社会との共有価値 【解説記事】【世界・日本・個人】地球温暖化の解決に向けた取り組み
環境などへの影響から、世界的に地球温暖化が問題視されるようになってきた。IPCCが発表した「第5次報告書」によると、今後約80年間の間で平均気温が最悪の場合4.8℃上昇するといわれている。
地球温暖化に対してどのような取り組みが行われているのか、基本的な考えをはじめ、国際的な取り組み、日本での取り組みを紹介する。
地球温暖化に対する基本的な取り組み方
地球温暖化への基本的な取り組みには、緩和策と適応策のふたつがある。
【緩和策】地球温暖化の「原因」を減らす
緩和策とは、地球温暖化の原因になる温室効果ガスの排出を削減、あるいは植林などで温室効果ガスを吸収させて実質的に排出を抑える対策をいう。
緩和策の例としては、以下が挙げられる。
- 太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの利用
- 節電や省エネの促進
- 森林整備や都市緑地化などによる森林の増加
【適応策】地球温暖化の「影響」を減らす
地球温暖化がもたらすのが気候変動だ。通常は長期間をかけて変動する気候が地球温暖化の影響によって短期間で変化し、大雨や洪水、高温、熱波、などの自然災害をもたらす。
適応策は、このような気候変動に対応できるよう、被害を回避または軽減したり、変動する気候を有効活用したりしようとする対策をいう。
適応策の例としては、以下が挙げられる。
- 河川や下水道の整備などによる災害への備え
- 熱中症対策
- 高温でも育つ農作物の品種開発
河川監視カメラを導入した防犯システムを普及展開するなど、影響への対応策だけでなく、気候変動をビジネスチャンスとして活動する例も見られる。
先に取り上げた緩和策による直接的な排出量の削減も重要な取り組みだが、過去に排出された温室効果ガスによる気候変動はもはや回避できない。緩和策のみならず、適応に向けた取り組みの強化も急がれている。
地球温暖化に対する国際的な取り組み
地球温暖化に対する国際的な取り組みには、「パリ協定」が挙げられる。パリ協定は、1997年の京都議定書の後継として採択された、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みだ。
特徴的なのは、先進国だけでなく途上国を含めたすべての参加国が温室効果ガスの削減に努めるとしたことである。先の京都議定書では途上国に削減義務がなかったが、途上国も含めた枠組みにしたことで、実効性が増した。
パリ協定では、世界共通の目標として以下のふたつの目標を掲げている。
- 産業革命以前と比べ、世界の平均気温の上昇を2℃より十分低く保ち、上昇を1.5℃に抑えるように努める
- 21世紀後半には、森林などによる吸収量のバランスを図ることで温室効果ガスの排出を実質ゼロにする
参考:今さら聞けない「パリ協定」~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~|経済産業省 資源エネルギー庁
パリ協定では、目標達成のために、削減や抑制目標を義務ではなく努力目標とする代わりに、専門家から定期的に進捗状況のレビューを受けること、2023年から5年ごとに全体的な進捗を測る実施状況の確認を行うことが盛り込まれた。
ほかにも、地球温暖化に関連する国際的な取り組みとして、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)が挙げられる。
SDGsは、国連サミットで採択された2030年までの国際的な目標だ。地球温暖化がもたらす気候変動に関しては、SDGs13「気候変動に具体的な対策を」が設定されている。
SDGs13で定められている達成目標は、適応策である災害に対する強靭性の強化、気候変動対策の政策などへの盛り込み、緩和策や適応策などに関する教育や啓発だ。
SDGs13「気候変動に具体的な対策を」については、こちらの記事で詳細を取り上げている。
SDGs13「気候変動に具体的な対策を」とは?現状と日本・国際社会の取り組み
地球温暖化に対する日本での取り組み
2021年4月、日本では、2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減を目指すこと、さらには50%削減に挑戦すると表明があった。
具体的なCO2排出量の現状と削減数値目標と対策方法について、産業部門、業務その他部門、家庭部門、運輸部門、エネルギー転換部門、の部門別に紹介する。
産業部門
産業部門は、二酸化炭素排出量のおよそ3割を占める部門だ。2030年の排出量の目標は2.89億トン、削減率は38%(2013年比)に設定されている。
目標達成のため、次のような取り組みがされている。
- 産業界での自主的取り組みの推進
- 省エネ性能の高い設備や機器の導入促進
- エネルギー管理の徹底
- 業種間での連携による省エネ取り組みの推進
たとえば、自主的な取り組みの推進としては、低炭素社会実行計画を着実に実施し、評価・検証するために、BAT(経済的に利用可能な最善の技術)の最大限導入による削減目標の策定や厳格な評価・検証が進められている。
中小企業の温室効果ガス排出削減に向けた取り組みも重要だ。エネルギー意識の向上を図るために、エネルギー担当者に対する講習の実施、商工会議所や自治体など地域を巻き込んだ省エネの取り組みを支援するプラットフォームの構築も計画に盛り込まれた。
業務その他部門
業務その他の部門は、業務床面積の増大などを理由に、2005年と比べて2013年の二酸化炭素排出量が増加している。排出係数とは
2013年度の排出量は2.38億トンで、2030年の排出量の目標は1.16億トン、削減率51%を達成するには大幅な削減が必要だ。
目標達成のため、次のような取り組みがされている。
- 低炭素社会実行計画の実施と評価・検証
- 建築物の省エネ化、省エネ性能の高い設備や機器の導入促進
- エネルギー管理の徹底
- エネルギーの面的利用の拡大
具体的な施策として挙げられるのは、新築建築物の省エネ基準適合の義務化によるエネルギー消費性能の向上、病院や学校などでのZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現、BEMS(エネルギーマネジメントシステム)の活用などだ。
家庭部門
業務その他の部門と同じように、家庭部門も2005年と比べ、2013年度の二酸化炭素排出が増えている。世帯数の増加などが理由だ。
2013年の排出量2.08億トンから、2030年の目標である0.70億トン、削減率66%を達成するには、すべての国民が地球温暖化を自分自身の問題としてとらえることが求められる。
目標達成のため、次のような取り組みがされている。
- 国民運動の推進
- 住宅の省エネ化
- LEDなどの省エネ性能の高い設備や機器の導入促進
- HEMS(住宅エネルギー管理システム)などによるエネルギー管理の徹底
住宅の省エネ化について取り上げると、より性能の高い住宅の建築をうながすため、新築住宅の省エネ基準適合の義務化、既存住宅の断熱改修、省エネ性能の高いZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)建築の支援、低炭素認定住宅の普及などが行われている。
運輸部門
運輸部門は自動車の燃費改善や輸送量の減少などを理由に二酸化炭素の排出量が減少してきている。とはいえ、2013年には2.24億トンであった二酸化炭素排出量を2030年には1.46億トン、削減率35%を達成すべく、さらなる取り組みが求められている。
目標達成のため、次のような取り組みがされている。
- 次世代自動車など自動車における対策
- 道路交通流対策
- 自動車運送事業のグリーン化
- 公共交通機関や自転車の利用促進
- 鉄道や船舶・航空機の省エネ化
- 低炭素物流の推進
たとえば、低炭素物流の推進にあたっては、共同輸配送による積載効率の改善、宅配ボックスの整備などによる再配達の削減、高速道路活用による輸送の効率化などが図られている。
エネルギー転換部門
エネルギー転換部門では、安全性を大前提に、エネルギーの安定供給を第一に考えつつ、低コストでのエネルギー供給、環境への適合が求められている。
削減目標は、2013年の二酸化炭素の排出量1.06億トンに対し、2030年の目標は0.56億トン、目標削減率は47%だ。
目標達成のため、次のような取り組みがされている。
- 太陽光発電や風力発電・地熱発電・水力発電・バイオマス発電といった再生可能エネルギーの導入
- 火力発電の高効率化
- 安全性のある原子力発電の活用
- 石油製品製造分野の省エネ
地球温暖化に対して個人でできる取り組み
日本における取り組みでも紹介したように、家庭部門でも多くの二酸化炭素が排出されている。地球温暖化による影響を最小限に抑えるには、私たち個々人が地球温暖化について理解し、防止に向けた取り組みを行うことが重要だ。
具体的な取り組みとしては、以下が例に挙げられる。
- エアコンの冷房や暖房の温度を控えめに設定する
- マイバック持参で買い物をする
- 自動車を控えて公共交通機関や自転車で移動する
- 使わない部屋の電気を消す
まとめ
地球温暖化防止に向けて、国際的な取り組みをはじめ、国内でもさまざまな取り組みが行われている。まずは、私たち個々人が地球温暖化に対して意識を向けることが重要だ。