Project Story 03上市に向けた奮闘物語
藤橋 豊人 フジハシ トヨヒト
- 生産本部 バイオ生産技術研究所
- 2008年度入社
患者さん、患者さんのご家族及び医療従事者の負担を軽減することを目指し、がん治療後に服用する新薬の開発プロジェクトを担当。当時自社における開発経験がなく、まったくのゼロからのスタート。医療現場の声を取り入れながら、約7年かけて開発に取り組んだ。
01新たな製剤開発の挑戦
患者さんの負担を減らすため、プロジェクト発足
がん治療後の服用薬が患者さんと医療従事者の負担が大きかったため、製剤グループの研究員として、新しい製剤開発に取り組みました。プロジェクトが立ち上がったのは入社7年目で、開発には約7年かかりました。
立ち上げ当初は「新しい製剤の開発に携われる」という期待と、「申請時期に間に合うように開発を進めなければならい」というプレッシャーの両方がありました。競合薬の販売時期を鑑みると「スケジュールに間に合わせないと優位性が失われる」という特殊なプロジェクトだったのです。絶対に遅れないようにベストを尽くす必要がありました。
初めてテクニカルリードを任されて
製剤開発の研究員である私は、技術面で研究所及び工場のとりまとめをする「テクニカルリード」を任されました。テクニカルリードは、プロジェクトに関わる複数部署のスケジュール管理をして目線を合わせつつ、他社の要望を共有する主要な立場にあります。他部署・プロジェクトの動きの把握や技術に関する知識が求められます。
テクニカルリードを任された理由は、いろいろな部署や他社との窓口業務を積極的に行っていて、課題解決するために周囲と議論しながらけん引していく能力を評価してもらえたのだと思います。
テクニカルリードを任された時は「今の自分にできるのか」というプレッシャーが大きかったものの、将来的には目標にしていたポジションだったので「今までやってきたことを一生懸命やるしかない」と覚悟を決めて臨み、新しいやりがいを見出しました。
直接のコミュニケーションで連携力を高めていった
部署や立場によって価値観や優先順位は異なります。スケジュール通りに進行できるよう、現場に足を運んで状況を説明し、重要性と優先順位を適切に伝える「直接のコミュニケーション」を大事にしました。
他部署のメンバーとも開発早期から連携し、一緒に医療機関を訪問して、医師、看護師、薬剤師の方へ直接ヒヤリングをする機会を設け、プロジェクトに関わるメンバーと製品のコンセプトやニーズの共通理解を深め、連携力を高めました。人と会って話すなかで新しい発見を得て、課題を解決する取り組みが生まれ、一つひとつの課題を乗り越えられたと感じます。
02実際のプロジェクト状況
出荷式を終え、安定供給のフェーズへ
新しい医薬品の承認を得て、工場から医療機関に初めて医薬品が出荷される「出荷式」も無事終わり、ようやく肩の荷が下りた心地です。出荷式では医薬品を積んだトラックのドライバーさんに花束を贈呈して「安全にこの医薬品を届けてください」とお伝えし、トラックを見送ります。初めての体験で、感慨深いものがありました。
これからは本製剤の需要に対応するために、医療機関へ十分な医薬品を届けるために、安定供給に向けて、スケールアップの検討を開始しています。患者さんに関わる重要な医薬品なので、欠品は許されません。引き続き、薬の使いやすさを重視しつつ、患者さんや医療従事者の要望を受け取り、できる限り改善して対応していくことが大切です。開発時の課題も振り返りながら、日々改善して運用しています。
実験室の外に出て、現場で生の声を聞く重要性に気づいた
前例がないプロジェクトなので、実際の医療現場におけるニーズを理解するのに苦労しました。患者さんや医療従事者の本音は、実験室に籠って研究しているだけでは分かりません。設計開発の早期のタイミングから医療現場へ伺って情報を集め、患者さんや医療従事者が求めている要素を医薬品へ反映させることで、現在の形に仕上げることができました。
研究員は医療現場の情報を書面で受け取ることが多く、病院に足を運ぶ機会はあまり多くありませんでした。今回、生の医療現場を見て対面で話しながら「何に困っているか」を伺ったことで、実際に話すと違った視点で物事を理解できることに気づきました。
たとえば注射の改善点として、私たちは「作業効率」を想定していても、医療現場の方は「正確性」を重視しているなど、認識の相違があります。研究員としても深い理解を持てるよう、これからは病院の医師や薬剤師さん、看護師さん、そして患者さんと直接コミュニケーションをする場をもっと増やしていきたいです。
協働で未知のプロジェクトを乗り越えた
本プロジェクトの特徴は、新しい製剤の開発であり、製造する設備も新しかったため、やることすべてがゼロスタートで前例がなかったことです。当然、スケジュール管理やトラブル対応にも明確な答えがなく、自分で解決策を見つけられず苦戦したことも多くありましたが、周囲のメンバーと協力して大きい課題から小さい課題まで乗り越えてきました。
他社と関わる機会にも恵まれ、協和キリンと異なる風土や価値観を持ったメンバーともすり合わせながら「より品質が高い製剤を作っていこう」と同じ目線を持って取り組めたことも新鮮でした。たとえ立場が違っても「プロジェクトを成功させる」という軸を持ち、成功の先に製剤を使っていただく患者さんや医療従事者の方がいることをイメージし、よりいい体験をより多くの方に届けたいというモチベーションを持つことで、同じ価値観と熱量でプロジェクトに取り組めました。
渦中は目の前の壁を乗り越えることに必死でよく分かっていませんでしたが、今振り返ってみれば「答えがない新しいプロジェクトを協働で乗り越える」ことが大きなやりがいだったと感じます。
03プロジェクトを経ての成長と今後の目標
周囲のサポートで「テクニカルリード」になれた
最初は分からないことやできないことが多く、他社や他職種及び当局とのディスカッションを重ね、多くの方に助けてもらいました。申請時期が決まっており、開発期間が限定されていたことから、開発期間が短いなかで申請から承認まで完了しなければならず、スケジュール管理が最大の課題でした。すでに販売されている既承認製剤のデータをフル活用して、開発期間を短縮するポイントをメンバーと議論しながら進めていきました。
テクニカルリードになった当初は「自分に与えられた仕事をやっていく」ことに注力していましたが、メンバーとのコミュニケーションを通じて部署や個人の課題、それぞれの得意不得意まで把握できるようになり、広い視野を持てるようになって仕事の幅が広がりました。周囲にテクニカルリードとして成長させてもらったと感じています。
医療機器も活用し、患者さんのQOLを高めたい
今後、医薬品と医療機器とのコンビネーション製品は増加すると予想されます。たとえば管理の都合で通院しなければ投与できなかった薬を、医療機器を用いて投与できるようにして通院負担を減らすなど、医療機器を活用することで患者さんの生活の質を改善する取り組みを行っています。
それに伴い、製剤開発の難易度も上がって開発が長期化したり、開発に関わる関係者が増加したりして、規制情報のタイムリーなフォローなどの管理業務が複雑化する可能性が高いです。
今回のプロジェクトの経験を活かして、効果だけを追求するだけでなく、患者さんのQOLを向上させる製剤開発に取り組み、より多くの方の健康に広く貢献できるよう挑戦していきます。