People & Culture夏休みは薬づくりの研究員になろう! バイオアドベンチャー ~体験編~
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目次
協和キリン富士事業場は、理科実験教室「バイオアドベンチャー ~体験編~」を2019年8月9日に開催した。学校の夏休み期間中に毎年行っており、今年も近隣の中学生を対象に、薬の研究開発や生産現場を体験できる実験を企画。中学校1~2年生27名と付き添いの保護者約15名が参加した。当日の様子をレポートする。
町内の中学生から定員を上回る申し込み
「バイオアドベンチャー」は、協和キリンが20年以上に渡り、国内の研究所・工場で続けてきた理科実験教室だ。この取り組みでは次世代育成への貢献を目指し、小学生から高校生までの子どもたちを対象に、年齢別のプログラムを展開。地域関係者に同社グループ事業や強みを知ってもらうことにもつながっている。
今回開催されたバイオアドベンチャーは中学1~2年生が対象。富士事業場のある長泉町の中学校に案内したところ、定員を上回る申込みがあった。
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猛暑の中、続々と参加者が到着し、3班に別れて着席。生徒たちは、やや緊張した面持ちだ。同社の創薬研究に携わる研究員が前に立ち、その日の流れを説明した。
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“この事業所では、いろんな役割の研究員たちが知恵を出し合って、薬を作っています。薬の候補を作る人もいれば、細胞で薬の効果を見る人、薬の安全性を確かめる人、薬の形を考える人もいます。今日は研究員になりきって、薬づくりを体験しましょう!”
自己紹介ゲームで緊張をほぐした後、参加者は班ごとに、タウリンの結晶化、錠剤づくり、研究所見学へと出発した。
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薬のレシピを考える
低分子化合物タウリンの結晶化実験
まずは、白衣と眼鏡を装着して、タウリンの結晶化実験へ。タウリンはアミノ酸の一種だ。「栄養ドリンクに入っているけど知っているかな?」と研究員が問いかけると「テレビCMで聞いたことがある」という声が上がる。
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実験ではまず、タウリンの飽和水溶液が入った容器を撹拌機に乗せ、エタノールを加え、しばらく置く。すると、水溶液が次第に白く濁りはじめる。エタノールを入れることで、水に溶けていたタウリンが、溶けきれなくなって出てくるのだ。その液体を電動のろ過器にかけると水分が吸引され、タウリンの結晶が残されるので、それを顕微鏡で観察する。
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手順を説明した後、研究員が問いかけた。
“さて、エタノールの量を変えると、結晶はどうなるでしょうか? 今日は2種類の結晶を作ってみましょう!”
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1mlのエタノールを加えた容器の横に、飽和水溶液をもう一つ用意し、生徒がエタノールを5ml加える。5mlのほうが早く濁っていくのがわかる。できあがった結晶を顕微鏡で観察してみると、後者の方が細長い形だ。生徒たちは、「形が違う」「長いね」と言いながら、顕微鏡をのぞいた。
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“レシピによって、分子の並び方が変わるので、違う形になります。すると、結晶の壊れやすさにも影響が出るのです。結晶は、病気治療に効果がある「有効成分」として錠剤の中に含まれていますが、有効成分が壊れやすいと薬が長持ちしないといった課題が出てきてしまいます。ですから、壊れにくい結晶を作るレシピを探し出すことが、私たちの仕事なのです。”
参加者の中には、中学校の授業で結晶実験を行い、塩やミョウバンの結晶を観察したことがある生徒が多く、学校での学びを深めることができたようだ。1人の参加者から質問が上がる。
“口で溶ける薬と胃で溶ける薬では、結晶の分子構造が違うのですか?”
研究員によれば、有効成分の分子構造は同じで、薬に含まれる他の成分が異なるとのこと。「口で溶ける薬と胃で溶ける薬」は、次の錠剤づくりの体験でも詳しく観察していく。
薬の形を考える
錠剤づくり体験とOD錠の観察
続いては、錠剤づくりの体験だ。有効成分を含む粉末状の粉を、道具を使って錠剤の形に「打つ」。これを「打錠」と呼ぶ。実際の工場では自動化されており、機械で行っている作業だ。
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参加者は分担して、普通錠とOD錠の2種類を作った。OD錠(口腔内崩壊錠)とは、少しの水分で溶ける錠剤のこと。口に入れるとすぐ溶けるので、薬が苦手な人でも飲みやすいとして、近年、増加している。
“それでは、普通錠とOD錠が溶ける速さを比べてみましょう。この色のついた液体に同時に落とすとどうなるでしょうか?”
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OD錠は、徐々に水分が浸透し、ピンク色になっていく。浸透速度が早い、つまり、少しの水分ですぐ溶けるということだ。生徒たちはその違いに目を見張った。
どうすれば患者さんに飲んでもらいやすいのか、研究員は錠剤の形に工夫を凝らしている。一口に錠剤と言っても、いろいろなタイプがあることを学んだ。
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薬が生まれる現場とは?
研究所見学
最後に研究所内を見学した。
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実験や見学を通して、薬づくりのおもしろさを垣間見た生徒たち。研究員と接して、その仕事を身近に感じられたようで「学校ではどんなことを勉強したんですか?」「中学生の頃から研究員になりたかったですか?」と質問をする生徒も。活発な交流が行われた。
研究員は自ら手を挙げて運営に携わり、日常業務の傍らで準備を進めてきた。その動機は「理科教育に関心がある」、「学生時代に研究費をサポートしてもらったので次世代に貢献したい」など様々だが、研究員自身にとっても良い機会となった。
これからも地域に貢献する教室を
後に、参加した生徒に話を聞いた。
“学校の職業体験で薬局に行って、薬に興味を持ったので、参加しました。結晶実験がおもしろかったです。”
“お父さんがここで働いています。研究所のお祭りに来たことはあるけど、建物の中には初めて入りました。1億円もするような値段が高い機械にびっくりしました。”
担当者の樋口 海は次のように話す。
“地域の方に研究所の中に入っていただく機会はなかなかないのですが、たくさんの方に申し込みをいただき、皆さんの関心の高さを感じました。これからも、今回のような創薬研究を体験してもらえる教室を通じて、地域に貢献していきたいです。”