People & Culture 【解説記事】男性の育休取得率は?2022年の育児・介護休業法改正でどう変わるか
育児休業は男性も取得できるものの、実際に取得できているケースは少ないのが実情だ。厚生労働省の調査においても、男性の育児休業取得率は低い水準にとどまっている。
今回は男性の育児休業取得が少ない理由や、取得率アップなどを目指して改正された育児・介護休業法のポイントなどを紹介する。
令和3年度の男性育児休業取得率は13.97%
近年、育児・介護休業法の改正など、育児休業に関する法律や制度が大きく変化している。その背景には男性の育児休業取得率が未だに低いことや、取得したとしても期間が短いことなどがある。
厚生労働省の実施した「令和3年度雇用均等基本調査」によると、令和3年度の育児休業取得率は、女性は85.1%であるのに対して男性は13.97%に留まっていた。
前年の12.65%、前々年の7.48%と比べると取得率は上昇傾向にあるものの、未だ水準が低いのが実情だ。
また、同調査によると、取得期間についても男性の方が短い結果となっている。具体的には、女性の9割以上が6ヶ月以上取得している一方で、男性は約半数が2週間未満であった。
女性 | 男性 | |
---|---|---|
育児休業の取得率 | 85.1% | 13.97% |
育児休業の取得期間 | 9割以上が6ヶ月以上取得 | 約半数が2週間未満 |
参考:「令和3年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)
では、なぜ男性の育児休業取得が進まないのか、その理由を次章で確認する。
取得したくてもできない?男性の育休取得が少ない理由
男性の育児休業取得率や取得時間が伸び悩む背景には、収入面に加えて、業務の都合や職場の雰囲気が理由で取得できないといった事情がある。
厚生労働省委託事業である「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」によると、育児休業制度を利用しなかった理由として以下が挙げられた。
育児休業制度を利用しなかった理由(男性・一部抜粋) | |
---|---|
「収入を減らしたくなかったから」 | 41.4% |
「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから、または会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」 | 27.3% |
「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」 | 21.7% |
「会社で育児休業制度が整備されていなかったから」 | 21.3% |
「残業が多い等、業務が繁忙であったから」 | 20.8% |
参考:「令和2年度 仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(厚生労働省委託事業、株式会社日本能率協会総合研究所)
調査結果からは、業務負担や制度の整備・周囲の理解などの不備が原因で、取得できないケースも多いことがわかる。育児休業を取得したくても、取得できない環境下にある男性が多いといえるだろう。
育児・介護休業法が改正!男性の取得率の変化とは
2021年に改正された育児・介護休業法では、男性の育児休業の取得が難しい現状を改善する内容も盛り込まれている。主な改正内容を見てみよう。
育児・介護休業法の2021年改正内容
- 労働者への育休取得の働きかけを企業に義務づけ・有期雇用労働者の育休取得要件の緩和
- 「出生時育児休業(産後パパ育休)」が創設
- 育児休業の分割取得が可能
- 従業員1,000人以上の企業に育休取得状況の公表を義務づけ
- 育休取得による不利益取扱いの禁止やハラスメント防止
上記の改正内容について、もう少し詳しく説明していく。
労働者への育休取得の働きかけを企業に義務づけ
2022年4月1日に施行された育児・介護休業法改正のひとつが、労働者に対して、育児休業を取得しやすくするための働きかけすることを企業に義務づけるというものだ。
具体的に、企業が取るべき措置は以下のとおりである。
企業に義務づけられる措置例
- 育児休業などに関する研修の実施や相談窓口設置など、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備・妊娠や出産の申出をした労働者に対して、個別に育児休業・出生時育児休業の制度及び申出先などを周知する
- 育児休業・出生時育児休業取得の意向の確認を行う など
労働者が育児休業などに対して正しい知識を得て、積極的に利用しやすい環境を整えることが義務づけられている。
有期雇用労働者の育休取得要件の緩和
育児・介護休業法改正と同じく、2022年4月1日に施行された改正が有期雇用労働者の育休取得要件の緩和だ。
以下のとおり、有期雇用者が育児休業を取得するための条件であった「雇用期間1年以上」という要件が撤廃された。
改正前 | 改正後 |
---|---|
⑴ 引き続き雇用された期間が1年以上 | 撤廃 |
⑵ 1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない | ⑵ 1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない |
ただし、労使協定の内容によっては、引き続き雇用された期間が1年未満だと上記の緩和から除外される場合がある。
「出生時育児休業(産後パパ育休)」が創設
2022年10月1日に施行された育児・介護休業法改正の内容として、「出生時育児休業(産後パパ育休)」の創設が挙げられる。制度の概要は以下のとおりだ。
出生時育児休業(産後パパ育休)の概要 | |
---|---|
対象期間 | 子の出生後8週間以内 |
取得可能日数 | 4週間まで取得可能 |
申出の期限 | 原則休業の2週間前まで |
分割取得 | 2回に分割して取得可能 |
休業中の就業 | 以下の条件を満たす範囲で休業中に就業できる
|
育児休業の分割取得が可能
同じく2022年10月1日に施行された育児・介護休業法改正によって、出生時育児休業(産後パパ育休)とは別に、1歳までの育児休業は分割して2回取得できるようになった。また、1歳以降は、育児休業期間の途中に夫婦で交代することが可能だ。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
分割取得 | 原則分割不可 | 分割して2回取得可能
|
1歳以降の延長 | 育休開始日は1歳、1歳半の時点のみ | 育休開始日を柔軟化 |
1歳以降の再取得 | 可能 | 特別な事情があれば可能 |
夫婦がお互いの仕事の都合に合わせて、柔軟に育児休業取得のスケジュールを組むことができる。よりスムーズな育児の分担が可能になるだろう。
従業員1,000人以上の企業に育休取得状況の公表を義務付け
2023年4月1日に施行されたのが、従業員1,000人以上の企業への育休取得状況の公表の義務付けだ。
具体的には、年1回、男性の「育児休業等の取得割合」または「育児休業等と育児目的休暇の割合」を公表する必要がある。各割合の算定方法は以下のとおりだ。
公表内容と算定方法 | |
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育児休業等の取得割合 | 「公表する前の事業年度中に、雇用する男性労働者が育児休業などをしたものの数」を「公表する前の事業年度中に、事業主が雇用する男性労働者の中で、配偶者が出産したものの数」で割って算定 |
育児休業等と育児目的休暇の割合 | ①「公表する前の事業年度中に、雇用する男性労働者が育児休業などをしたものの数」を「小学校就学の始期に達するまでの子を養育する男性労働者で、雇用主が講じる育児を目的とした休暇制度を利用したものの数」を足す ②①を「公表する前の事業年度中に、事業主が雇用する男性労働者の中で、配偶者が出産したものの数」で割って算定 |
育休取得による不利益取扱いの禁止やハラスメント防止
育児・介護休業法改正によって、育休取得による不利益取扱いの禁止やハラスメント防止に関する規定も追加された。事業主にはハラスメントを防止する措置が義務付けられている。
育児休業の取得にあたって、利用を控えさせるような言動はもちろん、制度の利用を強制するために攻撃的な言動などがあった場合もハラスメントに該当する。
まとめ
男性の育児休業の取得率や取得期間は、これまで低い水準にあった。背景には、収入面に加えて、業務の都合や職場の雰囲気が理由で取得できないといった事情がある。こういった課題を踏まえて、育児・介護休業法改正が行われ、各種措置が義務づけされた。
男女ともに育児休業をスムーズに取れるようにするには、制度の充実だけでなく社会の育児に対する価値観にも変化が必要だ。