People & Culture 【解説記事】SDGs目標2「飢餓をゼロに」とは?現状・原因や取り組み事例
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )の達成に向けて、2015年9月の国連サミットにて17の目標が掲げられた。
その中でも目標2は「飢餓をゼロに」と題されていて、世界的な食糧不足や食品ロスなどにもかかわる重要な問題提起である。
では、具体的になにを目的として「飢餓をゼロに」を掲げ、企業や自治体、国ではどのような取り組みが行われているのだろうか。
この記事では「飢餓をゼロに」の目標が掲げられた背景や、自治体や企業で行われている取り組みについて触れ、今私たちにできることについて考える。
SDGs2「飢餓をゼロに」とは?
ここからは、世界的な飢餓によるSDGsの目標2が生まれた背景と、目標2のターゲットについて紹介していく。
飢えをなくし、持続可能な農業を促進する
目標2では、飢えをなくして持続可能な農業を促進することをテーマとして掲げられている。世界規模で課題となっている飢餓を終わらせることを目的として、食糧安全保障および栄養改善の実現や持続可能な農業を促進するものだ。
目標2でターゲットとして掲げられている項目は以下のとおりである。
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2-1 | 2030年までに、飢餓を撲滅し、全ての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする。 |
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2-2 | 5歳未満の子供の発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意されたターゲットを2025年までに達成するなど、2030年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者の栄養ニーズへの対処を行う。 |
2-3 | 2030年までに、土地、その他の生産資源や、投入財、知識、金融サービス、市場及び高付加価値化や非農業雇用の機会への確実かつ平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住民、家族農家、牧畜民及び漁業者をはじめとする小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増させる。 |
2-4 | 2030年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭(レジリエント)な農業を実践する。 |
2-5 | 2020年までに、国、地域及び国際レベルで適正に管理及び多様化された種子・植物バンクなども通じて、種子、栽培植物、飼育・家畜化された動物及びこれらの近縁野生種の遺伝的多様性を維持し、国際的合意に基づき、遺伝資源及びこれに関連する伝統的な知識へのアクセス及びその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を促進する。 |
2-a | 開発途上国、特に後発開発途上国における農業生産能力向上のために、国際協力の強化などを通じて、農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発及び植物・家畜のジーン・バンクへの投資の拡大を図る。 |
2-b | ドーハ開発ラウンドのマンデートに従い、全ての農産物輸出補助金及び同等の効果を持つ全ての輸出措置の同時撤廃などを通じて、世界の市場における貿易制限や歪みを是正及び防止する。 |
2-c | 食料価格の極端な変動に歯止めをかけるため、食料市場及びデリバティブ市場の適正な機能を確保するための措置を講じ、食料備蓄などの市場情報への適時のアクセスを容易にする。 |
出典:外務省「Japan SDGs Action Platform」
数字で掲げられているものはそれぞれの項目における達成目標であり、アルファベットで掲げられているものは実現するための方法を示したものだ。
目標2を達成するために企業や自治体、国ではあらゆる施策が行っている。
目標2が生まれた背景
目標2が生まれた背景には、世界規模で問題となっている飢餓人口増加の影響がある。2019年、世界の飢餓人口は約8億2,800万人いるとされており、2014年には減少したものの近年は再び徐々に増加に転じてきた。さらに、新型コロナウイルスの世界的流行によって世界全体の飢餓人口はさらに増加してきている。
ユニセフ、国連食糧農業機関、国際農業開発基金、国連世界食糧計画、WHOが共同で発表した「2022年版 世界の食料安全保障と栄養の現状」では、飢餓の深刻な状況が明らかになった。
この報告書によると、2021年には約23億人が中度から重度の食料不安に陥ったとされている。深刻なレベルでの食料不安は、約9億2,400万人に達した。
そのため、今後目標2の達成に向けて企業や自治体、国だけでなく、個人でできる取り組みや世界的飢餓状況を認知することが求められている。
飢餓の世界の現状
世界で起きている飢餓は、国や地域によって偏りがある。中でも厳しい状況にあるのがアフリカやアジアの国や地域だ。飢餓の現状について、アフリカとアジアに分けて説明する。
アフリカの飢餓
アフリカは、世界で飢餓蔓延率が最も高いとされるエリアだ。2018年時点におけるアフリカの飢餓人口は約2億5600万人で、徐々に蔓延率も上昇してきている。
アフリカにおいて飢餓が深刻な問題になっているのは、悪天候や異常気象に加え、内戦や紛争などが飢餓を助長させてきたためだ。このような要因に経済低迷も加わり、アフリカの多くの地域で飢餓人口が増加している。
中でも深刻なのが、南スーダン、中央アフリカ共和国、ソマリアなどの国だ。東アフリカの国々においては、人口の約3割が栄養不足により苦しんでいるとされている。
出典:世界の飢餓人口は3年連続で未だ減少せず、肥満は依然増加傾向-国連の報告|WFP
アジアの飢餓
アジアは、世界で最も飢餓人口が多い地域で知られている。2018年時点のアジアの飢餓人口は、約5億1390万人であった。当時の世界の飢餓人口が約8億2160万人であることから6割以上をアジアの国や地域が占めることとなる。
一方で、飢餓問題に苦しむアジアでは子どもの肥満人口の増加も深刻だ。これは不健康な食生活からくるもので、十分な量の食料の供給だけでなく、栄養のある食料の供給も課題となっている。
出典:世界の飢餓人口は3年連続で未だ減少せず、肥満は依然増加傾向-国連の報告|WFP
飢餓の原因とは?
世界の飢餓の状況について説明してきたが、なぜ現代においても飢餓が発生し、そのうえ増加しているのだろうか。
そもそも飢餓とは、長期間食事ができないことにより栄養不足に陥り、生活や生存が困難になっている状態を指す。
生活や生存が困難というのは、生命の維持だけが飢餓の基準ではない。健康で社会的な活動が行えないことも飢餓の基準であり、そのための最低エネルギー必要量を継続的に入手できないことも飢餓にあたる。
また、食事はカロリーだけでなく、栄養素などの質も重要だ。生命の維持に必要な栄養素の不足はさまざまな病気の引き金にもなる。
ここまでが飢餓の基準だが、飢餓の主な原因は、慢性的貧困、自然災害、紛争だ。それぞれの原因について解説していく。
慢性的貧困
国の産業構造や地域の社会構造などによって慢性的貧困から抜け出せなくなると飢餓状態に陥る。特に慢性的貧困が多く見られるのが、農業が主産業になっている発展途上国だ。
農業を収入の糧にしている途上国では、気候変動や自然災害が影響し、農作物の生産が止まり、収入が得られなくなることがある。また、貧しい農民は収入が十分にないため、農業に必要な資源の確保が難しい。結果として自給自足も困難になってしまう。
さらに、貧しい世帯の子どもたちは十分な教育を受けられないことが多いため、貧困が連鎖しやすい。貧困の連鎖により飢餓状態からなかなか抜け出せなくなる。
自然災害
洪水や干ばつ、地震や津波といった自然災害により、突発的な飢餓が発生することがある。自然災害によって、農作物が被害を受けるためだ。
自然災害により甚大な被害を受けると、農業で生計を立てていた人は生活基盤が失われ、飢餓に陥る。近年、気候変動の影響による干ばつにより、十分な食料確保が困難になってきたことも問題として取り上げられるようになってきた。
紛争
紛争も飢餓を引き起こす原因のひとつである。紛争が起きると、多くの人が家や農地を去って、難民キャンプなどへ避難を余儀なくされるためだ。多くの難民が過ごす難民キャンプでは、十分な食料の確保が難しく飢餓状態に陥りやすい。
また、家や農地に戻れたとしても、紛争状態ではリスクも大きく、食料の確保は非常に困難である。
SDGs目標2の達成に取り組む企業事例
ここからは、SDGs目標2の達成に向けて、企業が行っている取り組みの事例について紹介する。
富士通株式会社
富士通株式会社では、米取引のためのデジタル・プラットフォーム「ライスエクスチェンジ」の導入を行っている。
このプラットフォームを活用して米取引を行うことで、取引コスト20%削減、手続き時間の90%削減を実現した。
取引の効率化によって、小規模農家へより大きな利益の提供や廃棄の削減にもつながり、サステナブル(持続可能)な米市場の実現に貢献している。
小川珈琲株式会社
小川珈琲株式会社では、国際フェアトレード認証コーヒーの販売に着手した。フェアトレードとは、コーヒー豆の栽培を行う開発途上国の農家の生活が成り立つように考慮し、フェア(公正)な適正価格で輸入を行った製品を指す。
コーヒー以外にもチョコレートの原料であるカカオや紅茶、コットンなどでもフェアトレードを推進する動きが出ている。
小川珈琲では、毎年5月をフェアトレード月間として、特別メニューの提供や国際フェアトレード認証コーヒーの販売をスタートさせた。
また、化学合成された農薬や肥料、遺伝子組み換えなどに頼らず栽培を行った原料でつくられた「有機JAS認証コーヒー」の販売も行っている。
化学合成された薬品は体に合わない人も存在するだろう。そのため、栽培土壌に負担を感じている生産者にとっては健康に優しい栽培方法だ。
小川珈琲では、SDGsの達成に向けた取り組みとして、フェアトレード認証や有機JAS認証されたものを販売する形で支援を行っている。
特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International
特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO Internationalでは、TFTプログラムとして、社員食堂や店舗などでTFTヘルシーメニューを購入することで20円が寄付になる取り組みを行っている。
TFTプログラムとは、先進国でヘルシーメニューを食することで、寄付金が開発途上国に寄付金20円が贈られるという仕組みだ。開発途上国の学校給食は1食20円のため、先進国で購入したTFTヘルシーメニュー1食が、開発途上国の学校給食1食分につながる。
また「おにぎりアクション」では、SNSで「#OnigiriAction」をつけて投稿すると、写真1枚につき学校給食5食分をアフリカやアジアの子どもたちへTFTを通じて届けられる。
これまで2015年から累計100万枚の写真が投稿され、約540万食の給食が届けられた。SDGsの目標2で掲げられているターゲットは、自治体や国規模の大きなものだけでなく、企業の身近な取り組みに賛同し協力することで、個人でも貢献することができる。
「飢餓をゼロに」を達成するために私たちができること
SDGsの目標2「飢餓をゼロに」を達成するためには、私たち一人ひとりが問題を受け止め、個人でもできることに貢献することが大切だ。
ここからは、目標2達成のために私たちができることの例について紹介する。
支援団体に寄付をする
目標2の達成にむけてさまざまな取り組みを行っている支援団体に対し、寄付をすることであれば個人でも貢献できる。
支援団体に活動資金の多くは寄付でまかなわれており、食料支援や貧困解消に向けた活動の基盤となるものだ。
直接活動に参加することはできなくとも、寄付をする形で支援団体の活動を支援すれば、貧困解消や飢餓ゼロの達成に貢献できるだろう。
フェアトレード認証の食品を購入する
フェアトレード認証の食品を購入することで生産者の元に正当な報酬が入るため、消費活動でも生産者の豊かな食生活実現に向けて個人で貢献できる。
SDGsは「持続可能な開発目標」であり、持続し続けられる支援が重要になるものだ。
たとえば、生活の中で消耗するものをフェアトレード認証やSDGs達成に貢献している商品から選び、サブスクリプションで定期購入すれば、継続した支援が可能になる。
金銭的な支援も重要ではあるが、持続可能な支援を行うことを重視するのであれば、自身の生活の中にSDGs目線での食品選びを自然と取り入れるのも手段のひとつではないだろうか。
食べ物をムダにしない
食べ物をムダにせず、食品ロスを減らす取り組みであれば、個人でも目標2達成に貢献できる。
食べる分だけを購入し、食べきれず残ったものは冷凍保存して活用するなど、廃棄量を減らすことが重要だ。
世界では食料不足による飢餓が深刻な国や地域がある一方で、先進国では食料が余っているなど、食品ロス問題は過剰供給による供給量の偏りがあることを知っているだろうか。
食品ロスを減らすためには、個人の食品ロスを減らして過剰供給を解消し、飢餓に苦しむ人たちへの供給量を増やすことが重要だ。
詳しい食品ロスと飢餓の関係については以下のページで紹介している。ぜひ参考にしてほしい。
まとめ
「飢餓をゼロに」は、世界的パンデミックの影響で達成状況が鈍化しており、今後さらに達成に向けた取り組みを活性化させる必要があるといわれている。
私たち個人にできるのは小さなことではあるが、それが数百、数千、数万、と広がれば、大きな推進力になるだろう。