社会との共有価値 【解説記事】SDGs16「平和と公正をすべての人に」とは?現状と取り組み事例をわかりやすく解説
2030年までに達成を目指す国際的目標としてSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)が国連で採択された。SDGsは全部で17の目標から構成されており、平和や公正に関連するのが16番目の目標だ。この記事では、SDGs16の概要、事例、個人でもできる取り組みを紹介していく。
SDGs16「平和と公正をすべての人に」とは?
17の目標で構成されるSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の16番目の目標は「平和と公正をすべての人に」だ。内容とSDGs16が生まれた背景についてまずは確認していこう。
法律の強化で「平和」「安定」「人権保護」を実現する
SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」は、正式には「持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する」という目標が定められている。
この目標には11個のターゲットから構成されている。それらを紹介していく。
- あらゆる暴力とそれによる死を減らす
- 子どもへの虐待、搾取、暴力、拷問、人身売買をなくす
- 国際的にも各国でも法律に従い平等に司法を利用できるようにする
- 違法な資金や武器の取引を減らし組織的な犯罪をなくす
- 汚職や贈賄を減らす
- 公的機関のあらゆるレベルを発展させる
- さまざまな人が参加してものごとを決められるようにする
- 開発途上国の参加を広げて国境を越えた問題の解決を強化する
- すべての人が法的身分証明をもてるようにする
- 開発途上国を中心に暴力や犯罪を撲滅するために、組織的能力の向上を国際的に強化する
- 差別のない法規や政策を推進し、実施する
SDGs16における世界の現状と課題
なぜ「平和と公正をすべての人に」という国際的な目標が生まれたのだろうか。SDGsの目標16が生まれた背景について、「子どもへの暴力」「人身売買の被害」「法的に存在しない子どもたち」「紛争下の影響」という4つの視点から解説する。
子どもへの暴力
子どもへの暴力は、世界のあらゆる国々で深刻な問題となっている。
子どもがはじめて暴力を受ける場所の多くは家庭といわれており、家で暴力的なしつけを受けている子どもは、世界の子どもの75%にものぼる。それにも関わらず、家庭内での暴力が禁じられている国に住む5歳未満の子どもの割合は、全体の9%に過ぎない。
出典:「16.平和と公正をすべての人に」(公益財団法人 日本ユニセフ協会)
子どもへの暴力が深刻な社会問題として扱われているなか、家庭で発生する暴力や体罰を法律で全面的に禁止している国は60ヶ国だ。
ただし、それ以外の6億人以上の子どもたち(5歳未満)は、法律から守られずにいる。
家庭内の暴力が放置されることの問題は、子どもだけでなく、社会にも影響を与えるだろう。暴力は、子どもの発達や健康だけでなく、福祉や豊かな生活を送るための能力も低下させるといわれている。さらには、トラウマを抱え、社会から孤立する子どもを増やしてしまうのではないだろうか。
出典:「#ENDviolence」(UNICEFホームページ)
人身売買の被害
人身売買は、国際的に禁止されている行為であるにもかかわらず、いまだに世界に存在している。被害者は、成人から子どもまで幅広い。
UNODCの2018年の報告書によると、2016年に人身売買の被害を受け保護された人のうち、全体の7割が成人女性と女子だ。
成人男性の被害者も多く、強制労働を目的とした人身売買であることがほとんどである。
なお、同報告書においては、地域差の記述もあり、特に西アフリカにおいては、被害者の多くが子どもであった。ほかに、中央アジアでは男性の被害者の割合が高く、中央アメリカやカリブ海周辺では女子の被害者の割合が高いことがわかっている。
このように、人身売買は世界で禁止されているにもかかわらず、途上国を中心に日常的に行われている。国際的な課題にすることで人身売買を撲滅していくというのも、SDGs16が生まれた背景のひとつだ。
出典:「Trafficking in Persons」(UNODCホームページ)
法的に存在しない子どもたち
2019年に発行されたユニセフの報告書によると、世界の5歳未満の子どものうち、4人に1人は出生届(出生登録)が出されていないとされている。具体的な人数に換算すると、約1億6,600万人だ。
出生登録の割合については、少しずつ改善はされている。しかし、いまだに世界に住む多くの子どもが公的に存在を証明されていない。現実には存在していても、法的には存在しない扱いになっているのだ。
法的に存在しない子どもたちの多くは、インド、パキスタン、ナイジェリア、エチオピア、コンゴ民主共和国に集中しているという。
公的な存在証明がない場合、さまざまな問題が起きてしまう。学校に入学できない、予防接種が受けられないといった問題だ。
ほかにも、犯罪に巻き込まれたとしても裁判ができない、人身売買で国外に連れ出されても生まれた国に戻れないなどの問題も起きている。
SDGs16のグローバル指標でも、「2030年までに、全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する」と、具体的な目標が定められている。すべての子どもたちに対して、公的な存在証明を実現するというのも、SDGs16が生まれた背景だ。
出典:「出生登録 法的に存在しない子ども、1億6,600万人 5歳未満の4人に1人に相当 サハラ以南アフリカ、最低水準」(UNICEFホームページ)
紛争下の影響
UNICEFのデータによると、世界では推定2億4,600万人の子どもが、武力紛争の影響下にある国や地域で生活しているといわれる。
さらに、2015年時点でのデータによると、紛争下の22カ国において、2,700万人の子どもが学校に通えていないという。紛争によって、多くの子どもの学習機会が失われているのだ。
紛争が起きている国においては、子どもをはじめ、危険にさらされている多くの人々をどのように保護するかが大きな課題として挙げられる。
人々がいかなる暴力も受けることなく、安心して生活できる環境をつくりあげていくことを目的に、国際的な動きとしてSDGs16が生まれたのだ。
出典:「UNICEFホームページ」(UNICEFホームページ)
出典:「教育を奪われた子どもたち 紛争の影響で学校に通えない子ども2,700万人 ユニセフ報告書『教育を奪われて(Education Uprooted)』発表」(UNICEFホームページ)
組織犯罪
SDGs16の目標を達成するうえで、組織犯罪も解決すべき重要な課題だ。組織犯罪の代表例として、銃器の国際不正取引、マネー・ローンダリング、ハイテク犯罪などが挙げられる。
特に、銃器の国際不正取引は日本でも深刻な課題だ。国内で押収される真正拳銃の大半は外国製であり、現在でも拳銃等密輸事件が発生している。拳銃等密輸事件においては、令和4年時点での検挙数は6件で、前年比+4件となった。
出典:「日本の銃器情勢(令和4年版)」(警察庁)
マネー・ローンダリングとは、麻薬や銃器の取引・脱税などの犯罪がらみの収益について、出所や所有者をわからなくする行為のことだ。日本においても「犯罪による収益の移転防止に関する法律」などを定め、対策が強化されている。
ハイテク犯罪とは、インターネットやコンピューターを悪用した犯罪だ。情報通信社会となった現代では大きな脅威であり、穴のない犯罪対策が求められている。
性的少数者LGBTQ+に対する差別
LGBTQ+(lesbian, gay, bisexual and transgender, Questioning/Queer,+)とは、同性愛者や両性愛者、トランス・ジェンダーの人々のことである。
マイノリティであるLGBTQ+は、年齢や地域に関係なく、世界各地で人権侵害を受けているのが実情だ。現在、およそ76ヶ国において同性愛が犯罪と定められており、そのうち5ヶ国では死刑判決が出されている。
LGBTQ+の人々の人権保護については、すでに世界人権宣言と国際人権条約で確立されている。LGBTQ+の人々に対する差別や暴力などをなくすためには、国民一人ひとりの意識改革も必要だ。
LGBTQ+の問題性と取り組みについては、以下の記事で紹介しています。
難民
2021年末時点で、紛争や迫害により故郷を追われた人の数は、8,930万人といわれている。そして、そのうち、難民は2,710万人にも上る。
難民の主な出身国は、シリア・ベネズエラ・アフガニスタンだが、無国籍者も多く、実数値はさらに多いと推測されている。誰もが平和で安定的な暮らしを送るうえで、難民問題の解決は避けては通れない。
出典:「Global Trends Report 2021」(UNHCR)
拘留者への不当な措置
多くの国では、受刑者が基本的な生活設備を奪われ、過密で管理がずさんな刑務所に収容されている。不当な期間にわたって収監されることも珍しくない。
特に、貧困層や社会から隔絶された人々など、司法へのアクセスが不十分な人々を守るためにも、司法の不手際を減らすことが重要だ。不当な有罪判決、贈収賄を取り締まり、責任ある透明な制度を確立することが求められる。
SDGs16の達成に取り組む各国の事例
SDGs16の達成に向けて、各国では具体的にどのような取り組みを実施しているのだろうか。日本とフィンランドを例に、SDGs16の達成に向けた取り組みを紹介する。
日本
日本国内においては、SDGs16に関連して「子どもに対する暴力撲滅行動計画」が策定された。関係府省庁が連携して進める計画で、その中でも優先すべき課題として、子どもへの虐待、性的搾取、いじめ、体罰を挙げている。
各分野において、どのような取り組みが実施されているか、以下に紹介する。
子どもへの虐待
子どもへの虐待に関する取り組みとしては、虐待防止と早期発見が掲げられている。虐待防止の取り組みとして行われているのが、妊娠期からの検診や訪問による養育環境の把握または支援、子育て中の親子が集まれる場所の設置などだ。
虐待の早期発見としては、24時間対応ダイヤルの整備、虐待発見後の対応としては児童の保護や保護者の支援を進めている。
性的搾取
性的搾取や性被害の防止のために、取締りの強化や矯正施設での再犯防止指導を推進している。
いじめ
いじめの防止策として、研修会の実施や相談体制の充実化による防止措置の徹底を行う。支援策としては精神的被害を回復する取り組みが進められている。
体罰
体罰については、学校だけでなく家庭も対象として防止策が実施されている。学校での体罰防止に関しては、ガイドラインの周知やフォローアップを行う。家庭での体罰防止に関しては、体罰範囲や禁止する考えの周知や民法の懲戒権の検討が行われている。
フィンランド
先進国の中でも、フィンランドは育児にやさしい国として知られている。そんなフィンランドで特徴的なのが、「ネウボラ」と呼ばれるしくみだ。
ネウボラとは、「アドバイスの場所」を意味するフィンランド語である。妊娠から就学前の子どもの家族を支援する制度で、市町村が主体となり取り組みを実施している。
ネウボラ保健師と呼ばれる専門教育を受けた保健師と家族が定期的に会話し、出産や育児の相談など、家族の心身を個別に支援する。必要に応じて、医療機関などとの連携により、追加の検診も行なわれる。
利用は無料であるため、フィンランドにおいてネウボラは、子どもをもつ家族にとって身近な制度だ。
ネウボラのメリットは、妊娠から就学前まで、家族を切れ目なく支援できることである。同じネウボラ保健師が継続的に支援することが多く、状況を把握しているネウボラ保健師により、児童虐待などのリスクの早期発見や予防、適切な支援の可能性が高まるといわれている。
SDGs16の達成に取り組む企業事例
さまざまな企業がSDGsの達成に向けた取り組みを行っている。SDGs16に関連する取り組みについて、いくつかの事例を見ていこう。
Ethique Limited(エティーク社)
エティーク社は、固形のシャンプーバーやコンディショナーバーを販売する「エティーク」をブランドに持つ、ニュージーランドの会社だ。エティーク社はプラスチック撤廃を掲げ、2012年に誕生した。
本国のニュージーランドで話題を呼び、アメリカやオーストラリアなどでも人気を集め、日本でも2019年に販売が開始されている。
エティークが支持される理由のひとつが、完璧なサスティナブル製品であることだ。世界で初めて、製品だけでなく包装紙に至るまでサスティナブルを実現した。
こだわりは、製品の原料にも表れており、フェアトレード(公正取引)、リビングウェイジ、動物実験なし、という特徴がある。そのうえで、環境にやさしいビジネスを展開している。
リビングウェイジとは、生活に最低限必要な給与金額のことだ。リビングウェイジを考える上で問題になる、児童労働による化粧原料は一切使用されていない。
また、社会貢献にも力を入れている会社で、時代や環境の変化に合わせて、環境団体やその年に選定した先に直接の寄付も行っている。購入者は、製品を購入することで間接的に児童労働の撲滅に貢献できるだけでなく、地球環境にも貢献することができる。
ヤマハ株式会社
SDGs目標16は、世界から暴力をなくすだけでなく、公正な社会、基本的な自由が守られる社会の構築も目標にしている。
ヤマハ株式会社は、インドネシアやベトナムなどの計5カ国で、スクールプロジェクトを展開している。音楽の授業があっても楽器の演奏をする機会がない子どもたちを対象に「Music Time」という独自プロジェクトを提供している。
プロジェクトの内容は、座学が中心で楽器に触れる機会がない子どもたちに等しく器楽演奏できる機会を届けるプロジェクトだ。
また、2020年9月にベトナム教育訓練省と連携を行い、ベトナムの小中学校の学習指導要綱にリコーダーの器楽演奏が加えられることになった。
プロジェクトは、今後、7ヶ国、100万人を対象に拡大する方針だ。
協和キリン株式会社
協和キリングループは、贈収賄や汚職が持続可能な社会の実現に大きな障害になると考えている。それは、貧しい地域の社会構造を腐食し、経済成長を阻害し、競争をゆがめ、さらには深刻な法的リスクや風評リスクを引き起こすためだ。
そのため、協和キリングループは、贈収賄や汚職の防止は社会からの強い要望であり、企業の社会的責任と捉え、3つの取り組みを実施している。
- コンテンツの作成
グループ全体で統一した教育を実施し、協和キリングループのポリシー、ルール、最新の社会動向、理解度テストを盛り込んだコンテンツを作成。2019年から外部パートナーとの連携で、より教育の実効性を高める取り組みを実施している。 - 内部通報ラインの設置
企業の自浄作用向上を期待し、2016にはグループ共通の内部通報ラインを設置した。継続的な啓発活動で、従業員が安心して利用できる環境も整えている。 - サプライヤー行動指針の設定
贈収賄防止には、供給源であるサプライヤーとの協力が欠かせない。協和キリングループでは、協力してほしい事項に、贈収賄防止に関する事項も含め「サプライヤー行動指針」として定めている。
さらに、各サプライヤーとは、「サプライヤー行動指針」の遵守状況の確認も定期的に実施。サプライチェーン全体で贈収賄および汚職防止に取り組んでいる。
協和キリングループの詳細な取り組みは以下よりご覧いただける。
協和キリングループの贈収賄防止に関する取り組みの詳細はこちら
日本航空株式会社
日本航空株式会社は、人権の尊重・公正な事業行動の推進・人身取引の未然防止など、多角的にSDGs目標16達成に向けて取り組んでいる企業だ。
具体的な施策の内容を見てみよう。
この表はスクロールしてご覧いただけます
人権の尊重 |
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公正な事業行動の推進 |
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人身取引を未然に防ぐ |
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- ※人権デューデリジェンス…企業活動の人権侵害(長時間労働、賃金未払いなど)に関するリスクを軽減する取り組み
暴力や犯罪のない平和な社会にするために私たちができること
ここまで、SDGs目標16の内容や達成に向けた企業の事例を紹介してきた。大きな規模での話をしてきたが、平和で公正な世界の実現のために、私たち個人が取り組めることもある。いくつか紹介したい。
差別を見つけたら声を上げよう
SDGs目標16は、公正で安心できる社会の実現を目指している。職場のほか、日常生活で差別に気づいたら声を上げるようにしよう。性別や人種、性的指向、社会的背景、身体的能力、などどんな背景があろうとも人は平等であり、差別は許されることではない。
困っている人がいたら相談相手になろう
困っている人を見つけたら、できるだけ相談相手になろう。相談を受けることによって、助けを求められなかった人が救われたり、深刻な事態を発見できたりすることもある。思いやりを持って行動してみよう。
周りで虐待が起きていないか目を向けてみよう
世界では多くの子どもが保護者からの暴力的なしつけを受けていると説明した。身近なところでも子どもへの過度な暴力やしつけ、虐待があるかかもしれない。
思い込みを捨てて、周りの環境に目を向けてみよう。不自然な傷や打撲の痕の見られる子ども、近所で叫び声や鳴き声が1週間以上続くなど異常が見られることもあるかもしれない。
近所で家庭内暴力やネグレクトに関係する異変を感じたら、居住地を管轄している児童相談所などしかるべき場所に相談しよう。
犯罪防止の輪を広げよう
窃盗や住宅侵入、痴漢など、犯罪情報を発信している自治体も多い。犯罪防止のためには、まずは周辺エリアの正しい情報を確認して、防犯に不安がないか自分自身で確認することだ。
また、犯罪情報を取得するだけでなく、巻き込まれないように自身で対策を講じるのも大切だ。犯罪防止の輪を広げるために、近所にも犯罪情報や犯罪防止の呼びかけを行うのが良いだろう。
平和を目指している団体への寄付
国内だけでなく、海外に目を向けて平和や公正な社会を考えるなら、団体への寄付も検討してみよう。国連UNHCR、日本ユニセフ協会など、世界の平和や公正な社会の実現を目指して支援を行っている団体も多い。
世界の平和や公正のために取り組んでいる団体に寄付して、間接的に目標の達成を支援することができる。
まとめ
SDGs目標16は、平和や公正な社会を実現する国際的目標だ。国内でも虐待や暴力、差別などは身近なところでも起こっているかもしれない。個人レベルでできることもあるので、まずは関心を持つことからはじめてみよう。