社会との共有価値 【解説記事】地方創生とSDGsの関係とは。国内の取り組み「地方創生SDGsの推進策」を解説

地方創生とSDGsの関係とは。国内の取り組み「地方創生SDGsの推進策」を解説 地方創生とSDGsの関係とは。国内の取り組み「地方創生SDGsの推進策」を解説

より良い未来のために、世界各国や多くの企業でSDGsの達成を目指す取り組みが行われている。SDGsは環境保全のみならず、さまざまな個性や事情を抱えた人々が互いへの理解を深め、共生するための目標も多く含まれていることが特徴のひとつだ。

この記事では、地方創生SDGsについて事例とともに解説する。

地方創生SDGsとは

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)は、2030年の達成を目指した国際目標だ。地方創生SDGsとは、「地方創生に向けたSDGsの推進」を表す。ここでは、地方創生SDGsの理解を深めるために、地方創生とSDGsについて詳しく解説する。

「地方創生」とは

地方創生とは、簡単に説明すると、地方の活力を取り戻すことである。

近年、日本は人口減少が進み、さまざまな問題が浮上するようになった。地方衰退はいまや地方だけの問題ではない。日本社会全体の衰退も暗に示す重要な問題だ。そこで、東京圏に集中している人口を是正し、地方に活力をもたらそうという考えが広がるようになった。

都市部の「人口集中の是正」、「地方の人口減少と経済縮小の克服」を軸に、地方に活気を取り戻し、将来にわたる成長力の確保を目指すのが地方創生である。

「SDGs」とは

地方創生SDGsの「SDGs」は、持続可能な開発目標のことである。2015年の国連サミットで各国が合意に至った「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」で掲げられた。

2030年を期限に、世界共通の目標として示された17の目標を指す。

SDGsについて詳しくはこちらの記事で解説している。ぜひ参考にしてほしい。

ここまで、地方創生とSDGsの概要を説明した。まとめると、「地方創生SDGs」とは、SDGsを原動力とした地方創生のことだ。

地方創生SDGsが必要とされる背景

ここまで地方創生SDGsについて説明した。それでは、なぜSDGsをとおして地方創生することが注目されるようになったのだろうか。地方創生SDGsが必要とされるふたつの背景を見ていこう。

人口減少が続く地域の活性化

日本の人口は、2005年を境に減少に転じた。少子高齢化が進む中で、人口減少社会に突入しているのが、現代の日本だ。

なお、人口減少は地域によって偏りがみられる。過疎化が著しいのが、中山間地域などの地方だ。中山間地方などからは若年者層が流出、減少し、集落の維持が困難となるケースも見られるようになった。

地方の人口の減少は今後の日本にとって大きな課題だ。地方の人口減少は、いずれは日本全体の衰退につながるとされている。日本全体の衰退を抑えるには、人口減少と地方の問題に向き合うことだ。

持続可能なまちづくりと地域活性化を目的とする「地方創生SDGs」は、深刻な地域問題を解決するために重要とされる。

地方創生SDGsを政府が後押し

地方創生SDGsが意識され、取り組みが広がるようになったのは、政府の後押しも大きい。

「SDGsアクションプラン2020」では、日本の「SDGsモデル」の展開を加速化する新たな三本柱が改定された。

  • ビジネスとイノベーション~SDGsと連動する「Society5.0」の推進~
  • SDGsを原動力とした地方創生、強靭かつ環境にやさしい魅力的なまちづくり
  • SDGsの担い手としての次世代・女性のエンパワーメント

これらを中核とした活動のひとつとして、政府の後押しのもと地方創生を推進する取り組みが実施されることとなった。

国内の取り組み「地方創生SDGsの推進策」

ここでは前項で紹介した国内の取り組みとして、国が各自治体に対して行っている地方創生SDGsの推進策を紹介する。

SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業を促進

2018年を皮切りに、日本政府は「SDGs未来都市」を毎年選定する取り組みを始めた。

SDGs未来都市とは、SDGsを達成するために優れた取り組みを提案する地域を選定する事業のことで、国は取り組みの実現を目指して資金面での支援を行うこととなっている。

「SDGs未来都市」は、学識経験者や専門家などで構成された選定機関によって選定される。評価項目は以下の3つで、スコア形式で評価される仕組みだ。

  • 全体計画(自治体全体でのSDGsの取り組み)
  • 自治体SDGsモデル事業(特に注力する先導的取り組み)
  • 委員による参考意見

スコアは合計160点。1項目あたり0~5あるいは0~10の範囲で採点される。たとえば全体計画に関する評価では、「地域の実態を十分に把握したうえで、将来ビジョンを適切な政策目標として設定できているか」が採点対象のひとつだ。

単純な数値のみならず、委員による参考意見やヒアリング内容も考慮され、最終的に最も評価の高い自治体が「SDGs未来都市」として選定される。

評価や選定の日程は2月から6月頃までで、具体的なスケジュールは以下のとおりだ。

「SDGs未来都市」選定のスケジュール
2月 提案書類の提出
3月 専門の選定機関による評価
3~4月 ヒアリング対象となる団体の決定
4月中旬 対象自治体へのヒアリング
5~6月 「SDGs未来都市」の選定
6月中旬 自治体SDGs補助金の交付決定

SDGs未来都市に選定された地域の中でも、さらに『先導的な取り組みを行っている』と認められた地域は、より厚い支援を受けられる「自治体SDGsモデル事業」に選定される。

自治体SDGsモデル事業に選ばれた地域は、更なる資金の支援に加えて、ステークホルダーとの連携や好循環の構築に関しても国の支援が受けられる。

国が率先して「SDGs未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」の選定を行い、SDGsへの取り組みを後押しする動きは、地方レベルでSDGsの認識を高めている。

国の後押しがあることは、SDGsの達成を目指して積極的に取り組みを行う自治体の増加につながる。地域活性化の促進にも効果的だ。

地方創生SDGs官民連携プラットフォームを設置

「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」は、国内のSDGs事業を推進し地方創生につなげることを目的に設置されたプラットフォームだ。

プラットフォームには、企業はもちろん、専門性のあるNGOやNPO、大学や研究機関など幅広いステークホルダーが連携して、地域経済に新たな付加価値を生み出す場として活用される2021年5月31日時点での会員は5,423団体となっている。

地方創生SDGs官民連携プラットフォームの主な取り組みは、以下の3つだ。

1.マッチングの支援

会員が抱える課題や実現したいこと、身につけているノウハウをデータベースに蓄積して、閲覧・利用できる。入会時のアンケートやマッチングシートの内容と合わせて、「課題を解決したい会員」と「解決できる策やノウハウをもっている会員」をマッチングする。

マッチングイベントも開催しており、データベース上では気付かなかった課題や解決策と出会うチャンスもある。会員にとっては、個人で探すよりも効率的に協働相手と出会えることが大きな魅力だ。

2.分科会の開催

会員の提案により、共通する課題の検討や知見の共有などを目的とした分科会を開催している。課題によっては異分野連携あるいは官民連携も行い、取り組みの具体化や新事業の創出によって地方創生へつなげていく。

分科会には提案されたテーマに興味をもつ会員のほかにも類似テーマに興味をもった会員や、類似の分科会を提案した会員も参加する。そのため、具体的な新事業の創出が期待できるだろう。

分科会に提案または参加するには、地方創生SDGs官民連携プラットフォームの会員になる必要がある。

3.普及の促進活動

メールマガジンなどで、会員が開催するセミナーや各種イベントの情報を発信し、普及の促進活動を行っている。プラットフォーム名をイベントの後援として使用することも可能だ。

地方創生SDGs官民連携プラットフォーム自体も、内閣府の共催によって地方創生SDGs国際フォーラムを開催した実績がある。

地方創生SDGs金融の仕組みを構築

地方創生を推進する地域でのSDGs達成に資する事業に対して、従来以上の民間資金が充当されている。また、地域の自律的好循環が形成されるよう、2018年には「地方創生SDGs・ESG金融調査・研究会」も設置された。

地方創生SDGs・ESG金融調査・研究会は、地方創生SDGs金融を実現するための「地方創生SDGs金融フレームワーク」を示したうえで、以下のフェーズを提案している。

  • 地域事業者のSDGs達成に向けた取り組みの見える化
  • SDGsを通じた地域金融機関と地域事業者の連携促進
  • SDGsを通じた地域金融機関等と機関投資家・大手銀行・証券会社等の連携促進

上記は地域事業者や地方公共団体、地域金融機関、機関投資家・大手銀行・証券会社などのステークホルダーが連携するためのもの。たとえば金融機関や投資家が投融資を行い、「登録・認定制度」による地域事業者のSDGs達成に向けた取り組みを可視化することで、より多くの地域事業者の参画を促せる。

このように各フェーズで地方創生SDGs金融を通じた自律的好循環が形成されることにより、SDGsを原動力とする地方創生へ参画する企業や関連事業の拡大が目的である。

地方創生SDGs5つの取り組み事例

地方創生SDGsの重要性を説明したが、それぞれどのような形で取り入れられているのだろうか。地方創生SDGsの取り組みの事例を5つ紹介する。

事例1.SDGs人づくりプラットフォーム

SDGs人づくりプラットフォーム構築した、栃木県宇都宮市の事例だ。

宇都宮市は、経済、社会、環境の各面の循環とつながりに課題を抱えていた。そこで創設したのが、「宇都宮市もったいない運動市民議会」をベースにした市民を主体にした団体だ。

「もったいない運動」が、人が動きやすい環境をつくる原動力となり、人の動きを活発にする。そして、人が動きやすい環境を作り上げる。これは、経済や社会の動きが環境意識につながる循環を意識して創設された。

SDGs人づくりプラットフォームの主な活動として行われているのは、テーマをSDGsとしたシンポジウム、勉強会、イベント参加、環境配慮実践行動の促進だ。より多くの人に問題を認識してもらうこと、環境に配慮する行動を促すことを目的としている。

経済、社会、環境の循環を意識した事業は、市民の環境意識の向上、地域企業の取り組みにも影響を与えるようになった。

事例2.高糖度トマトでシルバーが地域おこし!

愛知県犬山市では、トマトを地方創生の原動力とする取り組みを行っている。

地方創生SDGsの視点として重視したのが、高齢者の働きがいや就業機会の創出、耕作放棄地の解消と持続可能な農業、環境に配慮した農法、健康増進、経済効果だ。

これらの視点により、SDGsの以下の目標をゴールに設定した。

  • 1.貧困2.飢餓
  • 3.保健
  • 4.経済成長と雇用
  • 9.インフラ、産業、イノベーションの達成

具体的に行われたのが、節水型農法であるアイメックⓇ農法を取り入れた、糖度の高いブランドトマトづくりだ。犬山市をはじめ、シルバー人材センターや大学など、さまざまなステークホルダーが連携して実現に至った。

ブランドトマトの取り組みにより変化が起きたのは、地域高齢者の就業機会の創出、新たな農業モデルの構築だ。

高齢化がほかの地域よりも進んでいた犬山市は、高齢者のやりがい・生きがいを生み出し醸成することで地域おこしに成功したよい事例といえるだろう。

事例3.地域と協働で取り組んだバイオマスの活用

山梨県南部町では、地域企業と協力してバイオマスの活用に取り組んでいる。

地方創生SDGsの視点として重視したのは、エネルギー源となる熱やバイオ炭の生成、雇用機会の創出、健全な森林環境の維持、林業や関連する事業の活性化だ。

豊かな森林資源を生かして、バイオマス事業が生まれた。自治体と企業の協力により、熱分解方式の木質バイオマス発電所の建設が実現。間伐の問題を抱えていた森を利用した事業は、さまざまな成果を上げた。

脱炭素など環境問題が認識されるようになった現代において、環境を保全し、かつ環境にやさしいエネルギーを生み出すのは大きい事柄である。

事業は、CO2削減、新たな産業の創出、エネルギー自給率の向上、雇用の創出、森林保全、さらには地域ブランディングなど、多様な面で効果を生み出している。

事例4.地域資源を活用した循環による持続可能なまちづくり

岡山県真庭市では、地域資源の循環に関わる取り組みを行っている。

地方創生SDGsの視点として重視したのは、ごみの循環である。通常はごみとして廃棄される生ごみなどの一般廃棄物を、地域資源と考えたのが岡山県真庭市の取り組みだ。

まず、地域住民や事業者にごみの分別をしっかり行うように、分別ができていればごみ処理手数料の負担を軽減。ごみは焼却するのではなく、利用できるものはリサイクル施設で再生できるようにした。

そして、再生された生ごみなどは、ローコストで安心安全な農産物の肥料へ。持続可能な消費と生産に貢献するだけでなく、農林産業の振興につながるとして、さらなる広がりが期待されている。

事例5.リサイクルの町から、世界の未来をつくる町へ

鹿児島県大崎町は、20年以上リサイクルに取り組んできた。27品目に分けられたゴミの徹底分別が、家庭ごみの80%をリサイクル可能としている。

焼却に頼らず、住民と自治体が協力して徹底した分別をすることで、コストを抑えつつ高いリサイクル率の実現に成功した。低コストで運営できる独自のごみ処理システムは「大崎システム」として、海外でもごみ減量化や資源化の国際協力に活かされているほどの高い効果がある。

また、大崎システムによって得たリサイクル収益金も奨学金の整備など人材育成に役立てられるなど、幅広い分野で「SDGs型リサイクル地域経営」を展開している。

まとめ

日本におけるSDGs地方創生は、国が「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデル事業」の選定を行い、後押しをすることで、全国の自治体に取り組みを促しているのが特徴だ。選定された自治体は資金の支援やステークホルダーとの連携、好循環の構築に対する支援も受けられ、成功事例は国内外へ発信される。資金のみに留まらず、世界的な認知度向上も含めた長期的なメリットも期待できるだろう。

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