社会との共有価値 【解説記事】国内・国際間の「情報格差」問題とは?現状と解消に向けた取り組み
インターネットの普及により、世界中の多くの人が情報に触れられる社会になった。一方で、デバイスを使って情報を取得できる人と情報を取得できない人との間の情報格差(デジタル・ディバイド)も生まれている。
情報格差にはどのような問題があるのか、現状と解消に向けた取り組みについて紹介する。
デジタル・ディバイドとは「情報通信技術による恩恵の差から生じる経済格差」のこと
デジタル・ディバイドとは、国内の法令上の概念ではないものの、一般的にIT利用による恩恵を受ける人とそうでない人との格差を表す言葉だ。
デジタル・ディバイドは大きくふたつに分けられる。「国内的なデジタル・ディバイド」と「国際間デジタル・ディバイド」だ。国内のデジタル・ディバイドは、さらに、「地域間」と「個人間・集団間」に分類できる。
国内的なデジタル・ディバイドと国際間のデジタル・ディバイドの現状や原因については、次項から詳しく説明していく。
個人の特性や地域差によって生じる「国内的なデジタル・ディバイド」
日本国内においては、「地域間デジタル・ディバイド」と「個人・集団間デジタル・ディバイド」の観点から情報格差が論じられることが多い。
地域間デジタル・ディバイドとは、インターネットやブロードバンドの利用に関する地域格差を表す。
個人・集団間デジタル・ディバイドは、性別や年齢、学歴、身体的な相違などにともなう情報通信技術(PCなど)の利用格差のことだ。
ここでは、地域間デジタル・ディバイドや個人・集団間デジタル・ディバイドが生じる要因と解消に向けた取り組みについて紹介する。
国内でインターネット利用格差が生じる3つの要因
国内でインターネットの利用格差が生じている要因には、「年齢」「年収」「都市規模」の3つが挙げられる。
年齢
情報格差を生む要因のひとつが年齢である。令和2年通信利用動向調査によると、13歳から59歳まではインターネット利用率は90%を超えるものの、年齢が上がると徐々に利用率は低くなることがわかった。
60代で82.7%、70代では59.6%、80代では25.6%にまで下がる。60代以降は、年齢が上がるほどインターネットの利用率は大きく下がり、年齢が情報格差の大きな要因になっていることが明らかになった。
年収
世帯の年収も情報格差の要因だ。2020年時点で、日本の平均給与水準にあたる世帯年収400~600万円のインターネット利用率は86.1%で、年収が下がるごとに利用率が低くなっている。
年収200万円未満の世帯のインターネット利用率は59.0%と、平均的な年収の世帯と比較すると20%以上の開きがあった。
都市規模
インターネットの利用率は、都市規模にも違いがある。2020年のデータでは、南関東や近畿、東海などの大都市圏を中心に高く、東北や四国、北陸、北関東の利用率は80%以下となっている。
都市規模が小さいほどインターネット利用率は下がり、情報格差が生じていることが見て取れる。
とはいえ、スマートフォンによるインターネット利用率は45の都道府県で50%を超えており、デバイスの普及により都市規模による情報格差は是正されつつあるといえるだろう。
参考:「令和2年通信利用動向調査の結果」(総務省)
国内的なデジタル・ディバイドの解決への取り組み
年齢、年収、地域といった要因で生じている情報格差を解消しようと、国内においてはさまざまな取り組みが行われている。
インターネットの利用率が低い高齢者を対象にした取り組みのひとつが「メロウ倶楽部」だ。車いすの上でも会員ライフが楽しめるシニアのための全国ネットである。
メロウ倶楽部の中心となるのが、会議室といわれる掲示板システムだ。文章表現が得意な世代であることから、テキストによるやり取りを中心とした、写真や俳句などの趣味の部屋、介護や人生について語り合う部屋ができた。
シニア同士のコミュニティの場として活用されており、オフラインの活動での申し込みやイベント参加の変更やキャンセル時にも活用されている。
先進国と開発途上国の間で生じる「国際間デジタル・ディバイド」
国際的なデジタル・ディバイドは、国や地域間での情報格差をいう。経済的な要因を背景に、先進国と開発途上国との間での格差が論じられることが多い。
国際間デジタル・ディバイドの現状と解消に向けた取り組みについて取り上げる。
国際間デジタル・ディバイドの現状
国際的なデジタル・ディバイドの要因となるのが、国際的なデジタル・ディバイドネットワーク環境の設備やインターネット接続料などのアクセス面、情報リテラシーなど情報を利用するための知識だ。
ほかにもさまざまな要因が存在するが、経済的な格差や教育面の格差、社会的なレベルが大きな影響を及ぼすことが多い。
情報を活用できる人が少ないことで生じるのが、教育や労働、技術面での遅れだ。国際間の情報格差は、国際経済や国際社会での大きな問題に発展する可能性も示唆されている。
国際経済や国際社会をより豊かなものにしていくには、国際的なデジタル・ディバイドの解消が欠かせない。
国際間デジタル・ディバイドの解消に向けた動き
国際的なデジタル・ディバイドを解消するには、先進国の技術が欠かせない。あわせて、開発途上国も、先進国のサポートを受けて自発的に取り組みを行っていく必要がある。
途上国のビジネスモデルとして期待されているのが、BOPビジネスやソーシャルビジネスだ。
BOPビジネス
BOPは「Base of the(Economic)Pyramid」の略で、経済的なピラミッドの層を表す言葉だ。BOP層はピラミッドの最下層で、1人あたりの年間所得3000ドル以下の開発途上国地域をいう。
人口 | 1人あたりの年間所得 | |
---|---|---|
TOP層 | 約1.75億人 | 20,000ドル~ |
MOP層 | 約14億人 | 3000~20,000ドル |
BOP層 | 約40億人 | ~3000ドル |
参考:「平成23年版 情報通信白書」(総務省)
BOP層の特徴は、需要に見合った財やサービスが十分に行き渡っていないことだ。中間層であるMOP層や富裕層であるTOP層と比べて、BOP層は商品やサービスに容易にアクセスできず、質の割に高額な対価を払っているとされる。
このようなBOP層の現状を解消するためのビジネスがBOPビジネスだ。
BOPビジネスは、多くの人々が属する巨大なBOP層に、これまで行き届かなかった商品やサービスを拡大させることで、貧困からの脱出やMOP層などとの格差の縮小をサポートする。ICT(情報通信技術)の利用環境を整えることもBOPビジネスのひとつだ。
ソーシャルビジネス
ソーシャルビジネスとは社会的課題の解決を事業活動とするビジネスモデルを指す用語だ。新しい社会的商品などを提供する仕組みや、社会課題に取り組む仕組みの開発をミッションとしている。
ソーシャルビジネスは一般的なビジネスモデルと異なり、株主の利益は重視されず、社会的利益や社会的課題の解決に重点が置かれる。
資金調達は返済を前提に行われることから、利益循環ができるモデルの確立が前提で、基本的に配当はなく、ビジネスの利益は再投資へと回される。
また、非営利団体や国際機関などの慈善団体とも異なるモデルだ。社会的問題の解決に取り組みつつも、損失なしの持続可能な形で運営を行う。
デジタル・ディバイドに対する企業の取組事例
企業においても情報格差解消に向けたさまざまな取り組みが行われている。ここでは、国内企業のふたつの事例を取り上げていく。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社は、情報格差解消の取り組みとして、障害のある子どもの学習と社会参加をサポートしている。プロジェクトは、東京大学先進科学技術研究センターとともに2009年から開始された。
人型ロボット「Pepper」やタブレットをプロジェクトに参加する学校に無償で貸し出し、学校生活だけでなく、さまざまな場面での活用が期待されている。
同社では、Pepperとの会話やプログラミングにより、障がいのある子どもたちが自分の感情や意思をより豊かに、自分の言葉で伝えられるようサポートしている。
ICT活用によって障害のある子どもの意欲を高め、活動の幅も広げられるよう、サポートの拡大を進めている。
ソニー株式会社
ソニー株式会社は、デジタル・ディバイド解消に向けた商品の販売を行っている。家のどこからでも情報にアクセスできるなど、誰もが情報を利用できることを念頭に商品化が行われた。
デジタルネットワークサービスの提供と合わせて新たなライフスタイルを提案している。
まとめ
国際的な課題は情報格差だけではない。これからは国だけでなく、企業や私たち個々人が社会的な課題に目を向け、行動していく必要があるだろう。
協和キリン株式会社でも、社会的課題に目を向けたCSV経営に取り組んでいる。