社会との共有価値 【解説記事】【SDGs14】プラスチックごみ問題と海洋生物の現状|取り組み事例3つ

持続可能な社会構築のために、国際目標であるSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)が国連で採択された。SDGsには17の目標が定められており、そのうち14番目の目標は海洋資源に関連する内容が目標に掲げられている。

この記事ではSDGs14の「海の豊かさを守ろう」とはどのような目標か、概要と背景、企業の事例などを紹介する。

SDGs14「海の豊かさを守ろう」とは?

SDGs14「海の豊かさを守ろう」は、海洋と海洋資源を守り持続可能な形を作り上げることを目標としている。

具体的にどのような内容か、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の14番目の目標の概要と背景を見ていこう。

持続可能な開発のため、海洋・海洋資源を保全する

SDGs14「海の豊かさを守ろう」では、持続可能な形で利用することをテーマに10つのターゲットが定められている。多くは2020年までが目途だったということもあり、これらのいくつかは既に取り組みが実施されている。

  • 1.2025年までにあらゆる海洋汚染を防ぎ削減する
    人の活動による海洋汚染を中心に、プラスチックなどの海洋ごみ、プランクトンなどの栄養分が増えすぎる富栄養化を抑制し、削減することだ。
  • 2.2020年までに生態系の持続的管理や保護、回復の取り組みを行う
    海洋汚染の問題は、海や沿岸の生態系にも重大な影響を及ぼす。その重大な影響を回避するために定められた、生態系に関する取り組み目標である。
  • 3.海洋酸性化の影響が最小限になる対策を実施する
    海洋酸性化とは、人間の活動で生じた大気中のCO2を海が吸収し、海水の酸性が強くなることをいう。海洋酸性化の問題は、サンゴが育たなくなるなど生態系に影響を及ぼすことだ。海洋酸性化を抑制するため、科学的レベルでの協力をターゲットとして定めている。
  • 4.2020年までに水産資源の漁獲量を規制する
    水産資源の乱獲は種の存続を脅かす。水産資源を持続して確保できるように、漁獲を種ごとの漁ができる最大レベルまでに規制し、違法な漁業や乱獲を失くすことがターゲットに設定されている。
  • 5.2020年までに世界中の沿岸域や海域の10%を保全する
    沿岸や海域の保全については、国際法や国内法を遵守しつつ、最大レベルの科学情報に基づいて保全することが設定されている。
  • 6.2020年までに法に反した漁業補助金をなくす
    ターゲット4と同様に、海洋資源の獲りすぎは重大な問題である。無許可の漁船などによる違法な漁業をなくし、さらには乱獲を防ぐため、法に反した漁業者への補助金をなくすこと、新たに作らないことが定められた。
  • 7.2030年までに開発途上国などで海洋資源の持続的利用と利益を実現する
    大量の水産資源の獲得が利益になる開発途上国などで乱獲が起きないよう、持続可能な水資源の利用こそ利益になるような仕組みを実現することが求められている。

そしてここからは、目標に対しての実施手段を紹介する。

  • 8.海洋の改善に向けて、ユネスコ政府間海洋学委員会の基準・ガイドラインを勘案しつつ、科学的知識の増進、研究能力の向上、及び海洋技術の移転を行う。
  • 9.小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する。
  • 10.海洋そのものや、海洋資源の保全。そして、持続可能にするため、法的枠組みを規定する国際法を実施することにより、海洋そのものや、海洋資源の保全及び持続可能な利用を強化する。

出典:外務省「JAPAN SDGs Action Platform別ウィンドウで開きます

海洋資源の危機が起きている?その現状と課題

海洋は私たちが生きていくうえで大切な環境であり、海洋資源は経済発展に不可欠だ。だが近年の海洋は水質汚染や気候変動が原因で、海洋や生き物に深刻な影響を与えている。海洋や海洋生物を取り巻く現状を見ていこう。

海洋プラスチックごみの増加

現在、海にはどれほどのプラスチックごみが捨てられているか知っているだろうか。環境省の報告によると、実に毎年800万トンものプラスチックごみが海洋に流出しているという試算があり、世界的に深刻な問題となっている。

参考:「第3章 プラスチックを取り巻く状況と資源循環体制の構築に向けて別ウィンドウで開きます」(環境省)

この状態で何も対策をしなければ、今後も海洋プラスチックごみが蓄積していくことになるだろう。

そして2050年には、海洋プラスチックごみの重量が海に生きる魚の重量を超えるといった試算も出されている。

ビニール袋などの誤飲でウミガメを中心とした生物が悪影響を受け、死亡するケースも報告されていることから、生態系にも大きな影響を与えている。

また、プラスチックは自然界で分解されることがなく、長期間漂流すると劣化して小さく砕けていく。

細かくなったプラスチックは「マイクロプラスチック」と呼ばれ、魚など海の生物がエサと間違えて誤飲することもある。

マイクロプラスチックには汚染物質などが付着しやすく、誤飲した魚にも悪影響があるが、最終的にはそれを人間が食べることになるため、健康被害なども問題視されている。

乱獲により海洋生物が大幅に減少

海には多くの資源があるものの、生態系を乱すほど乱獲すると、当然ながら資源は減少することになる。

食物連鎖や産卵から繁殖までのサイクルが正常であれば、生物は数を維持でき均衡が保たれるが、人間が獲り過ぎたことで絶滅が心配される魚介類も出てきた。

世界の漁獲量としては、1960年から1990年にかけて数千万トン単位で急激に増加し、その後も高い水準が維持されている。

漁獲量が増加したことで、生物学的観点による持続可能な水準を満たす魚類の割合も大幅に減少した。1974年には魚類資源の90%が持続可能であったが、2015年には67%しか水準を満たしておらず、約30年で23%も減少しているのだ。

今後は魚の繁殖スピードなどに合わせて、適切な管理を行えば持続可能な資源となる。しかし、世界が協力して対策を行わなければ、生物の絶滅や資源が枯渇することになるだろう。

海洋酸性化による海洋生物への影響

海洋の役割のひとつには、大気中の二酸化炭素濃度を調整することで、熱を吸収して地球の温暖化を緩和する機能がある。

しかし、現代は温室効果ガスの大量排出により、海洋酸性化が起こっているという学説があるのだ。

海水成分の酸性化が進行すると、サンゴをはじめとした多くの海洋生物が生存できなくなる可能性がある。一部の生態系が変化すると、人間が食べる魚介類の数にも影響が出るだろう。

海洋生物は世界最大のタンパク質の源でもあり、30億人以上の人々が海の恵みに頼っている。海洋酸性化が起こると、漁獲量が減り世界中に影響を及ぼす可能性もあるため、温室効果ガスの削減も海洋保護には重要といえるだろう。

SDGs14の達成に向けた日本国内の取り組み

人類の活動によって、海洋や海洋生物はさまざまな影響を受けている。

SDGs14「海の豊かさを守ろう」の実現に向けて、日本国内ではどのような対策が行われているのだろうか。具体的な取り組みを紹介する。

海洋プラスチックごみ対策アクションプランの策定

2019年5月に開かれた「海洋プラスチックごみ対策の推進に関する関係閣僚会議」において、海洋プラスチックごみ対策アクションプランが策定された。

内容は以下のとおりである。

  1. まず、廃棄物処理制度によるプラスチックごみの回収・適正処理をこれまで以上に徹底するとともに、ポイ捨て・不法投棄及び非意図的な海洋流出の防止を進める。
  2. それでもなお環境中に排出されたごみについては、まず陸域での回収に取り組む。さらに、一旦海洋に流出したプラスチックごみについても回収に取り組む。
  3. また、海洋流出しても影響の少ない素材(海洋生分解性プラスチック、紙等)の開発やこうした素材への転換など、イノベーションを促進していく。
  4. さらに、我が国の廃棄物の適正処理等に関する知見・経験・技術等を活かし、途上国等における海洋プラスチックごみの効果的な流出防止に貢献していく。
  5. 世界的に海洋プラスチック対策を進めていくための基盤となるものとして、海洋プラスチックごみの実態把握や科学的知見の充実にも取り組む。

出典:環境省|「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」の策定について別ウィンドウで開きます

アクションプランでは、プラスチックを有効利用することを前提とし、今後は新たなプラスチックごみを出さないような世界の実現を目指している。

そのために、まずはプラスチックごみを回収して適正に処理すること、それでもポイ捨てなどにより環境中に捨てられたごみがあれば回収していくことが定められた。

また、海洋生分解性プラスチックなどの開発を行い、万が一海洋に流出しても影響が少ない素材への転換を推進することも目指している。

水産エコラベルの推進

水産エコラベルは、水産資源の持続可能性や環境に配慮した漁業、養殖が行われていることを証明するためのものだ。MSC、ASC、MEL、AELなどの水産ラベルがある。

水産エコラベルの違い

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名称 特徴
MSC認証 水産資源や環境に配慮して獲られた「天然の水産物」を証明するもの。健全な状態の水産資源のみを獲ること、長期的に漁獲できるよう適切な管理を行うこと、生態系への影響を最小限にすること、これら3つの原則を満たすことで認証が得られる。
ASC認証 MSC認証同様に、環境や地域社会にも配慮した安心で安全な「養殖の水産物」を証明するもの。対象となる魚介類は12魚種である(2021年9月時点)。
MEL認証 漁業や養殖業など多様性を考慮して発足した日本の認証スキームである。科学的根拠を重視しつつ、日本の漁業・養殖業の多様性を考慮に入れている点が特徴。漁業認証、養殖認証、流通加工段階認証の3つに分けられている。
AEL認証 「日本食育者協会」が発足した認証で、養殖のエコラベル。国際基準を満たし、公平で低コストかつ効果的な認証である。

日本においては持続可能性への意識は高まりつつあるものの、水産エコラベルの意味を知っている人は少ないのが現状だ。

今後は水産エコラベルの普及推進のため、国内消費者への情報発信を積極的に行い、水産エコラベルの認知度向上を目指していく。

加えて、水産エコラベルの認証取得支援事業も行っており、国際基準の水産エコラベル認証の取得を望む事業者への申請書作成などをサポートしている。

水産エコラベルやサステナブル・シーフードの詳細は下記の記事で解説している。

生分解性プラスチックの利用

海洋プラスチックの問題解決につながると期待されている生分解性プラスチックの普及も推進されている。

生分解性プラスチックとは、使用後に微生物などの働きによって最終的には水と二酸化炭素に分解されるプラスチックのことだ。使用する際は従来のプラスチックと同じように食品包装、シャンプーボトル、簡易食器具などに利用できる。

しかし、国内で流通している生分解性プラスチックはわずかしかない。

普及を進めるにあたって課題となるのが、環境条件に応じて分解速度が変化する生分解性プラスチックの開発だ。できるだけ長く使える上に、使用後に何らかの理由で海に出た場合はできるだけ早く分解されるプラスチックの開発が求められる。

また、生分解性プラスチックは開発コストが高いため、いわゆる偽物が「生分解性プラスチック」として出回ることも考えられる。生分解性プラスチックの普及には、水と二酸化炭素にまで分解される生分解性プラスチックが偽物と区別され、正しく評価されるための制度を設けることが必要だ。

「プラスチック・スマート」キャンペーンの実施

環境省では海洋プラスチックごみの削減に向けて「プラスチック・スマート」キャンペーンを実施している。

  • 5月30日の「ごみゼロの日」や6月の「環境月間」での一斉ごみ清掃活動(自治体)
  • リサイクル材を使用した製品の回収・リサイクル(企業)
  • 海や川のプラスチックごみ回収(NGO)
  • プラスチックごみ問題を学ぶ場やワークショップの開催(教育機関)

上記のように、自治体をはじめ企業や教育機関など、あらゆる立場の組織が参加している。

SDGs14達成に取り組む企業事例

SDGs14「海の豊かさを守ろう」の達成に向けて、日本の企業も強い関心をもち、さまざまな取り組みを実施している。事例を3つ紹介したい。

事例1:ユニー株式会社

ユニー株式会社では、プラスチックごみの削減に関連した取り組みを実施している。

プラスチック製品の店頭回収
海洋ごみの原因になるペットボトルのようなプラスチック製品など、リサイクル可能なごみを店頭のリサイクルボックスで回収。ペットボトルの場合は、リサイクルセンターでフレーク状に加工し、衣服や文房具にするなど、資源の再利用を行っている。

レジ袋の削減
ユニーでは、1989年にお買い物袋持参運動を始めてからレジ袋の削減に取り組み、2014年には全店舗でレジ袋の有料化を実現している。

バイオマスプラスチック製容器包装の利用
プラスチックは石油由来のもので、海洋ごみの問題を含むほか、資源枯渇の問題もはらんでいる。対して、バイオマスプラスチックは、植物由来のもので、水とCO2に分解されて自然に還るプラスチックだ。ユニーでは、持続可能性を考えたバイオマスプラスチック製容器包装の利生を推進している。

事例2:日本水産株式会社

水産資源を調達し加工する事業を展開している日本水産株式会社では、水産資源を持続して利用できるような取り組みを行っている。

養殖の推進
水産物の消費は、世界中で拡大している。水産資源の利用可能性を考えるなら、養殖による供給も重要だ。日本水産では、国内外にいくつもの養殖拠点を設置している。

AI・IoT技術を使った養殖魚の管理、自然に優しく消化しやすいEPペレット(飼料)、陸上養殖の実現など、安全でおいしい魚を持続して提供できるような取り組みを実施している。

水産ラベルの取得
責任ある養殖で生産された水産物を示すASC認証、海の自然や資源を守る持続可能な漁業を示すMSC認証、水産資源の保全や持続的利用を積極的に行う生産者を証明するMEL認証など、さまざまな水産ラベルを取得している。

多くの水産資源の保全や持続可能性に関する認証を取得しているということは、水産資源に関わるものとして責任のある行動や事業を行っているという証明だ。

社会課題解決のための協力
海洋資源の問題は、ひとつの組織だけで解決できることではない。日本水産では、NGOやNPOなどの外部の組織との連携により、持続可能な水産事業のための活動を行っている。

事例3:協和キリン株式会社

協和キリン株式会社では、クリーンな環境を守ることで、海洋環境の改善や維持につながるような活動を行っている。

河川清掃
事業場ごとに河川の清掃を実施。特に、富士事業場では、長泉町と協働して、リバーフレンドシップ制度の枠組みの中、隣接する河川の継続的な清掃に取り組んでいる。

あまごの稚魚放流
生態系を守るために、あまごの稚魚放流を静岡の桃沢川で実施した。

協和キリンの活動の特徴は、企業だけでなく、地域と協力して、生態系保護のための活動を行っている点だ。地域コミュニティの育成、環境美化や保全の意識向上を図っていくことを目的としている。

海を守るために私たちができること

SDGs14「海の豊かさを守ろう」について、内容や企業の取り組みについて紹介してきた。海を守る行動は、個人でも可能だ。この項では、私たちができるSDGs14に関連する取り組みを紹介したい。

プラスチックごみの削減とリサイクル

プラスチックごみは、海を汚染し、生態系に悪影響を与える大きな問題となっている。プラスチックごみを消費する、個々人の心がけが重要だ。

プラスチックごみを減らすために、まずはプラスチックの利用を減らすこと。プラスチックを利用するときは、できるだけリサイクル可能なものを利用することを意識したい。

省エネを心がける

海洋酸性化を防ぎ、海を保護するには、温室効果ガスの削減も重要だ。普段から省エネを意識した生活を意識しよう。

例えば、移動はなるべく徒歩や自転車、電車などの公共交通機関を利用すると良い。自動車に乗る必要がある場合は、急発進や急ブレーキをしないなど、環境に配慮した運転を意識しよう。

電気製品はこまめに電源を切り、長時間使わないものはコンセントを抜くと電力を抑えられる。また、古いエアコンなどの家電を省エネ製品に切り替えることも効果的だ。

省エネを心がけることで、海水面上昇の要因のひとつである温室効果ガスの排出を抑えられ、地球温暖化防止などの環境保護にも貢献できる。

浜辺の清掃

プラスチックごみの問題を改善するには、海に漂着したごみを回収し、浜辺を清掃する作業に参加してみるのも良い。

より海洋ごみの問題について知り活動に価値を見つけるためにも、海洋生物の多様性や実際に行われている活動を知るなど、海の豊かさについて理解を深めることも重要だ。

水産エコラベル商品を購入する

水産エコラベルのある商品を購入することで、持続可能な事業を行っている水産会社を支援することができる。

そうすれば、間接的にではあるものの、水産資源の保全と持続可能性に貢献することになる。

水産エコラベルは、鮮魚や水産加工食品、缶詰、冷凍食品、おにぎりなどに付いている。購入する際はぜひ探してみよう。

まとめ

多くの水産資源を日々消費している日本では、水産資源の持続可能性は大きな問題だ。継続して水産資源を利用できるようにするためにも、SDGsの目標14に関連する活動を行っている企業に目を向け、個人でできる海洋資源保全や利用可能性のための行動をとることが重要である。

協和キリンの「社会との共有価値」についてもっと知る

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