特発性血小板減少性紫斑病の患者さんの場合、血小板数や出血症状の有無、ライフスタイルに応じて、治療をするかしないか、どのように治療を行うかが判断されます。
治療では、血小板数の数値目標を設定し、血小板数を少なくとも3万/μL以上に維持できるようにします。
また、他の治療で外科的処置が行われる場合や出産時などは、一時的に血小板数を増加させる必要があります。
治療対象と治療の目標
●治療対象:ITPと確定診断され、ピロリ菌陰性またはピロリ菌除菌無効の患者さん
・血小板数1万/μL未満の方
→積極的な治療が必要です。
・血小板数2万/μL未満の方
・重篤な出血症状(脳内出血、下血、吐血、血尿、多量の性器出血、止血困難な鼻出血、口腔内出血、外傷部位の止血困難など)、多発する紫斑、点状出血、粘膜出血を認める方
→治療を開始します。
・血小板数2万/μL以上3万/μL未満で出血症状が認められない方
→注意深い経過観察を行い、個々の年齢や併存疾患などの出血リスクを考慮して治療を開始するか判断されます。
・血小板数3万/μL以上で出血症状が認められない方
→無治療で経過を観察します。
●治療目標
血小板数を正常に戻すのではなく、重篤な出血を予防しうる血小板数(通常、3万/μL以上)に維持することを目指します。
*参考:柏木浩和 他. 厚生労働省難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班: 「ITP治療の参照ガイド」作成委員会, 臨床血液 60: 877-896, 2019
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*:柏木浩和 他.厚生労働省難治性疾患政策研究事業血液凝固異常症等に関する研究班:「ITP治療の参照ガイド」作成委員会,臨床血液60:877-896,2019一部改変
治療の種類
●ヘリコバクター・ピロリ菌除菌療法
胃にヘリコバクター・ピロリ菌がいるかどうか検査します。陽性であれば血小板数や出血症状と関係なく除菌療法を行います。約80%の患者で除菌効果が期待され、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌に成功した患者さんの約半数に血小板増加が認められています。
●副腎皮質ホルモン剤療法
最も一般的な治療法です。
ヘリコバクター・ピロリ菌を取り除いても血小板の数が増えなかった人に行う治療です。副腎皮質ホルモン剤療法は免疫を抑制する作用があり、抗体の産生や抗体結合血小板の捕捉を抑制します。
出血症状や血小板数を見ながら減量または維持量を続けます。
強い効果がある一方、副作用が生じる場合もあります。
●副腎皮質ホルモン剤による治療の効果が不十分な場合や副作用により治療が続けられない場合
・トロンボポエチン受容体作動薬
血小板の元である骨髄中の巨核球をふやすお薬です。
1週間に1回皮下注射するものと毎日経口投与するものが認可されています。
血小板数、臨床症状からみて出血リスクが高いと考えられる場合に使用されます。
血小板数が安定するまで毎週血液検査が必要です。
・抗体薬
血小板を攻撃する抗体を減らす治療薬です。
ITPの患者さんでは、免疫の異常により血小板を攻撃する抗体が作られますが、この抗体はBリンパ球という細胞から産生されます。この抗体薬はBリンパ球を破壊して、血小板を攻撃する抗体の産生を減らす注射剤になります。
・脾臓摘出術(脾摘):手術で脾臓を取り除きます
血小板は主に脾臓のマクロファージによって壊されるので、脾臓を除去すると、血小板数が増えることが期待されます。最近では、腹部に小さな穴をあけ、内視鏡と手術器具をいれて、テレビモニターをみながら行う手術(腹腔鏡手術)も行われています。
脾臓摘出術後の肺炎球菌など感染症の危険を予防するために肺炎球菌ワクチンを術前に投与します。
●上記以外にも治療法がありますので、詳しくは主治医にご相談ください。
*参考:柏木浩和 他. 厚生労働省難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班: 「ITP治療の参照ガイド」作成委員会, 臨床血液 60: 877-896, 2019
●生命を脅かす重篤な出血、術前や分娩前などの緊急を要する治療の場合
出血リスク軽減のため、一時的に血小板数を安全な値まで(例えば血小板数5万/μL以上)増やすための治療をします。入院治療が必要です。
・免疫グロブリン製剤大量療法(IVIG療法)
大量の免疫グロブリン製剤を5日間連続で点滴静注をします。治療開始3日後位より血小板は増加し始め、平均7日後に血小板数は一過性に最大値になりますが、効果は2∼3週間です。
64%の患者さんで5万/μL以上となり、83%の患者さんでは5万/μL以上に血小板数増加が認められ、高い有用性を示しています。
・ステロイドパルス療法
大量の副腎皮質ホルモン剤点滴静注を3日間行い、以後は漸減します。効果が投与後3日目くらいから現れますが、一過性です。約80%の患者さんで5万/μL以上の血小板数増加がみとめられています。*
・血小板輸血
輸注血小板の寿命は短く血小板数はわずかしか増加しません。免疫グロブリン大量療法と併用することで、血小板増加効果が増強します。
*参考:柏木浩和 他. 厚生労働省難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班: 「ITP治療の参照ガイド」作成委員会, 臨床血液 60: 877-896, 2019