社会との共有価値 【解説記事】海洋プラスチック問題の現状と「私たちにできること」を紹介

海洋プラスチック問題の現状と「私たちにできること」を紹介 海洋プラスチック問題の現状と「私たちにできること」を紹介

「海洋プラスチック問題」について、見聞きしたことがある人も多いだろう。海洋プラスチックは、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )達成の先にある持続可能な社会の実現において、深く関わりのある問題だ。

この記事では、海洋プラスチック問題の概要から、SDGsとの関わり、海洋問題の解決策を紹介していく。

海洋プラスチック問題とは

プラスチック素材は、安価に生産でき、耐久性にも優れていることから、幅広く利用されている。プラスチック製品をはじめ、ビニールや発泡スチロールなどもプラスチックが原料だ。

問題は、多くのプラスチックが使い捨てされている事実である。捨てられたプラスチックは処分されず、自然界に流出することも多い。

環境中に流れ出たプラスチックが行きつく先が海だ。毎年、大量のプラスチックゴミが海に流出し、海の生態系にさまざまな影響を与えるほか、海洋汚染の問題も引き起こしている。

海洋プラスチック問題とは、プラスチックの海洋への悪影響を問題視したものといえる。

海洋プラスチック問題の現状

生物が海に漂う人工物で傷つく原因のほとんどが、海洋プラスチックといわれている。このように海洋プラスチック問題は、さまざまなメディアで取り上げられるようになったが、なぜ深く問題視されるようになったのか。海洋プラスチック問題の現状を解説する。

大量のプラスチックごみが流出している

海洋プラスチックが問題視されているのは、毎年大量のプラスチックごみが海に流出しているためだ。合計で1億5,000万トンもの海洋プラスチックが海を漂い、少なくとも年間800万トン(旅客機 5万機相当の重さ)が新たに海に流出している試算もある。

出典:海洋プラスチック問題について|WWF JAPAN別ウィンドウで開きます

海に流出した大量のプラスチックごみが、地球規模で広がっているのも問題だ。太平洋などだけでなく、北極や南極でもプラスチックごみが観測されたという報告がある。

ほかにも、1950年以降に生産された83億トンを超えるプラスチックのうち、多数を占める63億トンがごみとなって廃棄されたという報告もあった。大量のプラスチックの廃棄に伴う海洋への流出が、この報告からも推測される。

出典:第3章 プラスチックを取り巻く状況と資源循環体制の構築に向けて|環境省別ウィンドウで開きます

さらに問題なのは、大量のプラスチックごみが、何十年も継続して排出され続けていることだ。日本国内の海岸には、国内のプラスチックごみだけでなく、外国製のプラスチックごみも大量に流れついており、世界規模の課題として対処することが急務となっている。

今後の海洋へのプラスチックごみの流出に関しては、2050年に魚の重量よりも、海洋プラスチックごみの重量の方が重くなるという試算もあり、早急な対策を講じる必要がある。

生態系へ影響を及ぼしている

海に流れ出たプラスチックは生態に悪影響を及ぼしており、魚類、海鳥、海洋哺乳動物、ウミガメなど多様な生物を傷つけている。たとえば、ポリ袋をエサと間違えて誤食してしまい、命の危機にさらされている生物もいる。

また、海に流出する海洋プラスチックが増えたことで、問題視されるようになったのがマイクロプラスチックだ。

マイクロプラスチックとは、プラスチック片のうち、5mm以下の微細なプラスチックごみのこと。プラスチックごみは、波で砕かれたり、紫外線により分解されたりしながら、微細なマイクロプラスチックへと形を変えていき、海洋を漂う。

なお、マイクロプラスチックは、一次的マイクロプラスチックと、二次的マイクロプラスチックに分類される。

一次的マイクロプラスチック
劣化によってではなく、製造時にマイクロサイズで作られたプラスチックのこと。洗顔料や歯磨き粉などのスクラブ剤として使われるマイクロビーズなどが該当し、排水溝から自然環境に流出する。
二次的マイクロプラスチック
製造時には大きなサイズであったものの、自然環境にさらされることで細分化されてしまったものを指す。

問題は、マイクロサイズになったプラスチックは微細なために回収が難しいことと、自然環境で分解されず、そのまま海域に蓄積すると考えられていることだ。

さらに、マイクロプラスチックは生態系への影響も問題視されている。マイクロプラスチックは、これまでの研究で、誤食によって海洋生物の体内に取り込まれ、炎症や摂食障害などの症状を引き起こすことが分かってきた。

人への影響に関しても、マイクロプラスチックを食した海洋生物を人が食すことによって、人体に影響があるのではないかとの懸念がある。

産業にも影響を及ぼしている

海洋プラスチック問題は、自然環境で成り立つ産業にも甚大な経済的損失をもたらすことが予想されている。アジア太平洋地域の観光業においては、年間6.2億ドル、漁業や養殖業においては年間3.6億ドルにも及ぶといわれている。

出典:海洋プラスチック問題について|WWF JAPAN別ウィンドウで開きます

観光業に影響するのは、海洋プラスチックごみによって、海岸などの景観が悪化するためだ。これにより、観光客の減少が起こり、観光業の経済的損失が予想されている。

また、漁業や養殖業でも損失が予想されているのは、海苔やちりめんじゃこなどの細かな水産物に海洋プラスチックごみが付着すると、ごみの確認や除去に作業負担がかかってしまうことだ。そして、海洋プラスチックごみの除去が完全に行われていないと、商品価値が下がってしまうことからも経済的損失が予想されている。

ほかにも、海洋プラスチックごみのよる定置網などの損傷、ごみを吸い込んでしまうことによる船舶への影響などもあり、人や産業への影響も無視できないレベルになってきた。

海洋プラスチック問題に関する日本政府の施策

ここまで、海洋プラスチックごみの問題と現状について説明してきた。海洋プラスチックごみの問題は、国内だけではなく、世界規模で対策が必要な課題だといえるだろう。

それでは、海洋プラスチックごみの問題に対して、日本政府はどのように対応をしているのだろうか。海洋プラスチックごみの問題に関する日本政府の3つの施策を取り上げる。

プラスチック資源循環戦略

プラスチック資源循環戦略は、2018年6月に閣議決定した、循環型社会形成に向けた中長期での方向性を示す「第4次循環型社会形成推進基本計画」を受けて策定された戦略である。

プラスチック資源環境戦略の基本原則として掲げられているのが、「3R+Renewable」だ。プラスチック使用の削減、バイオマスプラスチックなど再生可能資源への適切な切り替え、プラスチック製品の長期間の使用、持続可能なリサイクルシステムによる循環を図ることとしている。

基本原則を踏まえ、重点戦略として掲げられているのが、「資源循環」「海洋プラスチック対策」「国際展開」「基盤整備」の戦略的展開だ。世界トップレベルで達成することを目標に、以下のような方向性がマイルストーンで設定されている。

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リデュース
  • 2030年までに、容器包装などのワンウェイプラスチックを累積で25%排出の抑制をすることを目指す。
リユース・リサイクル
  • 2025年までに、機能性との両立を図りつつ、プラスチック製容器などをリユース・リサイクルできるデザインにする。
  • 2030年までに、プラスチック製容器包装の6割がリユース・リサイクルできことを目指す。
  • 2035年までに、すべての使用済みプラスチックを100%有効活用できることを目指す。
再生利用・バイオマスプラスチック
  • 2030年までに、プラスチックの再生素材の利用を倍増させる。
  • 2030年までに、バイオマスプラスチック約200万トンの導入を目指す。

出典:第2節 我が国の取組|環境省別ウィンドウで開きます

これらのマイルストーンのほか、海洋プラスチック対策として、ポイ捨てや不法投棄の撲滅、海岸漂着物などの回収処理、代替イノベーションの推進、などによる海洋プラスチックゼロエミッションなども重点戦略として掲げられている。

海岸漂着物処理推進法改正

海岸漂着物処理推進法は、2009年に施行された法律で、海岸の景観と環境保全のために海岸漂着物などの処理を推進するため法律である。

しかし、施行から10年ほど経過し、海岸だけでなく海洋漂着物が海洋環境に深刻な影響を及ぼしていること、国際的な課題として重視されていることから、2018年6月に改正が行われた。

改正により、海洋環境保全の観点などが追加されている。さらに、同法では、マイクロプラスチック対策についての新たな規定も設けられた。

事業者は、製品へのマイクロプラスチック使用や廃プラスチック類の排出の抑制に努めることが義務付けられた。政府は、最新の科学的知見や国際的動向を勘案し、マイクロプラスチック抑制の施策を速やかに検討し措置を講じることが追加されている。

プラスチック・スマート

プラスチック資源循環戦略の策定と並行し、環境省は、2018年10月に「プラスチック・スマート」というキャンペーンを立ち上げた。

同キャンペーンの目的は、地方公共団体、NGO、企業、研究機関、個人などが連携して協働することでプラスチックとの賢い付き合い方を全国的に後押しすることだ。海洋プラスチック問題解決のためには、あらゆる主体の協力が必要なことから取り組みが始まった。

個人においては、マイバッグ活用やごみ拾い活動への参加。自治体や企業においては、海岸漂着物の回収や代替素材の利用、ワンウェイプラスチックの排出抑制などが推進されている。

ほかにも、海ごみゼロウィーク、海ごみゼロアワード、海ごみゼロ国際シンポジウム、といった普及啓発活動も実施されてきた。

海ごみゼロウィークは、5月30日(ごみゼロの日)から、6月5日(環境の日)、6月8日(世界海洋デー)までの期間を、海ごみゼロウィークと定めたものだ。

期間中は、全国一斉清掃アクションの呼びかけ、アクションの可視化が行われる。目標は3年で延べ240万人がプロジェクトに参加することだ。

海洋プラスチック問題解決に向けた企業の取り組み事例

各国の政府は、海洋プラスチック問題を解決する方向で協力を進めているが、政府だけの力で海洋プラスチック問題を改善していくことは難しい。

プラスチック製品を製造するのは企業であり、製品を利用して消費者に届けるのも企業だからだ。

企業を巻き込んで3Rが徹底されるようにするには、海洋プラスチック問題の解決に向けて活動目標を設定し、重大な社会課題であることを企業に勤める社員も認識できるようにする必要がある。

そのため、意識啓発やプラスチックを含む海岸の清掃活動など、企業単位での海洋プラスチック汚染に関連した取り組みも重視されるようになってきた。

味の素グループ

味の素グループの目指す、海洋プラスチック問題に関連する取り組みは、廃棄物のゼロ化だ。重要課題(マテリアリティ)に「資源循環型社会実現への貢献」を設定し、容器包装の3R推進、代替品である生分解性プラスチックの使用を、主な取り組みに掲げている。

3Rの推進のうち、Reduceのために一部の製品の紙容器への切り替え、コンパクト化を実施している。これにより、プラスチックの数十トン単位での削減が進んだ。

Recyleに関する取り組みとしては、単一素材プラスチック包装素材を自社開発した。これにより、循環可能な代替素材を生み出し、活用する事によって、新興国などでの回収から有用化のプロセスを社会システムとして構築することを目指している。

三菱ケミカルホールディングス

三菱ケミカルホールディングスは、Alliance to End Plastic Wasteの設立メンバーである。同組織は国境を越え、プラスチック廃棄物問題の解決を図る企業連合だ。

そんな三菱ケミカルホールディングスが力を入れているのが、次世代のバイオプラスチックの開発である。プラスチックの代替として使われている生分解性プラスチックの問題として、特異な環境下でないと分解が進まない点に焦点を当て開発が進められた。

同社は、標準的な環境でも分解が進む、生分解性プラスチックの課題を克服した「BioPBS™」というプラスチックの開発に成功している。

イオン株式会社

イオン株式会社では、脱炭素型社会、資源循環型社会の実現に向け、持続可能なプラスチック利用のために、以下のような「イオン プラスチック利用方針」を策定している。

  • 事業における資源の無駄や使い捨てを見直し、使い捨てプラスチックゼロを目指す
  • 化石由来のプラスチックから、環境や社会に配慮した素材に転換する
  • 使用済みプラスチックの回収、再利用、再生のモデルを、店舗を拠点に構築する

さらに、具体的な目標として、2030年までに、2018年比で使い捨てプラスチックの使用を半減すること、すべてのプライベート商品を環境や社会に配慮した素材に転換することなどを掲げている。

協和キリン

協和キリン株式会社でも、クリーンな環境を維持し、海洋環境の改善や維持につながる活動を行っている。

環境を知る活動

環境やごみについて社員が知る機会をつくる取り組みについては、河川清掃やアマゴの稚魚放流が主な活動にあげられるだろう。

河川清掃に関しては、事業場ごとに清掃を実施している。特に、富士事業場では地元の静岡県長泉町と協働し、リバーフレンドシップ制度の枠組みの中で、隣接の河川の継続的な清掃を行っている。アマゴの稚魚放流については、生態系を守る目的で、静岡の桃沢川にて稚魚の放流を実施した。

プラスチックの利用について

キリングループでは、プラスチックポリシーに基づき、従来のプラスチックの利用を抑え、資源循環を意識した取り組みも行っている。

  • PETボトルの資源循環推進(国内のリサイクル樹脂の割合を2027年までに50%に高めることを目指す)
  • グループ各社でのワンウェイプラスチック(使い捨てのプラスチック)の削減とほかの素材への代替
  • PETボトル原料の持続性向上(環境負荷軽減の観点でPETボトルの軽量化を継続的に推進する)

海洋プラスチック問題の解決に向けて「3Rを徹底しよう!」

日本における廃プラスチックのリサイクル率は27.8%で、容器包装プラスチックの14%は未利用のまま処分されている現状がある。

出典:海のプラスチックごみを減らしきれいな海と生き物を守る!~「プラスチック・スマート」キャンペーン~|政府広報オンライン別ウィンドウで開きます

プラスチック資源のリサイクル率を高め、ごみの排出量を抑えるためには、3Rであるリデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の徹底が必要だ。

リデュースは、排出するごみの総量を減らすこと、リユースは、再利用を促すこと、リサイクルは、再生産に回すことをいう。

なお、プラスチックごみを減らす行動には、以下のように個人でも取り組めるものも多いので、意識して行動してみてはいかがだろう。

プラスチックごみを減らすための具体的な行動

  • 買い物にはマイバッグを持参する
  • マイボトルを使用してプラスチックのカップは使わない
  • プラスチック製のストローはもらわない
  • プラスチックの代わりに瓶入りの商品を選ぶ
  • 買い物で小分けのためのポリ袋を使わない
  • ふた付き容器を活用し、ラップを無駄に使わない
  • ごみは投棄せず持ち帰る
  • ごみは決まった場所に分別して捨てる
  • 海岸の清掃活動などに参加する

まとめ

海洋プラスチック問題は、今や海洋プラスチックを大量に排出する国に問題だけにとどまらず、世界規模の大きな問題となっている。先進国である日本の責任は、再利用できないプラスチックの利用を減らし、循環型の社会を構築していくことだ。

消費者である私たちが商品などの選択をする際は、循環に配慮した包装や材料が使われているか目を向けてみると良い。

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