社会との共有価値 【解説記事】サステナブルツーリズムで地域を守ろう!取り組み事例を紹介
交通機関の発達や普及、グローバル化などもあり、私たちは世界のさまざまな場所に気軽に移動できるようになった。世界各地で観光地化による開発が行われている一方、観光地化によるさまざまな問題も表面化している。
観光を将来的に持続させるために注目されているのが「サステナブルツーリズム」だ。今回は、サステナブルツーリズムの意味やSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)との関係、自治体の事例を取り上げる。
サステナブルツーリズムとは
サステナブルツーリズムとは何か、その意義と関心が高まっている背景について解説していく。
サステナブルツーリズムとは「持続可能な観光」のこと
サステナブルツーリズムは、「持続可能な観光」を意味する。現在だけに目を向けず、将来の地域経済・社会・環境への影響を配慮し、観光業も発展させていくことだ。
観光客や企業だけでなく、受け入れ地域の環境やニーズも把握し、観光地に住む人や自然環境、伝統や文化を守りつつ、地域経済も発展させる取り組みをいう。
観光の持続可能性に対して関心が高まった背景
国連世界観光機関の調べによると、新型コロナウイルス感染症の流行前は、世界の国際旅行者数は年々増加していたという。
観光ニーズの高まりには、地域経済の活性化や地域雇用の創出といったメリットがある。一方で旅行客が過度に集まる地域では、自然環境への影響や地域住民への負荷が問題となった。
観光の負の面への対応として、国連世界観光機関がかねてより提唱してきたのがサステナブルツーリズムだ。
しかし、コロナ禍の長期化によって観光業界は大打撃を受けた。観光化を推し進めるのではなく、選ばれる観光地になることがより重要となった。
特に、旅行者の間では、サステナビリティに対する意識が高まってきている。観光地への負荷や影響を最小限に抑えた地域全体の取り組みがより一層重要度を増しているのだ。
内閣府や官公庁でも関心が高まっている
日本政府や国際会議の場でも、サステナブルツーリズムへの関心が高まってきている。
2018年、観光庁と国土交通政策研究所において、持続可能な観光に関するアンケート調査が実施された。その結果、多くの自治体で、旅行者の増加による混雑やマナー違反を課題として強く捉えていることが分かったのだ。2019年6月には、『持続可能な観光先進国に向けて』(報告書)が公表され、観光客と地域住民の双方が満足できる持続可能な観光を実現するための観光指標のあり方が言及されている。
その後、2020年6月には国際基準に沿った「日本版持続可能な観光ガイドライン」も誕生した。各地域や観光地域づくり法人などが活用することにより、持続可能な観光地マネジメントを進めることを目的としている。
また、G20観光大臣会合では、コロナ禍で打撃を受けた観光産業の持続可能な回復に向けて、7つの分野が議論に取り上げられた。2022年9月開催の会合においては、日本は観光資源を生かした持続可能な観光地マネジメントの推進について、その重要性を発言している。
内閣府の分科会などでも、SDGs達成に貢献する地域創生についての議論が活発だ。世界で著名な日本人偉人資産を活用した地域創生やSDGsへの貢献のあり方などが検討されている。
国を挙げたサステナブルツーリズムへの関心の高さが伺えるだろう。
サステナブルツーリズムを達成するためのポイント
サステナブルツーリズムで大切なのは、SDGsとの関係性を理解することだ。サステナブルツーリズムとSDGsの17の目標は、ほとんどが関連している。中でも、目標8、目標11、目標12、目標14の4つの目標と関連性が高い。
目標8:働きがいも経済成長も
目標8「働きがいも経済成長も」には、サステナブルツーリズムに関連するターゲットが次のように定められている。
「8.9 雇用創出、文化振興・産品販促につながる持続可能な観光を推進する政策の立案や実施を行う」
サステナブルツーリズムの地域経済の大きさを考えたものだ。観光の活性化が地域経済に与える影響を利用して、さらに推進することとしている。
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標11「住み続けられるまちづくりを」は、観光地を訪れる人だけでなく、観光地に住む人々のくらしも守るまちづくりが目標となっている。また、11.4にある次のターゲットもサステナブルツーリズムと関連性が高い。
「11.4 世界の文化遺産や自然遺産の保護・保全努力を強化する」
地域で保存されている文化遺産や自然遺産の保存の強化を明記したものだ。人々のくらしも守りつつ、伝統文化や自然環境を保存していくことも重要とされる。
目標12:つくる責任、つかう責任
目標12「つくる責任つかう責任」では、次のように、サステナブルツーリズムに関連するターゲットがある。
「12.b 雇用創出、文化振興、産品販促につながる持続可能な観光業に対し、持続可能な開発による影響を測定する手法を開発・導入する」
地域資源を有効活用する手法の開発・導入によって、持続可能な消費生産サイクルの構築が見込まれるだろう。
目標14:海の豊かさを守ろう
目標14「海の豊かさを守ろう」もサステナブルツーリズムと関連性が高い。特に日本のように、海関連の観光事業が多く見られる島国と関連深いといえる。
「14.2 2020年までに海と沿岸の生態系に重大な影響がないよう持続的管理や保護を行う。健全で生産的な海の実現に向け、海と沿岸の生態系の回復のための取り組みを行う」
「14.c 「私たちが望む未来」(リオ+20で採択の文書)で言及のあった、法的枠組みである国連海洋法条約を実施し、海や海洋資源の保護や持続可能な利用の強化をする」
以上のように、海や沿岸の生態系、海洋資源の保護や回復、持続可能な海洋資源の利用などが明記されていることがわかるだろう。サステナブルツーリズムでは、海洋生物や海洋資源などを壊さない、自然との共存を意識した観光業の展開が重要だ。
サステナブルツーリズムを達成するための取り組み
サステナブルツーリズム達成に向けた動きは日本国内でも活発化している。どのような取り組みが行われているのか、自治体の事例をいくつか紹介しよう。
日本の源流に出会える旅(岐阜)
岐阜県では、持続可能性を意識し、「日本の源流に出会える旅」をコンセプトにブランディングを行っている。岐阜県といえば、飛騨高山や下呂温泉、長良川鵜飼、合掌造りで有名な白川村、などの伝統文化や自然が魅力的な場所だ。
しかし、代表的なテーマパークなどの目を引くものがなかった。そのため、ふるさとの魅力を知ってもらおうと、2009年から県民一人ひとりが観光資源の情報発信をする『岐阜の宝もの認定プロジェクト』を開始することとなる。
岐阜の宝ものに認定されると組織運営や維持、国内外へのPRサポートが受けられる仕組みだ。この活動により、自然や伝統文化などのコンテンツに光が当たるようになった。海外プロモーションにも力を入れ、岐阜県のブランド価値の向上に寄与している。
岐阜県では、地域住民の理解や持続可能な取り組みにも力を入れている。サステナブルツーリズム達成のための取り組みは国際的な評価も高い。オランダのNPO法人による「2020年サステナブルな旅行先トップ100」では岐阜県の白川村が選出された。
銀座ミツバチプロジェクト(東京)
蜂は、花粉媒介者として花の蜜を吸いながら受粉を助ける役割があるため、自然環境の維持に重要な生物だといわれている。蜂に関連して持続可能な取り組みを行っているのが「銀座ミツバチプロジェクト」だ。銀座周辺の環境や生態系を感じることが主な目的である。
同プロジェクトは、2006年に銀座の屋上でミツバチを養蜂することから始まった。当初は都心で養蜂することに不安を抱える人もいたものの、ミツバチは人が攻撃しない限り襲ってこないことを理解してもらい、より大きなプロジェクトとして成熟していった。
また、銀座は海外からのツアー客も多く訪れる場所である。見学者の受け入れや都内のアメリカンスクールへの出張授業なども実施し、世界に向けた発信にも力を入れてきた。サステナブルツーリズムにもつながる活動といえる。
ゼロ・ウェイストアクションホテル(徳島)
徳島県上勝町は、「ゼロ・ウェイスト」を宣言した日本初の自治体だ。町民が細かくゴミを分別する努力をしてきたことで、上勝町は高いリサイクル率を達成してきた。
そんな上勝町の暮らしを知り、ゴミについて見つめ直してもらうためにできたのが、ゼロ・ウェイストホテルの「HOTEL WHY」だ。同ホテルは、ゴミステーション内の敷地内にあるという特異なホテルである。
町に住む人と同じ経験ができるように、宿泊中のゴミを宿泊者自らが分別する体験、石鹸を使用する分だけ自分でカットする体験ができる。ゴミについて見つめ直すヒントを得られる体験型のホテルだ。サステナブルツーリズムに関連する取り組みとして注目されている。
まとめ
サステナブルツーリズムに関する取り組みは、海外だけでなく、国内のさまざまな自治体でも行われている。SDGsとも関連の深いサステナブルツーリズムについて考えるなら、持続可能性を考慮した観光地を選択することも重要だ。
また、観光地における持続可能性だけでなく、全体としてのサステナビリティに目を向けることも日々の生活を持続可能なものにしていくことに貢献する。商品やサービスを選ぶ際に企業の取り組みについて目を向けてみるのも良い。
協和キリンでは、SDGsに関連するさまざまな取り組みを実施している。