People & Culture 【解説記事】SDGs目標達成のカギ「ディーセント・ワーク」とは?各国の取り組みを紹介
ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ経営など、ディーセント・ワーク実現のための取り組みを公表する企業も増えてきた。SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)との関係が深いディーセント・ワークは具体的にどのような内容だろうか。
今回はSDGsの目標達成のカギであるディーセント・ワークの概要と実現に向けた取り組みについて紹介する。
ディーセント・ワークとは「働きがいのある人間らしい仕事」のこと
ディーセント・ワークは、日本語で「働きがいのある人間らしい仕事」を意味する。1999年、第87回の国際労働機関(ILO)の総会で、ファン・ソマビア元事務局長により提唱された考え方だ。それでは具体的な内容を解説していく。
日本におけるディーセント・ワークの4つの内容
ディーセント・ワークの実現は、4つの戦略目標が掲げられている。それぞれを説明していく。
- 仕事の創出 – 必要な技能を身につけ、働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事を作り出すことを支援
- 社会的保護の拡充 – 安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備。社会保障の充実。
- 社会対話の推進 – 職場での問題や紛争を平和的に解決できるように、政・労・使の話し合いの促進。
- 仕事における権利の保障 – 不利な立場に置かれて働く人々をなくすため、労働者の権利の保障、尊重
これらをもとに、日本におけるディーセント・ワークを「働きがいのある人間らしい仕事」に位置付けた。
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戦略目標 | 日本における取り組み例 |
---|---|
仕事の創出 | 若年者や高齢者、障がい者における雇用対策、雇用拡大、最低賃金の引き上げなど |
社会的保護の拡充 | 労働者を保護するルールの強化など |
社会対話の推進 | 労働時間の見直し、全世代を支援する社会保障の促進など |
仕事における権利の保障 | 男女平等や女性活躍の推進、非正規雇用者の処遇改善など |
ディーセント・ワークの達成度を評価する7つの軸
先述した戦略目標の達成度を客観的に評価するために、7つの軸が設けられている。ディーセント・ワークを導入する企業は7つの軸を考慮する必要がある。
WLB軸
ワーク・ライフ・バランスを保ちながら、働き続けられる職場であるかを表す軸で、月間所定内労働時間、有給取得率、定年年齢、継続雇用の上限年齢、仕事と育児・介護との両立支援制度の整備などをスコア化して達成度を示す。
公正平等軸
すべての労働者が公正・平等に活躍できる職場かを表す軸で、各管理職の男女比率、男女間賃金の格差の有無、障害者雇用率などをスコア化して達成度を示す。
自己鍛錬軸
能力を向上する機会があり、自己の鍛錬ができる職場かを表す軸で、企業の能力開発の熱心度、社内公募などをスコア化して達成度を示す。
収入軸
持続可能な生計に足る収入がある職場かどうかを表す軸で、年収、昇給などをスコア化して達成度を示す。
労働者の権利軸
労働三権などの権利が確保され、発言しやすく、かつ発言を認められるような職場かを表す軸で、労働組合の有無、苦情処理機関の有無などをスコア化して達成度を示す。
安全衛生軸
安全や衛生が確保されている職場かどうかを表す軸で、産業医の設置の有無、健康診断の対象者や項目、メンタルヘルス対策などをスコア化して達成度を示す。
セーフティネット軸
最低限以上の社会保障制度などに加入している職場かを表す軸で、健康保険、厚生年金といった必要最低限のセーフティネットの状況のほか、企業年金制度や復職支援制度の有無などをスコア化して達成度を示す。
SDGsの目標達成にも関わるディーセント・ワーク
SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」は、ディーセント・ワークの考えをもとに設定されている。
SDGsの目標8についての詳細はこちら
ここでは、ディーセント・ワークとSDGsについての理解をさらに深めるために、国際労働機関(ILO)がSDGsの目標8の達成に向けて実施している5つのプログラムを紹介する。
児童労働の根絶
世界中で強制的な労働をさせられている子どもが多くいる。児童労働をなくすためのプログラムが「児童労働・強制労働撤廃国際計画(IPEC+)」だ。
2025年までにすべての児童労働をなくすこと。さらに、2030年までにあらゆる強制労働、現代の奴隷制や人身売買をなくすことを目指している。
労働者の安全を守る
世界では15秒に1人が、労働災害や業務上の疾病で亡くなっているといわれている。
このような労災によるケガや病気、死亡を防ぐために設けられたプログラムが「労働安全衛生・グローバル予防行動計画(OSH-GAP)」だ。
2016年にスタートした取り組みで、労働安全衛生の法的枠組みの制定と遵守、労働安全衛生指針を策定するためのデータ集計と分析、国際または地域間の連携により、中小企業の労働者などの安全衛生向上を目的としている。
これまで、労働安全衛生の支援を求める声が多い低中所得国に向けた、先進国の資金援助や、安全文化醸成のための支援プロジェクトなどが行われてきた。
出典:「労働安全衛生に関する、防止のための世界行動計画(OSH GAP)」(国際労働機関)
立場の弱い人々への雇用の促進
紛争や災害の多い国を対象にしているプログラムが「平和と強靭性のための雇用促進計画(JPR)」だ。
紛争や被災を理由に起こる社会や政情の影響を受けやすい人に対して、働く機会を提供し、未来への基盤を築けるようにすることで、社会の結束や平和構築、社会的・政治的な安定、経済発展を目的としている。
これまで、国外に退避していた帰還民などを対象に、インフラ工事や技能訓練などによる就労のサポートなどを行っている。
セーフティネットの形成
だれもが保障されるべき基本的な社会的保護を目的としているのが「社会的保護の土台計画(SPF)」だ。
国レベルでは、生涯の保険医療の提供や子どもの社会的保護、失業や労災での所得保障、高齢者への年金支給などもセーフティネットに含まれる。
より良い仕事の計画
開発途上国においては、多くの労働者が衣料産業や履物製造業に従事している。このような産業における劣悪な労働条件を改善していくことが大きな課題だ。
ILOでは、「より良い仕事計画(ベターワーク)」をプログラムとして組み込み、監査や研修、研究などをとおして、衣料産業での労働条件の改善や企業の競争力強化に取り組んでいる。
工場だけでなく、アパレルブランド、小売業、学識者、など多様な関係者を巻き込んで、さまざまな国での労働安全衛生の向上、生産能力の向上、最低賃金や社会保険支給の遵守などに寄与している。
ディーセント・ワーク実現に向けた他国と日本の現状
ディーセント・ワーク実現に向けて、各国で取り組みが行われている。ここでは、オランダの取り組みと日本での取り組み事例について取り上げたい。
【オランダ】ディーセント・ワークの取り組み事例
オランダは、パートタイム経済といわれることもあるように、パートタイムで働く労働者の割合が高い。
さらに、労働時間の長さで賃金や労働条件が差別されず、パートタイムでも良質な雇用機会が与えられており、その仕事も広範囲にわたるのが特徴だ。労働者においては、労働時間を短縮または延長する権利も認められている。
このようなオランダで注目されているのが、パートタイム労働の有効活用だ。
オランダでは、フルタイムを標準的な働き方とするのではなく、正規雇用の労働者と賃金や社会保険の差を是正し、労働者の負担が少ない労働環境を作り出すことで、労働時間の自由度を高めている。
労働者の希望労働時間を柔軟に実現できているため、オランダの就業者一人あたりの年間実労働時間は1,378時間と、日本、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、オランダ、スウェーデンの7ヶ国と比較して、最も労働時間が短い。
これにより、長期のワーク・ライフ・バランスの実現度も高まっている。
参照:「オランダにおけるワーク・ライフ・バランス―労働時間と就業場所の柔軟性が高い社会―」(独立行政法人経済産業研究所)
【日本】ディーセント・ワークの取り組み事例
日本は、ほかの主要国と比べて、ディーセント・ワークの実現に遅れがある。ディーセント・ワークの推進が、企業経営の負担になるという懸念があるためだ。
しかし、近年では、多様な働き方の選択も重視されるようになり、働き方改革を進める法整備が進められるようになってきた。
たとえば、時間外労働の上限、年次有給休暇の時期指定など、働き方改革に関連する法整備が、企業のディーセント・ワーク実現の一助となっている。
まとめ
ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関して、ILOをはじめ、国や企業ではさまざまな取り組みが行われている。実現のためには、個々人がディーセント・ワークに関心をもつことが重要だ。
協和キリン株式会社でも、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン、社員の健康と安全、社員の能力開発と成長機会の提供に向けた取り組みを実施している。詳しくはこちら