎二(以下藤原) 「オペレーションカレッジ」は業務スキル習得のためのプログラムを運営しています。ビジネスと一般教養を学ぶ「ビジネスカレッジ」では、ミドルマネジメント層向けや現場力強化の研修に加え、階層別研修やテーマ別研修なども展開中です。「クオリティカレッジ」は、GMP(製造管理および品質管理の基準)に特化した基礎や実務の研修を進めています。これらの研修体系の一部は、他事業所でも展開できるように整備中です。

画像:ナレッジセンターの研修プログラム

―新任者の育成の要となるのが、オペレーションカレッジの「3年育成プログラム」ですね。

牧元 入社直後からの3年間は、業務遂行力に影響する重要な時期です。そこで、この時期にバイオ医薬製造に必要な基礎知識を漏れなく習得し、自分で考え行動できる人材を育成することを目的に、体系的なプログラムを作りました。研修、部署学習、職場実践の3ステップで構成しています。まずは研修で製造業務に共通する原理・原則やしくみを学び、次に、部署ごとに分かれて主にOJT形式で実施される部署学習で業務に直結するナレッジを学習します。そして最後の職場実践で、学んだことを実践し、業務スキルを身につける流れになっています。

これまでの高崎工場の新人育成は各製造棟に委ねられていたため、製造棟ごとの強み、弱みが新人育成にそのまま反映されてしまうリスクがありました。そのリスクを解消するため、各製造棟で培った知識や経験を人材育成プログラムとして一般化しています。これにより技術者としてのDNAを継承、進化させることができると考えています。

―実際は、どのような研修を行っているのですか?

藤原 例えば、製造部の3年育成プログラムでは動画視聴と実技研修からなる約3週間の「導入教育」を最初に行っています。動画視聴は製造に従事する前に知っておくべき基礎知識に関する約20講座を、2週間かけてご自身のペースで見て学んでいただきます。3週間目は汎用機器、製造の手技に関する実技教育を中心とした研修をそれぞれの理論教育を含めて実施しています。これまでに、のべ約445人が受講しています。使用する設備や実習の内容をシンプルにしているので、新入社員の方には分かりやすく、経験者には原点に立ち返る教育機会になっていると思います。

画像:藤原が講師を務める、導入教育の精製実技の様子

バイオ医薬品生産の原理習得が、現場での活躍につながる

画像:藤原慎二(左)牧元隆(右)

―研修を受けた方の反応はいかがですか?

藤原 「ひとえに受講者のことを考えて、練られた研修内容だと感じた。初心者に対していきなり本機設備などを見せても『大きい、複雑』程度しか伝わらないと思うので、目に見える、手で触れられる範囲から少しずつ原理原則をゆっくり着実に理解しながら進める教育手法はとても新鮮で、楽しく学ぶことができてよかった」というコメントをいただいた時は、トレーナー冥利に尽きると感激しました。「現場ではオペレーションの訓練から入るので、導入教育で原理原則や仕組みが学べ、非常にためになった」「基礎的なことを学ぶ機会はなかなか無いので、今回の研修はありがたい機会でした」といった声もいただいており、有用なプログラムを実施していると実感しています。

仕事はただやるのではなく、作業の理由や根本的な仕組みを知っておくことが重要です。それがモチベーションにつながっていくと、私は考えています。研修で受講者の「さらに学びたい」という意欲を引き出し、仕事の楽しさにつなげていきたいです。

今後も高まるバイオ医薬品のニーズ 世界的視野を持ち人材育成を継続

画像:人材開発室の集合写真

―今後、人材開発室ではどんなことをしていきたいですか?

藤原 最優先したいのは、安定操業に必要な人材基盤の確立です。そのために研修カリキュラムや設備を、より充実させていきたいと考えています。HB7を従業員自らが学びたいと思えるトレーニング環境に整えることはもちろん、各部署の専門性を交えることで新たな創造・着想を生み出す場にしていきたいです。また、DX人材づくりも重要です。デジタルツールを自在に使いこなせる人材を増やして業務効率を上げる、未来への投資も進めていきたいと考えています。

牧元 今年6月に、米国ノースカロライナ州に弊社の新バイオ医薬品工場を建設することが発表されました。こうした変化に伴い、人材開発室、ナレッジセンターの機能は、高崎工場に留まることなく海外拠点も含めたグローバルな人材育成の場にしていく必要があると感じています。そのために、人材開発室も進化を続けていきたいと思います。一方、バイオ医薬品技術者の育成は業界全体の急務です。社外からのご希望があれば、私たちの取り組みを外に開き、医薬品業界をあげた人材育成に貢献していきたいと考えています。

高崎工場での取り組みは、高崎地区の環境変化に合わせて人材育成を継続的に推進するために立ち上げたものですが、今後は海外も含む弊社の他の事業場でも積極的に、プログラムを活用していただきたいです。さらに、国内のバイオ医薬品産業の活性化のボトルネックになっている専門人材の確保という課題解決に向け、社外から高崎工場の人材育成システムを活用したいという声が挙がったら、ぜひ協力したいです。(協和キリン株式会社 生産本部・高崎工場 工場長 松永 直樹)

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