社会との共有価値 【解説記事】【持続可能な開発目標】SDGs10「人や国の不平等をなくそう」とは
国際目標であるSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)には、全部で17の目標がある。そのうちのひとつ、SDGs10は不平等をなくすことに関する目標だ。この記事では、SDGs10の概要と企業の取り組み、個人でできることについて紹介する。
SDGs10「人や国の不平等をなくそう」のターゲットとは?
世界中で多くの人々が経済、学力、医療、情報など、あらゆる格差によって不平等な生活を強いられている。
SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」は、これらの格差を是正するために定められた目標のことだ。
目標10では計10個のターゲットが定められており、1~7では「達成目標」について、a~cでは目標10を「実現するための方法」が示されている。
ターゲットをひとつずつ読み解くことで、私たちが行動すべきことが見えてくるだろう。この項目では、目標10のターゲット1~7とa~cの内容について紹介する。
1.所得の少ない人の所得を向上させる
ターゲット1の「所得の少ない人の所得を向上させる」は、2030年までに各国で所得下位40%の人々の所得成長率が国の平均を上回ることを目標としている。
また、所得成長率のペースを持続させ、安定的に所得向上が得られるようにすることも目指している。
2.すべての人の能力を高め、社会・経済・政治への関わりを促進する
ターゲット2では、2030年までにすべての人の能力を強化し、社会的、経済的、政治的に取り残されないよう、関わりを深めることを達成目標としている。
年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、経済状態を理由とした不平等は依然として存在する。
格差拡大を防ぐには、このような理由に左右されることなく能力を高め、社会や経済、政治に関与できるように包含させることが必要だ。
3.法律や政策を適正化し、人々が平等な機会をもてるようにする
ターゲット3では、差別的な法律や政策、慣習を撤廃したうえで、適切な政策や行動を促進して機会の平等化を図ることが達成目標として定められている。
「成果の不平等」を是正することで、すべての人が恩恵や機会などを平等に受けられるようにするためのものだ。
4.政策を通じて平等を拡大させる
ターゲット4は、財政、賃金、社会保障などの政策を導入することで、格差の是正や平等化の促進を図ることを達成目標としたものだ。
個人や企業努力だけでは成し遂げることが難しい、または時間を要する課題も、政策を導入することによって飛躍的なスピードで解決に導くことができる。
5.世界金融市場と金融機関に対する規制と監視を強化する
ターゲット5は、世界の金融市場と金融機関への監視システムやモニタリングを改善し、ルールが遵守されているかを監視する体制の強化や改善を行うことを目標としている。
監視体制を整えることで、ルールがより厳格に実行されるようにすることを目指す。
6.国際経済・金融の意思決定における途上国の参加と発言力を拡大する
ターゲット6では、国際経済や世界の金融市場における意思決定に、途上国の参加や発言力の拡大を進めることを目標に定めている。
世界全体で正当な国際経済・金融制度を実現するには、一部の先進国だけが世界経済や金融市場に関与するのではなく、途上国を含めたすべての国の関わりが必要だ。
7.秩序、安全、規則性のある移住や流動を促進する
ターゲット7では、計画に基づいて管理された秩序、安全、規則性のある移民政策の実施が定められている。
混乱することなく安全で、手続きを通じた責任ある形の流動を促進するためのものだ。
a.開発途上国との貿易において優遇措置を実施する
SDGsの目標10を達成するために、開発途上国との貿易において、優遇措置を実施する方法を例示している。たとえば、国内産業を守るために途上国からの輸入品に高い関税をかけるなどの方法だ。
先進国とは異なる優遇措置を実施し、開発途上国との経済格差を是正することを目標としている。
b.必要性が高い地域に対し援助と投資を促す
目標達成のためには、政府開発援助(ODA)および海外直接投資などを通じ、必要性の高い地域に対する援助や資金の流入促進を進めることも必要だ。
経済や社会の発展、福祉の充実につながるよう、資金だけでなく技術の提供も進める狙いがある。
c.移住労働者の送金コストを低くする
目標達成の手段のひとつに、2030年までに移住労働者による送金にかかるコストを3%未満に引き下げ、5%を超える送金経路をなくすこともあげられる。
開発途上国から出稼ぎに出ている人や、母国を出て海外へ働きに出ている人などが対象となる。
SDGs10が必要な理由は?社会における不平等とは
なぜSDGs10「人や国の不平等をなくそう」が目標のひとつに掲げられることになったのだろうか。このゴールが設定された3つの背景を解決しよう。
所得格差が広がっている
ひとつは、世界の人々の所得格差が拡大していることだ。
2000年9月に採択されたミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)の達成に向けて、2015年までに極度の貧困と飢餓の撲滅など、8つの目標を掲げた。目標達成に向けた努力を通じて、極度の貧困や教育や健康への成果が確認された。
しかし、掲げた全ての不平等の是正までは進展しておらず、高所得者層と低所得者層の格差は拡大し続けている。特に若年層の失業や貧困が深刻化しており、機会の不平等が拡大しているのだ。
貧しい人は十分な生活もままならず、病気をしても治療をうけられなかったり、必要な食事もとれなかったりする現状だ。さらに、教育の機会に恵まれず、低学力・低学歴となってしまう子どももいる。
教育の機会を奪われた子どもは、成人しても希望の仕事に就けないため、その子どもも厳しい生活を強いられるといった悪循環が起きてしまうのだ。
社会保障を受けられない人が存在する
病気やケガ、失業などの自分の努力ではどうにもできない状況になったとき、人々が最低限の生活をおくれるようにするのが社会保障の役割 だ。
セーフティーネットとして機能しており、日本では国の歳出(一般会計)の3分の1を社会保障費が占めている。日本の社会保障として代表的なのが、退職者の年金、障害者年金、失業手当、出産手当だ。
しかし、世界では社会保障がない国、社会保障があっても国の財政事情から給付が十分にない国も存在する。
世界で社会保障給付を受けている子どもの割合は、わずか35%にすぎない。子どもの3人に2人は困難な状況に直面しても、政府に助けてもらうことはできないのだ。
外国人労働者を守るための政策が十分でない国がある
外国に移って生活する人々は母国に稼ぎを送る人も多く、シンガポールやドイツのように生活の質向上や自国経済成長につながっている例もある。しかし、この人々を守る政策は十分でない。
外国人の権利、社会・経済面まで守る政策が存在する国は6割未満である。
政策が十分でないことで特に問題になるのは労働問題だ。危険な仕事や人がやりたがらない仕事に就く人が多く、ときに不当な低賃金・長時間労働で働かされることもある。 人権侵害と思われる状況に遭っても、移民が改善を訴えるのも難しい。
出典:「10.人や国の不平等をなくそう」(ユニセフ)
世界で起こっている「人や国の不平等」の現状・課題
SDGs10「人や国の不平等をなくそう」が目標として定められた背景には、「国家間や国内での不平等」という現状がある。
現状を正確に把握していなければ、格差を是正するための施策や取り組みにつなげることはできない。
では、世界や日本では具体的にどのような「不平等」があるのだろうか。ここからは、国外と国内で起こっている不平等の現状を紹介する。
世界における「人や国の不平等」の現状・課題
世界では、不平等是正のための取り組みが進められている一方で、格差は拡大し続けている。
世界の富裕層の上位10%は世界全体の所得の40%近くを占有している。一極集中している一方で、世界の約10人に1人は1日あたり2ドル以下(約286円/2023年6月の為替レートにて算出)で生活を余儀なくされているのが現状だ。
不平等が生じているのは所得だけではない。性別、年齢、障害、性的指向、人種、民族、宗教、機会などによる不平等も生じている。以下は、その一例だ。
- 最貧困層20%の子どもは、最富裕層20%の子どもと比べて5歳未満で死亡する確率が3倍
- 予防可能な原因で亡くなる5歳未満の子どもの数は年間6,900万人
- 農村部の女性は、都市部の女性と比べて出産時に死亡する確率が3倍
- 障害者の医療費負担額は平均の5倍
日本における「人や国の不平等」の現状・課題
日本でも所得格差の問題は懸念されている。
所得格差を示す指標のひとつに「ジニ係数」がある。ジニ係数は0が完全な平等状態であることを示し、1に近いほど不平等度が大きい状態を示す。また、0.5を超えると所得格差がかなり広がっていることを示している。
日本の2017年所得ジニ係数は0.5594、再分配所得ジニ係数が0.3721となっている。1999年時点で、所得ジニ係数は0.472であったことから、ゆるやかに格差が拡大していることを示唆している。これは、高齢者の比率が高くなっていること、近年の若年層が正規、非正規労働に分かれていることが主な理由といわれている。
また、経済格差の根底に男女格差があることも指摘されている。令和元年度の男女賃金格差は、男性を100ポイントとした場合に女性は74.3ポイントとなっており、約3割近い賃金格差があることがわかる。
男女の賃金格差は徐々に是正が進みつつあるものの、依然として平等とは言い難い現状だろう。
このように、日本国内でも格差の問題は数多く指摘されており、目標10達成へ向けた取り組みは、決して他国に限られた問題ではないといえるだろう。
所得や性別、障害の有無、人種や民族など、さまざまな要因によって格差が生まれることがないよう、SDGs10の達成に向けた取り組みを加速させる必要がある。
出典:「平成29年所得再分配調査報告書」(厚生労働省)
出典:「令和2年賃金構造基本統計調査の概況」(厚生労働省)
SDGs10の達成に向けた企業の取り組み事例
SDGsの目標10の背景にある問題を解決するには、どのような行動が必要なのだろう。ここでは、達成に向けた企業の取り組みをいくつか紹介する。
アート引越しセンターの取り組み
アートコーポレーション株式会社では、SDGs10に関連して、業界では珍しい定休日の設定や児童発達支援教室の活動を実施している。
定休日設定と働きやすい環境の構築
アートコーポレーション株式会社は、繁忙期を除き、週のうち1日を定休日とする制度を導入した。定休日の導入は、引っ越し業界においては初の取り組みで、労働環境の改善を図るために導入された制度である。
なお、同社は2020年度に続き、2021年度も「健康経営優良法人2021」に選定されている。
アートコーポレーション株式会社が従業員の健康を意識した取り組みを実施し、働きやすい職場環境のために動いていることがうかがえる結果だ。
児童発達支援教室(アートチャイルドケア SED SCHOOL)
同グループ内では、発達に気がかりな点がある就業前の児童を対象に、アートチャイルドケア SED SCHOOLという支援も展開している。保育士、療法士、福祉士が在籍する施設で、個々を育む療育プログラムを実施するものだ。
成学社の取り組み
成学社は、日本での「かいせい保育園」学習支援のノウハウや運用方式を活かして、ベトナムダナン市に「ダナンかいせい幼稚園」を設立した。これは、ベトナムでの日本式保育の実践を推進するものだ。
すべての現地スタッフに研修型朝礼というオンライン教育を実施することで、名ばかりではない、質の高い教育を現地ベトナムに届けられるようにしている。これは、SDGs10の不平等をなくす取り組みのひとつである「機会の平等」につながる取り組みだ。
ベトナムの子どもたちの発達段階に寄り添い、養育、思いやりの心、教育が調和した環境づくりを目指している。
協和キリンの取り組み
すべての人が平等であるためには、国籍や性別などあらゆることを理由に不当な待遇を受けない社会にしていかなければならない。
協和キリングループでは、協和キリングループ人権基本方針のもと、その考えを定着させるために国内従業員を対象にした「人権啓発研修」を実施している。人権をテーマにした内容で、階層別研修として、新任経営職および新入社員を対象に毎年実施しているものだ。
また、同グループでは、人権課題でもあるハラスメントフリーを目指した環境整備と風土改善にも努めている。
具体的には、ハラスメント撲滅月間におけるトップからのメッセージの発信、全従業員への啓発研修といったものだ。ハラスメント相談窓口や内部通報制度も設置して、ハラスメントが起こった際に適切に対処できるような環境も整備している。
協和キリンのSDGs達成に向けた取り組みを含めたCSV経営についてはこちら
SDGs10に対して私たちにできること
最後に、SDGs10の達成に向けて、私たち個人でも取り組めることを取り上げる。
差別を見つけたら声を上げよう
職場や学校をはじめ、周りを見ると身近なところで差別が起きているかもしれない。身近な差別に気づいたら、声を上げ、その差別に対して注意する勇気を持とう。
性別や国籍、あるいは、社会的背景や性的指向、身体的能力に関係なく、人はみな平等であり、平等に生きる権利をもっている。
不平等と闘おう
職場の全員が必要な医療サービスを受けられているかなど、まずは労働者である自分自身の権利を知ろう。
また、社内の権利や制度だけでなく、労働にまつわる権利についても理解し、不平等があれば改善してもらえるよう行動していくことが大切だ。
開発途上国へ募金・寄付を行う
国内にいて、極端な格差を感じる機会は少ないかもしれない。しかし、国内から一歩出て、国外に出ると、特に先進国と途上国の間で大きな格差があることがわかる。
このような国家間の格差是正のために私たちがすぐに実践できることは、開発途上国への募金や寄付だ。
国際的に支援の届きにくい人たちへ優先的に支援の手が届くよう、活動を行っている団体に募金や寄付をすることで、間接的にでも途上国の不平等を是正することにつながる。
フェアトレード製品の購入に努める
開発途上国の製品を適正な価格で取引することをフェアトレードという。開発途上国の人が労働に見合った適切な資産を持てるようになることで、労働や生活環境改善が期待できる取り組みだ。
このようなフェアトレードを示すものとして、国際フェアトレード認証ラベル、国際フェアトレード原料調達ラベルがある。不平等を解消していくには、このようなフェアトレード認証を受けた製品を選んで購入するのもひとつの方法だ。
まとめ
SDGs10は、人や国の不平等を世界からなくすこと目指したSDGsのゴールのひとつである。世界はもちろん、国家間、国内においてもさまざまな不平等が存在しているのが現状だ。SDGs10達成のためにも、まずはSDGs10を意識して行動することからはじめたい。