社会との共有価値 【解説記事】地熱発電のメリットとは。地熱発電のポテンシャルを引き出す取り組み
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )が浸透する中、環境問題に関心を抱くようになった人もいるのではないだろうか。
環境問題への取り組みとして、クリーンな発電方法も注目を浴びている。発電方法のひとつとして挙げられるのが地熱発電だ。今回は、地熱発電のメリットや課題、地熱発電の可能性を引き出す取り組みについて紹介する。
地熱発電を利用するメリット
地熱発電は、地球内部の地熱から発生した蒸気を活用した発電方法だ。地熱は地球の中心部に近づくほど上昇し、その温度は中心部で5,000~6,000度にも及ぶと考えられる。ただし、地球中心部はあまりにも深部であるため、エネルギーとして活用することは現実的ではない。
しかし、いわゆる火山地帯の地下数~十数kmには、1,000度以上もの温度のマグマ溜まりが存在しており、この熱が浸透水を加熱し地熱貯留槽を形成することがある。これを利用した発電方法が地熱発電だ。
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)では、目標7に「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」を掲げており、地熱発電とも関連している。ここからは、SDGs7にもつながる地熱発電のメリットを紹介する。
CO2の排出量が少ない
CO2の排出削減は、世界規模で大きな課題となっている。持続可能な社会のためには、経済活動やその成長を確保しつつ、CO2削減に取り組むことが重要だ。
その点において、地熱発電はCO2の削減にとって相性が良い発電方法といえる。理由は、ほかの発電方法と比べてもライフサイクルCO2の排出量が少ないためだ。ライフサイクルCO2とは、原料の確保から廃棄されるまでの一連の流れの中で排出されるCO2のことをいう。
地熱発電のライフサイクルCO2は、その他(間接)が13.1g-CO2/kWhのみとその排出量は低い。なお発電方法として主に利用されている石油火力は発電燃料燃焼による直接的な排出とその他(間接)を合わせて738.0g-CO2/kWh、石炭火力は942.7g-CO2/kWhほどだ。
クリーンエネルギーとして知られる事業用太陽光はその他(間接)のみで58.6g-CO2/kWh、風力発電(陸上1基)は25.7g-CO2/kWhのため、ほかのクリーンエネルギーと比べても地熱発電のCO2排出量が少ないことがわかるだろう。
出典:「電力中央研究所 報告書(電力中央研究所報告)」(電力中央研究所)
なお、クリーンエネルギーについては、以下の記事で詳しく紹介している。
「「クリーンエネルギー」とは?具体的な種類と現状の課題を解説」
昼夜問わず安定的に発電できる
地熱を利用しているため、時間帯に関わらず発電ができるほか、太陽光や風力などのように天気の影響がほとんどない。資源がなくなる心配も少ないため、安定したエネルギー源を使って発電できる。
高温の蒸気・熱水を再利用できる
従来型では天然地熱貯留層のものを利用するが、マグマ付近の超臨界熱水といって高温・高圧な熱水の利用に向けた取り組みも行われている。
持続的に発電できる
地熱発電で半永久的な発電ができるのは、火力発電などのように化石燃料などの資源を消費しないためだ。自然のエネルギーによって発電ができることから、長期間にわたって持続的な発電と電力の供給ができる。
日本における地熱発電の発電量
2021年時点での日本の地熱発電設備容量は約60万kWであった。世界を見ると地熱発電設備の容量が日本よりも大きい国はいくつもある。
日本は世界有数の地熱資源量のある国とされており、その資源量は世界第3位とポテンシャルも秘めている。しかし、資源量に対する発電設備容量は世界的にはかなり少ない。
豊富は地熱資源があるにもかかわらず、なぜ日本では地熱発電が積極的に行われていないのだろうか。日本で地熱発電が多くない理由をその課題を取り上げながら説明していく。
出典:「もっと知りたい!エネルギー基本計画④ 再生可能エネルギー(4)豊富な資源をもとに開発が加速する地熱発電」(資源エネルギー庁)
地熱発電の導入に関する課題
日本での地熱発電の導入に関する主な課題には、事業化の難しさや掘削失敗のリスクが挙げられる。
事業化が難しい
地熱発電は系統連系を申請できる段階が難しい。地熱は目に見えない地下資源のため、調査や開発の後期にならないと、申請に必要な設備容量が確定しないためだ。
系統連系(系統接続)とは、発電した電力を一般送配電事業者の送電線や配電線に流すことをいい、系統連系のためには一般送配電事業者への申請が必要だ。
系統連系の申請は公平性・透明性の観点から、先着優先となっている。しかし、地熱発電では申請できるのがかなり後の段階となるため、他電源と系統連系を競争する場合、申請が通らず事業化できないなどの問題が発生している。
系統の見通しが立たないことは地熱発電の開発や投資へマイナスの影響を与えてしまい、民間で積極投資が進まない理由のひとつとなっている。
こうした系統連系における課題を踏まえ、基準を満たしたものは初期の段階でも仮で系統申請を認めること、公的負担を進めること、などが解決策として提案されている。
掘削失敗のリスクを伴う
地熱発電のための場所を見つけるために掘削を進めても、その場所に適切な資源があるとは限らない。資源に当たらないなどの掘削失敗が、地熱発電の開発リスクとして伴う。
掘削失敗が続くと、資源が見つかったとしてもコストが積み重なり事業化できないおそれもある。また、豊富な地熱資源が推定されるにもかかわらず、国立公園や国定公園内は調査できないなどの制限があることも要因のひとつだ。
開発初期のリスクを低減して地熱発電を進めていけるよう、公的な先導調査や国立公園の調査の容認、掘削した場所の開発による活用などが検討されている。
地熱発電の可能性を引き出すための取り組み
国内では、豊富な地熱資源を生かして地熱発電の可能性を引き出すための取り組みが行われている。代表的な例として、ふたつの取り組みを紹介する。
新技術への開発に活用
地熱発電の課題である開発リスクやコストを抑えるために行われているのが、新技術の開発だ。具体的には、掘削リスク軽減のための熱水や水蒸気の有無や地下構造を調査する技術の向上などが進められている。
新しい地熱発電類型の開発も注目される技術開発のひとつだ。蒸気量を十分に維持できるように地熱貯留層に人工的に水を圧入する人工涵養の技術が一部の発電所にて実証が行われている。
平成29年度からは、マグマ付近の高温高圧な熱水資源を活用するための腐食対策や掘削技術の確立など調査も進められてきた。超臨界地熱発電のための調査が進み活用できる環境が整えば、日本の豊富な地熱資源を活かした地熱発電の促進が見込まれる。
地域との共生を図る
地熱資源の開発にあたっては、地元の温泉資源への影響を心配する声もある。地域の資源に配慮して開発を進めるには、地域との共生を図るための取り組みも重要だ。
そこで、モニタリング調査や意見交換を行うなど、開発への理解を促進し温泉資源との共生を図れるような取り組みが進められている。
また、地熱発電は2次利用ができる点も特徴的だ。地域との共生を図るために、発電に使用した熱水を農業用のビニールハウスに活用するなどの取り組みも行われている。
まとめ
クリーンエネルギーとして注目されている地熱発電は、CO2の排出量がほかの発電方法と比べても少ない、気候などの影響を受けにくく昼夜問わず安定した発電ができるなどのメリットも多い。
日本は地熱発電が豊富でそのポテンシャルが十分にあることも特徴だ。しかし、系統連系や掘削リスクが大きいなどの課題も残されている。
今後の技術開発や地域における地熱発電への理解が開発促進の重要なカギを握るだろう。日本での促進のためにも私たちひとりひとりが、地熱発電や環境問題に関心をもつことも大切だ。
なお、協和キリンでは、クリーンな社会を目指して環境保全活動などの取り組みを実施している。