社会との共有価値 【解説記事】水素発電とは?SDGsに関するメリットや日本での取り組みについて
近年、水素から得られる熱エネルギーを活用した水素発電が注目されている。水素は燃やしても二酸化炭素が発生せず、脱炭素社会の実現に大きく貢献する。
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)達成に向けて、個人または企業が取り組みを行う中で、環境やエネルギーについて知っておくことも重要だ。今回は、環境にもやさしい水素発電の特徴や日本における水素発電の現状や普及・活用に必要なことについて解説していく。
水素発電とは?
水素発電とは、水素を燃料とした発電方法のことだ。水素などの燃料を燃焼させてガスタービンを回転させる「ガスタービン発電」、水素などをボイラーで燃焼させ蒸気でタービンを回す「汽力発電」、水素と酸素の化学反応を用いる「燃料電池」の3種類の発電方法がある。
身近な水素発電の例が、燃料電池を用いた自動車だ。燃料電池は、水素と酸素の化学反応で直接電気エネルギーを取り出して動力とするものである。
ほかにも注目されているのが、自動車メーカーなどで研究開発が進んでいる水素エンジンだ。燃料電池が水素の化学反応を利用したものであるのと異なり、水素エンジンは気体水素や液体水素自体を燃料としている。
水素発電は燃焼速度や性質に関する課題があり、実用化されているのは一部だ。しかし、さまざまなメリットが期待できるため、サステナブルな社会の実現を目指すうえで重要視されている分野といえる。
水素発電で期待されている4つのこと
水素発電は、環境面を含めさまざまな面で注目を集めている。水素発電で期待されるメリットを4つ見ていこう。
脱炭素社会の実現に貢献できる
水素発電は、エネルギー利用時に二酸化炭素が発生しない。火力発電の燃料として利用できれば、環境負荷の軽減にも役立つ。
化石燃料から水素を製造する際は二酸化炭素が発生するものの、二酸化炭素の貯留や回収などの技術を用いれば、そのまま化石燃料を利用するよりも二酸化炭素の排出を低減することも可能だ。
ほかにも、全体として二酸化炭素の量をゼロにできる、植物などのバイオマス燃料を利用した水素製造の技術もある。水素の製造方法次第では、製造から利用までカーボンフリーを実現できるため、脱炭素社会実現に役立つエネルギーとして期待されている。
脱炭素社会の具体的な目標や策定の経緯については、以下の記事で詳しく紹介している。
【脱炭素社会の実現に向けて】日本における「政府・企業・個人」の取り組みを紹介
エネルギーセキュリティの向上につながる
エネルギーセキュリティとは、生活や経済活動に必要となるエネルギーを安定的に確保できることを指し、エネルギー安全保障とも呼ばれる。
水素は水から取り出せるほか、化石燃料やメタノール、エタノール、廃プラスチック、褐炭などの未利用のエネルギーからも取り出せる。さまざまな資源から製造できるのが水素の特徴だ。
日本は一次エネルギーのほとんどを海外に依存しており、国際情勢の影響を受けやすい。海外に燃料を依存しすぎることはエネルギー安全保障の観点からも大きな問題だ。
供給源が多様な水素は、国内資源の活用につながることから、エネルギー自給率の向上によるエネルギーセキュリティの手段としても有効である。エネルギーの安定性が図れることも水素発電が注目される理由のひとつだ。
省エネルギーに寄与する
水素発電の中でも、特に発電効率が高いのが燃料電池だ。化学反応により直接電気を取り出せるだけでなく、化学反応時に熱が生じるため、電気と熱の総合エネルギーにより高効率でエネルギーを取り出すことができる。
国内の産業競争力を強化できる
日本は国際社会の中でも水素発電の技術が発達しており、燃料電池分野については日本が世界トップの特許出願数となっている。
水素関連市場に関しては今後も大きく拡大していくことが見込まれ、水素発電の普及により、産業競争力がさらに強化できると期待されている。
日本における水素発電の現状
日本国内では水素発電はどのような位置づけで、どのような技術開発が進んでいるのだろうか。国内の水素発電を取り巻く現状について解説する。
カーボンニュートラル実現のために重要視されている
日本では、2050年までに全体として温室効果ガスの排出をゼロにしてカーボンニュートラル社会の実現を目指すことが、2020年当時の菅総理大臣の所信表明演説で宣言された。
また、同日には当時の経済産業大臣の記者会見においても、温室効果ガスの多くを占めるエネルギー分野の取り組みが重要であることが言及されている。
電力需要の増加も見込まれる中、再生可能エネルギーと原子力の最大限の活用だけでなく、水素発電の導入についても発言があった。
今後、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、電化で対応できない部分は水素化を活用すること、水素を含めた重要分野の具体的な目標年限や制度の整備、支援策についても言及されている。
日本政府としてカーボンニュートラルを実現するために水素について言及されたことは、水素発電が将来的に期待され、重要視されていることが伺えるだろう。
燃料電池による水素発電が活用されている
水素エネルギーの活用方法として、さまざまな場所で燃料電池の導入が進んでいる。
代表的なのが、燃料電池の自動車への利用だ。ガソリン車と同じ程度の燃料補給時間と航続距離で利用できることが注目され、2014年には自動車メーカーから一般向けの燃料電池自動車(FCV)が発売された。
一般用だけでなく、燃料電池バス(FCバス)や燃料電池トラックなどへの導入や開発も進められているところだ。このほか、家庭用の燃料電池なども普及が進んでいる。
水素エネルギーの自動車への活用では、水素エンジンも注目の分野だ。水素エンジンは、水素を直接燃焼させて動力とするもので、燃料電池と同じく二酸化炭素をほとんど排出させない再生可能エネルギーとして注目されている。
技術的課題はあるものの、燃料電池よりも低い純度の水素も利用できることから、利用できれば燃料電池よりもコストを抑えて提供できるとして期待も大きい。
神戸で水素発電の実証実験が実施された
水素発電には、従来の発電所のような大規模な発電による活用も期待されている。
2018年には、神戸市の水素スマートシティ神戸構想の取り組みとして、オーストラリアから水素を輸送して発電のための燃料タンクに充填し、実際に水素を使用する実証実験が行われた。
実現のための課題は残るものの、製造から活用までのモデルケースとして、将来的に水素を大規模な発電に活用するための実績となった。
水素発電の普及・活用に必要なこと
2020年における日本の水素の供給量は0.4万トンである。これを2030年には30万トン、さらに将来的には1000万トンにまで拡大していく構想だ。
政府では、2050年を視野に2030年までの行動計画が策定されたが、計画の段階でも普及や実現までには多大な時間がかかることが予想されている。
普及にあたり特に重視されているのが、低コスト化のための安価な製造の実現、サプライチェーンの構築、自動車産業を始めとした大規模な利用だ。低コスト化を実現するために、次のような取り組みが必要とされる。
水素確保のための技術やシステム構築
水素発電普及のためには、技術的な発展はもちろん、用途の拡大が求められている。そのために必要なのが燃料である水素の大量の確保だ。
低コストで水素を確保するためには、貯蔵を含めた国内における安定的な製造技術の向上、国際的なサプライチェーンの構築、自治体や地元企業などと連携した技術立証、輸送技術の確立、技術開発支援、人材育成などが求められる。
燃料電池の用途拡大に向けたコスト削減
水素発電の活用用途拡大のために、コスト削減も課題となっている。コスト低減のためには、安定的なシステムやサプライチェーンの構築だけでなく、大規模な利用の拡大も重要だ。
そこで進められているのが水素ステーションの整備や規制緩和である。水素ステーションの設置においては、制度面での課題の特定、構成機器のコスト削減のための技術開発やパッケージ化、水素ステーションのメンテナンス技術の開発や整備、情報提供や人材育成、なども必要だ。
まとめ
水素発電は、カーボンニュートラルの実現に貢献すること、エネルギーセキュリティの向上につながることなどから注目されている。2020年には政府における水素発電促進に関する宣言もあり、今後の水素発電の動向が注目されているところだ。