監修:京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 教授 稲垣暢也先生
2型糖尿病では、食事療法と運動療法を2、3カ月続けても血糖コントロールがうまくいかない場合に、お薬による治療を開始します。
食事療法や運動療法の効果、肥満の程度やインスリン分泌量から、使用するお薬が決められます。
お薬は決められた通りに服用しないと、血糖コントロールがうまくいかず、血糖値が下がらなかったり、逆に低血糖を起こすおそれがあります。必ず医師の指示どおりに服用しましょう。
糖尿病のお薬には、内服薬(飲み薬)と注射薬があります。
内服薬は、その働きによって大きく5種類に分類されます。1種類または作用が異なるお薬を組み合わせて服用することや2種類のお薬が合わさったものを使うことがあります。
インスリンの分泌を増やす |
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インスリンの働きをよくする |
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腸管からの糖の吸収を遅くする |
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食後のインスリンの分泌を増やす |
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腎臓での糖の再吸収を抑えて 尿から糖を排出する |
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- *服用する際に注意すること
- お薬は決められた時間に服用してください。食事をとらなかったり、少ない量の食事をとった場合にお薬を服用すると、低血糖を起こすおそれがあります。食事がとれない場合や、お薬を飲み忘れた場合などの対処方法をあらかじめ主治医に確認しておきましょう。
また、妊娠している場合は、内服薬は禁忌のため、インスリン製剤を使用します。妊娠を希望する人または妊娠している可能性がある人は、なるべく早く主治医に相談しましょう。
注射薬は、インスリン注射とGLP-1受容体作動薬の2種類に分類されます。病院で注射するのではなく、患者さんが自分で注射をします。
- *インスリン注射
- インスリン注射は、1型糖尿病患者さんでは必要不可欠です。2型糖尿病患者さんでも、内服薬を使用していても血糖コントロールが不良なとき、ケトアシドーシスという状態になったとき、腎臓や肝臓の働きが悪いとき、妊娠しているときなどは、インスリン注射が必要になります。
患者さんの病状に合わせて、作用が発現する時間や持続する時間が異なる注射を組みあわせて治療します。 - *GLP-1受容体作動薬
- 食後のインスリンの分泌を促進するお薬です。
血糖値が低くなりすぎる状態のことを低血糖(およそ70mg/dL未満)といいます。内服薬やインスリン注射で治療している患者さんで、お薬の量が多すぎる場合、お薬の量は変わらないけれど食事の量が少ない、または運動量が多い場合などに低血糖を引き起こす可能性があります。
低血糖の症状は、強い空腹感からはじまり、冷や汗をかく、手指のふるえ、動悸、不安感などがみられます。さらに血糖値が下がると、眠気、強い脱力感、めまい、集中力の低下などがみられ、重症になると痙攣が起こり、意識が消失し、昏睡に陥るなど生命に危険な状態になります。
低血糖の症状を感じたら、我慢しないですぐにブドウ糖または糖分を含むジュースなどを摂りましょう。消化吸収に時間のかかる飴やチョコレートは、緊急時には適しません。普段から、ブドウ糖などを手の届くところに置いておきましょう。
また、注意していても、体調などにより急に意識を失うような低血糖を起こす可能性があります。家族や友人に、あらかじめ低血糖について知っておいてもらいましょう。また、糖尿病でお薬による治療をしていることを示すカード※などを身につけ、重い低血糖が起こった場合に、すぐに治療を受けられるように備えておくことも大切です。
※日本糖尿病協会では、緊急時に周囲の方に自分が糖尿病であることを知らせるカードを作成しています。
インスリン注射や経口薬による治療を行っている間は、常に低血糖の危険性があることを考え治療を受ける必要があります。経口薬の飲み合わせによっては低血糖を起こしやすくなることもあるため、主治医とよく相談のうえ、適切に薬を服用し低血糖を起こさないよう心がけましょう。
- *α-グルコシダーゼ阻害薬服用時の注意点
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α-グルコシダーゼ阻害薬というお薬を服用している場合は、ブドウ糖以外の砂糖は吸収されにくい状態となっています。低血糖になったら、必ずブドウ糖を摂ってください。
人工甘味料(キシリトール、ソルビトール、パラチノース、アスパルテーム)を使った甘いジュースやお菓子ではブドウ糖を補うことができず、低血糖を回復できません。あらかじめ商品のパッケージなどで成分を確認しておいてください。
虚血性心疾患や腎機能障害をもつ患者さん、高齢の患者さんは、低血糖を起こさないよう特に注意が必要です。
低血糖は交感神経を活性化し、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患をもつ患者さんの心臓に負荷をかけてしまいます。また腎機能が低下している患者さんは、心臓の血管になんらかの病変をもつことが多いため、やはり低血糖は避けるべきです。高齢の患者さんも低血糖を起こしやすく、また低血糖を起こしても症状が出にくいため、重症低血糖にならないよう注意する必要があります。
該当する患者さんは、血糖のコントロール目標や治療法、日常生活で気をつけることなどを主治医とよく相談しておくことが重要です。
自動車運転中に低血糖発作を起こすと大きな事故につながる可能性があります。低血糖になるおそれのある患者さんは、運転前の血糖値確認や、ブドウ糖を含む食品の準備などを行いましょう。もし運転中に低血糖の気配を感じたら、あわてずに車を安全な場所に停めて速やかに対処しましょう。
健康な人と同じように、糖尿病患者さんもかぜをひいたり、さまざまな病気にかかることがあります。
このように、糖尿病患者さんがほかの病気にかかった状態を『シックデイ』といいます。
シックデイでは、かかった病気やその治療のためのお薬が血糖値に影響を与えることがあります。また、食事が普通に摂れる場合はそれほど問題にはなりませんが、食事が十分に摂れない場合、内服薬またはインスリン注射の量を調整する必要があります。このような場合、お薬の量の変更については自己判断せずに、あらかじめ主治医に確認しておくか、早めに連絡をとりましょう。
なお、まったく食事が摂れない、下痢や嘔吐が続く、高熱が続く(38℃以上)、腹痛が強い、高血糖が続く(350mg/dL以上)、尿検査用紙がある場合に検査尿ケトン・尿糖が強陽性となったときなどは、すぐに主治医を受診してください。
- *食欲がないときの食事
- 食欲がないときでも、なるべく絶食しないようにしましょう。特に炭水化物と水分は優先して摂るようにします。おかゆやアイスクリームなど、口当たりがよく消化のよいものを選ぶとよいでしょう。
日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手引き 2020 改訂第58版, p.104, 南江堂, 2020