ペイシェント一人ひとりの「生きる」を見つめて。 “ペイシェント・セントリシティ”が育む次の医療の形【アトピヨ×協和キリン】―前編―
目次
近年、製薬・医療・ヘルスケア業界では、「ペイシェント・セントリシティ」という言葉が多く聞かれるようになった。「ペイシェント・セントリシティ」とは、患者さんを取り巻く医療機関、規制当局、製薬企業が「患者さんを常に中心に捉え、患者さんに焦点をあてた対応を行い、最終的に患者さん本人の判断を最大限に尊重すること」と言われている。
患者の気持ちを大切にする素晴らしい考え方――そう思うことは簡単だ。
しかし、それによる具体的な変化に思考を移すと、途端にその解像度は落ちてしまう。企業や個人が「ペイシェント・セントリシティ」を実践することで、一体何が変わるのだろう。
答えを探す過程において、大きなヒントとなったのが、あるアプリの存在だった。アトピー性皮膚炎患者用の画像SNS「アトピヨ」である。“徹底的に患者さんの方向を向いて”開発された本アプリは公開以来、順調に利用者を増やし、現在ではオンライン上に2万人以上に上るアトピー患者の一大ネットワークを形成している。
「アトピヨ」の考える「ペイシェント・セントリシティ」とは。そして、その先にある次の医療の形とは。「アトピヨ」開発者であり、アトピヨ合同会社代表のRyotaro AKOさんをゲストに迎え、お話を聞いた。
また、中期経営目標において「患者さんを中心においた医療ニーズへの対応」を戦略の幹の一つに掲げる協和キリン株式会社からも松下、高山の2名が議論に参加した。
アトピー見える化アプリ「アトピヨ」
2018年に運用を開始した日本最大級のアトピー患者向けアプリ。アトピーを発症し悩んでいる方々の早期回復のサポートになることを目指し、文字だけでなく「画像」を投稿することで、アトピー特有の皮膚症状を匿名で記録・共有できる。2021年、厚生労働大臣賞(企業部門優秀賞)受賞。
出演者プロフィール
Ryotaro AKO(リョウタロウ アコウ)
元アトピー患者。プログラマー。工学修士。公認会計士。
アトピー、喘息、鼻炎という3つのアレルギー疾患の経験から、患者会でボランティア活動に従事。アトピー患者の方々へのヒアリング、薬剤師である妻のAkiko AKOさんの見解、プログラマーの指導・監修を受け、自ら本アプリを開発。慶応義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了後、公認会計士試験に合格。EY新日本有限責任監査法人、株式会社レノバを経て、アトピヨ合同会社を設立。
松下 武史(まつした たけふみ)
協和キリン株式会社 メディカルアフェアーズ部長。1999年入社。抗体医薬の研究、米国関連会社での抗体技術ライセンス業務、臨床開発、事業開発、キリンホールディングスでの経営企画部主幹を経て、2022年3月より現職。中立的・科学的な視点からアンメットメディカルニーズを特定して、メディカル戦略を策定、その戦略を基にエビデンスを創出・発信することで、薬を育て治療に貢献するメディカルアフェアーズ活動の全体を統括する。
高山徹(たかやま とおる)
協和キリン株式会社 戦略本部 コーポレートストラテジー部マネジャー。1998年入社。MR、マーケティング、エリア戦略・ネットワーク支援を経て、2021年4月より現職。患者さん、ご家族が抱えるニーズ(お悩み、困り事)を解決すべく、ニーズの掘り起こしを進める。
元アトピー患者である自らが、アトピー患者さんの声を聞いて作ったアプリ
–「アトピヨ」アプリの開発のきっかけを教えてください。
Ryotaro AKO、以下「アコウ」私自身がアトピー、喘息、鼻炎という3つの疾患の経験があり、幼少時からこれらアレルギー疾患に対して問題意識を持っていました。アプリをつくる直接のきっかけとなったのは、6年ほど前に行った熱海への家族旅行です。
その日は趣のある温泉旅館に泊まったのですが、興奮した子供たちがソファや布団など部屋中で跳ねたことでホコリが舞い、それを吸い込んだ私は、上半身がパンパンに赤く腫れ上がり、呼吸も苦しくなり救急搬送される事態に。
幸い大事には至りませんでしたが、アレルギー疾患の課題を再認識した経験でした。この経験をきっかけに、医療系のバックグラウンドがあるわけではない自分でも、アレルギー疾患の課題に対して何かアクションを起こせないかと思ったのです。
アプローチを考える中で、やはりこれからの時代に「アプリ・WEB」は欠かせないだろうという思いはありました。その流れから、アトピー見える化アプリ「アトピヨ」の構想を始めたんです。
–「アトピヨ」はどのようなアプリですか?
アコウ簡単に言うと「日本初のアトピー患者専用画像SNS」です。完全に匿名の無料アプリで、「Instagram」のような感覚でアトピーの症状を画像で記録できます(非公開設定が可能)。現在は、アトピー患者さん同士のクローズドなコミュニティとして利用されています。
アトピー治療は長い戦い。だから、みんなで治す
–アトピーの症状を記録することは、どのような意味を持つのでしょうか。
アコウアトピーは、この治療をやったらすぐ治ったということはあまりなく、重症化すると失明にもつながる重大な疾患です。時には長い時間をかけて、悪化と寛解(全治とまではいかないが、病状が治って穏やかな様子)を繰り返しながら、治療を継続する必要があり、患者さんによってはそれが「先の見えない孤独」と感じることも少なくありません。
例えば、「アトピヨ」にあげられた1枚のベッドシーツの写真。(広範囲に血液が付着している。)アトピーによって肌が荒れ、寝具や衣類にも付着する、これが(この写真を投稿した)アトピー患者さんの現実であり、この疾患との戦いです。
「アトピヨ」は、画像での症状記録を特に重視しています。
これは、アトピーの治療過程を体の部位ごとに、時系列で記録することで、「良くなっている」ことが「見える」こと、さらには、同じような症状や悩みを持つ患者さん同士が共感し、励まし合うことが可能になるから。それが治療と向き合うモチベーションになり、シナジーを生むと考えているのです。
–アトピヨ」立ち上げ時からコンセプトには「アトピーはみんなで治す時代」とありますね。
アコウ「アトピヨ」立ち上げ前に、アトピー患者さん112名に対して実施した独自調査によれば、患者さんのお悩みの1位は「良い治療法、薬、お医者さんが分からない」、2位は「身近な人に相談できない」という結果でした。
この結果からも、アトピーを相談できずに独りで悩んでいる患者さんが多く、精神負荷が大きいことが分かります。だからこそ、今の自分を発信していくことで1人ひとりの患者さんがお互いの孤独を分け合いながら、一歩一歩前進できたら。「アトピーはみんなで治す時代」にはそんな思いがあります。
–実際、医療現場で「アトピヨ」が活用される場面もありますか?
アコウアトピー患者さんの通院頻度は、2、3ヶ月に1回なので、普段は記録用に使って、気になる症状などがあれば、ブックマークをして通院時に先生に見せる方が多いようです。
自身の症状を理解する上ではもちろん、部位ごとに症状の記録が見えるので、医師など、第三者による客観的な症状の評価も精度の高いものとなります。
患者と医療をつなぐプラットフォームへ
–アプリ「アトピヨ」の今後の展望について教えてください。
「アトピヨ」はこれまで、患者さん同士のコミュニティの醸成に力を入れてきました。
上の図でいうと、グレーで囲まれた部分が「アトピヨ」の現在地です。今後は、患者さん同士のコミュニティを中心に、医療機関と製薬会社と連携して、患者さんに還元するサイクルを強化していきたいと考えています。
これが実現することで、アプリを通じて、(患者さんが)エビデンスに基づいた正しい知識を得ることができたり、オンライン/オフラインを問わない診療サポートを受けられるようになります。
症状の記録だけではなく、それをもとに、アプリ内で適切な診療行動につながる動線を描くことができる――。将来的に「アトピヨ」は、医療機関・製薬会社と患者さんを繋ぐプラットフォームを目指したいと思っています。
–(話者を協和キリンに移して)製薬会社的視点から、「アトピヨ」の取り組みに関して思いはありますか?
協和キリン松下武史、以下「松下」お話ありがとうございます。弊社のメディカルアフェアーズ部門では「ペイシェント・セントリシティ」を推進する上で、以前から「アトピヨ」さんは、製薬会社にはない視点で問題に取り組んでいる点に注目しておりました。
- 製薬会社から見た「アトピヨ」の価値
- アトピーの症状管理を簡単なステップで実現できる利便性
- アトピー特化アプリであることによる高い信頼性
- 患者さん同士のコミュニケーションツールとしての価値
私たちは、患者さんが医師と十分にコミュニケーションできていない側面もあるのではないかと思っています。「アトピヨ」は患者さんにとって通院時の医師とのコミュニケーションのみでは解消しきれない悩みを緩和し得る、無限の可能性を秘めたサービスだと感じています。
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アトピー見える化アプリ-アトピヨ
ダウンロードはこちらから
App Store URL :https://goo.gl/xRJeyX