社会との共有価値 【解説記事】企業がSDGs達成を目指すときの問題点|取り組み事例を紹介
2015年に持続可能な開発目標であるSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )が発表されて、多くの企業ではさまざまな取り組みが行われてきた。
しかし、その中でいくつか問題点も挙げられており、目標達成のためにはいち早く解決する必要がある。
そこで今回は、SDGsの取り組みで見られた問題点について解説し、その解決方法についても説明しよう。
企業がSDGsの達成に取り組む際の問題点
SDGsの達成に取り組むことで、企業は売上・利益の向上、コスト削減といった大きなメリットを得られる。
課題解決に向けた新製品・サービスの開発を通して事業を拡大させたり、資源・廃棄物の使用量削減や再利用の推進によってコスト削減を達成したりと、活動に見合った成果を上げているケースも多い。
また、ESG投資が話題となっている現在、投資先としての企業価値が評価されるのもメリットのひとつである。
一方で、新たな問題点も浮き彫りになった。
すでに2030年のゴールに向けて「行動の10年」といわれる時期に突入しており、今後はさらなるSDGsの推進が求められている。
そこで、現在確認できている課題を把握することによって、より効率的で確実な取り組みにつながることだろう。
現状を知ってSDGsの達成に役立ててもらえるよう、特に重要な点について解説しよう。
企業内での理解度が低い
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)の調査(2018年)により、企業がSDGsに取り組む際の課題についてアンケートが取られた。
最も多くの企業が課題と感じている項目は「中間管理職の理解度が低い」で48%、次いで「一般職層の理解度が低い」が47%という結果になった。
このことからも分かるように、約半数の企業は、社員のSDGsへの理解度の低さを問題視しているのだ。
同調査では認知度についてもアンケートが行われており、「主にCSR担当に定着している」は84%、「経営陣に定着している」が54%と高い水準であるのに対し、「中間管理職に定着している」という回答はわずか18%であった。
これは、経営に関わる部門や経営者がSDGsの意義や目的について、中間管理職を含む一般職に伝えきれていないことが分かる結果である。
より取り組みを強化し、普及していくためにも解決すべき問題点といえるだろう。
達成目標が理解しにくい
SDGsという言葉自体は世間にも浸透しつつあるが、明確な解決策がイメージできる人は少ないだろう。企業が掲げる目標にも「より公正な」や「さらにクリーンな」など抽象的な言葉が使われやすい。
人によって解釈が異なる表現は、達成目標として共通の理解が得られにくく、取り組みを実施する側としても活動の統率が難しくなる。目標が明確でない場合は、効果の検証も困難になるだろう。
SDGsの観点にそぐわない取り組みを行っている
SDGsの取り組みに関して、正しい認識が不十分な場合は、企業の取り組みが単純な「ビジネスチャンス」を目的としたものになりやすい。
目標4である「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」に対する働きかけを例として説明しよう。
これはすべての人を対象としている目標なので、貧富を問わず誰もが入手できる学習機会を求めた内容である。
しかし企業側の最終目的が、開発途上国を新たな販売ルートとして確保する、自社製品の売上拡大などの場合は、SDGsの観点と違う取り組み方になるだろう。
より収入が得られやすいように、富裕層だけが購入できる高価な教材の開発や販売に注力するかもしれない。
本来は貧困層にも購入できる価格帯で質の高い教材を開発し、多くの子どもたちに広く普及することが目標であるため、正しい取り組みとはいえないのだ。
このように十分な理解と目標設定がなければ、企業努力を行っていたとしても、SDGsの観点とのズレが生じるのである。
このような状態を「SDGsウォッシュ」という。英語で「ごまかし」を意味するホワイトウォッシュ(whitewash)をもちいて、SDGsをごまかしているという意味で組み合わされた造語である。
以前より、あたかも環境に配慮しているかのように見せかけた企業に対して「グリーンウォッシュ」という言葉が使われており、そこから派生した表現だ。
SDGsへ取り組む企業は世界的にも評価されやすく、ブランドイメージの向上や新規の顧客獲得、優秀な社員の確保、売上増加など多くの利益にもつながりやすい。
そのため、誇大な宣伝や根拠のない成果などをアピールする企業が増えている。次項で説明する実態がともなわない活動もSDGsウォッシュのひとつだ。
実態がともなわない活動を行っている
企業によっては、社会貢献活動の展開をアピールする一方で、環境破壊や土地収奪を起こしているケースもある。
たとえば、SDGsへの取り組みを行っている会社が、実は産業廃棄物の不法投棄を行っているという可能性もあり得るのだ。
また、商品を製造・販売する過程で児童労働などの問題が発生し、メディアとしても大きく取り上げられ批判を受けた大手企業も存在する。
このような現場で行われている不当な行いは、経営層が把握していない場合もある。
その際は、前述した社員の理解度の低さが原因となっている可能性も考えられるだろう。
どちらにせよ、掲げられている目標と実態が合っていないのであれば、すぐにでも確認と見直しが必要である。
資金の捻出が難しい
企業がSDGsの達成に向けた取り組みを進めるには、個人レベルの意識だけではなく、組織的な活動や技術革新も必要になる。
新たな活動や事業には、物品や人員などに多額の費用が発生するため、資金の捻出が課題になる企業も多いだろう。
世界的に見ると、特に発展途上国などでは資金繰りに余裕のない企業が多い。一方で、先進国に比べて発展途上国の方が早急に解決すべき課題が多く残されているため、資金に余裕がないエリアこそ取り組みを進める必要があるのだ。
この矛盾点は世界的に解決すべき問題といえる。
SDGsを企業で実践していくための解決策
SDGsの目標を達成するためには、見つかった問題点に対処しなければならない。
ここからは、問題を解決するための有効な手段について解説しよう。
長期的な達成目標としてとらえる
企業がSDGs達成を目指すための取り組みを実施するには、先行投資が必要になる。
利益向上やコスト削減は、短期的に成果を得られるものではない。SDGsで描かれている将来像に近づくためには、目先の利益を求めず、より長期的な目標としてとらえることが重要だ。
社会貢献や環境保全活動を実践している企業は、顧客やステークホルダーからの信用が得られやすい。継続していくことで、着実に企業価値が向上していくだろう。
さらに、ブランドイメージが確立されれば、新規顧客の獲得や長期的な取引にもつながりやすい。結果的に売上・利益の向上を実現できるのである。
取り組みの意義を伝える
なぜSDGsに取り組む必要があるのかを理解していないと、正しい考えや実践ができないのも当然だ。
目標達成のためには、会社全体でSDGsの意義や目的について正しく学ぶ姿勢が重要だといえるだろう。
とはいえ、企業とは営利団体であるという前提から、将来につながる新たなビジネスチャンス、企業イメージの向上や生存戦略としての有効性など、どのような効果があるのかを具体的に説明することも軽視してはならない。
経営層や社員に対して取り組みの意義をうまく伝えることができると、実際の行動にも反映することができる。
特に認識が進んでいないとされる中間管理職、一般職への理解を積極的に促すことで、企業全体がSDGsに対して正しく活動できるようになるだろう。
事業・活動とSDGsの関係性を明らかにする
企業が事業の一環としてSDGsに取り組む際、経営理念との統合が重要である。経営理念と取り組みに一貫性があれば、従業員やステークホルダーからの共感も得られやすい。
また、経営理念に基づく経営戦略として具体的な目標を定めることで、継続的な取り組みが可能になる。
その指針として役立つのが「SDGsコンパス」だ。SDGsコンパスを活用することで、経営理念に即したSDGs達成への取り組みを進めることができる。
ステップは以下の5つだ。
- SDGsを理解する
- 優先課題を決定する
- 目標を設定する
- 経営を統合させる
- 報告とコミュニケーションを行う
これらをひとつずつクリアすることで、経営理念との整合性を高めつつ、一貫性のある取り組みができるようになるのだ。
また、事業や活動の内容について、SDGsとの整合性があるか、法的なリスクがないか、社会的評価が下がっていないかを定期的に確認する必要がある。
また自社の取り組みが環境や地域社会に与える影響を整理し、今後の方向性について検討することも重要だろう。
また、SDGsの目標やターゲットと紐付けすることで、より具体的に関連性も明らかにすることができる。
【事例】企業で行われているSDGsの具体的な取り組み
最後に、SDGsの観点に基づいた取り組みの例として、実際に企業が実施しているものを紹介する。
事例1.テラオライテック株式会社
水とエネルギー事業のプロフェッショナルとして活躍している企業の強みを活かし、目標6である安全な水に特化した取り組みを展開している。
国外に対しては、カンボジアでの食用魚養殖事業と上下水インフラ整備を行うプロジェクト「National Pride」を立ち上げた。
このプロジェクトは、水不足という深刻な問題に対して、新たな産業を生み出すことで雇用と資産を創出し、利益をカンボジア政府に還元することから始まる。
政府は利益を上下水道のインフラ整備に充てることができ、企業がその工事を請け負うことで、財源確保と公共事業のサイクルを確立させた。
水不足の改善を軸に、パートナーシップを結び雇用や貧困にもアプローチができており、さまざまな点に目標が紐付けられた取り組みといえる。
事例2.農事組合法⼈One
SDGsを農業に導入して地域に貢献している事業の例である。
持続可能な農業を目標に掲げ、生産を続けるために重要な農地の確保に注目し、環境改善型農業を実践しているのだ。
この取り組みでは、廃棄物の堆肥化、肥料の地域内循環につなげることで資源の有効活用に成功している。
海洋汚染の改善に向けて、2020年からはプラスチックが含まれる肥料の使用を中止することも決めた。
また農業の人手不足と雇用や福祉にも紐付けられる取り組みとして、障害者就労支援施設と連携することによって、障害者の方々の農業参入を促している。
まとめ
今回はSDGsの達成に向けて、改善が必要な問題点を解説した。多くの企業で取り組みが進められてはいるものの、社員への理解はまだまだ低い状態である。
また正しい認識が得られておらず、適切な行動に反映されていない部分もあるようだ。