社会との共有価値 【解説記事】ユニバーサルデザインとは!7つの原則と5つの活用事例を解説
老若男女が暮らす社会の中で、すべての人にとって使いやすいものを生み出す取り組みが行われている。とくにデザインの分野で人々の暮らしを支える取り組みとして、注目されているひとつにユニバーサルデザインがある。
今回は、ユニバーサルデザインとはなにか、求められている7つの原則と注目されている理由に加え、企業で行われている取り組み例について紹介する。
ユニバーサルデザインとは「全人類が使いやすいデザイン」
ユニバーサルデザインとは「全人類が使いやすいデザイン」を意味するものだ。ユニバーサルには「すべてに共通の」といった意味があり、老若男女、国籍、性別、身体能力などを問わずあらゆる人に対応したデザインのことを指す。
生活上で目にする製品や建物、空間づくりにも、ユニバーサルデザインが取り入れられていることが多い。
また、ユニバーサルデザインの理解を深めるためには、バリアフリーとは異なるものであることを認識しておく必要がある。
バリアフリーとは、高齢者や障害者が生活するうえで「障害や障壁(バリア)」を「取り除く(フリー)」考え方のこと。
一方ユニバーサルデザインは、誰でも自由に使いやすいデザインを導入する考え方のこと。バリアフリーとの違いは、障害の有無などはなく、多様な人を対象にしていることだ。
ユニバーサルデザインの7つの原則を紹介
ユニバーサルデザインには7つの原則があり、原則に沿って設計することでユニバーサルデザインとして実現する。ここからは、7つの原則それぞれの意味や目的について紹介する。
1.誰でも公平に手に入り使えること
ユニバーサルデザインには、誰でも公平に使えるもので、容易に入手できる公平性が求められる。
子どもでもお年寄りでも、障害の有無問わず、たとえば両手に荷物をもっている人でも簡単に利用できるよう、設計する必要がある。
2.自由に使用できること
自由に使用できることも、ユニバーサルデザインになくてはならない要素のひとつだ。使用する人物の好みや能力に合わせて作られており、さまざまな利用者や使用環境に対応できるものが望ましいだろう。
たとえば、高さが異なる公衆トイレの洗面台。階段とエレベーター、どちらもあるマンションなどがあげられる。
3.使い方が単純でわかりやすいこと
使い方が単純でわかりやすいものも、ユニバーサルデザインにとって重要だ。説明が必要になるものは、すべての人が利用しやすいものとはいいにくい。
そこで、誰もが直感的に利用方法がわかるデザインにすることで、使う人の経験や知識、言語能力、集中力などに関係なく利用できるものが実現する。
たとえば、開け方が明記されているペットボトルなどがあげられる
4.使う人に必要な情報がすぐわかること
使う人にとって必要な情報がすぐにわかる、理解のしやすさもユニバーサルデザインには求められている。使う人の聴覚や視覚などの能力にかかわらず、重要なことがわかるように設計されたものだ。
文字やイラスト、画像、動画、音声アナウンスなどを使い、また組み合わせるなどして、効果的に伝える工夫が必要だ。
たとえば、音声付きの信号機があげられる。
5.間違えても危険につながらないこと
万が一、誤った使い方をしてしまっても、危険につながらない安全性も重要だ。うっかりミスや思わぬ行動があった際に、怪我や事故が発生するのを防ぐ役割を備えてデザインすることが求められる。
年齢や性別、障害の有無、さらに言語や文化に不慣れな海外からの観光客など、さまざまな人の利用に対応できることがユニバーサルデザインに求められている。
たとえば、衝撃を感知した際に停止する電気ヒーターがあげられる
6.体への負担が軽く効率的に使えること
「身体への負担をいかに軽減するか」という視点も、ユニバーサルデザインにとって重要な原則だ。
無理のない姿勢や少ない力で楽に使えること、身長や体重などの個人差に左右されないことなど、体に負担がかからないものが望ましい。
たとえば、センサー式の蛇口があげられる。
7.使うのに十分な場所が確保されていること
使用する人の体格や姿勢、車いすや荷物の有無など、移動能力に左右されることなく利用できる スペースの確保も欠かせない。
たとえば、車いすでも反転の必要がない両側扉のエレベーター、広めのスペースが確保されているオストメイト対応トイレがあげられる。
ユニバーサルデザインが注目された背景
ユニバーサルデザインが注目された背景には、世界規模でさまざまな問題解決に向けた取り組みが進められている影響がある。
ここからは、ユニバーサルデザインが注目されている理由を解説していく。
1.少子高齢化問題のため
ユニバーサルデザインは、少子高齢化問題に対応する取り組みとしても注目されている。日本の総人口は約1億2,693万人で、そのうち65歳以上の高齢者人口は3,459万人にも及ぶ。
これは、総人口の約27.3%を占めるものだ。2020年以降、総人口が減り続ける一方で、高齢者人口は増加し続けるだろう。
施設や設備、製品も少子高齢化に対応すべく、高齢者が日常生活を送りやすいようにバリアフリー化が進められてきた。
そして、バリアフリー化をさらに発展させ、年齢問わずすべての人が利用しやすい社会環境づくりにユニバーサルデザインが取り入れられつつある。
2.ノーマライゼーションの進展
働き方の多様化やグローバル化、マイノリティーに対する理解などが進んだことで、ノーマライゼーションの理念が広まった。
ノーマライゼーションとは、障害を抱えていても、安全に生活を営める環境づくりを目指す取り組みのことだ。標準化や正常化を意味する言葉であり、ハンデがあったとしても一般的な生活ができる環境を整えるためのものだ。
日本だけでなく世界各地で具体的な取り組みが行われている一方、必ずしも周囲の理解が十分に得られる状況ではない。ユニバーサルデザインを通じて、すべての人が快適に利用できる社会環境を整備すれば、自ずとノーマライゼーションの進展にも貢献できるだろう。
3.SDGsに向けた取り組みを実施
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )の目標達成に向けた取り組みにも、ユニバーサルデザインは活用されている。SDGsとは、より良い世界を目指して、国連サミットで定められた17の持続可能な達成目標のことを指す。
SDGsで掲げられている17の目標は「誰ひとり取り残さない世界」の実現を目指している。そして、全人類一人ひとりが今ある課題に意識を向け、行動を起こす必要がある。
国や自治体、企業では、啓発活動を行い、認知度の向上や制度設計を通して社会全体のサポートを行っている。そして、私たち一人ひとりが課題解決に向けて主体的に行動することで、SDGsの目標達成に前進することになるだろう。
ユニバーサルデザインを理解することで、SDGsで掲げられている目標達成や今ある世界規模の課題を知るきっかけになる。
私たちの意識が変化し、特定のグループの人だけがメリットを享受する社会ではなく、誰もが働きがいや生きがいを感じられることが望ましい。働きがいや生きがいは、労働や新たなアイデアの創生に必要なモチベーションや生産性の向上にも直結する。
生産性の向上は、将来的な経済成長の持続も期待できるだろう。SDGsの「誰ひとり取り残さない」という考え方と、17ある目標の中で以下の3つの目標にはユニバーサルデザインの目的と共通点がある。
- 目標4 質の高い教育をみんなに
- 目標10 人や国の不平等をなくそう
- 目標11 住み続けられる街づくりを
これらの目標には「不平等をなくすこと」という趣旨が含まれており、誰もが安心して簡単に利用できることを目指すユニバーサルデザインと共通する目標だといえるだろう。
SDGsとユニバーサルデザインについて、さらに詳しく知りたい人は以下の記事もぜひ読んでほしい。
>>SDGsとはなにか
SDGs達成に向けてできること|身近な例を17の目標別に紹介
>>ユニバーサルデザインとSDGsの関連性について
【持続可能な開発目標】SDGs11「住み続けられるまちづくりを」とは
ユニバーサルデザインの取り組み事例
具体的にユニバーサルデザインは、どのような取り組みに活用されているのだろうか。ここからは、ユニバーサルデザインに実際に取り組んでいる企業の事例について紹介する。
【介護関係】株式会社ベネッセパレット
株式会社ベネッセパレットでは、高齢者向け配食サービスの「ベネッセおうちごはん」を提供している。
ベネッセおうちごはんは、ユニバーサルデザインフード区分2を取得したものだ。ユニバーサルデザインフードとは、日常の食事から介護食まで幅広く利用できる食品のことで、食べやすさに配慮したものを指す。
「かたさ」や「粘度」によって区分が1~4に分類されており、区分2は「歯茎でつぶせる」硬さを目安につくられている。
このように、ユニバーサルデザインは生活空間の中で利用する建造物や便利機器だけでなく、食の分野においても重要な役割を果たしている。
【建築関係】鹿島建設株式会社
建築の分野でユニバーサルデザインに取り組んでいる企業の例が、鹿島建設株式会社である。
行きたい場所が視覚や聴覚、嗅覚、触覚などの感覚情報から判断できる床のデザインがユニバーサルデザインを取り入れた取り組みのひとつだ。
そのほか、気圧差や温度差を利用したクール&ヒートチューブや、地中熱を利用したスポット空調など、地価の安定した熱条件を活用して快適な環境づくりにも役立てている。
また、防火設備として「水膜(ウォーターカーテンのようなもの)」を常時散水することで、自由に行き来でき、火災時にどこからでも避難や救助ができるような設計も行っている。
【住宅関係】株式会社LIXIL
株式会社LIXILでは、住宅や生活環境におけるユニバーサルデザインの活用に取り組んでいる。トイレのフタが自動開閉する製品やふろの洗い場にベンチがあるもの、段差のない空間づくり、子どもの手が届かない位置で施錠できる扉などだ。
住宅には、老若男女、障害の有無、家族構成など、さまざまな人が暮らしている。ユニバーサルデザインを取り入れることで、体格差や年齢、運動機能などに左右されることなく快適に生活できる環境が整えられる。
【教育関係】株式会社ベネッセコーポレーション
株式会社ベネッセコーポレーションでは、教育分野にユニバーサルデザインを取り入れている。
その一例がデジタル教材に「UDデジタル教科書体」を使用した取り組みだ。「はらい・点」などの文字の特徴を残しつつ、ロービジョン(弱視)、ディスレクシア(読み書き障害)にも配慮したデザインを取り入れている。
また、UDデジタル教科書体をタブレット学習に取り入れることで、読み書きしやすい環境を整え、学習をはじめたばかりの小学校低学年の学習をサポートしている。
【医療関係】協和キリン株式会社
協和キリン株式会社では、ユニバーサルデザインに配慮して本社へのバリアフリーアクセスルートの情報発信を行っている。地上と地価のマップを立体的なつながりとして表示し、写真を掲載することで視覚的にわかりやすくしたものだ。
また、2通りの行き方を伝え、使う人に選択肢を提示しているのも特徴だ。
バリアフリーアクセスルートは、車いす利用者だけでなく、足にハンデがある人、荷物の多い人、ベビーカー利用者など、幅広い人が活用できる。
まとめ
ユニバーサルデザインの活用は、利用する人の声からアイデア化されたものも多い。実際に利用する人だからこそわかる視点もあるためだ。
企業が製品やサービス開発、建築物の設計などに取り組む一方で、利用する私たち自身がユニバーサルデザインに関心をもち、より豊かな社会の実現に貢献していきたい。