社会との共有価値 【解説記事】身近な建物も?環境を守る「サステナブル建築」のメリットと事例
建築活動のなかでも、地球規模の持続的発展と、あらゆる人々の生活の豊かさの増進への貢献を図るのがサステナブル建築だ。本記事では「サステナブル建築」の基本概要やメリット、事例を紹介する。
サステナブル建築とは「持続可能な建築」のこと
サステナブル建築とは、建築における設計・施工・運用の各段階で、省エネルギー・省資源・リサイクル・有害物質排出抑制を目指し、長期的に利用し続けられる建築のことだ。
あわせて、その地域の気候、伝統、文化および周辺環境と調和しつつ、将来にわたって人間の生活の質を適度に維持、あるいは向上させていく建築物の構築を目的とする。
なお、サステナブル(sustainable)とは、「持続する」を意味するsustainと「可能」を意味するableを組み合わせた言葉で「持続可能な」を意味する。
参考:「サステナブル建築」(一般社団法人 日本建設業連合会)
サステナブル建築の3つの基準
サステナブル建築では、マクロ規模からミクロ規模までの多次元的・総合的な環境配慮が求められている。ここでの環境とは「地球」「地域」「生活」の3つの視点から構成される。それぞれの視点に応じた配慮項目を説明しよう。
地球への配慮
まず、地球の有限性と許容限界に配慮した「地球にとって持続可能な開発」を目指して、次の6項目が設定されている。
- 省CO2・節電:化石エネルギー消費が最小となるような設計および運用、省CO2と節電・ピークカットの両立
- 再生可能エネルギー:再生可能エネルギー活用を推進する設計および運用
(例) 固定買取制度の活用 - 建物長寿命化:長持ちし長く使い続けられる建物の設計および運用
- エコマテリアル:二酸化炭素排出や環境負荷の少ないリサイクル材などの利用を推進
- ライフサイクル:設計・施工・運用・改修・廃棄プロセスを通じた、一貫したライフサイクル・マネジメント
- グローバル基準:グローバルな性能評価基準への適宜対応
(例)LEED※1、Energy Star※2 など
引用:「サステナブル建築を実現するための設計指針」(一般社団法人 日本建設業連合会)
- ※1LEED(リード、Leadership in Energy & Environmental Design):米国グリーンビルディング協会が開発、および、運用を行っている建物と敷地利用についての環境性能評価システムのこと
- ※2Energy Star(エネルギースター):米国の環境保護庁(EPA)が制定した地球環境を守るための国際的な評価システムのこと
地域への配慮
続いて、近隣地域の環境やネットワークに配慮し「地域にとって持続可能な開発」を目指して、以下の6項目が設定されている。
- 都市のヒートアイランド抑制:外構・屋上・壁面の緑化、保水床、散水・打水など
- 生物多様性への配慮:既存の動植物に対する生態系ネットワークへの配慮
- 自然・歴史・文化への配慮:景観、歴史・文化、地域コミュニティへの配慮
- 地域や近隣への環境影響配慮:土壌汚染、大気汚染、水質汚染、交通量配慮、日影、騒音、振動、臭気、廃棄物などの配慮
- エネルギーネットワーク化:CEMS※3、スマートグリッドなどの地域に最適なエネルギーネットワーク化への配慮
- 地域防災・地域BCP※4:自然災害の防災およびライフライン確保など、事業継続性計画(BCP)への配慮
引用:「サステナブル建築を実現するための設計指針」(一般社団法人 日本建設業連合会)
- ※3CEMS(セムス、Community Energy Management System):地域全体のエネルギーを管理するシステムのこと
- ※4BCP(事業継続性計画、Business Continuity Planning):テロや災害、システム障害など危機的状況下に置かれた場合でも、重要な業務が継続できる方策を事前に取り決めておく画のこと
生活への配慮
最後に、「我慢の省エネ」から「快適かつ省エネ」な生活環境を目指して、次の6項目が設定されている。
- 安全性:平常時安全性(防犯、事故防止、弱者安全など)、非常時安全性(地震安全・BCP、火災安全など)
- 健康性:CO2濃度、化学汚染物質、感染症対策、清浄度、臭いなど
- 快適性:温熱環境、光環境、音環境など
(例) 輻射空調の活用 - 利便性:エレベーターの待ち時間、モジュール、動線、オフィススタンダード、IT環境など
- 空間性:眺望、広さ、色彩、触感、コミュニティ、緑化、アメニティなど
- 更新性:可変性、拡張性、冗長性、回遊性、収納性など
引用:「サステナブル建築を実現するための設計指針」(一般社団法人 日本建設業連合会)
サステナブル建築のメリットとデメリット
サステナブル建築は環境に大きなメリットがある一方で、デメリットもある。それらが取り組みを推進するうえでの課題となっているのも事実だ。ここでは、サステナブル建築のメリット・デメリットをそれぞれ確認していこう。
メリット:地球環境に貢献できる
建設業は、国内全産業の約4割の資源を利用し、約2割の廃棄物を排出しているといわれている。そんななか、サステナブル建築は、地球環境に配慮した最新技術を活用しているため、資源利用効率が高い。
これは、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の17の国際目標のうち、特に、9番目の「産業と技術革新の基盤をつくろう」と、11番目の「住み続けられるまちづくりを」の達成に大きく貢献している。
SDGsの目標9、目標11については以下の記事で詳しく解説している。サステナブル建築との関連性などについて、より知見を広げたい方は確認しておこう。
SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」日本の現状と解決策とは?
SDGs11「住み続けられるまちづくりを」とは?世界と日本の取り組み
デメリット:手間とコストがかかる
サステナブル建築は、従来の一般的な建築と比べると、必要な設備や素材が高額になるほか、特に設計・施工の段階でより多くの手間がかかる建築である。結果的に、トータルの建築コストが一般的な建築よりも高くなることがデメリットだ。
例えば、太陽光発電の設置や最新の省エネ設備の導入には、多くの初期コストがかかる。
しかし、環境に配慮した設計・設備の導入によって、日々のエネルギー消費は通常よりも抑えられるため、中長期的にはコストを回収できる場合も多いことは忘れてはならないポイントだ。
日本におけるサステナブル建築の事例
ここでは、日本で代表的なサステナブル建築の事例を紹介する。
阪神甲子園球場
阪神甲子園球場は兵庫県西宮市にある、大正13年に建築された日本で最初の大規模野球場だ。老朽化が進み全面的な改修が必要となり、2007年~2009年にリニューアル工事を実施した。リニューアルの際には「環境への配慮」を掲げ、銀傘(球場の大屋根)への太陽光発電の設置、銀傘による雨水の貯水と利用などに取り組んだ。
現在では新たに、環境保全プロジェクト「KOSHIEN“eco”Challenge」を宣言し、廃棄物発生の抑止とプラスチックカップのリサイクル推進、CO2排出量の削減、再生可能エネルギーなどの活用をテーマに「環境にやさしい球場」を目指している。
具体的な取り組み例としては、内野スタンドを覆う屋根に太陽光パネルを設置することだ。年間約150トンのCO2削減に成功しているほか、屋根(銀傘)に、雨水を貯水できるような工夫を施し、球場が年間に使用する水量の約65%を賄う仕組みを導入している。
六花の森プロジェクト
六花の森プロジェクトは、北海道を代表する銘菓のひとつ「マルセイバターサンド」をはじめとするお菓子の製造・販売会社である株式会社六花亭が、工場の建設とその敷地全体の整備を目指した壮大なプロジェクトである。豊かな自然環境に溶け込んだお菓子工場を目指して、敷地調査からスタートし、エコロジカルな屋外環境づくりに取り組んだ。
河川跡から、その流れを再生し、それを中心にして植生を蘇らせる取り組みだ。埋もれていた自然を丁寧に拾い上げ再構成することにより、敷地が本来持っていた特徴を顕在化させ、豊かな水と緑のある空間がつくられている。
モラージュ菖蒲
埼玉県久喜市にある大型ショッピングモールであるモラージュ菖蒲。同施設は、従来のショッピングセンターの機能に、サービス・飲食店舗を充実させている。これにより、ショッピングだけでなく、娯楽・学芸・リフレッシュといった日常生活での交流の場となるようなアメニティ空間を積極的に提供し、人々の生活に新たなコミュニティをもたらしている。
主要道路から十分に距離を取って建物を配置し、その色彩を周囲の自然環境や「町の鳥」である白さぎなどをモチーフにアースカラーを基調とした。菖蒲町らしさを表現することで、周辺環境との調和した景観づくりを図っている。
また、氷蓄熱式空調システムの採用、モールでのLED照明の一部設置、後方通路でのセンサー照明制御などをもちいて環境負荷およびランニングコストの低減、さらには維持管理の軽減に配慮している。
まとめ
地球規模の環境負荷低減から人々の生活環境の向上にまで貢献するサステナブル建築は、持続的な社会をつくる上で重要な取り組みのひとつだ。日本でもサステナブル建築が施された建築物は増えてきており、みなさんの身近にも存在するかもしれない。ぜひ関心を持って訪れてみよう。