社会との共有価値 【解説記事】SDGs15「陸の豊かさも守ろう」世界と日本の現状と取り組み事例

2015年の国連サミットで加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)が掲げられた。SDGsには17の目標が設定されており、そのうちの15番目の目標は「陸の豊かさも守ろう」だ。

今回は、目標15の概要と目標15に関連する企業の取り組みを紹介し、私たち個人でできることも取り上げたいと思う。

SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」とは?

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の17の目標のうち、15番目は「陸の豊かさも守ろう」で、陸の生態系に関しての目標が設定されている。陸は、私たち人類の生活を支える重要な環境資源だ。

私たちが口にする食料のほとんどは陸で生産される植物で、植物を育む陸地は私たち人類だけでなく、多種多様な生物にとって重要である。「陸の豊かさも守ろう」とは、陸の生態系を守ることで豊かな環境を維持しようというものだ。

1.国際協力のもと持続可能性を確保する

ターゲット1では、森林、湿地、山地、乾燥地や内陸淡水の生態系を守ること、生態系を育む自然を守り回復させることが目標に設定されている。

2.森林の持続可能な形の管理を進める

森林減少の問題は世界各地で起こっている。資源を利用する場合、持続可能な形で管理を行うようにすることで、森林減少を食い止め、さらには世界的規模で植樹や再植林を行うことで環境を維持することが目標の趣旨だ。

3.砂漠化に対応し土壌を回復させる

世界中のさまざまな場所で、砂漠化や干ばつや洪水により土地がダメージを受けている。劣化した土地を回復させ、砂漠化に対応していくことが3つ目の目標だ。

4.山地の生態系を守る

山地の生態系は持続可能な開発には欠かせない。4つ目の目標では、多様性を維持しつつ山地生態系の保全を確実に行うことが示されている。

5.絶滅危惧種を保護し対策を行う

生物が生息する自然が失われていくことで、生物の多様性も失われている。未来に向けて生物の多様性が損なわれないように、絶滅危惧種の保護と今後の対策が示されたのが5つ目の目標だ。

6.遺伝資源を適切に使う

ここでの遺伝資源とは、研究などに活用できる可能性のある生物の遺伝的な情報のことだ。6つ目の目標では、国際合意に基づき、遺伝資源を公正かつ公平に利用することを目標に設定している。

7.動植物の密猟や違法な取引に対し対策を行う

生態系を守るには、人間側の一方的な密猟や違法な取引を失くさなければならない。密猟や違法な取引に対して、需要を断つことを含め緊急の対策を取ることを7つ目の目標で設定している。

8.外来種が生態系に影響を与えることを防ぐ

国外の行き来が便利になったことで、外来種の侵入と生態系への影響が問題となってきた。目標の8つ目では、優先度の高い外来種の駆除を含め、生態系への影響を大きく減少させることが示されている。

9.生態系や生物の多様性を開発戦略に組み込む

9つ目の目標では、国や地方の開発や貧困削減の戦略に、生態系や生物の多様性の価値を含めることが示されている。つまり、より多くの人が生物について関心をもてるようにし、保全について前向きに考えてもらおうということだ。

目標15のa~cでは、目標15の達成を実現するための方法を示している。1~9までの項目ごとに定められた目標を達成するためには、a~cを実行する必要があると定めたものだ。

a.生物多様性と生態系のために資金を集める

aでは、生物の多様性や生態系を守るため、さらにそれらを継続して利用し続けられるようにするためには、あらゆるところから資金を確保することが必要であると示されている。

より多くの資金を集めることで、目標15の達成に向けた取り組みに対して資金を投入できるようにする必要があるということだ。

b.持続可能な森林経営のための資金調達と資源の動員をする

bでは、aと同様に資金調達が必要だと定められている。とくに、開発途上国における森林の保護や再植林などを持続していくための森林経営を可能とする必要があるためだ。

開発途上国が持続可能な森林経営を進んで行うためには、資金調達や十分なインセンティブの付与が必要である。そのため、資金調達や資金を投入するための資源動員の増加を求められている。

c.地域コミュニティの能力向上を図る

目標15の達成は、資金を集めるだけでは実現しない。資金の投入が一時的な状況の打開策になったとしても、継続し続けることが難しいためだ。

そのため、cでは地域コミュニティの能力向上を図り、持続的な生計機会や継続した収入を得るための仕組みづくりが重要だとされている。

持続的に安定した生計機会が得られれば、保護対象となる動植物の乱獲や密猟を行う必要もなくなるだろう。

また、保護種の密猟などの違法取引を取り締まる活動に対して、国際的な協力や支援の強化も必要だと定められている。

目標15が生まれた背景

SDGsの目標15が生まれた背景には、森林の減少や生物の多様性が失われている現状や、今後さらに深刻化する見込みがある。

目標15の達成を実現するためにも、なぜ目標15の達成が必要なのか、問題視されている現状について知ることが重要だ。

ここからは、目標15が生まれた背景にある、森林や野生動物などの危機的現状について紹介する。

失われる森林

地球の陸地面積の約31%を占める森林は、毎年約330ヘクタール減少しているといわれている。

森林が減少しているのは、人口増加による居住地の開拓や農業、産業に対する過度な需要、気候変動などが原因だ。

また、世界的には全人口の20%強にあたる約16億人が、森林由来資源に依存した生活をしていることも森林減少に影響している。

農業や林業、鉱業などの職業として、あるいはエネルギー、観光、貿易などの資源として森林由来資源を活用しているため、生活に欠かせないものだ。

目標15が定められた背景として、失われる森林を保護するには、世界中で包括的に森林資源に依存しない社会の実現が必要であることが、理由のひとつとして考えられる。

野生動物の絶滅危機

目標15が生まれた背景には、野生動物が絶滅危機にさらされている現状も影響している。

陸生の動植物や昆虫種は、全体の80%以上が森林を住処にしているため、森林の減少によって住処を失っていることが理由のひとつだ。

20世紀後半から、森林伐採や地球温暖化による気候変動、外来種の侵入などの影響によって生態系のバランスが崩れ、生物多様性が損なわれつつある。

森林伐採によって植物が減ると、植物を餌にしている昆虫種や小動物が減少し、それらを捕食する爬虫類、鳥類の減少につながり、連鎖的に動植物の絶滅が起こってしまう。

絶滅の危機に瀕している生物は「レッドリスト」に指定されており、世界中で未認知の生物を含む約1,000万種のうち、毎年0.01~0.1%の生物が絶滅しているといわれている。

日本でも130種以上がレッドリストに指定されており、地球史においても深刻な速度で生物の絶滅が進んでいるのが現状だ。

生物の多様性が損なわれると、生態系のバランスが崩れ、外来生物の侵入による被害も深刻化する。

外来生物の侵入による被害は、動植物に対してだけのものではない。農林水産業や人々の暮らしに影響を及ぼし、食糧難や干ばつ、砂漠化などにもつながる深刻なものに発展するおそれがあるためだ。

森林や動植物の生態系を維持することは、我々人類の安定した生活維持にもつながるため、深刻な現状を打破すべく目標15として定められている。

砂漠化の進行

砂漠化とは、草木が生育する土地が、さまざまな理由から植物の生えない土地に変容してしまうことだ。国連環境開発会議(UNCED)が策定した砂漠化対処条約では、「乾燥地域、乾燥地域及び乾燥半湿潤地域における種々の要因(気候の変動及び人間活動を含む。)による土地の劣化」と定義されている。

原因は、気候的要因と人為的要因のふたつに分けられる。

  • 気候的要因
    地球温暖化などによって気候が変動すると、極端に少雨になり干ばつが起こる。すると、土地が極度に乾燥し、植物が生育できない土壌となってしまい、砂漠化が一気に進んでしまう。
  • 人為的要因
    森林を大規模に伐採する、過剰な開墾耕作をする、家畜を大量に放牧するなどが人為的要因にあたる。一度地表の植物が消失してしまうと、風や降水時の水流などで表面の土壌が失われ、ますます植物が生えにくくなるのだ。

砂漠化すると植生や土壌が劣化し、食料となる農作物や家畜の飼料が確保できなくなる。飢餓や貧困・難民の発生にもつながるなど、影響は多方面に及ぶため、深刻な問題だ。

さらに、このような被害は開発途上国で多くみられる。たとえば、アフリカ諸国ではたびたび深刻な干ばつが発生し、住民が森林や水といった自然資源を過剰に確保しなくてはならず、このことが更なる土地の劣化を招いている。

砂漠化は、気候的要因と人為的要因、社会的な不安定により、悪循環に見舞われているのだ。

【国際】SDGs目標15の取り組み事例

SDGsの目標15を達成するために、世界の国々が協力し、さまざまな取り組みが行われている。

ここでは、ワシントン条約・カルタヘナ議定書・REDD+について見てみよう。

ワシントン条約

ワシントン条約は、日本をはじめ約170ヵ国の国が加盟しているもので、正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」である。

アメリカのワシントンD.Cで採択されたことから、ワシントン条約と呼ばれるようになったものだ。

ワシントン条約は、輸出国と輸入国が協力して国際取引を制限することで、絶滅危惧種の保護を目的としている。生きたものだけでなく、体の一部を使用した加工品の取引も禁止している。

カルタヘナ議定書

カルタヘナ議定書とは、生物多様性の保護に関する国際的な取り決めのことだ。2000年1月にカナダ(モントリオール)で採択され、日本は2003年11月に批准した。

カルタヘナ議定書は、遺伝子組み換えをした生物(LMO)が、生態系に悪影響を及ぼすことを防止するための措置を規定している。具体的には、LMOの輸出入手続きや、その取扱いなどについて、以下のようなルールが定められている。

  • 輸出国は、LMOが国境を超える移動をする場合に輸入国に対して通告し、情報を提供する
  • 輸入国は、輸出国から提供される情報をもとに危険性の評価を行った上で、輸入の可否を決定する
  • 締結国は、食料や飼料などに利用するLMOの国内利用について最終決定を下した際は、決定内容とLMOの情報をBCH(バイオセーフティに関する情報交換センター)を通じて他の締結国に通報する
  • 締結国は、BCHが提供する他の締結国の情報に基づき、自国の国内規制に従って食料や飼料として利用するためのLMOの輸入について決定できる

出典:「カルタヘナ議定書(生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書)別ウィンドウで開きます」(外務省)

このようにして、LMOの悪影響を防ぎながら、人類が抱えるあらゆる課題を解決する有効な手段として用いる方法が模索されているのだ。

REDD+

REDD+は、途上国の森林を保全活動に対して、国際社会が経済的な利益を提供するものだ。

これは、森林を伐採するよりも保全活動を行った方が経済的利益を得られる仕組みをつくることで、森林破壊や温暖化を抑止する目的がある。REDD+で重要とされているのは、地域コミュニティや先住民族の権利を保障する方法で実施することだ。

気候変動や森林保全などに対する単純な対策ではなく、地域の人たちの生活も保障しながら取り組みが進められるような仕組みづくりが行われている。

【日本】SDGs目標15の取り組み事例

日本においても、SDGs目標15の達成のために、あらゆる取り組みが行われている。

ここでは、絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略と30by30を挙げ、日本における取り組み内容を確認しておこう。

絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略

「絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略(種の保存法)」の策定もSDGs目標15の達成に向けた取り組みのひとつである。国家間の絶滅危惧種取引を規制したものがワシントン条約であれば、種の保存法は国内規制にあたるものだ。

罰則規定をもうけて捕獲や流通の規制を行うことに加え、保全に必要な知識や見解の共有、既存の規制を複合的に活用した保護活動などを行っている。

30by30

30by30は、2030年までに陸域・海域の30%の保全・保護を目指す目標だ。2021年6月に開催されたG7サミットで合意された「G7 2030年 自然協約」において策定された。

30by30を達成するための要素のひとつとして、OECM(Other effective area-based conservation measures)認定の拡充が勧められている。OECMとは、生物多様性の保全に貢献する地域のことだ。法律で定める保護地域とは別に、効果的な統治・管理が行われている。

認定基準の見直しや認定体制の整備を行い、2023年中には、少なくとも100地域以上のOECM認定を行うことを目標としている。

【企業】SDGsの目標15の取り組み事例

国際的な目標であるSDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」を達成するには、政府をはじめ、企業などのさまざまな組織が問題を意識し、課題解決に向けた取り組みをはじめるべきである。

私たち個人も、普段利用するような企業がどのような取り組みを行っているか関心をもつことが重要だ。SDGsの目標15のうち、企業における取り組みをいくつか挙げたい。

日本航空株式会社

日本航空株式会社では、JALグループ全体をとおして、独自の「JALグループ生物多様性方針」を定めている。毎年見直しが行われる、航空事業と生物多様性の関わりを整理した方針だ。事業活動を通じて、生態系の負担を軽減できるよう設定された。

また、事業活動における生物多様性との関わり方を見直すと同時に、生態系を保全するための取り組みも実施している。

ひとつは、国の天然記念物に指定されているタンチョウを保全する取り組みだ。2016年からは北海道でのタンチョウ採食地の環境整備を行ってきた。タンチョウについて多くの人が関心をもてるよう「JALタンチョウフォトコンテスト」も実施している。

ほかにも、航空機で持ち出される絶滅危惧種を発見し事前に不正な取引を防止する「野生生物の違法取引防止」など、生態系の保全に力を入れているのがJALグループのSDGsの環境に対する取り組み方針だ。

生物多様性を守る日本各地の取り組みについては、以下の記事で紹介している。

アートコーポレーション株式会社

過度な紙資源の利用は、必要以上の森林伐採のような環境破壊につながる。そこで、アートコーポレーション株式会社は、SDGsの目標15に関連し紙資源を使わない取り組みをすすめている。

引っ越しで紙資源が無駄に使われないようにするため、アートコーポレーション株式会社では、紙資源を使わない「エコ楽ボックス」シリーズを開発した。エコ楽ボックスでは、紙資源に頼らない梱包が可能だ。

ほかにも、使用済みダンボールのリユース、社内業務の電子化によるペーパーレスの取り組みを推進し、地球環境にやさしいエコな活動を継続している。

協和キリンの取り組み

協和キリンでも、CSV経営をとおして、SDGsの目標15の達成を目指している。

目標15に関連した取り組みのひとつが、FSC®認証紙の導入だ。FSC®認証紙とは、持続可能な形で生産された木材など、森林環境に配慮し、責任をもって調達されている紙を示したものだ。

FSC®管理協議会認証紙は、FSC®の基準に基づき、森林の環境に配慮し、社会的な利益にかない、経済的にも継続可能な形で生産された木材や、その他、リスクの低い管理された原材料が責任をもって調達されていると認証された紙のことである。

協和キリンはFSC®プロモーションライセンスを取得している(FSC®N003037)。

また、協和キリンのバイオ医薬品を製造する工場のある群馬県高崎市では、森林整備活動を10年に渡って実施してきた。地域の方とともに活動することで、地域コミュニティの育成、環境保全などの意識向上にも努めている。

目標15の達成に向けて個人ができること

SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」を達成するには、私たち一人ひとりが意識を変え、正しい行動をとることが重要だ。目標15に関連して、個人ができることを3つ取り上げる。

認証ロゴマークのついた製品を買う

FSC®認証マークは、森林管理協議会の森林認証制度で、協和キリンの取り組みでも紹介したように、森林環境に配慮されて生産されたことの証である。FSC®認証マークのある製品は、事業者だけでなく、一般の消費者も購入することが可能だ。

そのほか、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)、フェアトレード認証、レインフォレスト・アライアンスマーク、グッドサインマークなど、さまざまな認証制度がある。

認証ロゴマークがついている製品を買うことで、個人でも直接企業の取り組みを支援することができるだろう。

消費の仕方を改める

消費の仕方を改め、食品は「旬産旬消」を心掛けることも、個人でできる取り組みのひとつだ。旬産旬消とは旬の時期に消費することで、生産における負担を軽減する考えのこと。

旬の食材は、生産にかかるマンパワーやコストを削減することができる。また、地産地消することで、輸送コストを削減すれば温室効果ガスの抑制にも貢献できるだろう。

消費するうえでは、廃棄を減らすために必要なものを必要な分だけ購入することを心掛けるのも良い。フードロスの削減につながり、限りある食料資源を無駄なく消費できるようになるだろう。

環境に優しい事業・取り組みを知る

国や自治体、企業が行っているさまざまな取り組みについて知見を深め、消費者として投資するのも個人でできる貢献方法のひとつだ。

エコツーリズムに参加して、地域の自然環境や歴史文化に触れて価値を知り、保全活動の大切さを再認識するのも良いだろう。

また、企業が行っている非財務活動(環境経営活動も含む)の評価指標DBJ環境格付をチェックし、農薬の低減など持続農業法を活用しているエコファーマー認定制度を知ることも重要だ。

まずは、どのような取り組みが行われているのかを知り、資金的支援につながる消費活動によって企業の支援を行うことからはじめると良いだろう。

まとめ

SDGsの目標15は、森林などの陸地の環境保護、陸地や淡水の生物の保護や多様性の維持を目的とした目標だ。森や河川などの自然は身近に感じやすいことから、問題としては意識しやすいのではないだろうか。

まずは、問題に目を向けて、個人でもどのような取り組みができるか、どのような企業の支援や商品の購入が社会貢献につながるか考えてみると良い。

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