People & Culture社内でタブーに感じていた「生理」と「不妊治療」。女性特有の問題を敢えてオープンにする意味とは?―前編

女性活躍推進法が2016年に施行され、女性の社会進出を後押しする取り組みが広がる中、働く女性特有の健康問題に関心が寄せられることが多くなった。女性はライフステージの変化に伴い、特有の様々な健康問題に直面しなければならない。その多くに影響を与えているのが生理だ。若い頃から出産を繰り返していた昔の女性に比べ、現代の女性は、生涯に経験する生理の回数が300~400回も増えたといわれているi

生理の回数が増え、出産や授乳回数が減ることで、子宮内膜症や子宮筋腫など、発症しやすくなる女性特有の疾患は多い。それらの病気が原因で、不妊治療を強いられるケースもある。また、生理が増えると、心と身体の不調が現れる月経前症候群(PMS)を経験する回数も必然的に多くなる。経済産業省によると、生理で起きる体調不良による経済的損失は年間6,828億円にもなるそうだii

そんな中、働く女性の多様性と女性特有の健康問題に着目し、生理や不妊治療について社内の理解を深めることを提案した女性従業員がいる。MRとして12年間活躍してきた豊泉夏紀(現在はコーポレートコミュニケーション部所属)だ。協和キリンでは「壁を乗り越える(KABEGOE)」というKey Behaviorのもと、社員一人ひとりが常に変化・進化し、行動に移し、学びを重ねる組織を目指す企業文化改革を行っており、その活動のひとつとして、自発的に経営陣を職場に呼んで話したい従業員と経営陣がオープンな対話を行う『Meet Up!』という施策がある。豊泉が掲げたテーマは、「多様性の壁にMeet Up!~働く女性への理解浸透~ 」。社会的にも問題が山積みの難しい課題にどのように取り組んでいったのか。豊泉に話を聞いた。

言いにくいことを本音で話せる場をつくることが目的だった

「元々は、立場に関係なく、本音で語り合うことで相互理解を深めたいという思いが発端です。生理や不妊治療を社内にオープンにしていきましょうという取り組みではありません。悩みがあっても周囲に相談できない従業員がいる環境を、より良くできないかと思いました。本音で話し合える場を設けることで、一人で悩みを抱えることが少なくなり、互いにサポートし合えるようになれば、もっと働きやすい職場になるのではないかと感じました。」

豊泉自身、困ったときに周りに相談しにくいテーマは何か?その答えが女性特有の健康問題だったのだ。不妊治療について周囲から話を聞くこともあり、そのつらさ、大変さも想像できていた。環境変化に伴い、会社を辞めていく同僚もいるなかで、誰にも打ち明けられずに女性が長く仕事を続けていくことは難しいかもしれないと感じた。

「私自身、MRをしていた頃、運転中に生理が始まってスーツが汚れ、とても困った経験があります。外出先ではこの想いを共有出来る人が近くにいませんでした。また、そんな時、女性には言えても、やっぱり男性には言いづらいなと感じていました。生理で体調不良のときに生理を理由に休暇を取ったこともなく、恥ずかしさから言いづらいなと感じていたのだと思います。どこか社内でタブー視されているように感じていたのかもしれません」

あくまでリラックスして語り合うことを重視して場を設定

「多様性の壁にMeet Up!~働く女性の理解度」開催時の様子

「社長や役員も含めて生理や不妊治療について語り合える場をつくりたい、こんなことが起きていることを知ってほしい」と、会社にテーマとして応募して採択。人事部などの助けも得ながら準備を進め、メンバーの方々へお声掛けさせていただきました。“本音で語り合える場づくり”が目的であるため、Meet Up!の開催当日は、メンバーがリラックスして話しやすくなる雰囲気づくりを徹底。実施前には各メンバーと個別にミーティングや今回の経緯や趣旨等を十分に話してから臨んだ。進行では、いきなりテーマを振るのではなく、事前に集めておいた意見や事例を公表しながら反応を聞いていく手法を取った。時間は100分間。前半は「生理」をテーマに設定し、生理で困った事例を紹介。豊泉自身も経験した、突然の生理で服が汚れることへの恐怖や不安についても発表した。女性参加者からは「あるあるの事例」のため、多くの共感を得られた一方、男性からは「想像したこともなかった」と驚かれたという。事前の調査や対話を進めていくなかで、生理の話題が、女性だけでなく男性もタブーに感じていることが判明する。

「その理由の多くが、セクハラにつながることを懸念したから、というものでした。つらくても周りに言えない、つらそうだと分かっても声をかけられない…。勤めは製薬会社なので、健康リテラシーは高いほうだと思うのですが、それでも心の中で思っていることが話せない、相談できない環境があったのだと分かりました。Meet Up!で、互いにオープンに話せる場を設けたことは、お互いを知るいい機会になったと思います」

  • セクシュアルハラスメントの略称

多様な個性が輝くチームとなるために

協和キリンでは、多様な個性が輝くチームの力が、2030年のビジョン達成の原動力と捉え、2021年に「私たちのDE&I宣言」を策定している。その基盤となるのは、職場におけるダイバーシティ(Diversity/多様性)、エクイティ(Equity/公平性)、インクルージョン(Inclusion/包括性)の推進である。

Commitment to Life Innovation Integrity Teamwork/Wa

前編では、豊泉が「多様性の壁にMeet Up!~働く女性への理解浸透~ 」に手を挙げた思いや「生理」のパートについてご紹介しました。
後編では「不妊治療」や開催後の反響やその後の展開をお伝えします。

i 和泉 俊一郎. “ヒト生殖の臨床現場から〜進化の遺産と現代社会の制約〜(子宮内膜症を題材にして)”.
2013.5. p.104. https://www.jstage.jst.go.jp/article/nl2008jsce/39/149/39_96/_pdf/-char/japdfが開きます, (参照 2022-12-14).
ii 経済産業省 ヘルスケア産業課. “健康経営における女性の健康の取り組みについて”.
平成31年3月. p.2. https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/josei-kenkou.pdfpdfが開きます , (参照 2022-12-14).

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