ペイシェント【北海道】「絶対に歩みを止めない。」 地域医療の課題解決とペイシェントアドボカシー。協和キリンの実戦哲学。
目次
2019年1月、北海道と協和キリン株式会社※の間で「連携協定」が結ばれた。生活習慣病の予防など、北海道民の健康的な生活の実現を図ることを目的とした連携協定である。北海道において、行政と製薬企業が手を取り合って道民の健康支援に乗り出すのは、当時前例のない出来事でもあった。
製薬企業として、地域医療の課題解決に向けた積極的な取り組みを実施する協和キリン株式会社。協定締結の背景にあったものは?そして協和キリンの医療連携担当者の果たすべき役割とは?
- ※当時は前身となる協和発酵キリン株式会社
出演者プロフィール
竹本 隆治(たけもと りゅうじ)
協和キリン株式会社 営業本部 札幌支店 医療連携担当 マネージャー
神奈川県出身。薬学部卒。外資系製薬会社を経て、1996年、前身となるキリンビール医薬事業本部に入社、マーケティングや営業推進などの業務に携わる。2008年、協和発酵キリン(現 協和キリン)株式会社札幌支店腎専任営業所長に就任。長崎県・長野県にて営業所長を歴任後、2017年より現職。
北海道庁と製薬企業による初めての連携協定締結
–北海道と連携協定を結ぶこととなった背景を教えてください。
竹本隆治 以下、竹本きっかけは、私たち協和キリンから北海道庁へのアプローチでした。
協定以前も協和キリンでは、専門性が特に高い医師に登壇してもらい、疾患啓発や医薬品の適正使用に関する医療関係者向けの講演会を数多く実施していました。
もちろん、講演自体は有意義なものでしたが、こうした機会を通して、たくさんの医療関係者のみなさまが日頃感じている問題意識やその深刻さを伺うにつれ、私たちが生活習慣病と向き合う患者さんやご家族のお役に立つには、別のアプローチも必要ではないかとの疑問を感じるようになっていったのです。
より生活習慣病に苦しむ患者さんの健康に寄与できる活動とは何か—。模索する中で見えてきたのが「北海道庁」との連携。
北海道庁が掲げる生活習慣病の重症化予防対策と、弊社が目指している生活習慣病の重症化予防対策の方向性が一致していたため、連携・協働して取り組むことで北海道民の健康的な生活を実現する一助に繋がるのではないかと考えるようになりました。そこで北海道庁の担当者に弊社との連携協定締結を持ちかけたところ、民間企業との協定は前例がないということでしたが、北海道民の健康的な生活の実現を目指すという想いは同じ。何度も対話を繰り返すうち「共通の医療課題」が見えてきたのです。
そうして2019年1月、締結に至ったのが「生活習慣病対策の推進に関する連携協定」です。生活習慣病対策の推進に関する連携協定としては、弊社が北海道庁と締結をした初の民間企業となりました。本協定では目的を次のように定義しています。
- 協定の目的
循環器病や糖尿病、慢性腎臓病等の生活習慣病の発症予防や、再発・合併予防など重症化予防に向けた取組を連携・協働のもとで行うことにより、道民の健康的な生活の実現を図る。 - 連携協定の内容
- 循環器病や糖尿病、慢性腎臓病(CKD)に係る正しい知識の普及
- 特定健康診査の意義の周知
- 保健医療福祉関係者の連携促進に関する取組等
病院まで片道2時間。広大な面積と医療資源の偏在
竹本自ら旅をしたことがある方ならご存知かもしれませんが北海道は非常に広大。札幌から道東の釧路までは、約250kmもあり、これは「東京-名古屋間」にも匹敵するほどの大きさなのです。広大であるが故に、地方都市間の距離が遠く、他都府県と比べて医療連携体制が構築しにくい環境にあるかもしれないと北海道庁から伺っておりました。
加えて「医療資源の偏在」があるとも北海道庁から伺っていました。これは全国共通であり北海道に限った医療課題ではありませんが、病院や医師をはじめとした医療関係者はどうしても都市部に集中しやすい傾向があり、北海道も例外ではないのです。
–医療連携体制や医療資源の偏在は、どのように影響するのでしょう?
竹本一般的に生活習慣病は、定期的な健康診断で発見され、生活習慣病の進行に伴いそれぞれの町の「かかりつけ医」から、専門医のいる病院に紹介されます。
しかし、北海道ではかかりつけ医から地方の中核病院(地域の医療連携の中核を担う病院)までの距離が遠いなどアクセスに困難を抱えるケースや、その中核病院にも専門医が不在であるケースも少なくありません。
例えば、腎不全領域。生活習慣病などから腎機能が低下し腎不全の状態になると、透析治療の可能性が高くなってしまいます。通常透析は、約4〜5時間かかる治療を週3回繰り返すという時間的・身体的拘束の大きな治療です。
北海道の多くの地方都市では、透析を実施している病院やクリニックの数が限られるため、あるケースでは、片道2時間をかけて患者さんのご家族が病院に送迎を行い、治療を受けるケースもあるようです。
病院が限られるために、重症化すると住み慣れた土地から札幌市などの主要都市まで引っ越さなくてはいけない場合もあるようで、患者さんやご家族のQOL※がなかなか上がらないという話を聞いたことがあります。
これは、製薬会社として、腎臓領域に30年以上携わってきた弊社としては、決して目を逸らすことのできない問題と考えています。
- ※人生における生活の質(Quality of Life)
「歩みを止めないでほしい。」ある医師の言葉
–北海道特有の地域医療課題があるのですね。具体的な取り組み内容を教えてください。
その土地には、必ずその土地特有の地域医療課題があります。「連携協定」締結以来、弊社は北海道庁と連携し、一般市民向けの「生活習慣病対策の啓発セミナー・イベント」を道内各所で実施しています。
また、並行して北海道庁と相談の上、北海道庁から各地域における医師、看護師、薬剤師、行政保健師、行政栄養士などの地域医療関係者へ参加を募り「課題解決型セミナー」を実施しています。
「課題解決型セミナー」とは文字通り、地域医療の課題解決を目的とした小規模のセミナーで、これまで多かった講演会による一方的な情報提供の場とは異なります。従来の医療関係者等の講演に加え、北海道庁を通して依頼された各保健所や各市町村の保健師・栄養士とともに、地域医療課題を認識し、改善に導くための場です。
地域医療に携わる医療関係者の方々の生の声を聴いて、改善のために必要なアクションについて、ディスカッションしたり、他地域の医師を招き、成功事例をナレッジとして共有していただくこともあります。
限られた資源で、今ある地域医療課題をどう最善に導くか。実際に医療に携わるみなさまが、継続的に改善を行なっていくために「つながりの機会」を提供するのが私たちの役割だと考えています。
この取り組みを始めてから新型コロナウィルスの感染拡大があり、ほとんどはオンラインでの実施となったのですが、ある医師からは「絶対に歩みを止めないでほしい。」と言われました。医療は時間との戦いでもあります。1人でも多くの命と向き合うために、非常時でもやるべきことをやる。個人としても、その使命を強くした出来事でした。
–札幌支店長にも地域課題解決のための取り組みについて聞きました
「これまで腎、循環器、糖尿病疾患等の生活習慣病対策に携わってきた製薬企業として製品の情報提供活動に留まらず、社会課題への取り組みに貢献していきたいと考えております。今回、北海道庁と連携協定を締結させていただき、行政と医療関係者の皆様とともに微力ながら地域医療課題解決に携わらせていただくことに、支店のメンバー一同、感謝とやりがいを感じております。
そして、最終的には病気に向き合う全ての人々がひとりでも多く、笑顔になれることをゴールにこれからも支店一丸となって取り組んでいきます。」(協和キリン札幌支店長 大塚 新一郎)
–最後に、協和キリンが理想とする社会像について教えてください。
病気になったとき、誰もがどこでも適切な医療が受けられる、さらに病気にならないためのケアを受けられる社会です。
そんな社会の実現のため、協和キリンでは、医療機関の体制の構築のサポートとともに、「ペイシェントアドボカシー」の実践にも力を入れています。弊社の「ペイシェントアドボカシー」とは、患者コミュニティおよび医師コミュニティとの対話と連携により疾患に関する正しい理解を促す先に、より良い医療と環境が築かれるという考え方です。「ペイシェント」は患者さん、「アドボカシー」は「擁護・代弁」を意味します。
「健康の大切さは失ってから気がつく」と言われます。
医療関係者と人々が同じ目線に立ち、「健康的な人生」という目標に向かうとき、本当の医療は実現されるのではないでしょうか。
我々は、医療の担い手のパートナーとして、これからも疾病の啓発、まだ見ぬ医療ニーズ(アンメット・メディカルニーズ)の発見とその解決を目指し、歩みを進めて参ります。
北海道庁との連携のこれから
2020年10月、協和キリンと北海道庁の「連携協定」はキリングループ4社を加え、新たなスタートを切った。官民一体となり、医療のみならず、ヘルスケア分野からも市民の健康的な毎日をサポートしていく予定だ。今後の活動に期待が持たれる。
- ※本記事で紹介した疾患啓発活動はプロモーションを目的とするものではありません。