People & Culture 【解説記事】ジェンダーレスとは。データから見る各国の現状と身近な事例を紹介
近年、多色展開のランドセルが発売されたり、男女兼用のコスメアイテムが登場したりと、性別によって使用する人を選ばない商品が増えてきている。Z世代を中心に「ジェンダーレス」な考え方が広まっている。Z世代にとどまらず、企業、個人ともにジェンダーレスの考え方を考慮した取り組みも多く見られてきた。
そこで今回は、ジェンダーレスの意味について深掘り、日本の現状や取り組み状況などを解説する。
ジェンダーレスの意味
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の達成目標のうち、5つ目に「ジェンダー平等を実現しよう」という目標が掲げられている。すべての人が性別にかかわらず平等に機会が与えられる社会を目指す考え方だ。ジェンダーレスは、この「ジェンダー平等」から派生した言葉である。まずは、「ジェンダーとは何を意味するのか」から説明していこう。
ジェンダーとは「社会的・文化的につくられる性別」のこと
ジェンダーとは、社会的・文化的につくられた性別ごとの役割やイメージを指す。単純に生物学的な性差を表すセックス(sex)とは異なり、ジェンダーはそれぞれの社会や文化によって規定され、表現される。
それは、髪型や服装などのファッションから、言葉遣い、職業、考え方やコミュニケーションの仕方まで、多岐にわたる。「男性だから」「女性はこうあるべき」などの固定観念もジェンダーの一種といえる。
試しに、ジェンダーの具体例を見てみよう。
ジェンダーの具体例
- 男の子は寒色系、女の子は暖色系を選ぶものだ。
- 組織の会長は男性がするものだ。
- 男の子は理系、女の子は文系を選ぶべきだ。
- 家事や子育て、介護は、女性の仕事だ。
このようなジェンダーは社会通念や慣習などによって生まれたと考えられる。
SDGsが目指すのは、性別にとらわれず、すべての人が能力を最大限に発揮できる社会を実現することだ。
ジェンダー平等に関するSDGsの目標については、「SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」国内外の取り組み事例とは」を確認しよう。
ジェンダーレスとは「社会的・文化的な区別をなくす考え方」のこと
ジェンダーレスとは、前項で説明したジェンダーそのものをなくすこと、つまりは「男女間の区別をなくす考え方」のことだ。
なお、似た言葉にジェンダーフリーがある。両者は、ジェンダーの問題を解決することを目的としている点では同じだが、細かな点で意味合いが異なる。
ジェンダーフリーは、社会や文化によって形成された「男性像」や「女性像」にとらわれずに自由になるという意味だ。一方、ジェンダーレスは、固定概念により形成された男女間の区別や性差をなくすという意味になる。
ジェンダーレス | 男女間による区別や性差をなくす (例)
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ジェンダーフリー | 社会的・文化的に形成された性差から自由になる (例)
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また、ジェンダーレスに関連して、「ジェンダーレス男子」「ジェンダーレス女子」という言葉がある。これらは、服装や髪型などが中性的な男女を指す。メイクをするロングヘアの男性や、ベリーショートでライダースジャケットを着こなす女性などが挙げられる。
世界と日本のジェンダーレスの現状
ジェンダーレスの意味がわかったところで、世界や日本では、どのくらいジェンダーレスが浸透しているのか、気になる人も多いだろう。
ここでは、ジェンダーギャップ指数をもとに、世界と日本のジェンダーレスの現状を紹介する。
ジェンダーレス先進国はアイスランド
ジェンダーレス先進国は、ジェンダーギャップ指数で12年連続1位を獲得しているアイスランドだ。
アイスランドでは、ジェンダーレスを実現するためのさまざまな施策が導入されている。その一例を見てみよう。
アイスランドのジェンダーレス施策の例 | |
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クオータ制 |
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同一賃金認証法 |
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男女平等な育児休暇制度 |
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これらの施策の結果、2021年の世界ジェンダーギャップ指数でアイスランドは、政治への参画におけるジェンダー平等が146ヶ国中1位、経済活動への参加と機会は4位と高水準な結果になっている。
日本のジェンダーギャップ指数は116位
日本のジェンダーギャップ指数は、146ヶ国中116位と先進国の中で最低レベルという結果だった。特に、政治が139位、経済は121位と、世界でもかなり低い結果になっている。
日本のジェンダーギャップ指数が低い背景には、国会議員に占める女性の割合が14.3%と191ヶ国中153位であること。 また、管理職に占める女性の割合が13.3%と、アメリカ(41.1%)、スウェーデン(40.2%)などの欧米諸国のほか、フィリピン(50.5%)、シンガポール(38.9%)などのアジア諸国と比較しても低いことなどが考えられる。
出典:就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)|内閣府男女共同参画局
【日本国内】ジェンダーレス社会の実現に向けた取り組み
世界的にジェンダーレスが進んでいない現状を受けて、日本国内では、ジェンダーレス社会の実現に向けた取り組みが進められている。取り組みの一例として「ポジティブ・アクション」を見てみよう。
ポジティブ・アクション
ポジティブ・アクションとは、社会的な背景や構造により不利益を被っている人について、実質的な機会の平等を実現するために、一時的な特別措置を取ることだ。
例えば、「管理職に占める女性の割合が少ない」という課題に対するポジティブ・アクションの例として、次のようなものが挙げられる。
- 昇進の条件を具体的に定めて公開する
- 管理職候補となる女性社員に対する育成を強化する
- 女性が管理職となるためのロールモデルを示す
身近なジェンダーレスの事例
最後に、身近なジェンダーレスの事例として、「ジェンダーレスファッション」と「ジェンダーレストイレ」について紹介する。ジェンダーレスは、企業や政府だけでなく、私たち一人ひとりが関与すべきだと把握しておこう。
ジェンダーレスファッション
ジェンダーレスファッションとは、男性向け・女性向けといった性別の枠組みにとらわれることのないファッションを意味する。
服装を例に挙げると、中性的なデザインや、ベージュ・グレー・カーキなど性別を感じさせない色味を取り入れたデザインが、ジェンダーレスファッションの特徴だ。
性別にとらわれず自由にファッションが楽しめることや、ジェンダーレスの必要性の高まりにともない、注目を集めている。
ジェンダーレス制服
ジェンダーレス制服とは、男女で同じデザインのジャケットやスラックスなど、性差を感じさせないデザインの制服のことだ。
ジェンダーレス制服を取り入れるうえで、男女ともに自分が着たい制服を着られるように、ジャケット・ボトム・ネクタイ・リボンの組み合わせを、自由に選択できるようにしている学校も増えている。
ジェンダーレストイレ
ジェンダーレストイレとは、男性用・女性用の区別のない、性別にかかわらず誰もが使えるトイレのことだ。
性的マイノリティであっても、公共のトイレを不自由なく使えるようにする「オールジェンダートイレ」がその取り組みの一例で、一部の空港や大学などで導入されている。
オールジェンダートイレは、トランスジェンダーのストレスを減らすうえで有効な対策だが、プライバシーや防犯面で懸念が残るなど、解決すべき課題が残っているのが実情だ。
まとめ
ジェンダーレスとは、社会的・文化的な区別をなくす考え方だ。SDGsの目標を達成するうえでも、取り組みが欠かせない。しかし、日本は、世界的に見てもジェンダーギャップ指 数は低いのが実情だ。ジェンダーレスへの取り組みに関心をもち、身近なことから意識していくことが求められている。