People & Culture 【解説記事】【LGBTQ】オールジェンダートイレの取り組み事例と考慮すべき課題

LGBTQは、Lesbian(レズビアン:性自認も恋愛対象も女性)、Gay(ゲイ:性自認も恋愛対象も男性)、Bisexual(バイセクシャル:恋愛対象が女性と男性の両方)、Transgender(トランスジェンダー:身体の性と性自認が一致しない)、Questioning(クエスチョニング:自分自身の性自認がわからないまたは決められない)の頭文字である。

LGBTQは性的マイノリティ(少数派)の総称を表す。マイノリティとするのは、「異性を好きになる」「身体と性自認が一致する」といった人々が多数の社会で、LGBTQは「性的指向が異性に限らない」また「性自認が身体と心で一致しない」など、少数者であるためだ。

LGBTQ当事者の中には、周囲から理解されずに差別や偏見を受けて苦しんでいる人もいる。また、明確な悪意がなくとも、日常生活のなかで無意識の差別や偏見にさらされることもあるため、私たち一人ひとりが当事者として意識を持たなければならない。

LGBTQの当事者の方が抱える問題については、以下の記事でも詳しく説明している。

今回は、このようなLGBTQの問題のひとつとして、トイレに関する問題について深掘りしていく。

【LGBTQ】トイレの使用に関する悩み

性的マイノリティのなかでも、特に性自認と身体の性が一致しないトランスジェンダーはトイレに使いづらさを感じる人が多い。よく挙げられるのが、以下のような悩みだ。

  • トイレに入るときに周囲からの視線を感じる
  • 男女別のトイレしかないとき、どちらを使用すべきか悩む

性自認に基づいてトイレを利用すると、身体の性とは別のトイレを利用することになるため、周囲から「トイレを間違えているのでは」という人々の視線や、注意、指摘を受けることがある。

性自認に配慮したオールジェンダートイレの取り組み事例

特にトランスジェンダーにおいては、性自認に従ってトイレを利用すると周囲の視線や注意が気になるという不安が付きまとう。身体の性に従って利用する場合も、異性のトイレを利用しているという違和感から使いにくさを感じる人は多い。

このようなLGBTQのトイレの問題に対処するにはどうすれば良いのか。性自認に配慮したオールジェンダートイレの取り組み事例を3つ取り上げる。

成田空港第1ターミナルビル

成田空港では、ユニバーサルデザイン(UD)2020行動計画において世界トップレベルのUD実現のため、さまざまな議論が行われた。その議論のひとつとなったのが、トイレ機能の分散と異性介助、トランスジェンダーへの対応だ。

より多くの人がトイレを使いやすいものにするため、異性介助やトランスジェンダーの利用を想定したオールジェンダートイレの整備が進められ、成田空港の第1ターミナルビルに誕生した。

一般的な公共のトイレでは左右に男女のトイレが設置されるが、周囲からの視線や違和感を少しでもなくせるよう、オールジェンダートイレは中央に設置されている。

鳥取大学

国内の大学でもオールジェンダートイレ設置の取り組みが進められている。鳥取大学では、2020年、鳥取キャンパスの広報センターと附属図書館1階の2か所にオールジェンダートイレを設置した。

鳥取大学では2016年から性的マイノリティの理解を深めるセミナーを実施しているが、セミナーの中で、「性別を区分しない全個室のトイレが欲しい」「トイレなどに改善が必要に思う」との意見があったためだ。

参加者からの意見を反映する形で、オールジェンダートイレの設置が行われた。トイレには、オールジェンダートイレを含めたピクトグラムと「どなたでもご利用いただけます」との表記をすることで、誰でも利用しやすいような環境を構築している。

株式会社ドン・キホーテ

東京都渋谷区では、ダイバーシティ(多様性)をキーワードにさまざまな取り組みを行っている。この渋谷区での取り組みを背景に、株式会社ドン・キホーテは、2017年に渋谷区にオープンした渋谷本店においてオールジェンダートイレの設置を行った。

誰でも利用できるオールジェンダートイレを個室で3室用意し、性自認でトイレに不安を抱えている人でも利用しやすいようになっている。

オールジェンダートイレに残される課題

性自認にかかわらず誰でも利用しやすいトイレということでオールジェンダートイレが広がりを見せているが、問題が完全に解決できるわけではない。

オールジェンダートイレを取り入れることで新たに見えてきた課題もある。主に、プライバシーの問題、宗教や法律上の問題だ。

プライバシーの問題

まず挙げられるのがプライバシーの問題だ。オールジェンダートイレは誰でも利用しやすい点でメリットがあるが、トイレを男女で分けず、すべてをオールジェンダートイレにしてしまうとプライバシーを守るのが難しくなる。

トイレが並んだ場所に性別問わず誰でも入れるようになると、男性が使用したあとに女性、女性が使用したあとに男性という状況も生じ、不快に感じる人も出てくるためだ。

また、誰かにのぞかれないか不安に感じる人もいるほか、犯罪につながるおそれもある。

LGBTQの人への配慮は重要なものの、すべてをオールジェンダートイレにするという方法はプライバシーの面で問題が大きい。

男女の区別をなくして完全個室にするという方法もあるが、こちらも課題がある。個室を利用することで周囲の視線が気になり、落ち着いてトイレを利用できないという問題が生じるためだ。

オールジェンダートイレを整備する際は、このようなプライバシーの問題にも配慮して、より多くの人がトイレを気兼ねなく利用できる環境を構築する必要がある。

法律上・宗教上の問題

オールジェンダートイレは、法律や宗教の面でも問題になることがある。特にアメリカは政治的な背景と宗教的な背景が絡まっており問題がより複雑だ。

アメリカでは、2006年にワシントンD.C.で性自認に基づいたトイレの利用が認められ、個室のトイレは「Gender neutral(ジェンダーニュートラル)」の表示をするよう法律で定められたが、同じアメリカでも州や地域によって状況は異なる。

2018年6月において、アメリカでトランスジェンダーへの差別を禁止する法律を採択しているのは、ワシントンD.C.とその他18の州だ。このうち、ワシントンD.C.をはじめ、性自認に基づいたトイレの利用を認めているところもある。

一方で、出生証明書に記載された性別の利用に限定する州もあり、性自認に基づいたトイレが利用できるかどうかは州や地域によってまちまちだ。

2020年に最高裁によって退けられたものの、オレゴン州ダラスの学区で定められた「性自認によるトイレの利用を認めた権利に関する規則」に対して訴訟が起きており、難しい問題となっている。

アメリカの事例について取り上げたが、日本においてもダイバーシティを進めるなら海外の宗教面などに配慮した取り組みを考えていく必要があるだろう。

まとめ

LGBTQの中でも、身体と性自認が一致しないトランスジェンダーは、周りの視線や指摘が気になるなどの理由でトイレ利用についての悩みやストレスを抱える人が多い。

近年では、成田空港の第1ターミナルビルの他にも、トランスジェンダーの人も利用しやすいようにオールジェンダートイレの整備を進める施設や企業も見られるようになってきた。

一方で、オールジェンダートイレは設置の方法によって、プライバシーや宗教上、あるいは法律上問題になってしまうこともある。

オールジェンダートイレなどの環境面の取り組みも重要な取り組みのひとつだが、私たちがLGBTQについて理解し、LGBTQの人が性自認に基づいてトイレを利用することもあるのだと想像力を働かせることも大切だ。

協和キリン株式会社においてもLGBTQに関する取り組みを行っている。ダイバーシティ・マネジメントの促進と定着を図る日本で初めての評価指標である「PRIDE指標2021」においてはシルバー認定を受けた。

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