社会との共有価値 【解説記事】【脱炭素社会の実現に向けて】日本における「政府・企業・個人」の取り組みを紹介
地球温暖化への関心が広がり、「脱炭素社会」という言葉を耳にすることも増えている。
温室効果ガスの削減はSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の目標7や目標13とも関係性が深く、世界的に取り組むべき課題だ。
今回は、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを解説し、私たちでも始められる対策についても紹介する。
脱炭素社会の実現に向けた日本政府の取り組み
脱炭素社会の実現に向けて、日本政府がどのような取り組みを実施しているかを紹介しよう。
「脱炭素社会の実現」を基本理念として法律に明記
我が国では、1998年に地球温暖化に対しての取り組みを定めた「地球温暖化対策推進法」が成立された。
これにより、国や地方自治体、企業、個人が行うべき対策の枠組みが決められ、地球を温暖化から保護する活動の第一歩を踏み出した。
時代の変化とともに目標や対策がより具体的になり、その都度変更や改正が実施された。
例えば、2005年に温室効果ガスの排出量の大幅な増加が示唆されたことで、2008年には排出量を6%削減することを目標とした、業務部門や家庭部門における抜本的な対策の見直しを行うなど、現状を把握しながら対策の強化に取り組んでいる。
直近の2021年の改正では、パリ協定の目標や2020年に宣言された「2050年カーボンニュートラル」を踏まえ、2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念として規定した。
地球温暖化対策の取り組みを加速させることが狙いで、再生可能エネルギーの活用の促進や、企業の温室効果ガス排出量をオープンデータ化する仕組みなどに関しても定めている。
脱炭素へ移行するための具体策をまとめたロードマップを策定
脱炭素社会の実現に向けて「地域脱炭素ロードマップ」が策定され、各地域の課題を解決して最終的には全国的、世界的に活動を広めて脱炭素化を達成する方針だ。
具体的な施策としては、まず2025年までに人材や技術、資金面などで積極的なサポートを実施し、2030年度までには最低でも100ヶ所の「脱炭素先行地域」を目指している。
2030年以降は、モデル地域を参考にして全国的に重点対策を広めることで、ドミノ状に効果が波及すると予想され、2050年を待たずに脱炭素社会を実現できるという計画だ。
重点対策の例としては、自家消費型の太陽光発電を広めることで環境負荷を軽減させ、蓄エネ設備と組み合わせて非常用電源としても活用できる仕組みの確保があげられる。
ほかにも住宅や建物の省エネ性能の向上を目指し、温室効果ガスを排出する要因のひとつでもある冷暖房の機能改善や、断熱性と気密性の向上など建築物に関する内容を含めた、全体で8つの重点対策が整備された。
日本企業の脱炭素社会の実現に向けた取り組み
カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けての日本企業の取り組み事例を紹介する。
株式会社東芝
各事業におけるカーボンニュートラル関連ビジネスを加速させるため、2021年8月1日から「カーボンニュートラル営業推進部」を新設した。
社内において脱炭素化への取り組みが進められており、2020年度の事業活動における温室効果ガスの総排出量は105万トンまで抑えられている。
製品やサービスに関する温室効果ガスの排出抑制量として、2017年からの累計値はエネルギー供給製品で2,161万トン、エネルギー消費製品で695万トンとなった。
事業活動で排出された量と比較しても、温室効果ガス排出量の大幅な削減に寄与していることが分かる。
今後の中長期目標としては、2030年度までに同社グルーブの事業活動から排出される温室効果ガスを2019年度比で70%削減することを目指し、販売したエネルギー供給製品やサービスで排出される量は80%削減、エネルギー消費製品でも14%削減を掲げている。
阪急電鉄株式会社
摂津市が実施している南千里丘まちづくりの一環で、2010年に日本初の「カーボン・ニュートラル・ステーション」として「摂津市駅」を開業した。
太陽光発電やLED照明、雨水利用やヒートポンプ式給湯器などの導入により温室効果ガスの排出量を減らしている。
駅運営において年間約69トンの排出が想定される温室効果ガスのうち、約29トンを省エネルギー設備導入によって削減した。
残りの約40トンに関しては、カーボンオフセットによって実質的に排出量をゼロにできている。
カーボンオフセットとは、対策後にどうしても削減できない温室効果ガスについては、カーボン削減活動を行っている事業に投資することで、実質的な埋め合わせ(オフセット)が可能になるという制度だ。
摂津市駅では、排出量に見合った金額を兵庫県内の森林整備へ投資することでオフセットしている。
協和キリン株式会社
協和キリン株式会社では、2016年からCO2排出量の削減を目指し、2020年の排出量を1990年における排出量の85%(38万トン以下)まで抑えることを目標に取り組みを行ってきた。
結果として、2020年の排出量は約28万トンで38%削減という目標を大幅に上回る成果が得られ、今後さらに高い目標に向けて取り組む意向だ。
気候変動が深刻化していることを加味し、2030年には2019年比でCO2排出量55%削減の目標を掲げた。
ここからは、協和キリンが行っている脱炭素に向けた主な取り組みを3つ紹介しよう。
①再生可能エネルギー導入の促進
2011年から太陽光発電設備の導入を進め、再生可能エネルギーの活用を目指している。
2021年には複数の工場で太陽光設備が稼働しており、2020年の発電量は約13万kWhに達した。間接排出量としてCO2排出量に換算すると約66トンを削減した計算となる。
ほかにも水力発電設備も導入して約2,340万kWhを発電し、グループ全体のCO2排出量を約21%(年間1万トン以上)削減に成功した。
2030年までには、グループの全事業で使用する電力をすべて再生可能エネルギーに切り替える予定だ。
②営業車のハイブリッドカーへの切り替え
2009年から、営業車を低排出ガス車からハイブリットカーへの切り替えを進めており、2019年にはすべての営業車の切り替えが完了した。
営業車のハイブリットカーへの切り替えにより、2020年にはCO2排出量が約1,600トンまで抑えられ、2016年と比較すると約1,300トンの削減に成功している。
③グリーン・オフィス・プランの推進
「グリーン・オフィス・プラン」とは、協和キリングループが取り組む環境に配慮した活動で、年間の電気使用量とコピー用紙使用量を1%削減すること、グリーン購入比率を90%以上にすることを目標にしている。
2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、リモートワークなどの働き方改革も推進した結果、電気使用量は前年の0.5%削減し、コピー用紙は過去3年平均と比較して15%の削減に成功した。
脱炭素社会の実現に向けて「今日から私たちにできること」
脱炭素社会の実現に向けた「ゼロカーボンアクション30」を参考に、私たちが個人ですぐに始められる取り組みを紹介する。
衣食住に関すること
衣類に関しては、サステナブル素材など、長く使用できる服選びを意識して、修繕やリメイクなども行いながら大切に扱おう。例えば、オーガニックコットンやリサイクルポリエステルなどがある。
食材は事前に必要なものをメモするなど、食べ切れる量を購入することが大事である。また、食材ごとの保存方法を知り、食品ロスを削減する工夫を心がけよう。
車移動では、急発進や急停車をしないようなエコドライブを目指し、できる限りスマートムーブ(スマートムーブとは、徒歩や自転車、公共交通機関などの自動車以外の移動手段をなるべく選択し、温室効果ガスを抑えての移動を意味する。)を実施することが重要だ。
消費行動に関すること
マイバックやマイボトルを使用して使い捨てのプラスチックを減らすことや、ゴミの分別を徹底することは、焼却処理による温室効果ガス削減につながる取り組みだ。
また、不用品をすぐに捨てずフリマアプリなどに出品すると、脱炭素化に貢献できるうえ、自身の収入にもつながる。
買い物では、環境配慮マークの付いた商品を選ぶことで環境負荷の低減に貢献できる。
エネルギーに関すること
普段から節電、節水を心がけることが大事だが、再エネ電気に切り替えて省エネ家電を導入することも温室効果ガス削減には効果的だ。省エネ家電には、緑の省エネラベルがついている。エアコン、冷蔵庫、テレビなどを買い替えるときにも確認してみよう。
気温に合わせて服装を整えるクールビズ、ウォームビズを取り入れることでも、冷暖房を使いすぎない対策ができる。
まとめ
脱炭素社会を実現するための取り組みは法律にも明記されるほど重要性の高いもので、多くの企業がカーボンニュートラルに向けた施策を実施している。
温室効果ガスは日常生活の中からも大量に排出されており、一人ひとりが削減の意識を持つことが非常に重要である。
衣食住を中心に、移動や節電などさまざまな部分に注意することで、持続可能な地球環境の保全に誰もが貢献できるのだ。